ビーモーション株式会社 代表取締役社長 伊藤 空氏

1990年に設立され、2025年に35年の節目を迎えるビーモーション株式会社は、家電量販店などで販売スタッフを配置するセールスプロモーションを得意とする企業だ。

主な事業は販売促進の業務委託・派遣や営業代行で、メーカーの販路拡大や売上向上に貢献してきた。 同社を率いるのは、2024年6月に代表取締役社長に就任した伊藤 空(いとう・くう)氏。

北海道生まれの伊藤氏は、一度は海外での生活を経て他の道を探しながらも、幾度かビーモーションへ戻り、最終的にトップへと上り詰めた。

そこには「人を育て、チャンスを与える」同社独自の企業文化が色濃く表れている。

伊藤氏の人物譚

伊藤氏の原点は、北海道の過疎地域だ。医師であり住職でもあった父を持つ家庭で育った伊藤氏は、高校卒業後、東京へ移り住み、家電量販店の店頭スタッフとして働き始めた。

時給が良かったという単純な動機だったが、「人と話すのは好きだった。販売という仕事が自分に向いているかもしれない」と感じたという。そこで出会ったのがビーモーションとの最初の縁だった。

当時のビーモーションは、まだ規模こそ今より小さかったものの「人を介してメーカーの売上を伸ばす」という理念を掲げ、スタッフの教育を大切にしていた。

新しい経験を得ようと語る伊藤 空氏

「一度退社した後に、海外で新しい経験を得ようとカナダへ渡りました。そこでも接客業をやりましたが、やはり“人を介する販売”には大きな可能性を感じたんです。それで帰国後、タイミングよく声をかけてくれたのがビーモーションでした」と伊藤氏は語る。

実は伊藤氏は同社を複数回出入りする“出戻り社員”だった。派遣でも業務委託でも、ビーモーションが求められる場面では「また一緒にやろう」と誘われ、自らも「面白そうだ」と応じた。

それが同社の寛容な企業風土と、伊藤氏自身の行動力を示すエピソードともいえる。

ビーモーションでは、製品知識や接客スキルを身につける講習に力を注ぐ。3~5日の座学やロールプレイングで基礎を固めたスタッフは、家電量販店やイベント会場の最前線で販売を担当する。

その後もスーパーバイザーが各地を巡回し、「次はこんなアプローチを試してみよう」と助言を与える。

メーカーからすれば、商品を熟知するスタッフが常駐し、さらに現場の声を即時にフィードバックしてくれるのは心強い。

だからこそ、同社が得意とする「業務委託」のスタイルは、スタッフ育成から売上管理まで一括して請け負う点で重宝される。

対話型AI 接客オンデマンドとは

「最大のポイントは、我々が“成果にコミット”する企業であること。派遣だけで人を出して終わりではなく、どうやって販売台数を伸ばすか、メーカー様と一緒に頭をひねって対策を打ちます。その結果を出すために、スタッフがモチベーションを維持できる環境づくりも大切にしているんです」と伊藤氏は強調する。

事実、外資系メーカーなど社内リソースが限られた企業ほど、ビーモーションのフォロー体制を高く評価しているという。

オンライン接客やリモート営業のサービス

コロナ禍では、店頭販売の自粛や来店客数の激減により、同社も一時は苦境に立たされた。

だが、これが逆に「デジタル活用の大切さ」を改めて認識するきっかけとなり、ビーモーションはオンライン接客やリモート営業のサービスを急速に拡充した。

そこで生まれたのが「接客オンデマンド」である。対話型AIやオンライン接客ツールを駆使し、店頭やECサイトでも顧客がスムーズに製品説明を受けられる仕組みを整備。

さらに生成AIのGPT技術が加わり、スタッフの育成ノウハウをAIに蓄積する取り組みも進めている。

「やはり人が培ってきたスキルやノウハウを、AIでさらに拡張したら面白い。例えば、同じ質問が何度も出た時、AIのアバターはすぐに回答できるし、専門家が補足で説明に入ることも可能です。そうするとスタッフの負担が軽減されるだけでなく、メーカー様も24時間対応が実現できますから、まさにウィンウィンですよね」と伊藤氏は意気込む。

オンとオフの両面をカバーできる会社として、ビーモーションは業界内でも希少な立ち位置を確立しつつある。

誰もがチャレンジできる場として

一方、同社が長年大切にしているテーマは「人がもう一度チャレンジできる場所」であること。

伊藤氏自身が何度も出入りして社長になった経歴は、ビーモーションがいかに柔軟に人を受け入れ、再挑戦を後押ししてきたかを物語る。

大学を中退して途方に暮れた人、家庭の事情でフルタイム勤務が難しい人、あるいは海外留学後に帰国して居場所を探していた人――多種多様なスタッフが同社で講習やOJTを経て、販売スキルを身につけ、新たなキャリアを切り開いてきた。

「私自身、海外へ行く前は“ここではないどこか”を探し求めていました。けれど結局は、ビーモーションという環境の中にこそ、可能性を見いだせたんです。さまざまな人を受け入れ、失敗してもまた挑戦できる。この会社が持つ文化と土壌こそ、私が社長として最も守りたい部分でもあります」と伊藤氏は微笑む。

セールスプロモーションの枠を超え、ビーモーションは゛これからの人生を設計する場゛として機能しているのだ。

今後の同社の中長期目標は、現在売上の9割を占める従来型の人材サービスに加え、生成AIを活用した「接客オンデマンド」事業の割合を3割程度まで引き上げ、事業の柱を複数化していくことだという。

店頭で培った接客スキルをデジタルに転用し、人手不足に悩む業界やオンライン販売を強化したい企業を包括的に支援する。

リアルの接客に加え、AI・ロボティクスを組み合わせることで、“人×AI”時代の新しいセールスプロモーションを切り開こうとしている。

「どれだけ技術が進んでも、人と人の温かいコミュニケーションは必要不可欠です。だからこそ、我々はまず人を大切にしながらAIを活かす。私が何度も出戻りして最終的にこの会社で社長になったのも、“人を見捨てない”この組織の魅力があったからこそです」と伊藤氏は力を込める。

その言葉が示すように、ビーモーションは単なる人材派遣会社ではなく、“人間力とテクノロジーの融合”を掲げる新時代のセールスプロモーション企業として進化し続けている。