「泥臭い現場力」で社会を変える──NCホールディングス 梶原浩規社長の挑戦

NCホールディングス(以下、NCHD)は、一般的な認知度こそ高くないものの、コンベア事業や立体駐車場事業を手がけ、日本の基幹産業を支えている上場企業だ。
しかし、一部の関係者の間では、近年極めて有名な企業となった。その理由は、アクティビストファンドとの激しい攻防である。
上場廃止とプロキシーファイトの激闘──NCホールディングスの波乱

2024年10月、NCHDは上場を廃止し、株式を非公開化した。
それまでの数年間、国内外のアクティビストファンドと経営権を巡るプロキシーファイト(委任状争奪戦)が繰り広げられ、企業の方向性をめぐる対立が激化していた。
もともとTCSホールディングスの資本参加を受けたことで、経営陣と株主の間に緊張が生まれた。
その後、アクティビストファンドが次々と株式を取得し、短期的な収益向上を求める圧力が高まっていった。
「企業価値を高めるためには、短期的な株主利益よりも、長期的な視点での経営が不可欠です。しかし、アクティビストの圧力により、目先の利益を重視する経営が求められるようになってしまった」と、代表取締役社長の梶原浩規氏は振り返る。
こうした状況の中、経営陣は長期的な成長を重視する道を選び、非公開化を決断した。
「短期間で収益を伸ばすことだけが企業価値ではありません。NCホールディングスは、日本のインフラを支える使命を持つ企業です。だからこそ、短期的な株価の上下ではなく、持続可能な価値の創造にフォーカスしなければならない」と梶原氏は語る。
NCホールディングスの企業概要と成長戦略
NCホールディングスは、日本の産業基盤を支える「搬送システム」「立体駐車場」「再生可能エネルギー」の三本柱で成長を遂げてきた企業だ。
2023年度の売上高は約142億円、従業員数は約400名。決して大企業ではないが、その技術力と事業の独自性が光る。
特に、同社の中核を担うのが「搬送システム事業」だ。
グループ会社の日本コンベヤが提供する長距離コンベア技術は、国内唯一の存在であり、製鉄所や火力発電所、石灰石プラントなど、日本の基幹産業を下支えしている。
最長23キロに及ぶ搬送システムを構築し、50年以上の耐久性を持つコンベアを提供している。 このコンベアのすごみは、その耐久性にある。
国内外の製鉄所や石灰石プラントで稼働する同社のコンベアは、設置から数十年が経過してもなお、安定した運用が続いている。
中には50年間一度も停止することなく稼働を続けるものもあり、その堅牢さと高い技術力がうかがえる。
一方、「立体駐車場事業」では、六本木ヒルズや銀座シックス、新宿高島屋など、日本を代表する商業施設の駐車場システムを手がけ、メンテナンスを含めた長期的な収益基盤を築いている。
「アパッチ野球軍」の精神──現場力を重視する経営哲学

こうした事業を支えているのは、単なる技術力だけではない。「現場力」と呼ばれる、実際に手を動かすエンジニアたちの知恵と経験が不可欠だ。
そして、その現場力を支えているのが、梶原氏が「昔のアニメのアパッチ野球軍団のような人材たち」と評する、独特の組織文化だ。
「うちはエリート集団じゃない。むしろ、中退者やバツ一の人間が多い。だけど、そういう連中が本気になれば、大きなことを成し遂げられる」と梶原氏は言う。
「昔の漫画『アパッチ野球軍』みたいなものですよ。俺も銀行を中退したようなものだし、みんなもいろんな経歴を持っている。でも、それがうちの強さだ。失敗を恐れず、全員が泥臭く考え、動く。これがうちの現場力なんです」と、梶原氏は力強く語る。
「映画と銀行、そして経営へ」──梶原浩規社長の異色のキャリア
梶原浩規氏の人生は、一言では語り尽くせないほどの変遷をたどっている。
立教大学では映画制作に没頭し、学生時代にすでに26本もの作品を制作。所属するサークルには映画監督の黒沢清氏や、ウルトラマンシリーズの監督を務めた小中和哉氏らがいた。
「大学時代は毎日映画館に入り浸っていました。文芸座や池袋の名画座に通い詰め、400本以上の映画を観ました。映画の世界に入りたかったんですが、黒沢さんが苦戦しているのを見て、『これは生半可な覚悟では食えないな』と感じたんです」と梶原氏は振り返る。
卒業後、彼は意外にも銀行員としての道を選ぶ。「映画は作りたかったですが、現実的に生きていくためには別の道を選ばざるを得なかった」と言う。
三和銀行(現・三菱UFJ銀行)に入行し、企業金融に携わる中で、次第に「事業の現場」に興味を持つようになった。
その後、ソニー生命に転職。営業の最前線で顧客と向き合うことで、経営のリアルを学んだ。その後、自ら起業し、事業再生コンサルタントとして数々の企業の立て直しを支援。
そして2018年、NCホールディングスの社長に就任する。今、彼が率いるNCホールディングスは、企業の歴史と伝統を守りつつ、新たな挑戦を続けている。
「企業価値とは、単なる株価ではなく、現場で働く社員一人ひとりの力によって作られるもの。その信念を貫きながら、これからも挑戦を続けていきたい」と梶原氏は語った。
映画人としての感性と、経営者としての胆力。その両方を持つ梶原浩規氏が、これからどんな未来を描いていくのか。NCホールディングスの挑戦から目が離せない。