S-style 代表取締役の岡本章吾氏
株式会社S-style 代表取締役 岡本章吾氏

「見た目はビジネスでもプライベートでも大きな影響を及ぼす」。そう語るのは株式会社S-style 代表取締役の岡本章吾氏だ。

仕事だけでなく、婚活、冠婚葬祭といったさまざまな場面で必要となる正装。その着こなしやシワ、色、サイズ、素材などで着ている人の印象は左右され、それによって見る人に良い方にも悪い方にも影響を与える。

同社は、オーダーメイドスーツを通じて、着る人の外見とイメージをプロデュースしている。安倍元首相や全国経営者団体連合会会長の野田氏らのスーツを手がけてきた同社が提供する、スーツだけではない価値とは。また、スーツを足がかりに、これから作り上げていきたい未来についても伺った。

大事な場面から日常まで、スーツを起点にイメージをプロデュース

「人を見た目で判断するな」。そう言われる世の中だが、だからといって見た目をあなどってはならない。

つい最近、その見た目だけで世間から批判の声が上がり、イメージを左右するような出来事があった。2024年10月1日、第1次内閣発足時に全閣僚が揃って撮影された写真における石破茂首相の着こなしについてだ。

この撮影では「モーニング」と呼ばれる正装をするのが通例。格式高い場における正装として、男性のフォーマルスタイルの中でも最上級とされるもののひとつだ。細部まで厳密な着用マナーがあるが、石破首相のスーツはズボンがずり下がってシワが寄り、裾が余ってしまっていた。緊張感のない表情と姿勢も含めてだらしなく見え、覇気がない印象を受けてしまうような見た目だった。

これはネットをはじめとするさまざまなところで話題になり、批判の声も上がり、石破政権に対する期待値が下がってしまった人もいたようだった。たった一枚の写真でも、見た目からこれだけ大きい影響があったのだ。

株式会社S-styleは、ファッションを通じたイメージ作りや印象形成を大事にしている企業だ。職業、ライフスタイル、似合う色柄などを分析し、スーツなどの仕立てを通じてブランディングに合わせた外見をプロデュースする。

実は、「スーツ」とひとくちに言っても、そのスタイルは職業や立場、TPOによっても変わるという。

「例えば上場企業の経営者の場合、ステークホルダーとの関係もあり自由がきかなかったり、長年経営されていたりする企業が多いので、スーツスタイルで落ち着いた色の無地や、柄が多くないような素材感で、かつクオリティが高いものが求められる傾向にあります。

一方でベンチャー企業やIT企業の経営者は、そういうスタイルは硬すぎる印象になってしまう。少しカジュアルでトレンド感があり個性を感じられるけれど、フォーマルさもあるセットアップスタイルにすることで、先進的なことや面白いことをしてくれるようなイメージを作ることができます。」(岡本社長)

S-style 代表取締役の岡本章吾氏

同社が提供するのはスーツだけではない。極上の着心地のセットアップ、Tシャツ、スニーカー、スラックス、コート、靴鞄など、約20アイテムのオリジナルオーダーブランドを展開しており、スーツを含めた全体の提案をしているのだ。それにより、仕事はもちろん、プライベートも含めたトータルなプロデュースを実現している。実際、普段スーツを着る機会が少ないお客様も多いという。

「ビジネススタイルというと、スーツスタイルかカジュアルなスタイルの両極端な方が少なくありません。特に、経営者は服装を自分で決められるので、スーツを着なくても良い時はパーカーやトレーナー、Tシャツに短パンといったスタイルの方が多くいらっしゃいます。

理由を伺うと楽なのが良い、服装を決めるのが面倒、買い物に行く時間がない、センスが求められる。だからラフな服装をされていると。

私たちはその様なお悩みも解決しています。お客様のライフスタイル、TPOなど伺い最適なコーディネートを組み全てお仕立てしてご用意します。丸投げいただくお客様が大半です。

スタイルにはグラデーションをつけています。

グラデーションは大きく4つで、フォーマル度の高い順にスーツスタイル、ジャケパン、セットアップ、カジュアルスタイルとなります。

お客様の中には、4つのグラデーションそれぞれのコーディネートを作る方もいらっしゃいます。例えば、セミナー登壇やメディア出演などの大切なタイミングで着る確立されたスタイルのスーツ、普段の仕事用のジャケパン、仕事でも固すぎず普段使いしやすいセットアップ中心のスタイル、プライベートでのお出掛けやお食事用の綺麗めカジュアル。

それらすべてを私たちでお仕立ての上ご用意して、場面に合わせて使い分けていただいています。楽で格好よく評判も上がり仕事でのパフォーマンスも大幅に向上した、という嬉しい声も多々いただいています。」(岡本社長)

ファッションは理論。独立の先に見据えたもの

もともとは独立を考えたことがなかったという岡本社長。百貨店から独立する人もほとんどおらず、キャリアについては役職が上がるか転職か、くらいにしか考えていなかったのだとか。

そんな中、将来を考えるきっかけとなる出来事があり、業界や今の働き方、その先に見える将来を見つめなおし、このままでいいのかという疑問を抱いたという。そんな時に人から言われたのが「独立したらいいじゃないですか」という言葉。その時に初めて、独立という選択肢があることを知った。

そして、独立を視野に入れてできることを模索する中で出会ったのが「イメージコンサルタント」だった。イメージコンサルタントは1960年のアメリカ大統領選挙で注目され、その人のイメージを起点に、理論に基づいて外見を戦略的に作り上げる仕事だ。

「ファッションは、センスや感覚によるものだろうと思っていたのですが、理論があることを知りました。特に、メンズファッションは理論の塊なんです。それなら自分にも落とし込むことができて、相手にも伝えられるし、再現性があって面白い仕事なのではないかと感じました。」(岡本社長)

当時、イメージコンサルタント業界にいるほとんどが女性。そんな中に百貨店出身の男性である岡本社長が参入することは難しいかもしれないが、もしかしたら新たな可能性があるかもしれない。また、今後はフリーランスや個人事業主の方も増え、ブランディングが求められる時代が来るのではないか、といった考えがあり、そこで誰かの役に立てるならという思いで独立に至った。

現在は、従来のイメージコンサルタントに加え、パーソナルスタイリスト、オーダースーツテーラーの3つを掛け合わせた「イメージスタイリスト®」という職業を確立し、色彩心理学や対人認知学、スーツ理論などにもとづきスタイリングからお仕立てまでトータルで展開している。

「やるからには日本一を目指して」。成長の原点

設立から10年を迎え、これまでに安倍晋三元首相や、アパホテル株式会社社長の元谷芙美子氏など錚々たる面々のスーツを仕立ててきた同社。しかし、経営の勉強をせずに独立した上に営業の経験もなく、お客様がいない状態でサロンを構え、3ヶ月来客ゼロ。ほとんど売れない状況がしばらく続いていたという。

相談した知り合いに「人に会った方がいい」とアドバイスをもらい、人脈を作るためにさまざまな交流会に顔を出しながら、1年目の途中からはオーダーメイド事業を開始。2年目には参加する交流会の質を上げ、交流会を主催するようにもなった。

少しずつ売上が上がっていったが、比較的提供しやすい環境に身を置いていた。岡本社長と同世代の20~30代でオーダーメイドは初めての方向けに、3万5000円からというリーズナブルな価格で提供していた。まだスキルや営業に自信があまりなく、経験も実績もなかったからだ。しかし、先を見据えた時にこのままではいけない、もっと質を高めてお届けできるレベルを上げていこうと考えた。

「3年目の時に出会ったとある会長さんに『やるからには日本一を目指しなさい』と言われたんです。何をもって日本一とするか悩みましたが、私はお客様の数や売上など「量」を追求するのではなく、「質」を高めたい。スタイリスト、テーラーとしてはもちろん経営や人間力含めての質を。ただ、数字のように客観的に見て分かるものでなければならないので、“日本一の人”のスタイリストになろうと思いました。この仕事の発祥はアメリカの大統領。日本でいえば内閣総理大臣。それで目指すことにしました。目指す過程で山のように壁があるのでそれも楽しもうと。」(岡本社長)

その目標に向けて着実に実績を積み上げてきたことで、10年のうちに達成するまでの会社に成長した。

S-style 代表取締役の岡本章吾氏

日本を超えて海外へ。ファッションを起点に広がる挑戦

ーこの事業を立ち上げるにあたり、岡本社長ご自身が見た目やファッションに影響を受けた経験があったのでしょうか。

私にとって大きかった経験が2つあり、最初は中学時代のことでした。当時は内気で大人しく、クラスメイトから話しかけてもらえることは多くありませんでした。そんなある時、両親からの誕生日プレゼントにもらったラルフローレンのカラフルなシャツを、学ランの中に着ていったんです。すると、クラスメイト数人から「おしゃれだね」と話しかけてもらえて。

それをきっかけに「服は着るだけのものではなく、コミュニケーションが生まれるツールにもなるんだ」と気がついたんです。それからファッションが好きになり、自分が気に入っているものを身にまとっていると自信が持てるようにもなって、どんどん外向的になっていきました。

もうひとつは大学生の時のことです。当時、ファッション好きが加速する中で、大ファンであるX JAPANのビジュアルに感化されていました。当時はかなり攻めたスタイルで、派手な髪色にもしていました。

そんな中、アルバイトをするために髪型が自由なところを探したのですが、30社ほど落ちて日雇いのアルバイトしかできなくて。高校生の頃もしていましたが、「アルバイトをするってこんなに大変だったんだな」と思っていました。

その後、大学3年生になり、就活に向けて黒髪にして清潔感のある見た目にしました。すると、見た目には特に厳しい百貨店から最初に内定をいただいたんです。アルバイトの面接であんなに落ちたのに、とふと思った時に、見た目で判断されていたんだと気が付きました。逆に言えば、見た目によって人柄が違うように伝わるんだと、見た目のイメージの重要性を強く感じたんです。

人は中身だと言われますし、私もそう思いますが、やっぱり最初のイメージとして受け止められるのは見た目です。もしそれで私と同じように損をされていたり自信が持てないという方に、何か役に立ちたいという思いが生まれたことが、この仕事の原点にもなっています。

ー「内閣総理大臣のスーツを仕立てる」という目標が達成されたのち、新たに目標を立てましたか。

日本一という当初の目標が達成されてから2~3年ほど考え続け、2024年4月1日に、次は世界進出をして世界のトップに行くという目標を立てました。最後に目指すのは、本場である英国のトップである英国王室です。

でも、実は3ヶ月でほぼ達成できてしまったんです。英国王室主催のイベントに呼んでいただき、チャンピオンブレザーを作る役目をいただいて、それが王室にも渡ることになりました。さらに、ウィリアム皇太子のお仕立ての話もあがっていました。

本来であればこれが最終目標なのですが、実際に目の前にしてみて、いろいろと壁があることを感じて結局手を引いたんです。スーツのクオリティという観点では上質なものを手掛けていると自負していますので、胸を張ってお仕立てすることができます。ただ、仕立てはビスポークでお話を伺いながら作るので、実は語学を伴うコミュニケーションの部分が一番ハードルが高いんですね。正直、そこにはまだ実力が伴っていないと感じました。

その実力は、これからインバウンド、アウトバウンドと進出していく中で固められていくものだと思うので、数年後に実力がついてきて、世界で戦えることが自分の中で確信できた時にもう一度チャレンジしたいと考えています。

S-style 代表取締役の岡本章吾氏

ー日本のスーツ業界を背負っていく一員として、これからどのようなことに取り組みたいと考えていますか。

2024年に10周年を迎え、次の10年は「プライベートラグジュアリー」という新しい世界観を作っていきたいと考えています。

これを考えるようになったきっかけは、海外へ行ってブランド街を見ていて、日本のラグジュアリーブランドがなかったことでした。トヨタやSONYなどの製品や、アニメといった文化など、海外で日本のものを見聞きすると嬉しくて誇りに感じたり、それをきっかけにコミュニケーションが生まれたりするじゃないですか。それを思った時に、日本人が誇れる日本のラグジュアリーブランドを手がけていきたいと思ったんです。

そこで、日本らしいラグジュアリーとして考えたのが、ラグジュアリーの小規模版であるスモールラグジュアリーでした。ただ、スモールだと大きいものを小さくしたような印象を受けるので、違う表現として「プライベートラグジュアリー」という言葉を考案しました。「プライベートジェット」のように「プライベート○○」という言葉はラグジュアリーな印象を受けますし、個の時代と言われる現代にもマッチした言葉だと考えています。

また、ラグジュアリーというと高級なもののイメージを持たれますが、これからのラグジュアリーは「心が豊か」になることだと思うんです。つまり、プライベートラグジュアリーとは、「一人ひとりの心の豊かさが満たされること」だと考えています。これからの10年、ファッション以外にもさまざまなやり方でアウトプットしていく予定です。

また、会員制のお店や旅館など、プライベートラグジュアリーと言える素晴らしいサービスや文化が日本には多々あります。認定できる協会を来年中には立ち上げたいと考えています。それがミシュランガイドのような指標となり、インバウンド、アウトバウンドへと日本の魅力が世界へ伝わり、日本を盛り上げていきたいと考えています。

お客様に喜んでもらえるものを提供し続けるために

「日本一」を達成し、世界を見据えて活躍の幅を広げる株式会社S-style。最後に、変化を続ける中でも大切にしている考えを伺った。

「最終的には、どれだけ本質を追求できたかだと思うんです。今はSNSもありますし、生成AIなどの便利なツールもあり、それらを活用することはとても重要だと思います。ただ、小手先のテクニックに重きを置きすぎてはいけないなと感じていて。

そういうものももちろん必要ですが、それだけではなく、自分たちの核となる部分をどれだけ作り上げて、アップデートしながら追求して、期待を上回る商品やサービスを生み出せるかが重要だと思います。特に、当社のお客様であるエグゼクティブの方々は、それがなければリピーターにはなっていただけません。私たちはこれからも、妥協せずに本質を追求していきます。」(岡本社長)

◎プロフィール
岡本 章吾
株式会社S-style 代表取締役
日本で唯一のイメージスタイリスト®、ファッションの戦略家。
2014年にS-styleを創業。スタイリスト、テーラー、ブランド監修、講師など活動は多岐にわたる。銀座に完全予約制のプライベートサロンを構え、約20アイテムをオーダーにて展開。元内閣総理大臣をはじめ政財界、芸能界など多くの方々のスタイリングからお仕立てまで手掛けている。

◎会社概要
会社名:株式会社S-style
URL:https://s-style-fashion.com/ 
公式LINE:https://lin.ee/dTsNxqJ