日本エンドレス株式会社代表取締役 成毛義光氏に聞く コロナ禍の下で中小企業が選ぶべき道とは?
新型コロナウィルスの世界的な感染拡大の影響は日本経済に深刻な打撃を与えている。今回取材した日本エンドレス株式会社は、コロナ禍の影響が直撃する飲食、宿泊、医療業界などの様々な企業に、業務用マットを始め衛生用品や清掃用品などのレンタル・販売を手がけている企業だ。当社は、2020年4月の緊急事態宣言のあおりを受け、同年4月~5月の2か月間で、約3.5億円もの累積赤字を計上した。しかし同社代表取締役 成毛義光氏は「ピンチはチャンス」と言い切り、果断に新戦略を打ち出してこの困難を乗り切っている。
今、苦難の中にある中小企業が生き延びていく道はどこにあるのか?成毛代表の信念と戦略について伺った。
リーマンショックを超える未曽有の危機
2019年11月、中国武漢市に端を発した新型コロナウィルスの感染拡大は、2020年に入ると瞬く間に世界へ拡大し、パンデミック(爆発的感染)を引き起こした。各国は感染拡大を押さえ込むためにロックダウンなど様々な方法で対応したが、その結果世界経済はストップし、大規模不況の波に襲われた。
2020年6月に世界銀行が発表した世界経済見通し(GEP)では2020年の世界経済成長率は5.2%減少すると予測されていた。これは第二次世界大戦以来最悪の景気後退だ。
また日本も2020年4月~6月にはGDPが年率換算でマイナス27.8%を記録(内閣府調べ)。これはリーマンショック時(09年1月~3月期)のGDP年率17.8%減を遥かに上回る数値である。
3月1日に厚生労働省から3密を避ける勧告が発表され、翌4月7日、7都道府県に緊急事態宣言が発出、16日には全都道府県に拡大され、外出自粛が要請された。この宣言が全都道府県で解除になったのは5月25日になってからだ。
この3ヶ月間、例えば遊園地・テーマパークは2020年3月に前年同月比98%減、4・5月は99%減、6月は94%減と大きく下落している。また感染拡大の温床になると槍玉に挙げられた飲食業界も大幅に下落、前年同月比7割から9割の売り上げ減となった。この下落は非常事態宣言後も回復せず、7月以降も売り上げ5割程度の状態が続いている。日本フードサービス協会は7月以降の状況について「壊滅的な状況」とコメントを出している。
交通業界も打撃を受けた。国際旅客機は5月に98%減とほぼ空席状態になり、国内線も座席率1割程度になった。ホテル業界は5月に81%減、その後は持ち直すが9月段階でまだ34%の減少。起死回生を見込んだGOTOキャンペーンも中止になり、さらに低迷が続いている(数値は全て経済産業省、特定サービス産業動態統計調査より)。
「ピンチはチャンス」
この未曾有の過酷な状況は業務用マットなどのレンタル・販売を手がける日本エンドレス株式会社にも襲いかかってきた。
同社代表取締役を務める成毛義光氏は「4月・5月の累計赤字は3.5億円。これは私の人生でも経験したことがない赤字でした」と話す。
日本エンドレス株式会社は、そのグループ企業として日本ラインファースト株式会社と株式会社リース東京がある。日本ラインファースト株式会社は使い捨ておしぼりや不織布エプロン、キッチンペーパーなどを取り扱い、他方株式会社リース東京もまた主に病院へのテレビ、冷蔵庫、コインランドリー、家電商品、福祉用具のリース・レンタルを事業にしており、どちらも新型コロナウィルスの影響に大きな影響を受ける業種だった。
「3.5億円という巨額の赤字を目にした時、まず考えたのが雇用の確保でした。日本エンドレス株式会社、日本ラインファースト株式会社、株式会社リース東京の3社で300名ほどの社員が在籍しています。この社員を預かる経営者として、彼らの生活を守ることを第一に考えました。そして同時に頭をよぎったのがお客様のことです。弊社の業務が滞ることでお客様に迷惑をかけてはなりません」
成毛代表はこの苦境を乗り切るために、社員から意見を募った。お客様が困っていることは何か。そしてこれを困難突破の糸口にはできないか。
「その時ある社員が口にしたのが『どのお客様も消毒用のアルコールが不足している』という情報でした。4月の非常事態宣言の発出前後、消毒用のアルコールの需要が急激に高まり、非常に品薄になっていた」
「皆が欲しがっているものを提供したい」。日本エンドレス株式会社の創業時からの「お客様第一主義」という企業ポリシーが成毛代表の脳裏をよぎった。
「私が今まで培ってきた人脈を駆使して、なんとか消毒用アルコールを確保しようと駆け回りました。知人の化学メーカーの役員に、少しでもいいから分けてもらえないかと頼んだ。医療機関への供給が優先なので、安定して供給することはできないが、と言われましたが、何とか分けてもらえることになった」
そこで確保した消毒用アルコールを顧客に提案して回った。
「皆さんからとても喜ばれました。皆、喉から手が出るほど欲しがっていた。しかも、生産元がハッキリした製品でしたから、安心して提供できた」
巨額の赤字の穴を埋めるほどの商機にはならなかったが、お客様の笑顔が成毛代表は何よりも嬉しかった。
「ピンチはチャンスです。どんな困難な状況でも、まずお客様が困っていること、欲しがっていることは何かと考えを巡らせればチャンスは見えてくる。例え利益はわずかでも、そこで得た繋がりが何よりの財産になるのです」
社員に自信をもって仕事をしてもらう
「今、当社の同業他社も苦境に陥っている。内部留保も無い、戦略も考えあぐねている経営者は今までと同じやり方が通用しなくなって右往左往している。ならば我々はそこのお客様が困っていることに手を差し伸べていこうと考えました。こういう時だからこそお客様が欲しがっているものをお届けする、お客様に迷惑をかけない会社としてやっていこうと」
そう話す成毛代表が次に着目したのがマスクの提供だった。
「マスクも一時期、全く店頭から姿を消しました。目ざとい業者がそこに目をつけて、法外な値段をつけて販売していた」
日本エンドレス株式会社には、株式会社リース東京というグループ会社がある。医療機関との取引が多いため、マスクの在庫があった。成毛代表はこれも供出することに決める。
「但し、値上げはしません。通常価格で提供しました。相手が困っているからとはいえ、足元を見てはいけない。それは信義にもとる。市中で1箱数千円の値段がついている時に、1箱400円の通常価格で販売しました」
また、おしぼりの販売などを行っている日本エンドレスのグループ会社である日本ラインファースト株式会社のお客様には東海旅客鉄道株式会社(JR東海)がある。同社が運営する東海道新幹線の清掃員たちが、マスクが供与されない場合は業務をボイコットする、とJR東海に直訴する騒動があったが、ほどなく成毛代表が提供したマスクが配られたことで事なきを得たことがあった。
しかし薄利で提供することへ社員たちの不満はなかったのだろうか?周囲と同じように高値をつけても売れるのだから、相応の利益を見込めるはずだ。会社が赤字の時にこのような商売でいいのだろうか?と。
「社員たちには会社の状況を正直に話しています。会社には充分な内部留保もあり無借金経営でやってきた。自己資本率が高いため、1年2年は会社が傾くことはないから安心してくれ、と」
「それに」と成毛代表は続ける。
「私はマスク不足の状況が回復した時に『あなたの会社から高いマスクを買わされた』などと言われたくはありません。だから通常価格で販売しました。社員たちも、その信念を分かってくれています」
だから安心して自信をもって仕事に励んでもらいたい。
今も同社の業績は、コロナ禍以前と比較して10%~15%減となっている。しかし成毛代表のこの信念を貫く姿勢により、取引顧客数は逆に増加している。何よりお客様へ、の想いは確実に実を結んでいるのだ。
多くの人に助けられて今がある
なぜ成毛代表がこれまで顧客のために尽くせるのか。その淵源を知りうるエピソードがある。
起業する以前、成毛代表はある外資系企業に5年ほど勤務し、その間、上司の推薦で米国に1年間赴任している。
「米国滞在中、日本経済新聞でダスキンの特集記事を見た。米国スタイナー社のビジネスモデルを参考にした日本のダスキンが操業13年にして大きく売上を伸ばしているというのだ。その時、稲妻のような衝撃を受けた。確かに米国では掃除する時に、日本のように水に浸して絞った雑巾なんて使っていなかった。それで足を拭くマットや清掃用品のレンタルの事業を始めようと思ったのです。26歳の時でした」
順調に見えたサラリーマン生活から突然の転進。親からは頭がおかしくなったと言われ、会社の上司からも「何のために米国に研修に出したと思ってるんだ」と怒鳴られた。
「しかし、一度しかない人生なのだから」と決意が揺らぐことはなかった。
「28歳の時に当社を興しました。マンションの1室。中古のデスク4つからのスタートでした」
そこから遮二無二働いた成毛代表に大きな転機が訪れたのは起業から6年後、34歳の時だった。
事業規模も拡大し、更なる飛躍を考えた成毛代表は一足飛びに自社ビル建設を計画する。
「自社ビル建築費用はおよそ9000万円。既に銀行から借りていた2000万を含めると、一気に1億1000万の借金を抱えることになる。当時、月商1000万ほどでしたので、商工中央金庫(商工中金)からは、それでは融資はできないと断られました」
自社ビルはまだ早いのか、と諦めかけたその時、自社ビルの建築を請け負った建築会社の社長が「ならば俺が保証人になる」と言ってくれた。
「その社長に、それは迷惑をかけることになるからと断った。しかし社長は『俺はあなたを信頼している。あなたほど一生懸命頑張っている若者はいない。俺があなたを男にしてやる』と言ってくれた」
そのおかげで融資を得られ無事に、自社ビルを建てることができた。
「出世払いだよ」とその社長は笑ったが、その温情ある言葉は成毛代表に火をつけた。信頼に応えるべく、それまでにも増して仕事に取り組んだ成毛代表は7年の返済予定を5年に繰り上げて返済を完了する。
「自分自身がこういう人からの助けを受けて今まで何とかやってこられた。だから私も人を助けていきたい。その時に建てたビルは今も株式会社リース東京のビルとして使っています。現在の社屋も、以前の土地所有者のご厚意により、大変良い条件で譲り受けることができました。当初は土地代だけで20億もの価格がついていたので、ビルの修築費を考えるとできるだけ予算を抑えたかった。そうしたら弊社の株主が他の土地所有者の方々を説得して回ってくれた。『バブルが崩壊して、今後もっと地価が下がってしまう。このご時勢にこの土地を買ってくれる人はなかなか現れない』と頭を下げて回ってくれて、20億を16億で了承してくれた」
1972年の起業から半世紀近く。多くの人々に助けられ、今度は自分が更に多くの人を助けなければならないと成毛代表の想いは強い。
お互いに喜ぶ商売をしていかなければならない
「お願いしますと頭を下げて、相手の欲しがっていないものを売ろうとするから値段が下がる。だから欲しがっているものを提供しなければならない」と話す成毛代表が今、お客様に提案しているのがカメラ式の非接触体温測定器だ。
これもお客様からのニーズに応えるために販売を始めた商品だが、驚くのはその価格。
「8000円で販売しています。全く同じ商品が大型電器量販店で3万5000円の価格がつけられていましたよ。マスクと同じでこれも便乗値上げなどはしません。弊社としてはほとんど利益がない商品ですが、この商品がお客様の店頭などに設置されることで、安心して来店客が店舗に足を運べるようになる。お客様から『日本エンドレスさんが提案してくれたから助かった』と言ってもらえた」
やっと赤字にならない程度、というその販売利益だが、その数字には表れない顧客からの信頼を得ることができた。
それが将来の顧客の増加に繋がり、いずれは本業の利益にも繋がっていく。そうすればさらなる従業員の雇用、そして賃金の確保にも繋がる。
シナジー効果ですよ、と笑う成毛代表のその哲学に、苦境の中にある中小企業への光明が見えるようだった。
成毛義光
1943年生まれ。大学卒業後、日本NCR株式会社に入社。研修のため1年間アメリカに滞在。その際、米スタイナー社やダスキンが業績を伸ばしているのを見て、起業を決意。帰国後1972年に日本エンドレス株式会社を起業。現在同社代表取締役。
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