世界平和研究所主任研究員 藤和彦氏✕筒井潔 対談「革命を起こせるか?→家入一真は良い!→町工場の親父は社長じゃない→老害は一回地獄を見ろ!…となるお話」
世界平和研究所主任研究員 藤和彦氏✕筒井潔 対談
革命を起こせるか?→家入一真は良い!→町工場の親父は社長じゃない→老害は一回地獄を見ろ!…となるお話
◆文:加藤俊
経産省ではエネルギーや中小企業振興政策を、内閣官房ではエコノミック・インテリジェンスを担当し、経済のスペシャリストでもある公益財団法人世界平和研究所主任研究員・藤和彦さんと筒井さんの対話がひょんなことから始まった。現代社会に革命を起こせるかというお茶目なテーマから、話題は色々な方向へ飛んでいき……。
およそ、こういった話を記事化される藤さんはたまったものじゃないだろうが、面白いと思ったので掲載します(一応、許可はもらっています)。
現代社会に革命を起こせるか?
筒井:今日は、戦後の学生運動を指揮した小島弘先生のお話を後程聞くにあたって(世界平和研究所 小島弘氏・特別インタビュー【第1回】『そこにある歴史 敗戦~学生運動』)、閉塞感のある今の社会で革命を起こすとしたら、どういう手順をとるべきか、というお茶目な課題で話し合いたいと思っています。
藤:ハハハ、面白いですね。やっぱり、革命って、筒井さんぐらいの年代の方の発想で出てくる言葉ですよね。筒井さんよりも10年若い人は持ち得ないと思う。ぼくは役人だから、筒井さんと視点が違うんだけど、革命するほどこの国でパワーのあるヤツなんていないと思っています。
団塊の世代の村上春樹がかつて壁と卵のスピーチをしましたけど、あれなんですよね、どこまでいっても団塊の世代の発想って。いつまでも「巨悪」が世の中に存在すると思っている。
筒井:確かに、現実にはこの国って良い国ですよ。だって殆どの人にとってはあまり努力しないである程度の生活ができますから。
藤:でもそこは若い人の感覚は違うんじゃないかな。今子供の貧困率16.3%(2014年7月の厚生労働省国民生活基礎調査)ってすごい恥ずかしい数字ですよ。日本が今のままでいいと思っている人はいませんから。
筒井:それはそうですね。
藤:だから上の連中に世の中を変えさせるようにするにはどうすればいいのか。それしかない。これは数の問題ですから。世界の歴史を色々見ていくと分かるのですが、革命は人口構造がピラミッド型の社会でこそなせるものなんです。革命を起こす主役の若い人の数が多ければ、上の世代少数をやっつければいい、と。
ところが、今の日本は逆ピラミッドですよね。若い人が少数の。こうなると革命を起こそうという意識は広がらない。だからトロイの木馬作戦でいくしかない。若手社会学者の古市憲寿さんも、「この国を変えるのは老人しかない」って。あの発言に集約されていますよね。
筒井:老人達が変わる期待は持てませんよ。ネット選挙になったら、話も変わるかもしれませんが。ただ制度を移行することができるのも……
藤:上の連中ですからね。そういう連中に、「貴方達にとってもメリットがありますよ」って嘘でもいいから囁いて、それで変えて行くしかないってみんなわかっています。
筒井:金と権力を持っている層に対して敵対する必要は全くないと?
藤:逆にその視点を示したらいけないと思う。そうすると上手くいけば、あるいは破壊はできるかもしれませんね。例えば、大阪の橋下徹市長だって笑顔で引退表明しましたけど、途中まで上手くやっていたじゃないですか。一見革命とか破壊とか乱暴な様に見えて、実はものすごく上の連中の方達の顔色を見ながら慎重にやっていたように思えますよ。
家入一真さんは良い!
藤:ネット選挙の話がでたので、東京都知事選挙で元引きこもりのIT起業家の家入一真さんっていたじゃないですか。ぼくはあの人が多分若い人たちの政治家の中でのリーダーとまではいかないけどイイ線いっていると思っているんです。
筒井:確かに、ベンチャー界隈では多くの方が応援していたみたいですね。でも、選挙を経てからの後のぐだぐだした過程を見るとあの人がリーダー?と疑問に思うところがありますが。
藤:僕はね、彼の何が良いってね、排除の論理がないことなんです。自分が言い出しっぺだからといってトップでなくてはいけないという意識もない。フォロワーでもいい。ああいうのは自分にはできないから良いなあと思っていました。
筒井:えっ、藤さんできないんですか?
藤:自分が言ったら自分の言う通り全部やれという話にしたくなるでしょ。で、彼は自分からこの指止まれって言っても、誰かが違う方に行ってもそれを修正しようとする訳でもなく、それについて行っちゃう。嫌なヤツに対しての排除の論理がないんです。新しいよね。あの人の発想からは革命なんて言葉出てきそうにないでしょ。
筒井:う~ん、確かに。でも彼も現状を変えたいと思ったから政治の世界にでてきたワケですよね。
藤:彼に限らず、誰しもが今のままで良いとは思っていないですよ。昔は上手く回っていた仕組みが機能していないんだから。
筒井:そのうまくいかなくなった原因っていうのは?
藤:やっぱり経済状況じゃないですか。バブル崩壊までの日本というのは、本当に誰がやってもうまくいきました。一生懸命何かに取り組めば報われる社会だったから。ところが「今」は戦略性が求められる時代です。何をして、何を行わないか。これが分かる人じゃないと成功が難しい社会ですからね。
筒井:昔は、電機メーカーだって不採算部門があっても気にしていなかったりしましたものね。
藤:もっと言っちゃうと、不採算部門にエースを投入することをしていたでしょ。
筒井:経営は時代のファンクションですからね。今はいくらお金を持っていても、エースが経営能力を持っていても、ダメなときはダメですからね。
藤:日本はあんまり変わっていないですね。俯瞰して上から見ると変わってないと思いますよ。そういうところのいいかげんさとか。
実は、お金は腐るほどある日本
筒井:実際のところ、日本の置かれた状況ってどうなのですか?
藤:日本ってお金は腐る程あるんですよね。例えば、膨れ上がる社会保障費で赤字云々って言いますよね、これ誤解がありますよ。よく国の借金と言うでしょ?あれ厳密には違いますよね。あれは政府の借金だから。国は政府と家計と民間企業の総体です。で、国全体で見ると275兆円の黒字です。対外純資産が275兆円あって、バブル崩壊以降20数年間連続で世界1位です。結局、政府が民間企業と家計から税金を上手くとれないから、政府の借金が多いだけであって、国全体は世界で一番のお金持ちの国です。
筒井:でも、社会保障費は毎年1兆円ずつ膨れていますけどね。
藤:それ、よく頭の固い経済学者に何度言っても分かってくれないんですけど、日銀の資金循環勘定に載っていますけど、家計資産で1,500兆円。企業にはまだ1,000兆円の金融資産があるんです。だから2,500兆円の金融資産があるとも言える。しかもグロスで言ったら、今年金基金に300兆円もお金がありますからね。2,800兆円の流動資産が日本にはあるといえます。こう見ると、1,000兆円の国債で破滅一直線にはならないでしょ。
筒井:企業の内部留保ですよね、それは。吐き出さないのでは?
藤:それを吐き出させられないのが問題なのです。出してもらう為に知恵を絞る必要がある。ぼくは税金でなくても設備投資という形でいいと思う。そのときに一番の問題は、人口が減少する日本社会の先行きが立たないこと。未来が暗いから民間企業は設備投資するまいと財布の紐を締めてしまう。マーケットが小さくなるわけだから。これをどうするかですよ。
筒井:マーケットが大きくなる見込みのある業界については、介護保険と称して全部政府が関与しているから、企業が入っていく余地があまりないですよね。最近介護関係の企業も保険とは別枠のサービスを始めたりしています。本来なら需要が増えている部分でマーケットができていない。
藤:ええ。アメリカはご覧の通り、保険がないから高額な医療サービスを提供する産業が生まれてそれで成長しました。だから介護関係もものすごくラグジュアリーなサービスを提供すれば、成長性が見込めるハズなのですが、そこを分かってない人が多いですよね。
町工場は潰れるしかない?
筒井:私は仕事柄、中小企業の動向も見ていますが、中小企業の社長さんの話しを聞くと、彼等は本当に仕事がなくなっていますよ。彼らがこれまでの日本を、地域の地場経済を支えて来た側面はあると思うのですが。
藤:ぼくはずっと中小企業、ベンチャーを経産省で見てきたから言いますけど、こうなった多くの部分は町工場の社長本人たちが発想の転換が出来なかったことです。なぜか。町工場の社長の多くは、「経営者」になれていないから。彼らは社長の仕事をしていないですよ。「工場長」の感覚の人が多すぎる。
ある種センター試験で、「理科と数学が好きだからそれだけを勉強します」と言うような子と同じというか。あんた国語社会だってやらなきゃだめだよって言われてもやらない子に近いものがある。ぼくが内調(内閣官房 内閣情報調査室)に行く以前ですから今から10年以上前、中小企業庁とか関東経済局とかで中小企業の方達を見てきたのですが、口酸っぱく「マーケティングをやってください」って言っていたんですけどね。
あの時一番感じたのが、多くの中小企業には価格戦略がないこと。経常利益率って10年ぐらい前の中小企業白書が書きましたけど、4%しかないんです。大手の言い値ベースで下げろ下げろと言われるから、どうしようもないという声もあるけど、それはその企業のビジネスモデルに欠陥があるよね。ドイツの中小企業ってマーケティングをきちんとやっているから、一番自分が価値を出せるところに部品を出しているじゃないですか。
筒井:それを町工場の親父さんに期待するのは難しくないですか。
藤:一時期「良い物をより安く」という言葉がありましたよね。あれがダメにしたものは小さくないですよ。考えても見てください。良い物をより安くと言ったら社長はいらないんです。「良い物をより高く売る」、そこに経営があるワケですし、それを考えるのが本来社長の仕事のハズなんです。
まぁ、一生懸命精魂込めて作った製品を大企業の工場の若い人が「はいはい、今年ももっと安く売ってくれ」って言っていたら、そりゃやる気も萎えます。それは分かるんですけどね。
筒井:それだけじゃない。大手は海外に仕事を持って行って……
藤:それも30年も経ったわけですよ。負け犬の遠吠えと言ったら言い過ぎかもしれませんが、正直言って。ぼくはあんまり同情できませんね。
筒井:そういった企業が地域で100人や200人の雇用を支えていたりします。今、永田町界隈で流行りの地方創生の話で私も自民党本部とか行きましたけど、必ず地元企業の保護と振興を組み込まないといけないと全ての人が思っている※1。
藤:いや、一層のことそういった企業を守るぐらいならば、退場してもらったほうが若い人が新しいことにチャレンジできるようになりますよ。この間も農業関係のベンチャーにお会いしましたけど、今の時代農業もかなりの部分がコンピューター管理されてきています。で、そういう管理に長けた若い人達に農業の機械を提供する企業も出てきています。
だから、そんなに悲観することないんじゃないかな。一回途絶えた技術は伝承できないかって、そうじゃないと思いますよ。今の若い人達って手仕事好きだから、少し時間かかるかもしれないけど、新しいものができるかもしれない。
老害は一回地獄を見ろ
筒井:高専や工業高校の先生が、「今の日本人は本当に不器用になってきている」と指摘しています。ドライバーの回し方さえ知らないで職人になろうとする子がいるってね。最近の子は本当に何もできないと。その理由が興味深いんですが、日本はモノづくり社会だと言われていますが、モノづくりを追い求めたが故の皮肉がきいた話なのです。
モノづくりって、ある種利便性を高めるためにモノを作るじゃないですか。服だったらボタンだったものがジッパーになって、靴も靴紐を結んでいたところがマジックテープになって。要は、子供達が手を使う機会がなくなって、「今」の子達が本当に不器用になっているのだ、と。今後10年、20年というスパンで日本のモノづくりを考えると、最後の最後でモノをいう器用さが失われている訳だから、将来が危惧されると。これを現場の方々が結構おっしゃっていて。
藤:それは分かります。でも、ぼくは大丈夫だと思っています。時代状況が変わればそれは変わっていくと思いますよ。僕は現場の方がおっしゃることは間違いないし、危機意識を持たれることも正しいと思いますけれども、それでもいいんじゃないかと。
凄く乱暴な言い方ですけど、廃れるところは廃れるしかない。というか、日本はアメリカと違って大手企業が潰れないじゃないですか。だからベンチャーも少ないワケですよね。本当に再生していくためには、地域にはある時点で一回地獄になることを覚悟したつもりで改革にとりくんでもらわなければ、と思っています。
町の商店街がいい例ですよ。若い人たちが改革案とか新しいプランを一所懸命作っても、古くからの地権者たちは首を縦に振らないことが多い。この人達が意識を変えなければ強制的に引退してもらうしかないんじゃないですか、この国は。ってなんだか僕の発言の方が、革命的ですね(笑い)※2。
筒井:そうですよ(笑い)
筒井注1:総務省が発表した日本の人口は2015年4月の概算値で1億2691万人であるが、この数字の絶対値より、大きく見ると2010年以降、単調減少しているという事実の方が重要である。2014年5月に民間研究機関の「日本創成会議」の人口減少問題検討分科会がいわゆる増田レポートの中で、自治体の消滅可能性という概念を提案し、日本全国では896の自治体が消滅する可能性があるとして注目を浴びた。
この消滅可能性というのは、出産の中心層の20歳から39歳の女性が2040年の時点で2010年の半数以下となり、どれだけ出生率を上げても人口減が止まらないという意味である。この自治体の消滅可能性という概念が重要なのは、消滅しないためには自治体は若い家庭を増やさなければならないからであると私は思う。
しかし、2014年度補正予算に盛り込まれました地方創生の新たな交付金約4200億円のうち、地域消費喚起・生活支援型に割り振られた2483億円は、全国の自治体の97%にあたる1789自治体が、額面よりお得なプレミアム付き商品券の発行のために使われる。しかしここで疑問なのは、このような手法が自治体の消滅可能性の解消につながるのか、ということである。地域振興券を配っても若い人は増えないと考えるのが自然であろうと私は思う。
筒井注2:日本企業はイノベーションが足りないと言われることがある。シュンペーターの「新結合」(日本では一般にはイノベーションと翻訳される)の具体例は、(a)新しい商品の創出、(b)新しい生産方法の開発、(c)新しい市場の開発、(d)原材料の新しい供給源の獲得、(e)新しい組織の出現を含んでいる。しかし、このイノベーションとビジネスの成立条件の関係については、巷では十分に議論されているのか私は疑問である。「ビジネスの成立条件とは?」の答えを、「事業者が生み出した新しい価値が世間に受け入れられること」と定義してもそれほど的外れではないはずだ。これらの前者と後者は、コトラーが現代的な企業経営で必要だと言った、変革をもたらすためのリーダーシップと、複雑さに対応するためのマネジメントというスキルに直結する。今後、経営者には重責がかかるようになるだろうが、それに耐える経営者を持つ企業だけが生き残っていくのであろう。
藤和彦(ふじ・かずひこ)…公益財団法人世界平和研究所主任研究員。1960年、愛知県生まれ。早稲田大学法学部卒。通商産業省(現・経済産業省)入省後、エネルギー・通商・中小企業振興政策など各分野に携わる。2003年に内閣官房に出向(エコノミック・インテリジェンス担当)。2011年から現職。著書に『日露エネルギー同盟』(エネルギーフォーラム新書、2013)、『シェール革命の正体 ロシアの天然ガスが日本を救う』(PHP)ほか多数。最近刊に『原油暴落で変わる世界』(日本経済新聞社、2015)がある。
公益財団法人世界平和研究所
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◆2015年7月号の記事より◆
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