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近藤宣之氏(株式会社日本レーザー)インタビュー【第5回】中小企業の生きる道

◆取材・文:渡辺友樹

日本レーザー株式会社 近藤宣之氏 (1)

株式会社日本レーザー 代表取締役 近藤宣之氏

「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞・中小企業庁長官賞、「勇気ある経営」大賞受賞の日本レーザー近藤宣之氏・特別インタビュー!

日本レーザー、近藤宣之氏の特別インタビュー最終回。リスクを取った経営が認められ、東京商工会議所の第10回「勇気ある経営」大賞で、商社として初めて大賞を受賞した同社。近藤氏に経営者に求められる条件を語って頂く。

■世界における国益の主張と日本の役割

前編
▶第1回グローバル時代の経営者の条件とは
▶第2回中小企業によくある理不尽な圧力・親会社からの独立物語
▶第3回経営者と従業員が参加する会社買収MEBOによる独立劇
▶第4回経営に必要な運を呼ぶ5つの心掛け
〈前号のあらすじ〉経営に必要な運を呼ぶ心掛けには「いつも笑顔で、感謝して、成長して、他責にせずに、受け入れる」という5つがあり、その逆に、運が悪くなるものとして「他責、人のせいにする」「オレがオレがという態度」「自分の利益を主張する」があると語る近藤氏。それは集団でも同じだと氏は言う。

近藤:自分の利益だけを主張して「オレがオレが」では運が悪くなるというのは、個人の問題だけでなく、集団でも同じです。企業や国家でもそうですよ。自国のために「オレがオレが」と自分の利益を第一に考えていれば、結局は孤立するんです。

 

筒井:そう、孤立するんですよね。そういえば最近、外務省のある役人が「国際会議など各国の財務担当者が集まる場で、昔に比べて各国が自国の利益を強く主張するようになっているように感じる」と言っていました。

 

近藤:孤立すると、隣国が悪い、どこそこの外国が悪いと言い出す。最終的には戦争が起こるわけです。自国の利益ばかり追い求めるのがいちばん問題ですよね。

 

筒井:そうした流れの中で、日本企業が果たせる役割があるように思いますが。

 

近藤:よく「人間関係のゴールデンルール」みたいなものってあるじゃないですか。こうすれば人間関係がよくなる、仕事もうまくいく、幸せになる、といったような。ハウツー本もいっぱい出ている。しかし、そういうものが説いているのは、結局「自分がして欲しいことを相手にもしてあげる」ことなんです。

僕がいま筒井さんや塩入さんにして欲しいこと、一般的に他人にしてもらいたいこと、たとえばお金をもらいたいとか、愛して欲しいとか、それを相手にしてあげれば人間関係うまくいきますよ、っていうのが世に溢れているゴールデンルールなんですよ。

 

筒井:『論語』に書いてあるのはその逆ですよね。「相手にして欲しくないことはしない」。

 

近藤:「して欲しくないことをしない」のは良いんです。問題は「して欲しいことをしてあげれば、して欲しいことをしてもらえる」という考え方。これは傲慢ですよ。

要するにこれは一神教のルールの延長線上にある考え方。自分が信じているもの、自分の価値観があって、相手も同じ価値観に決まっているから、オレがしてもらいたいことは相手もしてもらいたいだろうと、こういうことですよね。ものすごく傲慢ですよ。

 

だけど、色んな本にはそうしろと書いてある。自分がして欲しいことを相手にするのは間違いだと書いてある本は見たことがない。でもこれは絶対おかしい。だって、私がして欲しいことと、筒井さんや塩入さんがして欲しいことは違うことですよ。一般的に同じとされていることがおかしいんです。

だから、自分がして欲しいことを相手にしてあげるという考え方がトラブルを生む。たとえばアメリカは、アメリカ的な自由と民主主義こそが全てだと信じていて、ベトナムに自由と民主主義がないから、介入して自由と民主主義を植え付けようと。イラクに対しても同様ですし、とにかくアメリカが起こす戦争は、十字軍と一緒で全部自分たちのキリスト教的な価値観を世界中に布教しようという価値観に基づいている。

 

筒井:アメリカは本当に強引で、傲慢なところがありますよね。

 

近藤:もっと言えば、戦後アメリカが日本に定着させようとした「自由と民主主義」と、アメリカ国内のそのものとは違うと思いますね。というのも、「自由と規律」のうち、日本人には規律を説かず、自由を謳歌するように勧めたし、「権利と義務」についても、義務を忘れて権利の主張ばかりする日本人が増えてしまったのではないですか?

アメリカに9年間住んで仕事をした経験から言えば、日本に比べて、より規律を重視し、義務を訴える社会だと思う。近年、世界的に独裁的国家で自由と民主主義を広める革命的社会動乱が多く起こっていますが、結果的にはさらに混乱して、そうした国々の国力は低下したように見える。

 

筒井:「自由と民主主義の輸出」はアメリカのためのものだとさえ思えるんですが。

 

近藤:アメリカの「自由と民主主義」に関しては、あのケネディ大統領の就任演説の有名な一節を思い起こして下さい。

「同胞であるアメリカ市民の皆さん、国があなたのために何をしてくれるかではなく、あなたが国のために何ができるかを考えようではありませんか」

“And so, my fellow Americans: ask not what your country can do for you-ask what you can do for your country.”

残念ながら、今の日本では、総理大臣がこのような呼びかけをできるような社会ではないですね。

 

筒井:そうですよね。

 

近藤:イスラムにも排他的なところがある。イスラム教徒のなかでもシーア派とスンニ派で戦争になる対立があるし、自分たち以外は認めないというようなね。それに比べて日本は自然の中に神をみて、八百万の神がいて、共生という考え方があるから、自分の価値観を押し付けるようなことはしない。

だから、日本企業が海外で経済協力や開発協力をすると、みんな感謝してくれる。自分がして欲しいことと相手がして欲しいことは違うという認識、相手は違うんだという認識があれば傲慢にならない。

 

筒井:確かにそうですよね。

 

近藤:宗教、思想、信条も違うんだと。場合によってはアメリカ的な自由主義と市場経済だけがすべて正しいわけではないと仮定すればいいわけです。一般的に正しいとされている価値観がグローバルスタンダードだといわれても、アメリカンスタンダードであったりする。

そうではなくて日本的な助け合い、共存共栄、共に生きていくという価値観からものごとを捉えることが重要です。日本には、「やまと教」という古代民衆の信仰がある。「や」は「人にやさしい」の「や」、真(まこと)、真実、正直の「ま」、「と」は「とも生き」の「と」、今でいう共生ですね。こうした価値観こそ我々日本人が見直すべきではないですか?

 

筒井:日本的な精神、たとえば『論語と算盤』とか『武士道』とか、そういったものをビジネスに活かす方法もあるわけですよね。

 

近藤:日本が西洋的な近代文明から隔離されていて、そこから明治維新後急速に資本主義を入れていくときに、たとえば渋沢栄一が『論語と算盤』を書くなど、日本的な知恵を入れながら資本主義を入れていった、だからうまくいったんですよね。

ところが、最近の例ではソ連から変わったロシアなんかは、社会主義が破綻して市場経済を入れるときに、そういうものを入れずに、いきなり資本主義の悪いところだけを入れてしまった。だからロシアでは多くの人が悲惨な目に遭って、一部の人だけがエリートになっていった。今の中国も同じですよね。めちゃくちゃな格差社会です。

だからこうした例をみれば、いかにアメリカも含めた彼らの資本主義というものが、人を幸福にしないかが分かる。だから、日本的な精神が重要なんです。

 

塩入:一方でインドでは、非暴力不服従を主張するガンジーが主導して独立するとき、日本の影響がありましたよね。

 

筒井:日本とも非常に関わりが深いチャンドラ・ボースや、中村屋のボース(R・B・ボース)が活躍しましたね。

 

近藤:インドもものすごく混乱した階級社会ではあるんですが、インドで資本主義を目指した人たちの中にそういう人たちがいたということですよね。

 

筒井:大川周明と安岡正篤みたいですね。

 

近藤:なるほど、そうですね。だからそういう日本的な歴史と文化を勉強して、それを現代の経営に活かすことが大事ですよね。

たとえば、インドで目覚しい業績を上げているタタ・グループのコンサルティング会社の社長が、日本のメディアの取材で従業員第一主義と言っていたんですが、これは私がいつも言っているのと同じ。

会社から大事にされていると実感できない社員が、クライアントの期待に応えたり、提案をしたり、お客さまを満足させられるわけがない。でも、従業員第一主義というのは、給料を増やすとかそういうことではありません。じゃあ給料を増やすんじゃなくて具体的にどうするかというと、情報を共有し、経営を透明化し、社員の納得度、透明性を上げる。

僕がやっているのと同じなんですよ。一体感をつくって、この会社で働くことに満足してはじめてお客さまを満足させることができる。会社から与えられたチャンスとか待遇とかいうものに対して感謝して、はじめてお客さんと自分が働くことに対する喜びを共有できる。同じなんですよ。タタ・グループのこの会社は売上4000億円で、弊社より100倍も大きい会社。

そんな大きな会社でも、僕と同じことをやっているんです。だから僕はその記事を読んで、これでいいんだと自信がつきました。(※日経ビジネス誌、2011年11月14日号)

 

■『志』を明文化して社内に落としこむ

日本レーザー株式会社 (4)

近藤:日本的経営や、従業員第一主義といった考え方の先にあるのは、経営者の条件として非常に大切な『志』です。自分は何がしたいのか、どうありたいのか、社員にはどうあって欲しいのか、どんな会社にしたいのか、どんな事業をやりたいのか。そうした意識を持ち続け、そして強制ではない形でそれを実現するために、その志を明文化しておく必要がある。

弊社では『JLC Credo(日本レーザー・クレド。クレドは信条、原則の意)』がそうです。これは弊社のウェブサイトから、誰でもダウンロードできます。

 

塩入:社員のみなさんもクレドをお持ちなのですか?

 

近藤:もちろんです。会議の度に読んでいますよ。クレドは経営者が社員に対して、「生涯雇用を目指し、能力・貢献度・理念の体現に応じてフェアに処遇する、等々こういう経営をする」と約束したものです。一方、社員もこのように働くという約束です。即ち、就業規則が働く条件についての契約ならば、クレドは働き方の契約です。だから常に読んで確認しているんです。

 

塩入:毎回読んでいらっしゃるのでしょうか。

 

近藤:はい、毎回英語を読ませていますよ。会議にはファシリテーター(司会者)がいて、彼がたとえば「今日はクレドの3番『Our Operational Principles』をやります」と言って、「As employees grow, the company grows.」と言うと、みんなが「As employees grow, the company grows.」と唱和するわけです。

つまり、社員の成長が企業の成長であると。クレドの3番にはEmployees’ satisfaction comes first before that of our customers. お客さまの満足よりもまず社員の満足が先に来なければだめだと書いてある。そして、Unless employees are satisfied with the company and the products and services they provide, they cannot satisfy their customers. Unless employees appreciate the company’s compensation and opportunities provided, they cannot share their pleasure with customers. と続く。

これらがなければお客さまを満足させることできないよと。unlessなになにunlessなになにというこの二つの文章が補っているわけです。クレドは弊社のウェブサイトにも載せていますから、お客さまも見ることができる。でも今までクレームは来ていませんし、タタ・グループのコンサルティング会社の社長も同じことを言っていたわけです。

 

筒井:クレドはどなたが考えたんですか?

 

近藤:全部僕が考えました。英語に関しては弊社のサンディエゴにいるコンサルタントに見てもらったので、日本人が書く英語とは違いますけどね。

それからクレドとは別に、毎週『JLCニュース』という社内報をもう20年、延べ240号近く出しています。私が社長として日本電子から乗り込んできたとき、いまお話ししたように、社員にどうあって欲しいかを示す必要がありますよね。ですからそれを文章にも書いて、会議でも喋って訴えた。社内報もその一環で、『社長から』として10年以上、日本語で書いていましたが、今は『Notes  from the President』と英語で発行しています。

社員にとってこの社長からのメッセージはすごくいいテキストなんです。自分たちの経営に関することが書いてあるから理解しやすいわけですよ。

 

■中小企業には『自社品・自社ブランド』と『英語』が必須

日本レーザー株式会社 近藤宣之氏 (2)

近藤:じゃあ経営者が社員にどうあって欲しいかというところで、特に中小企業はどうしたらいいか。日本の中小企業は今までは大手の下請けでも良かったのですが、これからは間違いなく立ち行かないと。ではどうすればいいか。

ひとつは自社ブランド、自社品を持つこと、ふたつめは自社のセルフチャンネルを持つことです。そして大事なのは、それらを今までの大手の下請けとか問屋を通じて流通していたルートはそのまま残して、それとは別に設ければいいんですよ。それが大事なんですよ、日本の社会ではね。

それから、日本のマーケットだけを相手にしていたら、人口はどんどん減っていくわけですから当然シュリンクしていく。日本には成功体験があって、今までは日本のマーケットだけで食えてきてしまった。

しかし、弊社のパートナーであるドイツやフランスのレーザーメーカーがどうしているかと言うと、彼らはもはや自分の国のマーケットだけでは小さすぎるようになった。EU全体でも小さすぎますよ。だから、ドクターやマスターがベンチャーを始めるとき、最初から世界中で売ることを考える。まずヨーロッパで売る、次にアメリカで売る、それからアジアで売る。アジアは今までは日本だけでしたが、今は中国もある。

たとえば10人で会社を作る時点で、最初からそういうことを考える。だからドイツ人が10人集まってできたばかりの会社も、すべて英語でやるわけですよ。日本の中小企業で問題なのは、10人で集まって会社を作って世界中のマーケットでやろうというときに、日本語しかできない人間ばかりだということ。これでは無理ですよ。

中小企業が生きる道のもうひとつすごく大事なこととして、英語は非常に重要になってくる。先ほどのクレドが英語なのもそういうことです。モノづくりの現場の人はいいですよ、でもマネジメントとか、営業とか、技術をやる人は英語ができなければだめですよ。

それから、日本の中小企業の問題点がもうひとつある。レーザー業界の話しかできませんが、レーザー業界でそうしたドイツやフランスのような存在感のある中小企業がなぜ日本に出てこないかというと、技術力がないという問題があるんです。

もっと言えば、大学で研究していることなんかをスピンアウトしてやろうとする。でもこういうのは多くが自分の技術を形にしたいという、夢でやるから失敗する。ビジネスというのは、売ってナンボなんです。自分が作りたいものを作ったってしょうがない。

 

筒井:なるほど。いまおっしゃった技術というのは、それは最終製品ということですか?

 

近藤「画期的なもの」ということです。たとえば毎年サンフランシスコで開催される『フォトニックウエスト』っていうレーザーや光に関する世界最大の展示会があるんですけどね、そこに小さなところも含めて世界中から1500社集まってきます。10人の会社や5人の会社もあって、ブースを出している。

でも日本の会社は非常に少ない。それは画期的なものを作っている会社が少ないからです。だから、単にモノを作る技術じゃなくて、必要なのは「画期的なものを作ること」なんです。レーザー業界には、日本の大学でも研究されていた技術なのに、実用化に漕ぎ着けたのはドイツの会社で、世界にその1社しかない、という例もあります。

 

だから中小企業が生き残るためには、グローバルなマーケットを作るために英語が大事ということと、それから世界で通用する技術を商品化しないといけない。そうすれば世界中で売れるわけですからね。で、その商品化する技術というのは、何も科学の最先端である必要はなくて、ローテクでもいい。顧客にとって価値のある商品、世界の市場にとって画期的な製品であることが重要なわけですから。

 

筒井・塩入:なるほどですね。とてもおもしろい話を聞かせて頂きました。ありがとうございました。

 

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近藤宣之氏(こんどう・のぶゆき)…1944年東京生まれ。1968年、慶応義塾大学工学部電気工学科を卒業後、日本電子株式会社に入社。電子顕微鏡部門応用研究室に勤務。全国金属労働組合同盟、日本電子労働組合執行委員長に就任。1983年まで同職を務めた後、総合企画室次長、アメリカ法人支配人、取締役営業副担当などを経て、1994年、株式会社日本レーザー代表取締役社長に就任、現在に至る。2007年に役員・社員の持株会などから構成されるJLCホールディングスを設立し、MEBOを実施。日本電子からの独立を果たす。同社は第1回「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞・中小企業庁長官賞を受賞(2011年5月)。また東京商工会議所第10回「勇気ある経営」大賞・大賞を受賞している(2012年10月)。

2013年3月:経済産業省「ダイバーシティ経営企業100選」全国43社に入選、受賞。

2013年4月:経済産業省「おもてなし経営企業選」全国50社に入選、受賞。

2014年1月:平成25年度東京都ワークライフバランス企業認定(多様な勤務形態導入部門)。

2014年3月:経済産業省「がんばる中小企業300社」に入選、受賞。

 

株式会社日本レーザー

〒169-0051 東京都新宿区西早稲田2-14-1(東京本社)

TEL 03-5285-0861 FAX 03-5285-0860

http://www.japanlaser.co.jp/

創光技術事務所インタビュアー

筒井潔(つつい・きよし)…経営&公共政策コンサルタント。慶應義塾大学理工学部電気工学科博士課程修了。外資系企業、ベンチャー企業、知財関連企業勤務を経て、合同会社創光技術事務所所長。

塩入千春(しおいり ちはる)…創光技術事務所シニア・アナリスト。理学博士。京都大学理学部卒。京都大学理学研究科修士課程修了。総合研究大学院大学博士課程修了。理化学研究所研究員等を歴任。

合同会社創光技術事務所

〒150-0046 東京都渋谷区松濤1-28-8 ロハス松濤2F

http://soukou.jp

 

2015年4月号の記事より
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