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未来の沃野を拓け!ビジネスニューフロンティア〈11〉 

産業化前夜「日の丸ドローン」をテイクオフさせよ!

◆取材・文:佐藤さとる

オビ スペシャルエディション

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ホビーや農薬散布など、用途が限定されていた感のある小型無人ヘリが、ここに来て熱い注目を集めている。その名もドローン。複数のロータープロペラがついた未来型ヘリだ。すでに欧米、中国などで市場化が進んでおり、その市場は2025年には8兆円に膨らむとも言われる。

日本はその市場で後れを取っているとされる。「日の丸ドローン」は、果たして世界市場を取り込めるのか。

 

■アマゾンの計画の衝撃

昨年12月、世界的通販サイトアマゾンはある事業計画を発表した。オーダーされた商品を無人小型ヘリ(ドローン)を使って30分以内にデリバリーするというもの。公開された映像には、アマゾンのロゴの入ったドローンが、倉庫の出荷ラインから商品の入った専用ボックスを抱えると、そのままふわりと上昇、注文主の玄関前に商品を「着陸」させる様子が映っていた。

このSFチックな映像に世界中は釘付けとなった。将来、軽量な商品の配達は、無人の飛行ロボットが行う世界が当たり前となると確信した人もいるだろう。しかしアマゾンが公開した映像は、将来ではなく、今の姿である。

 

■日本は海外ドローンメーカーの草刈り場

ドローンはすでに実生活で使われているからだ。たとえば空撮。従来であればヘリコプターをチャーターし、カメラマンが乗り込んで撮影していたが、現在空撮の多くは報道などを除くとドローンによる撮影にシフトしてきている。中国のDJI社はドローンメーカーの代表格で、カメラ機能を備えたドローン「ファントム」シリーズなどをはじめ3万台を生産。2014年の売上は約450億円とも言われ、すでに日本法人も設立している。

中国だけではない。先行しているドイツやフランスなど欧州、カナダ、アメリカなど世界中でドローンメーカーが誕生しており、日本の空を席巻しはじめている。

その多くがベンチャーで、この10年で急成長した。

「日本は海外ドローンの草刈り場となっている」と危機感を募らせるのが、千葉大学の特別教授・野波健蔵さんだ。

千葉大学特別教授野波健蔵氏

立ち後れた日の丸ドローンの起死回生の期待を集める、日本のドローン研究の第一人者、千葉大学の特別教授の野波健蔵さん。
「ドローンはカナダが法整備も含めて進んでいます。取り組むべき課題は多いですが、得意分野を合わせながら、それぞれ解決していければと思います」

野波さんは1998年からマルチローター型の無人飛行ロボット、いわゆるドローンの研究を行ってきた日本のドローン研究の第一人者。制御の難しいといわれるヘリの無人化技術を応用し、地雷探知ドローンや、高圧電線の点検を行うドローンなどを実用化してきた。

 

■実はドローン先進国だった日本

野波さんだけでなく、そもそも日本のドローン開発は世界に先んじていた。

二輪メーカーのヤマハは、1987年に農薬散布向けの無人小型ヘリを世界で初めて開発している。またセンサーメーカーのキーエンスは1991年に4つのプロペラを持つ重さ90gのドローンを発売している。

と書くとまたも先行しながら世界市場に後れをとったソーラー発電や電子書籍のパターンを思い浮かべてしまう。とくにキーエンスの例は、すでに生産中止していることもあり、「続けていれば、大きな起爆剤となったのに。もったいない」と野波さんは嘆く。ただ、一つの技術や製品が大きくブレイクするためには「タイミングもある」と野波さん。「早すぎてもいけないし、遅すぎてもいけない。紙一重の運」とも。

 

確かにここに来てのドローン市場の広がりは、さまざまな環境が整ったことが大きい。とくにスマートフォンの進化に伴う半導体などデバイスの高精度化、小型化の影響は大きい。

実際、DJI社はもともとスマートフォンのデバイスメーカーであり、拠点となる中国深セン地区は、“世界のスマートフォン工場”とも言われるほど、関連企業が集積している。

「スマートフォンに限らず、自動車産業など巨大産業で各国のエンジニアがしのぎを削っているから技術が飛躍的に進んだ。ドローンが発展したのはその波及効果でもある」

 

■エンジニアとしての使命感はあるか

ただその波を先に捉えたのは欧米や中国だったことは確かだ。より的確に言えば、ベンチャーがその市場を開拓した。

翻って日本。10年20年前に比べてもベンチャー環境は改善している。多くのベンチャーファンドが生まれ、1円起業も可能となった。にもかかわらず技術革新を伴ったベンチャーが育っていかないのは、どうしたものだろう。

これは長年日本の産業界、行政、あるいは教育制度が抱えてきた宿痾とも言える課題だ。紙幅がないのでこの要因については詳しくは触れない。一つ言えることは、日本企業は失敗を個人に押しつけがちで、かつ長期視点に欠けることだ。

 

野波さんは長年にわたるドローンの研究開発のなかでは何度か挫折しかけたこともあった。ただ技術で社会に貢献するのが工学者の使命と胸に刻み、地雷探査やインフラ点検などの実応用に取り組んできた。

「アフリカではインフラが整備されていないがために餓死する子どもたちがいる。そこに食料を届けるプロジェクトがあるのですが、そういったところにドローンの可能性はある。あるいは日本でも遭難した時に一時的に食料や医療品を運んだり、AEDを運ぶという構想も出てきています。インフラのないところに大きな可能性があります。人が入れない福島原発の廃炉にも使える」

ほかにも工場や施設の警備、物流、災害調査、犯罪者の追尾など可能性を秘めている。

 

■産業化を見込んだシナリオを描く

新しい技術を事業化し定着させていくには何が必要なのか―一つのキーワードは産業化だ。

クルマが現代社会に不可欠のポジションを築き上げたのは、クルマという商品がつくれるようになっただけではない。道路、燃料を提供するガスステーションなどのインフラ。法の整備、保守点検制度、保険制度、まちづくりなどさまざまな分野が絡み、整備・発展したからこそである。

野波さんはドローンについても産業化を意識し、その布石を打っている。2012年に立ち上げた産学連携組織「ミニサーベイヤーコンソーシアム」がそれだ。

「話題性もあって、大手メーカーをはじめ商社、空撮事業者などさまざまな組織の方が参加しています。とくに多いのは投資ファンド。実際の投資の対象と見はじめたようです」

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野波さんの会社が開発した量産モデルの6ローターのドローン。30kgの荷物を運ぶことができる。

さらに2013年11月にはドローンベンチャー「株式会社自律制御システム研究所」を自ら設立、実機の普及を急ぐ。すでに4タイプのドローンを開発、販売している。販売も順調で14年は30機ほど売れており、農薬散布や橋梁点検、メガソーラーの検査保守などさまざまな用途で使われ出した。今年は生産会社に委託し、本格的に量産化を図る。

今年5月20日には、関連技術とサービスが一堂に会する、第一回『国際ドローン展』を幕張メッセで催す。「非常に人気が高く、ブースが足りなくなるほど」だという。

 

■誕生するか「ドローン特区」

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▲国際ドローン展HP▲
内外のメーカー、サービサーが一堂に会する「第一回国際ドローン展」。デモフライトも予定されている

こうした取り組みに国も反応しだした。1月13日、政府は国の成長戦略の一つであるロボット産業支援のなかに急遽ドローンを組み込むことを発表。航空法や電波法などの関連法の整備のほか、国内数カ所に「ドローン特区」を設けるなど、関係省庁の調整を急いでいる。

「間違いなく2015年はドローンの産業化元年となる」と野波さん。果たして後塵を拝している「日の丸ドローン」は、世界で存在感を示すことができるのか―。

野波さんは、まずこうした産業集積と連携が進むことで「現状中国産の半導体やセンサ、モーター、バッテリーなどが国産に置き換わり、さらにドローン向けに専用化することで格段に信頼性が上がる。また部品の安定供給にもつながる」という。

とくに急務と話すのが、ソフト開発の人材育成。「ドローンはものづくりですが、決め手はソフトウエア。優れたソフトを開発できる技術者がまだまだ足りない」。様々なアプリケーションサービスを実現するために、エンジニア以外の人たちの参画も求めている。

「コンソーシアムには、先行しながら時代と合わずに押しやられた技術やノウハウを持った人たちもいます。その人たちの新たなチャレンジの場としても、日の丸ドローン産業を育てていきたい」(野波さん) まずは5月20日。幕張メッセから―。

 

 

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2015年3月号の記事より
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