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ダイエー創業家中内豊氏に聞く

中国企業は恐るるに足らず? 日本企業に求められる戦略

◆取材:加藤俊
株式会社ダイテック 中内豊 (19)

ダイエー創業者中内㓛氏の甥にあたる中内豊氏は、日本企業の中国やミャンマーへの進出をサポートする、株式会社ダイテックの代表取締役である。これまで2回にわたってダイエーの歴史を紐解きながら経営者の心構えをお聞きしてきたが、いよいよ話題は日本と中国のビジネスを巡る関係へ。難しい時代を渡るヒントにして欲しい。連載最終回。

連載第一回:ダイエー創業家中内豊氏に聞く ‐ ダイエーの歴史に学ぶ経営術「経営者はバカになりきれ」

連載第二回:ダイエー創業家中内豊氏に聞く ‐ ダイエーの歴史に学ぶ経営術「経営者はバカになりきれ」2

日本と中国

株式会社ダイテック 中内豊 (4)株式会社ダイテック代表取締役 中内豊(なかうち・ゆたか)氏…慶應義塾大学商学部卒。総合商社勤務後、宿泊観光産業に従事。小泉政権でのダイエーグループの整理後、ダイテックを設立、代表取締役に就任。中国政府関係者との関係を深め対中国情報提供、中国進出ビジネスコンサルティング及び中国企業からのビジネスコンサルティングを行う。

筒井:ダイテックでは日本企業の中国やミャンマーへの進出を手助けしますけど、国際社会で日本のプレゼンスが下がっている中、日本企業としては、改めるべき点については、どう思われますか。

 

中内判断を早めることでしょう。象徴的な事例があります。ミャンマーに安倍総理が米倉会長をはじめ経団連の40人を連れていって、経済懇談をやったときのことです。ミャンマーの経済人に言わせると、その後日本の会社から返事がなかなか来ない。ミャンマーに行って色々話をしたけれども、結局日本に持ち帰って役員会にかけてと、日本の企業はこういう話になる。そうこうしているうちに、中国の企業にみんな取られてしまいました。

たとえばミャンマーのティラワ開発区は、2800ヘクタールあるうち日本の企業が開発するのは240ヘクタールしかない。あとは全て中国です。マスコミもティラワ開発区のことは盛んに書いていましたが、結局日本がやるのは十分の一程度です。しかも、その日本企業が取った240ヘクタールに関しても、ヤンゴン側を浚渫する必要があるのですが、その浚渫を行うのは全部中国の企業なのです。

 

中国の企業は、判断がものすごく早い。ですから、欧米の企業はチャイナライゼーションといって、中国化していく動きがある。中国人を雇って、ある程度任せて権限を持たせている。ところが、日本はまだ昔のまま。中国人を管理しようとする。日本の会社が中国に工場を出しても、そこの社長、総経理(ゾンジンリー)に据えるのは技術系の課長である場合が多い。ところが技術系の課長にマネジメントはできない。でも社長ですから、下からは判断や決済を求めてくる。求めてきても、日本の本社に聞きますということになる。ここでどんどん時間を食う。すると社員の中国人は、なんだ、こいつ決済権もないのか、社長じゃないなと下に見ますし、言いたいことを言い始めるようになる。

もうひとつ。日本では、たとえば社長とか立場が上の人がちょっと手が空いたときに、社員にコーヒーを淹れることがあるでしょう。肯定的に捉えられますよね。ところが中国でそんなことをすると、皆から下に見られます。こいつは社長と言っているけど、お茶汲みなのだと。文化の差ですね。

 

筒井:中国には指導者は重厚たれというスローガンがありますよね。

 

株式会社ダイテック 中内豊 (14)

中内:中国四千年と言うように、中国は国の歴史は長いですが、国家としては断片的でしかない。最初に秦の始皇帝が統一したときに、焚書坑儒といって、儒教の本とかを全部焼いたように、中国では次の政権ができると民族が違う前の政権の文化を焼き捨てていく。だから、日本のように連枝と続いているものがなく、文化が非常に短い。しかも四千年の中で千五百年ほどしか統一された時期がない。あとは戦乱期という国です。

何が言いたいかというと、中国の会社には漢(ハン)族もいれば回(ホイ)族もいる。中国には56の民族がありますから会社の中にも色んな民族がいます。これは協調などという悠長なスタンスではなく、上から押さえつけなければ、統治を維持できません。だから中国は、国家をみていても天安門事件やチベットなど、抑えつけていく。抑えつけることでしか纏まらないのです。

 

 

日本の戦略 

塩入:そういった相手を前にして、日本としてはどういう戦略を取ればよいのでしょうか。

 

中内両国の国民性の違いをきちんと認識すること。中国人の強かさを知ることです。ビジネスに於いて、中国人が日本人をどう扱おうとしているか知っていますか?日本人は管理が上手い、きちんとそこは評価しています。だから中国人の会社は、老板(ラオバン)といってオーナーは自分、総経理(ゾンジンリー)という管理は日本人を雇って社内を纏めさせようとする。中国人は日本人の良いところはどこか、ちゃんと考えて、それを活かそうとする強かさを持っている。とことん合理的な国民性です。

 

端的な例として、孔子とか論語、儒教などは現代の中国ではそれほど評価されていないことが挙げられます。韓国・朝鮮を通して入ってきた日本とは大違いです。日本では、260年間の江戸時代の間に刷り込まれ、それが「今」の日本人のベースになっている。

例えば、ご飯を食べるときにお茶碗は必ず持ちなさいとか、右手でお箸を持ちなさいとか、箸の先を濡らすのは一寸までとか、そういう作法。

これは中国にはない。中国人は置いたまま、肘をついて食べます。どっちが合理的かというと、中国人の食べ方の方が合理的です。合理性を突き詰めると、お碗をわざわざ持つ必要はない。正座もそう。殿様が、家来が急に立ち上がって襲って来ないように、江戸時代に正座という文化を作った。昔は胡座ですから。韓国も胡座です。こうやって江戸時代に為政者が儒教を使って抑えこみ、それが260年間の平和を作った。これが日本のベースです。

 

日本人の価値観は、誰でもできることを何度も何度も繰り返し訓練し、無駄を省いて文化にまで昇華する。そのプロセスに価値を見出す。だから、茶道や華道など「○○道」が生まれる。お辞儀の仕方もそう。

一方中国人は、誰にもできないことを一夜にして行うことに価値を見出します。一夜にして一兆円ぐらいのお金持ちになる、こういうことを成し遂げることが、中国では最高に尊敬されるのです。

 

株式会社ダイテック 中内豊 (6)

筒井:なるほど。お話をお聞きしていると、中国はさしたる脅威にならないような気がします。ひとつのことを集中して究めた職人のような人がいないと、本当の意味での強い企業にはなれないのではないでしょうか。

 

中内:その通りです。ですから、私は中国の企業をそんなに恐れることはない、何年も前から中国脅威論があるけど、そんなに気にすることはないと思っているのです。彼らは物真似はできます。でも、見た目だけ。先ほど申し上げたように繋いできた文化がないから、見た目が同じならそれで良い。

日本人は、たとえばこの(目の前にある)コップの鉛の含有率がどうとか、透き通り方がどうとか、そういうことに価値を見出すじゃないですか。だから、これが仮に1万円と言われても、ああ、この透き通り方で、この鉛の含有率だったら確かに1万円するかな、というふうに考える。ところが中国人は、見た目が同じで1000円ならそれでOK。だから、鉛を何十%入れるとかそういう技術は持っていないわけです。

 

筒井:でも、そうした日本人のこだわりは日本の“強み”として今後もあり続けるのでしょうか。中国やインドの大きな市場は、そこまで技術を突き詰めることを求めていません。そして、世界の市場の大勢もそう考えている。

携帯でアップルのiphoneが売れなくなり、中国製の安価なスマホが急速にシェアを拡大している様なんか、正にそうです。品質は悪くても安価なものが受け入れられる。これまで肯定的に捉えられた“こだわり”がもはや付加価値とならない。この傾向は、強みであったものが弱みになることでもあり、急激な市場の変化に、事実多くの企業が対応できていません。

 

中内:私はそうは思わないです。私が中国の経済発展に伴って中国企業が大きくなることをさほど恐れていないのは、今後、更に人件費が必ず上がっていきますが、そうなったときに、国際競争力を持った商品を作れる基礎技術がないことが必ず響くからです。中国の工業にとってここ1,2年で大事なのは、いかに付加価値を付けられるか。いよいよ技術力というフェーズに移ってきた。実際に中国企業もこの点を痛感しています。分かっているから、ハイアールがサンヨーを買収する動きにもなるワケです。ただ、これは国というレベルで見ると一朝一夕でどうにかできるものではない。

 

株式会社ダイテック 中内豊 (24)

塩入:例えば、日本で会社を作って中国に会社ごと高値で買ってもらった方が、戦略としてはよいのかも知れませんね。私は知財の仕事をしていた頃、別々の時期にエルピーダメモリ社とマイクロン社の両方に関わる機会がありました。その後、エルピーダメモリ社はマイクロン社に買収されましたが、経営破綻したエルピーダメモリ社の持つ技術や特許等のレベルが高度で、だからこそ、マイクロン社としては大金を出して会社ごと買う気になったのかもしれないと思うのです。

(※エルピーダメモリ株式会社は、NECと日立の関係部門が統合して生まれた半導体産業、日本で唯一のDRAM専業メーカー。複数の日本の電機メーカーが出資し、国家予算も投入されたが、2013年に米国のマイクロン・テクノロジー社に買収された)

 

 

「日本」とは

株式会社ダイテック 中内豊 (21)筒井:大田区のある町工場の社長さんが、中国からスカウトがあったと話してくれたことがあります。彼は行きませんでしたが、技術者に対する中国からのスカウトは増えているようです。

 

中内:中国企業が日本企業を誘って一緒に仕事をするやり方に「合作」というものがあります。以前は日本から独資でなかなか中国に進出できなかった事情もあるのですが、中国側は必ず合作を持ちかけてくる。彼らはお金も持っているし、日本よりも良い研究環境が得られる。しかし、これは出来上がったものを自分たちが取る算段です。

実は、日本から出た企業の98%は失敗している。みんなこの「合作」にまんまとやられているのです。私が知っている大手の企業も、何百億も投資して、全く持って回収できず帰れもしない。中国側は、日本に工場を置いて日本で研究しましょうとは言いません。必ず中国の研究所に引っ張る。向こうで日本の能力だけを使わせてもらおうということです。向こうで技術や商品を作ったら中国のものになってしまいます。

 

塩入:そのような状況になった場合、どうすればよいのでしょうか。経営に困っている中小経営者にしてみれば、高いお金で誘われたら、行ってしまうこともあるでしょうね。

 

中内:いや、行ってもいいと思いますよ。ブログ『日本を憂うる熱血社長ダイテック中内のブログhttp://daitec.doorblog.jp/)』にも書いたのですが、日本って何だろうと考えたときに、領土ではないと私は思ったのですよ。領土だと思うから、その領土を守ることに固執する。もうそんな時代ではないと思うのです。「日本人」というのはいます。でも、日本ってどこっていう話とは別。非常に極端な話ではありますが。

で、それでは何をすれば良いかというと、日本人は先ほども申し上げたように江戸時代やその以前から培われた特殊な文化を持っている、世界でも特殊な民族です。この民族が例えば中国に行って、例えば世界平和のためになるような技術開発をして、その技術は中国に取られたけれども日本人がいたからできた、日本のあの技術があって、日本人が真摯にその仕事に向き合って臨んだからこそできたと、そういう評価を世界からしてもらえればそれで良いのではないかと。

結果的に中国に手柄を取られても、でも「そこに日本人がいたらからできた」ということを世界に認知させられれば、世界から日本人って大事だなと思ってもらえる存在になれると思うのです。

 

だから町工場の技術に対してオファーが来ているのであれば、ましてや国内で仕事がないのであれば、それは行ってもいいのではないかと。ただし行ったら、日本人であることを忘れずに、道徳など精神的なことも含めて真摯に仕事に向き合う。そうやって尊敬してもらえるような日本人が世界中に広がればいいのかなあと、これは私が尊敬する横井小楠(倒幕・明治維新に尽力した「維新の十傑」の一人。肥後藩出身)の言葉でもあるのです。

それからまた、逆のことを言うようですが、日本ってとてもいい国なのですよ。社会構造として、こんなにビジネスをやりやすい国はないと思います。インフラにしても、電気がちゃんとついて、空気もきれいで、水道水が飲めて。国民性も良いし。ダイテックの仕事でミャンマーや中国に行くと、本当に日本はいい国だなと思います。

 

筒井:水が飲めるって奇跡的なことですよね。そんな国ないですよ。私たちは当たり前だと思っているけど、それこそ中国に行くと実感しますよね。しかし、この先日本の経済状態が悪くなって、日本人がどんどん海外に誘われて技術力が流出して、国益が失われていったときに、スペインなんかを見ても分かるように、その素晴らしさを維持できなくなってしまう可能性はありますよね。

 

 

日本経済の展望、中小企業に希望は?

株式会社ダイテック 中内豊 (5)

中内:そうなる可能性はあると思います。国の借金ですよね。私見ですが、アベノミクスが最後のチャンスだと思っています。アベノミクスがうまくいけばもう少し伸ばせると思いますが、うまくいかなかったら更に膨らんだ借金だけが残ります。金融庁は既に国債を海外に売りに行っていますから、海外が持つ比率は大きくなってくるでしょうし。今までも海外に売りにかけたことはある。ただ日本の機関投資家が持っているからなかなか下がらなくて、暴落しないので彼らは半分諦めていた。しかしこれからはそうではなくなると思います。

 

塩入:アベノミクスで大企業は潤っていたとしても、残念ながら中小企業には景気が上向いた実感はあまりないように思いますね。

 

筒井:日本の産業構造の問題は、中小企業が大企業になれないことだと思います。何かトリガーが必要で、仕組み自体を仕掛けるべきです。中小企業が集まって、自分たち中小企業をどうやって大きくするかを真剣に考えないと。ポンとアフリカに抜けてみるとか。地域の中で喧嘩していても儲からない。

 

中内:大企業は出ていますよ。ただ、宗教や文化があって、簡単には出ていけないから、総合商社というものがあって、パイプを作って橋渡しをしている。だから中小企業が出ていくのは、それは難しいですよ。それは国内でさえ難しいのですから。どこがどこの下請けでというヒエラルキーができあがっている。情報が漏れてしまう恐れもあり、できあがっているものがあるのに、わざわざそこ以外と新しく取引するのは手間がかかるし大変です。それはしょうがない。構造上そうなる。それだけ社会が成熟してしまっているのです。

 

ではどうすればいいのか。結局新しい産業を起こすしかないのです。大手の下請けをしていて、あきまへんと嘆いていてもだめですよ。たとえば携帯電話ができたときに大きく稼いだ企業があったように、新しい産業ができればそれに伴って仕事が生まれる。これが規制緩和です。ダイエーは高価だった牛肉の安売りを実現した。例えば、これからは電力産業のもつ可能性は大きいでしょう。東日本大震災以降、電力が当たり前ではなくなった。そこにチャンスがあると思います。

とにかく、経営者であれば、そうした勝機を見つけ、自分がそうだと思うのだったら、信念を持ってパッションを持って、嫌われてもいいからバカになれるかどうか。経営学なんてなくて、人間学ですから。そういう上っ面のモノでなくて、バカになりきれるかどうかだと思います。

 

筒井・塩入:ありがとうございました。

 

プリント

株式会社ダイテック 中内豊 (1)

中内豊(なかうち・ゆたか)…慶應義塾大学商学部卒。総合商社勤務後、宿泊観光産業に従事。小泉政権でのダイエーグループの整理後、ダイテックを設立、代表取締役に就任。中国政府関係者との関係を深め対中国情報提供、中国進出ビジネスコンサルティング及び中国企業からのビジネスコンサルティングを行う。

株式会社ダイテック(Daitec co.,Ltd.)

〒650-0027 神戸市中央区中町通3丁目1-16-502

Tel:078-361-7895

〒108-0074 東京都港区高輪2丁目19-17-509

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創光技術事務所インタビュアー

筒井潔(つつい・きよし)…経営&公共政策コンサルタント。慶應義塾大学理工学部電気工学科博士課程修了後、外資系テスターメーカー、ベンチャー企業、知財関連会社、財団法人等勤務を経て、合同会社創光技術事務所所長。

塩入千春(しおいり・ちはる)…合同会社創光技術事務所シニア・アナリスト。理学博士。京都大学理学部卒。総合研究大学院大学博士課程修了。理化学研究所研究員等を歴任。2013年9月より現職。

2015年1月号掲載予定
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