アクセンチュア元代表 海野恵一インタビュー 親分育成虎の巻「オレが華僑の智慧を伝授してやる!! 」
アクセンチュア元代表 海野恵一氏親分育成虎の巻・オレが華僑の智慧を伝授してやる!!
◆インタビュアー:筒井潔(創光技術事務所所長)・塩入千春(同社シニアアナリスト) /取材・文:加藤俊
海野恵一氏(スウィングバイ株式会社代表取締役)
日本に元気がない。領土や慰安婦問題を引き合いに出せば、「嘘も百回繰り返せば真実になる」というゲッペルスの〝名言〟を地で行く近隣国を前にして、なすすべもなくやられている。ビジネスの世界でもプレゼンスを発揮できないでいる。一方、中国はこの数年で、経済力が格段に伸びて来て、新たな消費者である中間層を億単位で生み出している。日本の言語と文化を海外に持ち込んでビジネスができた時代はとうに過ぎ去り、環境はまるで変わってしまった。
数年前、彼等と真摯に向き合えば、わかってくれるハズと希望的観測を掲げ、意気揚々と進出していった日本企業の多くも、今では、撤退を考えていると口々に言う。かの地では、「阿吽の呼吸」に基づく、日本の商習慣が通用しなかった。それどころか、誠実に対峙しても、それを嘲笑うような狡猾さで裏切られる始末。こんな被害者談がちらほらと聞こえるようになり、それが混迷する政治情勢とも相俟って、「中国とはもう付き合いたくない」というある種の過剰なヒステリーが国内に蔓延しはじめた。
「それでも、中国でのビジネスを展開していくべきだ」。そう語る男がいる。
スウィングバイ株式会社代表取締役、海野恵一氏。世界最大のコンサルティングファームアクセンチュアの元代表取締役である。同氏曰く、「今後10年間、日本が進むべき大市場は、中国にしかない」。30年以上にわたりコンサルティング業界の頂点に立ち、世界を股にかけてきた同氏に、歯に衣着せぬ物言いで、諸問題を語っていただいた。
これを読めば、今日からあなたも親分に!
1.深刻なリーダー不在
筒井:最近では、日本が元気だった時代、高度経済成長とは、国内市場の成長とともにみんなが豊かになり、日本の本来的な国力に戻るための過程であって、意図された成長ではなかったというのが通説となっています。ですから、「失われた数十年」などとよく言われますが、これは単に内需が飽和して、日本が無意識的に成長できた時代が終わったにすぎない。特別に意識しなくても成長できる時代が終わり、成長するには何かしら考えなくてはいけない時代になっただけだと。
ところが、高度経済成長の時代には、大きな成長を遂げた大企業も、成長のノウハウの蓄積はない。持ちあわせてもいないわけです。さらに言えば、成長に向かう意識を持ったリーダーが必要だったのに、どこにもいなくなってしまった。
結局、日本経済低迷は、こうしたリーダー不在に要因があると思うのですが、海野さんはこの点をどう見ますか。
海野:同感だね。日本人には、自分が親分になるという気概、精神性を持つ人が少ない。華僑や華人は、まずリーダーを決める。そして、リーダーはリーダーであるという自己主張をする。
こういった連中を相手に、堂々と対面を張って、うるせえこのやろう、と気後れせずにツッパれる日本人がいないんだよ。そういった連中を育てないと、この国はダメになる。オレが親分だ、と言える人材を育てないと。そういった人間がいないから、他国からバカにされるんだ。華僑の経営者が、日本人を信頼したり、尊敬したりすることは殆どない。なぜか。日本人の仁義が、中国人には見えないからだ。
仁義の「義」ってあるだろ。あの漢字の語源を知っているか? 「羊」と「我」。諸説あるけど、中国だと「我羊なり」と読むわけだよ。羊の群れは、最後に老いた羊が殿を務める。そうやって、こいつらは敵に襲われるとき、最初に食われる責任をとるんだよ。それが、我羊なりという「義」なんだ。きちんとケツを持てる親分、これが今の日本にはいない。こういったグローバルに活躍できる人材がいないことが一番の問題だ。
2.孫子の「正法と奇法」を会得せよ
塩入:海野さんの仰るグローバル人材とは、異国の人から信頼や尊敬を得ることができる人ということですよね。日本人同士であれば、互いに誠実に向き合えば、信頼関係を築くのは容易いことですが、外国人との間に、信頼関係を築くのは非常にハードルが高くなります。具体的にどうすればよいのでしょうか。
海野:政治でも、ビジネスでも、「人の心」を掌握できないと、外国人を友人にすることはできない。ビジネスや交渉ごとに於いて、誠実に接していれば、相手も分かってくれるなんていうのは、日本人の幻想なんだよ。真面目で誠実であり、そのうえ勤勉で嘘をつかないことが美徳とされる日本文化だけど、海外はそれだけではない。なかには、こうした美徳を、美徳と捉えない国だってある。じゃあ、そんな奴等は相手にしないで、日本に閉じこもっていればいいのか? そんなワケないんだよ。グローバルにビジネスが動く現代では、嫌でもそういった連中を相手にしないといけない。美徳なんて、これっぽっちも屁とも思っていない連中相手に、どう立ち回るか、どう組むか。それを考える必要がある。
よく、「中国人とはビジネスをしたくない。彼等は嘘をつくから」なんて間抜けなことを言う連中がいるだろ。「嘘をつく」って、そんなの俺に言わせりゃ、当たり前だよ(笑い)
華僑や華人には、孫子の説く「正と奇」という概念がある。「奇」とは策略のこと。根回し、裏切り、抱き込み、騙し討ち、ありとあらゆる手を使ってでも勝とうとする智慧のこと。連中は、この正と奇を場面によって、実にうまく使い分けてくる。使い分けて、相手に勝つことが連中の世界では誉められることなんだから、日本人とは考え方が根本的に違う。そんな奇正虚実を交互に使い分ける相手に対して、「誠実」「正直」が身上でございますと真っ正面から勝負を挑んでも、勝てないのは当たり前、それどころかいいカモにされるだけだ。
この「正と奇」を身に付け、百戦錬磨の相手としっかり渡り合える人材をしっかり育成しないと日本はいつまで経っても戦えない。
筒井:具体的に世界で勝つにはどういう心構えを持てばよいのでしょうか。
海野:孫子に倣えば、ただ「勝つ」ことを考えているようではダメだ。そもそも、相手を殺すということは、勿体ないという考え方がある。殺さないで全員生け捕りにして味方に入れるのが一番良い方法と、孫子は2500年も前に言っている。中国や東南アジアの連中はこういった考え方がDNAレベルで染みついている。というよりも、彼らのスタイルの方が世界的にはスタンダードなのだということを認識しておいたほうがいい。欧米だって同じだ。
要するに、パワーバランスでどっちが勝つかという単純なルールで捉えていないんだ。どうやって相手を抱きいれるか。それは、モノを売るのもなんでも一緒。アクセンチュア時代、競合企業とはみんな知り合いだった。自分が獲りにいくんじゃない。お互い住み分けるんだよ。そういった自分にとって都合のよい環境を如何にして作るか、そこに腐心しないと。
3.グローバル人材に求められること
塩入:そこまで考えて動いている日本企業はなかなかないですよね。日本企業の考え方は、やはりプロダクトアウトで、いいモノを作っても、作ってそれで終わりにしてしまうところがあって、尚且つ、それを仕方がないと甘受する風潮さえ感じます。日本製品が海外で売れなくなった背景には何があるのでしょうか。
海野:中国をはじめ新興国は、新たな消費者である中間層を億単位で生み出している。こうした新興の消費者は従来の欧米型の消費行動とは異なり、必ずしもベストな品質と高い価格に反応しなくなっている。いいモノを作れる技術力だけあれば良いのではなくて、一筋縄では行かない中国やアジアの市場に売り込んでいくマーケティング力が必須だ。
塩入:デザインやセンスの領域で劣っているところもありますよね。
海野:それも、マーケティング力だな。モノを買うということには複雑な心理が絡んでいる。単にモノを気に入って買うだけではない。例えば、「海野さんにはこれまでお世話になっているから、今回は買わなければならないな」とか、何かしらの圧力がかかって、消費者が購入することもある。こうしたありとあらゆる手を使ってでも買わせるという術に長けないと。
塩入:凄いですね。そのような世界で、日本の町工場や中小企業の経営者ないし、グローバル人材には何が求められるのでしょうか。
海野:日本人の意識決定のプロセスは、集団(組織)になると途端に付和雷同になる。ある種の思考停止に陥るワケよ。今の東南アジア進出なんかいい例だよ。近頃はインドネシアやミャンマーのセミナーが大盛況だろ。猫も杓子もインドネシア。いったいどれだけの連中が、明確に理由を語れる?
高度経済成長のときだってそう、あの当時はみんなが20%成長を明言していた。今は、みんなで3%~5%成長を謳っている。いつの時代も、ろくすっぽ考えていないんだよ。どいつもこいつも周りと歩調を合わせるだけ。なぜ、「私の事業部は来年一年で倍にします」と言うヤツはいないんだ。俺がやってやる、という気概のあるヤツは出て来ないんだ。こうした思考停止を直さないと。いいか。そのためには、自分で情報収集して考える癖をつけるんだ。
人間の一番の資産は、金でも地位でもない。知識と思考と人脈だよ。グローバルマインドを持つんだ。これからは背筋をピンと伸ばして、俺は親分だって気概と気迫を持てと言いたい。
そのためにも、信頼され尊敬される人物とは何なのかを改めて自分で考えてみることだ。そして、自分は他人から信頼され尊敬される人間か、胸に手を当ててみろ。信頼や尊敬されないと親分にはなれない。そうでない奴が親分みたいな顔をしているから、国は衰退していくんだ。
今のままでは、日本人を信頼する外国人の仲間はできない。日本の人口1億3000万人のうち、100万人がそこに気づいたら、国は良くなる。残りの人生、俺はそういったグローバルネゴシエータを育成したいんだ。親分育成だよ。だから海野塾って名にしているんだ。そういう気概のある奴は、俺のところへ来ればいい。
筒井・塩入:日本に於いて、リーダー育成は喫緊の課題であり、ビジネスの再構築が必要な時期に来ていることも分かりました。海野塾が、これからどういった人材を輩出していくのか、非常に期待しております。本日はどうもありがとうございました。
凡そ、戦いは正を以て合い、奇を以て勝つ。
故に、善く奇を出す者は、窮り無きこと天地の如く、竭きざること江河の如し。‐孫子 勢篇‐『戦いは、正法によって相手と対峙し、奇法を用いて勝利を収めるものである。だから、奇法に通じた者の打つ手は天地のように無限であり、揚子江や黄河のように(大河や海のように)尽きることがない』
【別掲】 日々の勉強を、長時間・長期間にわたって継続せよ
塩入:お話を伺っていると、海野さんのバイタリティやエネルギーに圧倒されます。中小企業や町工場の経営者が、まず彼ら自身の成長を図るための参考として、ご自身では現在の海野惠一氏がおありなのはどのような理由からだとお考えなのか聞かせてください。
海野:俺が生まれたのは、1948年。ベビーブーマー世代の人間だよ。同世代がたくさんいる。彼らすべてが競争相手、ライバルだった。そういった競争を経て現在の自分があるのは、背中に火が着いたように長時間、長期間にわたって、仕事や勉強を続けてきたからに他ならない。どんなに忙しい日や大酒を飲んだって、家に帰ってから数時間の勉強を欠かしたことはない。それを何十年も無我夢中で続けてきて、ふと周りを見渡してみると、加齢による衰えという単純な意味だけではなく、“みなさん”定年を過ぎてヨタヨタしていた。俺がこの年齢になっても現在のような立場でいられるのは、現在も日々続けている勉強や仕事の賜物だと思うよ。毎日毎日、できるだけ長時間、コツコツと続けている。ずっとそうしてきたし、この毎日が結果であり、また過程でもあるんだな。
海野惠一(うんの・けいいち)氏…1948年生まれ。スウィングバイ株式会社代表取締役社長。東京大学経済学部卒業後、アメリカの監査法人アーサー・アンダーセンに入社。アーサーアンダーセンがアクセンチュアに商号変更後、アクセンチュア代表取締役。アクセンチュア退社後に、スウィングバイ株式会社を設立、代表取締役社長に就任。新速佰管理咨詢(上海)有限公司董事長、大連高新技術産業園区招商局高級招商顧問、大連市対外科学技術交流中心名誉顧問、無錫軟件外包発展顧問、対日軟件出口企業連合会顧問、環境を考える経済人の会21事務局員を務める。現在、経営者育成を目的とした「海野塾」や、各種講演・セミナーなども含め、自己の向上や国内外の企業・社会のために精力的に飛びまわっている。
写真中●筒井 潔(つつい・きよし)氏…経営&公共政策コンサルタント。1966年神奈川県生まれ。慶應義塾大学理工学部電気工学科博士課程修了後、外資系テスターメーカー、ベンチャー企業、財団法人等勤務を経て、合同会社創光技術事務所所長。
写真右●塩入 千春(しおいり・ちはる)氏…合同会社創光技術事務所シニア・アナリスト・理学博士。京都大学理学部卒。総合研究大学院大学博士課程修了。理化学研究所研究員等を歴任。2013年9月より現職。
●スウィングバイ株式会社
〒108-0023東京都港区芝浦4丁目4-34 コトヒラビルディング7階B
℡03-5419-1314
http://www.swingby.jp
◆2014年7月号の記事より◆
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