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身近な再生可能エネルギー小水力発電を活用せよ!

◆取材・文:佐藤 さとる

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DSC_0556原発事故後、再生可能エネルギーへの関心が高まっている。再生可能エネルギーというと太陽光発電や風力発電の印象が強いが、他にもさまざまなエネルギー源がある。

水力もその1つだ。巨大ダムのイメージがあり、時代遅れの感があるが、発電技術の向上によってちょっとした小川や用水路でも発電が可能となっている。小規模な水力発電のポテンシャルはまだまだ高い。原発数十基分の潜在発電量が眠っているとも言われる。

2012年に始まった「再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度」。1kWあたり42円という単価に「やはり再生可能エネルギーは高い」との印象を受けた人も多いかもしれないが、あれはあくまで太陽光発電における買い取り価格。ほかは10円台、20円台からある。すでに太陽光も技術進化で2014年度からは32円まで下がっている。そもそも再生可能エネルギーの実力は巷間言われているほどヤワではない。

 

抜群のポテンシャル「小水力発電」

実は再生可能エネルギーのなかでも最もポテンシャルの高い電源が小水力である。

もともと水力発電は豊かな水系と急峻な地形を利用した日本の代表的な再生可能エネルギーである。ただ八ツ場ダムの事例をみるまでもなく、その導入には大きなコストと時間がかかった。そこで注目されてきたのが小規模な水力発電である。

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地域に密着したエネルギー・システムの構築を説く、千葉大学の倉阪秀史教授。再生可能エネルギーと食料自給率が100%以上の自治体を「永続地帯」と命名し、毎年調査公表している。エネルギーについて情報発信相談機能を持つ「地域エネルギーセンター」を各都道府県に置くことも提案している。

小水力発電とはダムを使わない流れ込み式の15m以上の堤がない1万kW以下の発電施設を指す。小水力発電に詳しい千葉大学倉阪秀史教授によれば、小水力発電が作る電力は再生可能エネルギーのうち半部弱、48・5%を占めている(2012年/倉阪研究室・NPO法人環境政策研究所)。

 

その魅力は安定した稼働率にある。倉阪教授によれば「一定の流量が365日確保できれば、かなりの稼働率が保てる。平均で80%以上」という。

なかには90%以上を達成している発電所もある。

 

 

出力5分の1以下で、メガソーラーと同等の発電量

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山梨県北杜市にある村山六ヶ所村堰水力発電所。1000年以上管理されてきた農業用水を利用している。85mの段差を安定して水が流れている。


山梨県北杜市にある「村山六ヶ所村堰水力発電所」の年間稼働率は実に96%(2011年)を誇る。

「定期点検以外は常に稼働していた計算になります。出力は320kWですが稼働率が高いため、その発電量は1000kW以上のメガソーラーに匹敵する」(倉阪教授)というから驚きだ。しかも「(電力会社の)系統電力との連携もいいので、電力会社にとっても使い勝手のいい電力」なのだ。

事業リスクも少ない。「小水力発電は流量調査を十分に行っておけば、発電量がわかるので、稼働したらだめだったというリスクがまずない」

 

 

水利権とゴミの目詰まりがネック

いいことづくめの小水力発電のようだが、課題はある。

一つは水利権。農業用水などを利用する場合は地元の農家や農業団体などが持つ水利権がどうしても絡んでくるが、「規制緩和で可能になるはず」(倉阪教授)。

もう一つは、ゴミ。解放系の発電施設の場合どうしても入ってしまう。

「センサー付きゴミ巻き上げ機などもあり、また最近では螺旋型にしてゴミを逃がすタイプなども生まれています」

台風や風水害の心配も残る。

「台風など異常出水の場合は、事前に発電機を上げて外す場合もあります。そういったルールもしっかりつくって管理すれば大丈夫」

 

 

上下水道に小水力発電をかませ、新たな都市インフラに

実は小水力発電は大都市にも十分適地はある。倉阪教授が挙げるのが、上水道や下水道だ。

千葉市美浜区にある千葉県水道局の幕張給水場では、減圧器を利用して350kWの水力発電を行っている。年間の総発電量は約1820MWにものぼる。

この発電施設を動かす東京発電株式会社は、他に横浜市や川崎市、さいたま市など上下水道でも発電事業を行っている。

「小水力発電に適した、水量が一定でメンテナンスしやすいところは都会にはまだまだあります。しかも農業用水のように利権の調整も要らない」

水道に小水力発電を組み込ませれば新たな都市インフラになる。

 

 

地方では「コミュニティ電源」として活用

経済産業省がまとめた未開発水力調査によれば、全国には1212万kWの水力発電能力が残っているとされるが、これには農業用水など河川からの取水などは入っておらず、「流れの速さがない場所でも、水を集めて発電できる技術も出てきた」(倉阪教授)ので、その開発余地はさらにある。
倉阪教授は有望な水源として、全国で動いていた水車に目をつけている。

「かつて農事用水車は全国に約7万8000カ所ありましたが、こういったところが適地となってくるでしょう。ただ事業として利潤を求めるならある程度の規模は必要。一方小さくて利幅が小さい所は、コミュニティ電源として活用するのがいい。大きな利益が出なくても、その地域に安心して住み続けるためにも、そういった投資をすることは意味があると思います」

 

 

地域金融、自治体が主体となって新たなスキームを

「問題は、現在の電気事業法ではこれを認めていないこと。水利権を含めてこうした法的ハードルを規制緩和で変えていく必要があります。同時に地域密着型のプロジェクトスキームをつくることも重要

たとえば地元の金融機関が中心となってプロジェクトファイナンスをつくり、そこに都会の企業やNPOなどがノウハウを提供、サービスは地元の企業と自治体が組んでワンストップで提供する仕組みだ。

 

「ドイツではこうした施設を導入する場合、個人が集まっても融資してくれる。日本ではまず担保が求められます。そういうプロジェクトベースの融資が可能になると事業が生まれていく。たとえ低い利益でも、地域の未来にもつながる実感が持て、雇用も生まれ、事業も継続していくと思います」

未来はちょっとした勇気とお金で拓いていくことができる。

 

05_New_frontier02アクアバレーを目指す山梨県都留市では、市の予算のほか市民公債「つるのおんがえし債」を発行し、小水力発電所、「家中川市民発電所」を建設。発電施設には、「元気くん1号」「2号」「3号」の名がついた。写真上:昔ながらの癒し系。木造水車の元気くん1号。写真下:上掛け式の元気くん2号。
05_New_frontier03らせん式の元気くん3号。
05_New_frontier031kw以下の発電は、マイクロより小さい「ピコ発電」と言われるが、岐阜県の角野製作所は、わずか5kwながらLED照明を使って、路肩やあぜ道を照らすピコ水力発電キット「ピコピカ」を開発販売している。

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2014年5月号の記事より

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