本記事は、HIS創業者の澤田秀雄が設立した『澤田経営道場』の座学研修の1つである新規事業の立ち上げ方講座を再編したものです。澤田経営道場では、世界で活躍する次世代リーダーを育成するためのプログラムを展開しています。このシリーズでは半年間に渡って行われる澤田経営道場の座学の講義内容を一部切り出してご紹介していきます。シリーズ第五弾の今回のテーマは「創業期の資金調達」、講師はベンチャー企業10社の財務顧問を行う資金調達のプロフェッショナル、株式会社One Purpose代表取締役の明石知樹氏です。

明石知樹

2007年より、りそな銀行にて数百社の資金調達・運用を中心とした財務コンサルに携わる。2015年に株式会社Co-creating partnerを設立。2020年に事業承継し、株式会社One Purposeを設立。財務コンサルタントとして、11社の財務顧問を兼任している。資金調達サポートの実績は、7年で累計35億超。2019年からは卓球のプロチームである琉球アスティーダスポーツクラブ株式会社に上場準備のための社外取締役として参画。2021年3月にスポーツクラブとして日本初の上場を達成。パッションリーダーズ最年少公認講師、外食虎塾講師

「自社の資産・負債状況損益状況」を説明できますか

起業家を対象としたある調査の話です。「開業時に注意しておけば良かったと感じることは何ですか?」という質問に対して最も多かった答えは、「自己資金が不足していた」でした。つまり、資金計画が成り立っていなかったことが一番の後悔ポイントということです。「創業後、1年以内に倒産する企業が6割」と言われていますが、僕はその原因の大半は、創業時の資金計画が甘かったことにあると思っています。自分の会社が自己資金で何ヶ月耐えられるのかを把握していないので、気づいたときにはもち返せない状態まで悪化してしまっている。逆に言えば、3ヶ月は自己資金で継続できると分かっていれば、その期間内に黒字化させるための何らかの手を打つことは可能です。その手の一つが今回の講義のテーマである「資金調達」です。これから創業期に使える資金調達の制度や、融資審査のポイントをお伝えしていきますが、これらの情報やノウハウはあくまでも自社の状態を適切に理解したうえで活用すべきものであるということは忘れないでください。経営者として、自社の資産・負債状況(B /S)と自社の損益状況(P /L)について、語れるようにしておくことは最低限のルールです。これができないというのは自分の健康状況が分かってないということですから、将来大きな怪我や病気をする恐れがあります。澤田経営道場でもB /SとP /Lの講義があると思いますから、しっかり復習して必ず向き合ってくださいね。では、自社の状況をきちんと理解しているという前提のもと、今回の講義を始めたいと思います。

「融資とは何か?」2種類の借金について

資金調達には様々な種類があります。例えば、融資、出資、補助金、助成金、クラウドファンディング、リース、割賦、クレジットカードなどです。本講義では、「融資」に焦点を当ててお話ししていきましょう。まずは定義から。融資とは金融機関からの借り入れ、いわゆる「借金」のことです。この借金は、「消費性ローン」と「事業性ローン」の2種類に分かれます。消費性ローンとは、何かを購入するためにお金を借りること。一方、事業性ローンとは、事業を拡大・維持するためにお金を借りることです。事業性ローンの場合、事業から発生した利益で返済するのが原則となるため、利益を生み出さない事業に対してはお金を借りることができません。ですから、一般的には事業性ローンには比較的厳しい審査基準が設けられています。

創業時に利用すべき資金調達の3制度

将来起業しようと思う皆様が知っておくべき、代表的な創業融資制度は3つあります。要は、3回チャンスがあるということなのでぜひ利用を検討してみてください。

(各融資の詳細はそれぞれのホームページをご確認ください)

A)日本政策金融公庫

1つ目は、日本政策金融公庫の融資です。日本政策金融公庫は、国が出資する政府系金融機関であり、融資の審査ハードルがこれから紹介する中で1番低いと言われています。対象となるのは、新たに事業を始める方、または事業開始後税務申告を2期終えていない方です。融資限度額は3,000万(うち運転資金1,500万)とされていますが、実際は1,000万円以下になることが多いようです。1,000万円以上の融資となると審査ハードルが一気に上がるので注意が必要です。返済期間は運転資金の場合だと7年以内、設備資金ならば20年以内となっていますが、実際は運転資金で5年の取り扱いが多い傾向です。起業家にとって一番嬉しいポイントは、「無担保無保証」であるということだと思います。普通は、起業すると会社の代表者は連帯保証人になって、個人の資産を投げ打ってでも借金返済をすることが求められますが、「無担保無保証」の場合、個人にお咎めがありません。担保もいらず、代表者個人の連帯保証も必要ないということで、起業のハードルがだいぶ低くなっています。基準金利は2%台で、優遇利率で1%台となることもありえます。申し込み方法は窓口もしくは紹介。審査スピードも、1ヶ月から1ヶ月半くらいと、本講義で紹介するなかで最も早いのが特徴です。「では、いくら借りられるの?」と気になるところだと思いますが、僕は「資金計画の1/3程度を申し込み金額の目安」と考えることをお勧めします。つまり、900万円の資金計画の場合、自己資金が300万円あれば、600万円ほどですね。事業や代表者の経歴などにもよりますが、だいたい「自己資金の2倍」くらい借りられるケースが多いというのは知っておくと良いかと思います。

B)信用保証協会付き融資

次にご紹介するのが信用保証協会付き融資です。これは、民間の金融機関の貸付に「信用保証協会」が保証をつけることで借入しやすくする制度です。信用保証協会というのは、信用保証協会法に基づき、中小企業や小規模事業者の円滑な資金調達を支援することを目的に設立された公的機関のことで、起業家の皆様と一緒に保証人になり、もし皆様が借金を返せなくなっても肩代わりして返済してくれます。対象となるのは創業してから5年未満の法人や個人、組合です。融資限度額は2500万円となっていますが、実際は1,000万程度と考えておきましょう。返済期間は、運転資金の場合7年以内、設備資金は10年以内とされていますが、実際は運転資金5年の取り扱いが多い傾向です。原則として、法人代表者以外の連帯保証人は必要ない、つまり「代表者保証」となっています。固定金利は1.9%〜2.5%台と、機関によって異なるためきちんと確認しておきましょう。行政のなかには支払利息や保証料を一部負担してくれるところもあるようです。信用保証協会付き融資の特徴として、保証協会の審査と銀行の審査という2つの審査があるため比較的時間がかかります。また、信用保証協会から保証をもらうためには、信用保証協会に借入金の返済ができる事業者であると認めてもらう必要があるため、第三者が納得できるような事業計画を立案・作成することが不可欠であるということも重要なポイントです。

B-2)制度融資

信用保証協会付き融資のある種番外編のようなものが、制度融資です。これは、中小企業が融資を受けやすくするために、行政、保証期間、金融機関が協力してできた融資制度です。条件は、保証協会の操業融資とほぼ同じですね。メリットは、行政が支払利息や保証料を一部負担してくれるところもあり利率が安いこと。デメリットは、保証協会の審査と銀行の審査に加えて行政の担当者と面談が3回ほどあるため、より時間がかかることです。

C)東京都操業サポート事業融資

最後にご紹介するのが、東京都操業サポート事業融資です。これは、東京都内での女性・若者・シニアによる創業を支援する制度です。対象者は、女性、若者(39歳以下)、シニア(55歳以上)で、都内における事業の計画がある、または創業後5年未満の方(NPO等も含む)となっています。残念なことに、40歳から54歳までの男性は利用することができませんのでご注意ください。融資限度額は、1500万円以内(運転資金のみは750万円以内)となっており、返済期間は10年以内とけっこう長く設定されています。こちらも信用保証協会付き融資と同じく、代表者保証です。固定金利が1%以内と非常に安いうえ、融資後に無料経営サポートのおまけ付きです。

ちなみに私が起業した時は、保証協会から400万円、日本政策金融公庫から800万円、東京都操業サポート事業融資から600万円をお借りしました。ほとんどの起業家にとって起業は初めての経験であり、創業融資の審査を受けるのも初めてという人が大半なはずです。不安な点も多いかもしれませんが、事業を成り立たせるうえで資金調達は必須ですから、ぜひここで紹介した3つの融資を検討してみてください。

金融機関がチェックする内容を知ろう

融資も出資もそうですが、相手側の心情を知っておくのが一番役に立ちます。相手側とは、お金を貸してくれる人であり、金融機関です。では、ここで一つワークを行いましょう。「あなたは1千万円自由に使えるお金を持っているとします。知らない人に自分のお金を貸すときに、事前にどんなことを確認したいかですか?」お金を貸すことを前提に考えてみてください。

いかがでしょう?講義では、以下のような意見が挙がりました。「何に使いたいのか」「いつ返せるのか」「どうやって返済してくれるのか」「収入はどれくらいあるのか」「資産はあるのか」「他に負債はあるのか」「担保や保証人となるものはあるのか」「そもそもこの人は信用できる人なのか」。

これらは以下の2つのグループに大別できます。

<人に関すること>
本人情報、性格、資産、負債、返済能力、周辺情報、なぜ私に話を持ってきたのか
<案件に関すること>
事業内容、ビジネスモデル、事業計画、損益計算、資金使途、金額の妥当性、返済期間、金利(配当、担保、保証、お金の流れ(会社にどういう流れでお金の出入りがあるのか)、実績

確かにどれも事前に知っておきたい事柄ですよね。金融機関も同じように考えていますから、これらを誠実に分かりやすく伝えるのが重要となります。その中でも特に重要なのが、【経歴・自己資金・事業計画】です。

経歴とは、過去にどこの会社の、何のポジションで、どんな仕事をしていたかという実績です。例えば、「営業でこういう成績を出しました」と、数字で具体的に語るのがベストです。自己資金では、「どうやっていくら貯めてきたのか」を正直に伝えましょう。過去半年間に変な動きがないかを確認されることが多いようです。最後に事業計画では、借りたお金を何に使うのかを数字で示しましょう。理想を言えば、融資の相談に行く際には、「あとはもうお金があればスタートできます!」と言えるまで、契約条件を固めておきたいものです。

起業時の創業融資審査の7つのポイント

では、最後に起業時の創業融資審査で役立つ7つのポイントをお伝えします。ぜひ参考にしてみてください。

  1. 借入はお金に困る3ヶ月前から動き出すこと
    (制度の仕組み上、お金が欲しいと思ってもすぐに借りることはできません。資金繰りのためには、3ヶ月先を見ることが必要となります。ですから、自分の会社の毎月のお金の出入りを把握しておくことが非常に重要となります)
  2. 税金、クレジットカードの延滞がないか確認すること
    (公庫は税金で賄われています。信用情報が汚れていると借入はできません)
  3. 自己資金を貯めている努力が大事
  4. 事業に関する経験を詳細に話す
  5. 事業内容・自社の強みを担当者にわかるように話す
    (金融機関の担当者は皆さんの事業のプロではありません。専門用語は避け、小学生や中学生にも伝わる言葉を使いましょう)
  6. 事業計画は固めの予想で作る。そしてその根拠を担当者に理解してもらう
  7. 未来の良い情報はどんどん担当者に伝える

どうすれば資金調達を成功させられますか?

「どうすれば資金調達を成功させられますか?」というご相談をよく受けます。その時に私がお伝えするのは、「資金調達力とは、信用力である」ということです。信用力があればあるほど資金が集まってきます。いかに信用力を上げることができるかが成功の鍵です。人は信用できるストーリーに惹かれるため、「この人は応援したい」と思わせられれば勝ちです。自分には何の実績もないと悩む人もいらっしゃるかもしれませんが、実績がなくても信用をつける方法は沢山あります。例えば、ピッチコンテスト※1に出場して受賞を目指すというのも良いでしょう。

※1ピッチコンテスト:起業家や事業立案者を対象に、アクセラレーターや投資家などの審査員に対して自らの事業計画をプレゼンテーションするイベント。審査員からのメンタリングを受けることが出来る、優秀者に対して賞金が進呈される、出資検討をしてもらえるなど様々な形式がある

また、澤田経営道場で学んだ経験も活用可能です。「起業家になるために、2年かけて座学と実践の両面から徹底的に鍛えました」と言うことは、本気度をアピールする良いチャンスになるかもしれません。ぜひ澤田経営道場を最大限に活用して、夢への切符を掴み取っていただければと思います。

引き続き今後の講義では、デット(銀行借入・社債発行などによる他人資本)、エクイティ(新株・新株予約権付社債の発行などによる株主資本)の両面からの資金調達の手法や、クラウドファンディングによる資金調達など、様々な方面から資金調達について皆様と学びを深めていければと思いますので、よろしくお願いします。本日はありがとうございました!

※今回の創業期の資金調達講座や、澤田経営道場について詳細を知りたいという方は以下のサイトからご覧いただけます。

澤田経営道場公式サイト
https://sawadadojo.com/