新規事業立案に役立つ3つのフレームワークを「メルカリ」事例で解説 HIS創業者澤田学長の「澤田経営道場」③
本記事は、HIS創業者の澤田秀雄が設立した『澤田経営道場』の座学研修の1つである新規事業の立ち上げ方講座を再編したものです。澤田経営道場では、世界で活躍する次世代リーダーを育成するためのプログラムを展開しています。このシリーズでは半年間に渡って行われる澤田経営道場の座学の講義内容を一部切り出してご紹介していきます。
シリーズ第三弾の今回のテーマは「事業戦略や企業分析に役立つビジネスフレームワーク」、講師は新規事業開発のプロフェッショナル、カッティング・エッジ株式会社代表取締役の木下雄介氏です。
木下 雄介
1986年、日本アイ・ビー・エム(株)に入社。社内公募によりジョイントベンチャーを立ち上げ、IBMロゴの製品化を実現。1997年、当時、SFAのパイオニア企業であった米国シーベルシステムズ社の日本上陸に伴い、創業メンバーとして参加。西日本地区の責任者としてビジネスを立ち上げる。
その後複数のベンチャー企業立ち上げを経て、2008年、タレントマネジメントのグローバルリーディングカンパニーであった米国サクセスファクターズ社(現SAP社)にスカウトされ、日本法人を設立し、代表取締役社長に就任。ゼロからビジネスを立ち上げ、日本におけるタレントマネジメントシステムの市場を切り拓く。その後、日本オラクル(株)、サービスナウジャパン(合)の事業責任者を経て、独立。
現在は、自身の会社であるカッティング・エッジ(株)を設立し、中堅・ベンチャー企業に対するコンサルティングを行う傍ら、ビジネススクールにて「新規事業開発」講座等を担当し、後進の育成に努めている。著者に『超図解!新規事業立ち上げ入門』(幻冬舎メディアコンサルティング゙)などがある。
新規事業を立ち上げる前にマスターしておきたいフレームワーク
「新規事業の立ち上げ方講座」を受講する皆さんのなかには、将来立ち上げたい新規事業についてすでに様々なアイデアをお持ちの方もいらっしゃれば、具体的なビジョンはまだ無いという方もいらっしゃるかもしれません。いずれにしろ複数の事業案から最適な新規事業を見極めたり、方向性が無数にある状態でビジネスを0から発想したりするのは非常に困難を極めます。
そんなときに役立つのが、ビジネスフレームワークです。フレームワークには戦略をたてたり分析を行ったりするものなど様々なパターンがありますが、今回は特に「現状把握」に焦点を当ててご紹介していきます。上手く活用できれば状況判断や意思決定のスピードを一気に上げることが可能なフレームワークばかりですから、今回の講座でぜひマスターしてほしいと思います。
全体像を客観的に把握したい時には「SWOT分析」
「SWOT分析」とは、自社の売上高やブランドイメージ、売上シェア、経営資源の特徴や技術力といった自社の全体像を客観的に分析するためのフレームワークです。アメリカの研究者、アルバート・ハンフリーによって1960年代に開発されました。SWOT分析では、自社の内部環境と外部環境をStrength(強み)、Weakness(弱み)、Opportunity(機会)、Threat(脅威)の4つのカテゴリで要因分析します。
Strength(強み)とは、自社の長所や競合への優位性などの能力などです。ヒト(人材、人脈、顧客数など)、モノ(製品、技術力、ノウハウ、施設など)、カネだけでなく、本業における実績や業界における知名度・信頼なども含まれます。
Weakness(弱み)とは、自社の弱点や競合に劣る能力などです。「やらなければならないのに、できていないことは何か?」「想定している以上にコストがかかってしまっているものとは?」「時代おくれになっているものはないか?」といった自問をしてみると意外な発見があるでしょう。
Opportunity(機会)とは、自社の事業の成長に有利に働き、ビジネスの追い風となるような外部環境の変化などを指します。一方、Threat(脅威)とは、自社の事業の成長に不利に働く外部環境の変化などです。外部環境には、経営環境の変化、業界の動向、法律の改正、同業他社の動向、顧客の変化などが該当します。このうち経営環境の変化で例を挙げると、「業界内の景気回復の兆し」はOpportunity(機会)であり、「業界内の価格競争激化」はThreat(脅威)となります。法律の改正でいえば、「持続化給付金などの補助金」はOpportunity(機会)であり、「消費税増税」はThreat(脅威)となります。
SWOT分析を行うことで、現状の「強み・弱み・機会・脅威」を分析して把握し、今後重点的に取り組むべきことの優先順位づけや、経営の戦略策定、マーケティング戦略立案に役立てることが可能です。
こうしたフレームワークを理解するためには自分で考えてみるのが一番です。皆さんもまずは誰もが知る有名企業などを例に使って、分析の練習をしてみてください。本講義では、メルカリをSWOT分析のフォームでまとめてみましょう。お手元に紙とペンを用意して、ご自身で書き出して考えてみてください。
以下の私の回答は参考程度に、ご自身の回答を検証してみてください。
【メルカリのSWOT分析】
Strength(強み):スマホによる操作の容易性、匿名性の確保、配送保証、エスクロー、真贋鑑定
Weakness(弱み):20〜30代女性以外のセグメントの開発、海外(米国)展開の不調
Opportunity(機会):コロナ禍の断捨離活発化、リユース・エコシステム、メルペイの展開
Threat(脅威):リユース市場全体の成長鈍化、コロナ禍でのアントラーズ買取の今後
「5F分析」で業界の収益性や将来性を見極める
次にご紹介するのが5F(ファイブフォース)分析です。この手法では外部環境を5つの競争要因に分けて分析します。5F分析における5つの力とは、買い手(顧客)の交渉力、売り手(サプライヤー)の交渉力、業界内の競争、新規参入の脅威、代替品の存在です。
まずは買い手(顧客)の交渉力についてですが、顧客やユーザーなど買い手の交渉力が強い場合は、値下げを要求される可能性があります。値下げの要求は、収益性の低下を招きます。
次に、売り手(サプライヤー)の交渉力について。供給業社の力が強い場合は高価な仕入れ価格を受け入れざるをえない状況になってしまいます。これは負担コストの増加を招き、収益性を低下させます。
業界内の競争とは、競合他社の存在です。強力な競合他社が多数存在する場合、収益を上げるのが困難になるのはいうまでもありません。
新規参入の脅威について、業界に新しい企業が参入すると競争が激化する可能性があるほか、シェアの縮小によって収益性が低下する恐れがあります。
最後に代替品の存在について。消費者やユーザーのニーズを満たす他製品やサービスが登場した場合、業界全体の収益性が低下する可能性があります。
こうした5F分析は、自社にとっての脅威やチャンスを把握するときに役立つほか、競合各社や業界全体の状況と収益構造が明らかにすることで、新規参入する場合に勝算はあるのか、充分な収益を確保しやすいのかを見極めることに役立ちます。
では、先ほどと同様に、メルカリを5F分析してみるとどうなると思うか考えてみてください。
私は以下のように考えてみたので、ご自身の回答と比較してみてください。
【メルカリの5F分析】
買い手(顧客)の交渉力:購入者(一般消費者)
売り手(サプライヤー)の交渉力:出品者(一般消費者)
業界内の競争:コメ兵、大黒屋、ヤフオク、ブランディア
新規参入の脅威:ラクマ
代替品の存在:新品、レンタル
5年スパンの事業計画書を自分で作成できるように
いかがでしたか?今回は新規事業立案の際に便利なフレームワークを2つご紹介しました。講義では、事業アイデアの創出法、代表的なビジネスモデルのパターン、フェルミ推定のワークショップ、マーケティング戦略などもディスカッションやグループワークなどを適宜交えながらご説明します。
そして講義の最後には、5年スパンの事業計画書を実際に皆さんに作成してもらい、プレゼンテーションを行っていただきます。事業計画書には少なくとも次の項目を含めてもらいます。
【事業計画書の目次】
①事業の概要と背景
事業のサマリーと、事業に取り組む意義・価値
②事業内容
製品・サービスの内容(提供価値・価格)、ターゲット顧客、競合優位性、ポジショニング(STP分析、5F分析)、ビジネスモデル(ビジネスモデルキャンパス)
③事業実施計画
マーケティング戦略(4P戦略)、チーム・組織および運営体制
④収支・資金計画
5ヵ年の収支計画、資金計画
⑤今後のアクション
展開ステップ(立ち上げから将来像に至る段階的ターゲティング)、検討・依頼事項(想定できる課題やリスク)
このように並べてみると、どう作成すればいいのか検討もつかない部分も多々あるかもしれませんが、講義でしっかりフォローさせていただきますのでご安心ください。
講義の様子をお伝えするため、ここで実際の受講生の発表の一部をご紹介します。Aさんは、「ソーラーシェアリングを併設したブルーベリー観光農園」という新規事業を考えてくださいました。このブルーベリー観光農園は、就労移行A型作業所としての役割を持ち、福祉就労した障がい者の方々が働く想定です。講座で学んだSWOT分析をしっかり活用できていますね。
「先の見えない時代」だからこそ、ビジネスチャンスが広がっている
世の中はVUCA(Volatility〈変動性〉・Uncertainty〈不確実性〉・Complexity〈複雑性〉・Ambiguity〈曖昧性〉)と呼ばれる困難な時代に突入していますが、私は今こそ絶好の「事業開発&起業チャンス」だと考えています。コロナウイルスの感染拡大によって急激に進んだデジタル化はさらなるテクノロジーの進化を促進し、以前は大規模資本でないと実現不可能であった事業が個人レベルでも容易に実現可能となってきています。
「自分の力を試したい」「より良い社会に貢献したい」「社会にインパクトを与えたい」と願う皆さん、ぜひこの波にのってください。私もこれまで数多くの新規事業プロジェクトに関わってきた経験とノウハウをもとに、新規事業立ち上げに必要なポイントを理論から実践まで丁寧に解説することでサポートさせていただきます。皆さんの挑戦をお待ちしています。講義でお会いしましょう。
※今回のデジタルマーケティング講座や、澤田経営道場について詳細を知りたいという方は以下のサイトからご覧いただけます。
澤田経営道場公式サイト