本記事は、HIS創業者の澤田秀雄が設立した『澤田経営道場』の座学研修の1つであるデジタルマーケティング講座を再編したものです。澤田経営道場では、世界で活躍する次世代リーダーを育成するためのプログラムを展開しています。このシリーズでは半年間に渡って行われる澤田経営道場の座学の講義内容を一部切り出してご紹介していきます。
シリーズ第二弾の今回のテーマは「起業家が知っておくべきデジタルマーケティング」、講師はデジタルマーケティングに精通した株式会社フェアプライズ代表の谷田脩一郎氏です。

谷田脩一郎
1986年生まれ。化学、食品、人材、機械、メディア、公益財団法人と様々な業界でセールス、マーケティング、事業開発を経験。インターネット広告業界の中小企業や、スタートアップ、NPOなど、フェーズに合った最適なサービスを受けられない構的課題を解決するため、デジタルマーケティングのコンサルティング、企業向けの研修など行う。

 

起業家のデジタルマーケティングへの理解不足が、新規事業に構造的な欠陥をもたらす

今回私がお伝えする内容はデジタルマーケティングのプロになって1千万円稼ぐ方法ではありません。夢の実現や問題解決に向けて皆を牽引するリーダーに必要な、新規事業を成功させるための本質的なデジタルマーケティングについてお伝えしたいと思います。

私は今までマーケッターとして様々なケースを見てきましたが、「新規事業は10挑戦すると9は失敗する」。それらの失敗の原因の多くは、起業家が(デジタル)マーケティングを理解していないがゆえに、ビジネスモデルに構造的な課題があるまま事業をスタートさせてしまったことで起こります。

「デジタルマーケティングの講座なのにビジネスモデルの話?それより検索連動型広告や、各種SNS媒体の効果的な活用法を教えてほしい」と思うかもしれません。そうしたHOWTOも重要ですが、マーケティングの枝葉であり、根幹ではありません。

 

マーケティングの解釈は人によって異なりますが、私は「マーケティングとは永続的に利益を上げ続ける仕組みをつくること」だと考えています(デジタルマーケティングは、デジタルを活用してその仕組みを構築することです)。この仕組みづくりを目的としたアクションはすべてマーケティング活動だと思っています。つまり、マーケティング活動はビジネスモデルの構築に直結しているのです。

あなたのビジネスモデルで広告費はいくら使える?

現時点であなたが考えるビジネスモデルはどのようなものでしょうか?定番の物販モデル?それとも最近話題のサブスクリプションモデル?実はこの2つのビジネスモデルに関するデジタルマーケティングの考え方は全く異なり、どちらを選ぶかによって起業家としての運命も大きく変わる可能性が非常に大きいです。

どういうことか。まずは、物販モデルを例に考えてみましょう。

例えば、あなたは不動産業を営んでおり、4,000万円の不動産を売却しようと考えているとします。1件の成約、つまり1人にこの不動産を買ってもらうためには、10人に内覧に参加してもらう必要があるとします。そして内覧に10人参加してもらうためには、15人の内覧予約が必要とします。すると、ここからいよいよデジタルマーケティングの話になってきますが、15人件の内覧予約を獲得するためには不動産を紹介するLP(※1)を何人に見てもらう必要があるのかを考えます。
※1 LP(ランディングページ)…申し込みや問い合わせなどのアクションを誘導するために、商品・サービスの紹介を1ページほどでまとめたWebページ

マーケティングファネルの図を用いてビジネスモデルとマーケティングの関連を説明する谷田氏

仮にCVR(※2)が1%とすると、15件の内覧予約を獲得するためには、1,500人にLPを閲覧してもらう必要があります。4,000万円の不動産の粗利率を20%とすると、1件の成約による粗利は800万円ですね。そのうち20%を集客(広告費)に使うとすると、160万円を使って1500人の閲覧ユーザーを集めれば良いということが分かります。つまり1人あたり約1,000円でLPに呼び込む必要があるということです。

※2 CVR(コンバージョン率)…Webサイトが目的としている成果(CV)の達成割合を示す指標。1000人がLPを見て、10件の内覧予約につながった場合、CVRは1%となる。

このようにビジネスモデルを設定すると、とるべき手法や投入できる予算などが具体的に見えてきます。

 

サブスク事業を始める起業家が気をつけたい落とし穴

では、サブスクリプションモデルを採用した場合はどうなるでしょうか?

サブスクリプションモデルとは、商品やサービスを購入するのではなく、月や年単位などの決まった期間だけ料金を支払って利用するサービス形態です。代表的なのは、Netflixなどの動画配信サービスですね。

では例えば、月額5,000円でジムに通い放題のフィットネス事業を始めたとします。この場合、集客のための広告費はどうやって計算すれば良いと思いますか?先ほどの不動産は1件の成約で4,000万円の売り上げでしたが、今回は1ヶ月たったの5,000円です。

ここで覚えておくべきなのが、LTV(Life Time Value)という概念です。直訳すると「顧客生涯価値」で、1人の顧客が企業にもたらすトータルの価値を意味します。算出方法は様々ですが、ここでは簡単に購入単価×購入回数としましょう。すると、3年契約の場合は、5,000円×36ヶ月の18万円がLTVとなります。

一時点では5,000円ですが、そのユーザーが3年間継続してくれるならLTVは18万円になるので、その20%である3.6万円を広告費として扱いましょう、というのがサブスクリプションモデルでの考えになります。

予想がつくと思いますが、サブスクリプションモデルの事業を始めた起業家たちが失敗する理由はここにあります。つまり、継続期間の読みを間違えてしまうのです。

前述した物販モデルでは、広告費をかけるほど売り上げが増え続けます。一方サブスクリプションモデルの場合、事業の立ち上げフェーズでは広告費を大きくかけるので最初はずっと赤字であることが多く、そこを耐えきれるかが起業家としての勝負所となります。サブスクリプションモデルでビジネスを展開したいと思っても、こういったマーケティングの視点を身につけておかなければ、広告費を確保できず、集客できないサービスとして終わってしまう恐れがあるのです。

デジタルマーケティングのコアな話を、思考・手法・実践に分けて学ぶ

いかがでしょう?新規事業を始める際には、多様なビジネスモデルと、現時点での起業家としての体力(資金など)、そしてどのようなマーケティングが必要かというのを全て理解しておくことが重要だということをご理解いただけたでしょうか。

理想は、短期的な売り上げが確保できるビジネスと、中長期的な売り上げを見込めるビジネスを同時並行して進めることです。例えばサイバーエージェントという会社は、メディア事業、インターネット広告事業、ゲーム事業と、それぞれモデルが異なる事業を展開して利益をあげています。ちなみに、株主は現時点で爆発的な売り上げはなくても、10年後も安定して稼げる仕組みがある会社を好みますから、上場を目指す場合はその視点も忘れないようにしておきましょう。

今回はデジタルマーケティングとビジネスモデルの話をお伝えしましたが、今後の講義ではよりコアなデジタルマーケティングの話を、思考・手法・実践に分けて説明していきたいと思います。全6回の講義のうち、1回分を丸々使って皆さんの事業計画のプレゼンを行っていただき、フィードバックもさせていただきます。

講義の内容を踏まえ、自身の事業計画をプレゼンする道場生

少人数制の講義ですから、皆さんからのご質問にも適宜お答えしていきたいと思います。ビジネスモデル別の最適な集客や、事業作りに重要な5つの観点、手を出してはいけないグレーなマーケティング手法なども反面教師として役立つのでオフレコでお伝えしようかなと思っています(笑)。

デジタルマーケティングは奥が深く、全ての理論やテクニックを網羅するのはプロのマーケッターでも非常に難しいですし、網羅する必要もありません。大切なのはマーケティングの概略を理解し、自分の志を実現するためにはどんなマーケティングが必要なのかを見極めること。これができれば、その分野が得意な人を仲間にしていくという手も打てます。そういった観点についても余すことなくお伝えしていくので、ぜひ今後の講義を楽しみにしていてください。それでは今回の講義はここまでにさせていただきます。ご静聴ありがとうございました!

※今回のデジタルマーケティング講座や、澤田経営道場について詳細を知りたいという方は以下のサイトからご覧いただけます。

澤田経営道場公式サイト

https://sawadadojo.com/