MaaS浸透の鍵は高精度の相乗り~地方交通網を最適化 SWAT Mobility Japan 末廣将志代表に聞く
人口減少が進む地方の交通網を最適化し、暮らしやすいマチをつくる――。配車アルゴリズム開発のSWAT Mobility Japanは、地方でのオンデマンドバスの実証実験や、配車アプリサービスの提供を進める。自治体や交通事業者が次世代移動サービス「MaaS(マース)」導入へと動き出す中で、末廣将志代表に事業活動と展望を聞いた。
――昨年12月から約3カ月間、新潟市内で新潟交通と日本ユニシスのオンデマンドバスの実証実験にシステムを提供し、バス運行の効率的なルーティングを調査しました。どのような狙いがあったのでしょうか。
「新潟市内で従来の定期バス運行と並行し、オンデマンドバスを走らせました。オンデマンドバスとは、乗客に乗車時刻や乗降場所を指定してもらい、移動需要に応じて運行する乗り合いバスです。人口減少が進む中、決まった時間に決まった経路を運行する従来の交通網を見直したいというニーズは増えています。
新潟の実証実験では一律の料金でオンデマンドバスを走らせ、乗客の利用回数や経路などのデータをとりました。乗客はアプリを使って予約しますが、アプリを使うことが難しいという人のためにコールセンターでも予約を受け付けました。測定したデータを解析して、ルーティングの精度を高めます」
――シンガポール発のSWAT Mobilityが日本への進出を決めた理由は何でしょうか。
「当社は、目的地まで最適な経路をとるルーティング・アルゴリズムを開発しています。ASEANを中心に7カ国でサービスを提供しており、企業向けの送迎サービスやオンデマンドバスを運行しています。人口減少が進み、地方交通を維持することが難しくなっている日本で、ルート最適化によるビジネスの機会が大きいと考え、2020年2月に日本法人を設立しました」
――アルゴリズムの開発はどう行っているのですか。
「正確な地図と道路のスピード情報という基盤があって初めて精度の高いルーティング・アルゴリズムがいきます。特に日本では、道路情報が重要になります。日本の道路は道幅が狭く、複雑に入り組んでいます。時間帯によって一方通行になるなど規制も多いので、精度の高い地図を使う必要があります。当社はゼンリンの道路ネットワークデータを導入することで、正確なルーティングを可能としています」
――企業の従業員向けのオンデマンド送迎サービスも行っています。導入前の企業はどのような課題を抱えていたのでしょうか。
「営業員自らが営業車を運転し、営業先の近くの駐車場に車を停め、営業先を訪問しているので、移動が効率化されていなかったです。また、交通事故や交通違反が多かったり、営業車の保有台数が適切でなかったりなどの課題がありました」
――確かに多くの企業が同様の課題を抱えていそうです。実証実験ではどのような運用で進め、実際にどんな成果があったのでしょうか。
「実証実験は東京と大阪の2地域で行いました。営業員は、SWATアプリで車を呼び、1日の移動の全てをアプリ経由で行います。専門のドライバーが運転して送迎するため、ドア to ドアで移動できるようになり、移動の効率化が図れたり、車内で資料に目を通す時間ができたりするなど効率化が進みました。また、交通事故や交通違反も減らせました。
実証実験では、車両台数は従来の4分の1程度で済みました。今後は、全国の支社にサービスを導入していただく予定です。車両台数を減らすことで、CO2排出量の削減も期待できます」
――配車アルゴリズムを手掛ける企業は複数ありますが、SWATの強みは何でしょうか
「効率良く複数人を相乗りさせ、送迎するルーティングの精度です。日本にローカライズした精度の高い地図情報とルーティング・アルゴリズムで最適なルートを提供できます。エンジニアやデータサイエンティストの採用を積極的に行い、アルゴリズム開発・向上に力を入れています。また、東京大学エッジキャピタルパートナーズやグローバル・ブレインなど日系ベンチャーキャピタルから資金調達しています」
――今後、事業をどのように成長させていきますか。
「交通網が発展している都市部より地方都市の方がオンデマンドバス導入の機会は多いと思っています。企業、交通事業者、自治体などのパートナーと共に事業を拡大していきたいです。2021年度は実証実験やサービス導入のエリアを広げ、20地域で行う計画です。
同時に『オンデマンドバス』の認知度を上げることも大切です。一般の方にはまだまだ馴染みがないため、利用者に慣れてもらい、浸透させることで市場は必ず広がると考えています」