リゾートテレワークのネットワークを広げるプロジェクト2 軽井沢リゾートテレワーク協会×早稲田大学レポート
リゾート地を活用した新しいワークスタイルを普及するため、活発に活動する軽井沢リゾートテレワーク協会。この度は昨年11月に開催された「豊かなライフスタイル実現の為の働き方改革」セミナーをレポートする。
今回は「場所が変えてくれるあなたの働き方-もし、オフィスに縛られない会社で働けたら。もし、リゾート地で働くことができたら。量だけではなく質が求められていく時代を生きる皆さまに、一歩先を行く働き方改革をともに考え、提案する」イベントとして、早稲田大学との共催。早稲田大学教授の恩藏直人氏がファシリテーターとなり、企業、学生とともにテレワークを深く考察する良い機会となった。
主催:早稲田大学マーケティング・コミュニケーション研究所、軽井沢リゾートテレワーク協会
後援:総務省、一般社団法人日本テレワーク協会、一般社団法人軽井沢観光協会、軽井沢町商工会、軽井沢旅館組合
軽井沢リゾートテレワーク協会からの問いかけ~副会長 鈴木幹一氏
写真:木原凛太郎
当協会は、テレワークデイでもある7月24日(2018年)に設立した。2017年には一般社団法人軽井沢ソーシャルデザイン研究所が、都心の大企業のビジネスマンに軽井沢の自然の中で実際に体験してもらう事を目的に、リゾートテレワーク体験企画を4回開催した。
軽井沢は標高1000㍍の高原リゾート、標高1000メートの気圧は人間の胎児と同じで人間にとって最も居心地の良い気圧と言われている。また、東京から新幹線で約70分と近く、通勤定期で日々東京に通勤しているビジネスマンが500人もいる。軽井沢は、別荘所有者、半移住者、移住者、地元住民、観光客など多種多様な人材が集まる場所、そこでは最新の情報が入り、人的ネットワークが生まれ、様々なイノベーションが生まれている。ビジネスには最適な場所と言えるだろう。
そのような環境で新しいワークスタイルとしてリゾートテレワークの普及活動を、観光協会、商工会をはじめ地元の力を借りて東京と軽井沢で行っている。今までの活動として東京ではNTTデータ、CBRE、サイボウズ、各社様をはじめ企業の会場を借り、各社の働き方改革のケーススタディ、パネスディスカッション等を行いテレワークの理解を深めている。
テレワークの将来を考えると、学生のうちから働くことの意義を考えることが重要だ。今後、非拠点型ワークや、リゾートテレワーク、ワ―ケーションなど豊かなライフスタイル実現の為に、また楽しく仕事をやる為に様々なワークスタイルが生まれるだろう。テレワークはその一つだ。今回はテレワークをマーケティング的な観点から問いかけ、変わりゆく働き方の未来を考察したい。
リゾートテレワークへの期待~総務省 官房総括審議官 安藤英作氏
総務省は、テレワークを管掌する省庁一のつとして、テレワーク月間などで、講演やさまざまなイベントを実施している。現在、経済産業省、厚生労働省、国土交通省他、内閣府とともに普及啓発を行っている。テレワークにはいろいろな効果がある。働き方改革による生産性向上、それによる優秀な人材の確保、人材の創造力の発揮、災害への対応、地球環境への負荷軽減、交通のディマンド調整などなど。こういった中で、特に総務省としては地域活性化や地方創生にテレワークを活用することを推進している。例えば、ふるさとテレワークでは、サテライトオフィスに補助するなど、地方に仕事を持ってきたり、子育て中の女性や、高齢者などの潜在ワーカーが働く機会を増やしている。今までは、地域に在住する労働者が働くために東京に出てきたり、様々な犠牲を強いられてきたが、テレワークはそういった何かを犠牲にすることから解放してくれる可能性がある。その先にあるのが、軽井沢リゾートテレワーク協会の取り組みだ。今後はリゾートテレワークにより、協会が先頭に立って、あこがれのリゾート地で働くという事例をぜひ広めてもらいたい。そして、他の自治体のテレワーク普及にも役立ってもらいたい。大いに期待しており、総務省もともに取り組んでいく。
大学としての機会提供~早稲田大学理事 甲斐克則氏
今回は、軽井沢リゾートテレワーク協会と早稲田大学マーケティングコミュニケケーション研究所の共催で開催している。今、国や企業の中で、働き方改革の機運が盛り上がっている。2018年度から、働き方改革関連法も整備されてきている。今後、少子高齢化、福祉への対応といった社会的課題は一層多くなってくる。それにともないテレワークの必要性もますます高まる。大学としても恩蔵先生を中心に、このようなセミナーが開催されることは時宜を得ていると認識している。多様な働き方、ワークライフバランス、有意義な人生を送ることが求められている中、テレワークも在宅、介護といった限定的な対象ではなく、より裾野を広げ、一般に普及しているように思う。早稲田大学自体もワークライフバランスを考えるテレワークを推進しているところだ。今回、学生も含めた議論により、将来を見据えた実りある議論ができ、具体的な展望が見えてくるのではないかと大いに期待している。
なぜ今働き方改革が求められているのか?問題提起として~早稲田大学商学学術院教授 恩藏直人氏
恩蔵:冒頭の鈴木さんのご挨拶のとおり、マーケティングの観点から、リゾートテレワークを考えてみないかという呼びかけがあり、せっかくの機会なので、今回、学生を巻き込んだイベントができないかと、このような場を設定した。
私からはまず、議論の前提となるような問題提起を行いたい。①今、日本がおかれている状況②政府のテレワーク推進②テレワークの効果③人材像が変わる④社会が変わると言った点から問題提起を行う。
テレワークを考えるにあたり、日本の置かれている状況を概観する
IMD(国際経営開発研究所 International Institute for Management Development)のデータによると、日本の競争力は1992年に1位になったこともあるが、だんだんと順位は下がり、2018年には25番目になって地位は低下の一途である。このデータは「経済状況」「政府の効率性」「ビジネスの効率性」「インフラ」の四分野からなる大分類と、各分野につき五つ、計20個の小分類を設ける総合的な視点で競争力を見て行くものだ。また、OECDの時間当たり労働生産性という指標でも、日本は20位となっている。こちらは長年ほとんど変わっていないという状況である。
この一つの背景として考えられるのが、わが国のITの導入率が低いということだ。例えば、これはテレワークの導入率にも如実に表れている。米85%、英38%に対し、日本は14%に過ぎないという状況だ。
政府が進めているテレワークとは?
このような中、政策的には国の競争力向上、生産性を上げる観点から、働き方改革が言われ、その中でのツールとしてテレワークが推進されるようになってきた。政府が進めているテレ―ワークは多様な働き方を認めたり、職場改善を行い、社員の生産性向上を目指すものだ。その切り札としてテレワークが位置づけられている。
テレワークとはICT(情報通信技術)を利用し、時間や場所を有効に活用できる柔軟な働き方だ。テレワークには在宅、モバイル、サテライトといった勤務形態などのいろいろな働き方が含まれる。
第一段階は、テレワーク利用のすそ野を広げる。テレワーク活用の環境整備を進める段階。第二段階は、企業がBPR(Business Process Re-engineering)を進める中でテレワークを実施する段階。この中で業務の大部分がテレワークで実施可能な状態になる。現在は、第二段階に移行しているプロセスにあると言える。
テレワークの効果は?
働き方改革は、政府の音頭取りにより急速に認知されてきた。認知度を表すものとして、日経テレコンの記事数で見ると、2015年から急に増え始め、一気に100記事から2500記事弱まで進んだ。テレワークと働き方改革はともに一年で注目されるキーワードへと急上昇している。
テレワークの効果には、生産性向上、通勤時間削減、創造性の発揮というものがある。働き方の質を変えるという点で、特筆すべきは創造性の発揮だ。リラックスした状態であれば、脳内活動(デフォルトモードネットワークという)が活性化する。西本真寛氏(Campus for Hのリサーチマネージャー)によると、軽井沢の心地よい環境が頭をクリエーティブな状態に導く可能性があるという。実際に、軽井沢に移住した人々の多くは独創的なアイデアが湧くと発言している(日経新聞 6月17日 the STYLE)
次に、環境を改善して生産性が上がったというオランダの銀行の例では、スペースを広くし、くつろげる場所を設置したり、照明施設の改善、温度と空調を改善、同僚と協業しやすい場所を設置したりといった取り組みを行った。実施前は、職場環境に対するポジティブな意見は10数%しかなかったが、実施後はポジティブな意見が50%以上を占め、ネガティブな意見は10%未満となった。
「社員の偶発的な出会いを促進するオフィス空間は、社員間のコミュニケーションを促進し、生産性や創造性を高める。(e.g. 中原 2015)」
「雰囲気を構成する感覚的要因は社会的相互作用に影響する(e.g. コトラー1973 Sundstrom and Sundstrom)」
といった意見もある。
総務省の発表によると、テレワーク単体およびテレワークと組み合わせた取り組みを行った企業では13~18%生産性が向上したとの指摘がある。また導入企業の6割以上は労働時間が減る効果があったという。人材採用面から言うと、転職希望者の要望度の高い事項は、1番目が副業兼業の解禁(50.3%)、2番目にテレワークが求められている(49.5%)。
また、大学生の就職観の上位3位に来るものは、楽しく働くきたいが1位、個人の生活と仕事の両立が2位、人のためになる仕事がしたい3位といったように、テレワークに関連する項目が2番目に来ている。
このように企業が優秀な人材を採用するにあたってはテレワークの実施状況が鍵になってきている。
今後必要となる人材像は?
働き方が変わる時、求められる人材は、AI、IoTの進歩と表裏一体だ。そういった分野に精通している人材が求められている。経済産業省によれば、IT人材の不足状況は、2015年ですでに17万人不足し、2030年には59万人足りなくなると言われている。
こういった人材不足に対応するため。早稲田大学でも、データ科学総合研究教育センターを設立した。本センターでは、情報・通信技術の進展により多種多様なデータの取り扱いが可能となったことで、実社会のみならず、理工系・人文社会系を問わないあらゆる学問・研究領域において、データ科学(データサイエンス)の重要性を認識。これまでそれぞれの専門領域で積み重ねられてきた「理論」と「データによる実証」が融合することで、これまでには無い新しい学問・研究の展開を目指している。
(https://www.waseda.jp/inst/cds/より)
働き方改革で変わる今後の社会はどうなるのか?
今後の社会の動きという観点では、下記のような変化が起こってくるものと予想される。
①仕事と休暇 オンとオフの切り分け→オンとオフの融合
②ライフスタイル 仕事の従属変数→仕事の説明変数
③仕事量 時間で解決→生産性で解決
④仕事に向かう姿勢 忍耐と妥協→生きがい
⑤経済社会の拠点 一極集中→地方分散
鈴木さんの指摘するところでは、②のライフスタイルに関し、今までは仕事のためにライフスタイルがあったものが、これからはライフスタイルのために仕事があるというように変わっていくだろうとのことだ。
ではこれからパネルディスカッションで、学生諸君と議論していこう。
学生を交えたテレワークに関するパネルディスカッション
左から ファシリテーター恩蔵直人氏 パネラー 丁海聖氏(早稲田大学大学院商学研究科修士2年)、倉島春香(早稲田大学商学部3年)氏
パネラー 左から富樫、箕浦、湯田、金山各氏
恩蔵:前段の問題提起を踏まえつつ、これから議論をすすめていくが、まず、学生は将来の働き方をどのように考えているかを聞いてみたい。
丁:数年後、どんな働き方をしているかというと、ITかコンサルを希望している。日本だけではなく世界で活躍したい。成長できるような環境で働きたい。
倉島:夏にインターン先でも、働き方改革をすすめているかどうかを見ていた。将来の願望として結婚して家庭を持ちたい。しかし、仕事で自分のスキルを高め続けたいという意識もある。そこで働き方改革をやっている、また、テレワークをやっている会社ならそれができる。同学年の女子大生も多くはそう考えている。
恩蔵:テレワークの進捗は社会的にみて実際どうなのか?
企業のテレワーク推進の現状 富樫 美加氏(一般社団法人日本テレワーク協会事務局長)
富樫:私からは、テレワークが日本社会で、どこまで進んでいるのか?を述べる。
テレワークは、ICTを活用した、場所と時間に囚われない働き方であるが、企業、社会、就業者の三者にとってすべてプラスになるような働き方だと認識している。日本テレワーク協会は、こういった働き方を日本社会に普及させようと活動している団体だ。
テレワークの必要性を少し、俯瞰的に見てみよう。人口構成の変化により、労働力は減少し、2060年には半分になると言われる。これをAI、RPAで補てんしようという動きになっているが、それだけでは足りない。そこで、労働市場では今まで十分に働けなかった、育児中の女性や、親の介護が必要な人が働けようになるのがテレワークだ。また、長時間働けばよいという観点からではなく、生産性をどう高めていくかというのが、ワークスタイル変革による経営改革であり、これによりワークライフバランスの向上にもつながる。
またグローバル化の進展という面からは、日本企業の中にいても、世界と連携して仕事をする機会が増えた。時差がある中、多様な人材をテレワークによって取り込み生産性を上げるという、新しいチャレンジが求められている。
もう一つは、災害が多発するわが国の事情がある。災害あっても生産性を落とさないといったレジリエンスの観点がある。こういった課題解決に資するテレワークの普及を2020年に向けて進めているところだ。
具体的な活動内容は、政府の普及政策への協力、促進サポート、相談センター、セミナー、調査などを実施している。独自の活動としては、テレワーク推進賞、テレワークトップフォーラム、関連書籍の発行を行っている。このような活動を通してテレワークムーブメント拡大につとめているところだ。
テレワークの取り組みの変化として感じられる社会の変化は以下のような点だ。
①テレワークが人事部門施策から経営者の戦略課題になってきた
②外資系、ICT産業から製造金融サービス業へ広がってきた
③育児介護から、一般社員への広がり
④東京から地方への拡大
⑤大企業から中堅 中小への拡大。こちらはまだ、改善の余地が大きい。
⑥先進企業から国民運動への広がり
⑦時間評価から成果評価への変更
⑧在宅からシェアオフィスへ 東京では特に山手線の中でシェアオフィスが増えている。
⑨雇用から非雇用型 企業から直接契約をもらうクラウドソーシングが増えている。
このような社会の変化の流れはますます加速していくだろう。
倉島:シェアオフィスは見た目もよいが、サボりたいという誘惑がでてくることも考えられ、実際に働くとなるとどうなのか?性善説に立ってマネジメントするのか?性悪説に立ってマネジメントするのか?
富樫:ICTテクノロジーによって、ワーカー自ら自立的に管理もできるし、システムで管理することもできる。全体としては仕事の時間ではなく、成果で評価する方向に変わってきている。まだ過渡期ではあるが。上司が部下全員のパソコンの稼働をみることはもちろんできる。が、社員が自立的に働き、社員を信頼して任せるマネジメントのほうがより成果が上がる。
恩蔵:次に、省庁におけるテレワークへの取り組みについてお話をお願いしたい。
テレワーク推進にあたり、重要なのは人材育成によるチーム作り ~箕浦 龍一氏(総務省行政評価局総務課長)
箕浦:今回は、テレワークを推進する省庁というより、テレワークに取り組んだときに課題となる、部署のマネジメントに言及したい。総務省では3年前から、オフィスの改革を進める働き方改革に取り組んでいる。
電子政府担当セクションを皮切りに、一般行政事務セクション、法令立案セクションなど、部署ごとにペーパーレス、グループアドレスを導入して環境改善に取り組んでいる。これによりうず高く資料が積まれている役所によくある風景がなくなり、非常にすっきりした。データはすべて共有フォルダに入れ。デバイスの中でデータを活用し仕事をするようになった。つまり、紙を持たないということでテレワークが非常にやりやすくなった。
業務が効率化されたという点では、特に若い職員にとって効果が高かった。膨大な単純労働を無くすことで、より価値の高い業務にシフトでき、モチベーション高く仕事ができるようになった。働き方改革自体にも、若手が意欲をもって参加し、活躍した。これは権限移譲を進めた結果でもある。自ら、ポスターを作ったり、企業に視察に行ったりするなど、自主性、主体性が表れてきた。つまり、物理的に無駄な業務を無くすことによって、受働的な動きがなくなる効果もあるが、それ以上に考える時間ができ、意識が主体的に変わることによって、創造的な仕事をするようになってくる効果は大きい。この取り組みには、全国的にも興味もっていただき視察が増えた。
しかし、実際には箱だけ変えても意味がなく、こういったテレワーク環境を上手く活用できるようにする人材の育成こそがより重要だ。これを機会に、若手職員に対する教育体制を整備した。省庁の人材育成は、官房人事課で少しやって、あとはOJTというやり方が中心となっていた。企業もそうだと思うが、昭和のスポ根的職場で、OJTであとは先輩の背中を見ながらやれというのでは部下は育たない。先輩の話を聞けといっても、言っていることが人によってバラバラといったこともあり、結果、若手は闇雲に努力しているという好ましくない習慣があったのだ。
これに対し、部局の汎用的なタスクについては、若手に教えるべきことを標準化し、3か月で覚えることを1週間で教えるということにした。部下、後輩の指導に熱心でない管理職の増加、課題発見、課題解決ができない職員の増加という課題があったが、管理職に部下や後輩の教育をミッションとして課したことにより、全体として教えるという体制に変わった。
その結果として、従来の人材育成が、限られた関係者からの限定的なアプローチだったものに対し、上司や先輩が、仕事の心構え、業務外の教養など、あらゆる角度がから指導するようになった。
これによって、公務員としての問題意識、上司のマネジメントスキルの向上、組織が有機的なチームとして機能することに繋がっている。
具体的には、One on Oneの部下指導のコミュニケーション、メンター制度、講座や勉強会 外部との連携、企業視察、意見交換などを実施している。
そういった中、奈良県川上村のような自治体との若手短期交換留学や、今回のような軽井沢とのコラボレーションもある。自身の体験でいえば、役所では、法令によって、役職ごとに動きが決められているが、それにとらわれず、新しい視点を持つことができた。つまり、世の中の役に立つにはどうしたらよいかというより俯瞰的な視点で動けるようになったことは大きい。
さて、先ほど学生から性善説に立つべきか性悪説に立つべきかといった指摘もあったが、それはマネジメントの問題に尽きる。目の前にいないと、わからないというのはタスクの定義と達成すべき成果の設計ができていないからだ。逆に、目の前にいたからといって完全に監視できるわけではない、サボろうと思えばいくららでもサボれる。メンバーが主体的に動くようなマネジメントとそのチーム作りこそが重要なのだ。
テレワークで8つの働き方が可能に ~湯田健一郎氏(株式会社パソナ リンクワークスタイル推進統括)
湯田:テレワークというと新しい取り組みのように感じるが、実際にほとんどの人はすでにICTを活用して仕事していて、テレワークをすでにやっている。私は、パソナの正社員、他社の役員、アドバイザーでありながら、月3~4日は地元九州の父の会社で過ごすなど、8つの仕事を同時にパラレルワークで働いている。テレワークをやろうと思ったのは、海外に留学してみて、カナダやアメリカではテレワークがむしろ普通なことに気がついたから。日本は通勤電車に揺られる悲惨な状況があり、これを改善したい思ったことがきっかけだ。
すべての仕事を一括りにすると、やっていることはテレワークの普及活動ということになる。この取り組みを会社に提案したところやっていいということになった。パソナでは人とつながることに重点を置き、テレワークをリンクワークと呼んでいる。つながれば場所の壁は越えられる。こういった働き方を伝えるためテレワークのセミナーをやっている。複数の仕事を同時にこなしつつ、全国各地で講演をする。テレワークなしではやっていけないというのが今の現状。
そういった中で、自らクラウドソーシングの事業も立ち上げている。Web上での契約、納品、報酬の支払い。業務委託で働く個人事業主はそういった、ルーティーン業務の支援を求めている。また、公的な業務としては、クラウドソーシング協議会の事務局長もやっている。
テレワークを経営側の視点でいうと、従業員がやりたいという動機を会社がサポートするかどうか、これが非常に重要と認識している。学生視点でいうと、いつでもどこでもだれとでも働ける基盤をもっている会社かどうかが重要。つまるところ自分がやりたいたかどうか。新卒の採用も一括採用ではなく、通年採用に変わっていく。基盤のある会社をじっくり選んだほうがよい。
丁:実際に8つある仕事をどのようにマネジメントするのか?いろいろな会社で並行して仕事をするときの難しい面、注意点はどんなことか?
湯田:なぜ8つの仕事が同時にできるかというと、タスクを鮮明にすることとその優先順位を明確にしていること。そのとき、いつ何を納品するのか、アウトプット品質について、クライアント側との期待値がずれないようにする。
そうならないためには、コミュニケーションを頻繁にとるようにしている。このためにチャットができるICTツールなどが重要である。離れるとできないのではなく、かえって頻繁にコミュニケーションするようになる。また、スケジュールをオープンにして、関係者が見れるようにしているので、今何をしていて、どれくらいキャパがあるかもわかるようになっている。
さらに、オフを大切にするという概念が広く流通しているが、自分の場合は、楽しいこと、やりたいことは何だ?と言う視点で取り組んでいる。よって、ワークライフバランスというより、やりたいことをやっているのが、仕事であり生活であるということなので、ワークとライフは融合しているというイメージだ。よって、日々モチベーションが高い状態でいることができる。こういった価値観も理解してもらえるようにしている。
倉島:考え方が変わった。普通に一つの会社で、一つの仕事に決めないといけないのかと思っていた。やりたいことが沢山ある。ほかにやりたいこともあるなら、同時にやればよい。すぐには無理かもしれないが、将来は後輩たちの就活になったときにこういった働き方があるのだということを紹介していきたい。
恩蔵:それではいよいよリゾートテレワークがどんなものがご紹介お願いします。
近未来のテレワーク、リゾートテレワークの可能性~金山 明煥氏(株式会社東急シェアリング 代表取締役社長)
金山:まず、会社の紹介であるが、リゾート事業に取り組んでいる東急電鉄グループの東急バケーションは国内タイムシェアリゾートのパイオニアだ。全国17施設、提携25移設を展開。会員制リゾート商品にポイント制を導入、フレキシブルな利用が可能となっている。1999年に京都でタイムシェアリゾートを立ち上げたのが始まりだ。
リゾートテレワークがなぜ必要になってきているのか、歴史的に「場」の意味合いを考察してみよう。最初は、狩猟から農耕、つまり遊動生活から定住生活へ移行する中、場所の所有権が認められるようになってきた。つまり、自宅を所有するという1st Placeの時代だ。次に、産業革命が起こり、人々が工場に働きに行くようになった。すなわち職場という場の誕生、2nd Placeの時代になる。そして、人間の労働量には限界があることに気づき、生産性向上のための余暇を与えるようになった。これが、自宅でも職場でもない、3rd Placeの時代。これによって、リゾート、別荘の所有が流行した(余暇を過ごす場として)。今や別荘もシェアリングの時代になっているということだ。
仕事と生活の在り方が変わったことに伴い、人間が活動する場が増えていった。そして、これらは1、2、3の分離的な状況から、融合へと向かっている。仕事も遊びも家もシームレス化していくと我々は考える。新たな3rd Placeの時代が来ていると言える。
海外の例を挙げるとロンドン中心街から一時間で行ける会員制クラブ“Soho Farmhouse”、やバリにあるリゾート型の施設(写真)などがある。
バリの施設例
次世代の働き方として、せっかく仕事するなら、リラックスして気持ちよく仕事したほうが良いという考えのもとリゾートテレワークが生まれた。我々はこれを、さらに広義にワ―ケーションと言っている。officeワーク×バケーションを組み合わせた言葉だ。解放感あるリゾート地で仕事をすることで、イノベーションを促進しようと目下啓発に努めているところだ。
この度、軽井沢でも総務省に協力いただき、実証実験を行った。
実証実験では、実際に軽井沢に滞在してもらい仕事をしてもらった。
その結果、リゾートテレワークに求められる要件として、適度な抜け感、日常から遠ざからない設備、すぐに行けてすぐに戻れる立地などがあることが分かった。
軽井沢は自然の力が大きい。いろいろな方が言及しているが、脳のニューロン結合や、日常と違った会話が弾むということがある。すでにGAFAのような先進企業では、Officeはキャンパスと呼んでおり、本社自体がリゾート化している。集中する場とか、コミュニケーションする場とか仕事の内容によって場所を分けて仕事をしている。
箕浦:今は、どこでも拠点、会社も拠点、つまり自分自身が拠点になっているということ。自分が中心、都合がいいところで仕事をすればよい。企業はこういった環境に合わせて経営しないと経営のロスになる。経営者がそういう意識を持たねばならない。
丁:自分が拠点となると、自分自身の責任が重い。そういった働きかたができるかどうか自覚が重要だと認識した。
倉島:ワ―ケーションについて思うことは、家族旅行で、父たびたび来れないということがあった。リゾート地で仕事ができるなら家族も連れてきて、家族関係も改善できると思った。
金山:実際に、実証実験は木金で行い、土日は家族とともに休日を過ごす体験もした。仕事であれば会社も許可を出しやすく、交通費や平日の宿泊代には会社の経費も使える(週末の宿泊代は自身の負担)ので、お得感もある。米国では、すでにこういった働き方を、ビジネスとレジャーを組み合わせた造語でブレジャーといって産業化している。
恩蔵:せっかくの機会なので、会場からも意見があればお願いしたい。
学生 理工学部1年(会場):テレワークが進んでいるとされる、海外企業のマネジメントの仕方を知りたい。
富樫:外資系のIT企業に、本国と同じフルタイム在宅をやっていてなぜうまくいくのか?と聞いたことがある。彼らはジョブスクリプトで仕事の内容を明確にし、短期で達成するというマネジメントをやっている。日本だとスパンが長いのでプロセスの管理がしずらい。
湯田:そもそも考え方が違うので、感覚も違う。日本が特殊だと思ったほうがよい。海外では上司からすると自分のために働いているという認識はまずない。この仕事のゴールを達成するために、この会社にいるという意識だ。達成する内容に対してどのようなリソースを会社は提供してくれるのかという感覚になる。シティバンクなどでは、優秀な人は働く場所を選べる、2か月ごとにパフォーマンスをチェックし、下がったらテレワークを辞めさせるとかいったマネジメントになっている。一方、中国では、営業マンは本業副業の区別すらない。自身の人脈にいろいろなものを販売しているという動きになっている。
この後も、さらに深堀して活発な議論が続いたがこれ以上は割愛する。今回のイベントでは、テレワーク実践者からテレワークの内実についての見識が披露され、働き手の意識改革や、マネジメントの重要性が改めてクローズアップされる機会となった。学生からすると、新しい働き方における、将来の自分自身の主体的なかかわり方について大いに気付きが得られたようだ。