株式会社ニチガン -「木の温もりを伝えること」を使命とする木製玩具メーカー かんしんビジネスクラブ 第8回定期交流会レポート
老舗メーカー、街づくり、グッズ製作、町工場、住宅販売……今元気な5人の現役経営者
他社を知ることで広がるビジネスマッチングの可能性
「人とコミュニティの金融」「育てる金融」「志の連携」をモットーに、創業者支援や地方創生、経営者支援などに力を入れる第一勧業信用組合。その組合員をメンバーとする、働く経営者のコミュニティの会「かんしんビジネスクラブ」の第8回定期交流会が、2018年9月11日、東京都千代田区のスクワール麹町で開かれた。
「かんしんビジネスクラブ」とは、「一生懸命仕事に取り組む現役経営者を応援すること」を目的に、2017年10月に発足したコミュニティサービス。より具体的に表現するなら、経営者の自己研鑽や人脈形成の場であり、経営相談をしたり、業績の伸ばし方、PRの仕方などを知る学びの場だ。
各業界で活躍するビジネスリーダーやコンサルタント、大学教授、各種士業ら24人がアドバイザーとして参加しており、実務や経営をテーマにしたセミナーを開催するほか、交流会などを通じたビジネスマッチングのサポートも行っている。
これまでの定期交流会は、前半がゲストを迎えての講演会、後半が食事をしながらの親睦会という形だったが、今回は趣向を変えて前半に5人の社長が登壇。約150人の参加者を前に、第一勧業信用組合の新田信行理事長とのディスカッション形式で自社のプレゼンを行った。
登場したのは登壇順に、「木の温もり伝える」をモットーとする老舗木製玩具メーカー・株式会社ニチガンの塚田容子氏、台東区・谷中を中心に街づくりを手がける株式会社HAGI STUDIOの宮崎晃吉氏、扇子とタオルを中心とするオリジナルグッズを製作する株式会社オオゼキコーポレーションの大関直行氏、2008年度TASKものづくり大賞・大賞にも選ばれた掃除用品「ほこりトリ」の開発者・株式会社おおかわの大川恵美子氏、「帰りたくなる家」をキーワードに心から寛げる住宅創りをめざす株式会社アイム・ユニバースの藍川眞樹氏。経営のヒントもたくさん詰まったプレゼン内容から、それぞれの企業と経営者の横顔を紹介したい。
デジタル時代だからこそ、体感することに価値がある
「木の温もりを伝えること」を使命とする木製玩具メーカー
積み木にわなげ、木馬、もじあそび……など、誰にでも馴染みのある木のおもちゃ。「株式会社ニチガン」は、1929年の創業以来そんなおもちゃたちを作り続けてきた、日本一長い歴史を持つ幼児向け木製玩具メーカーだ。社長を務めるのは就任8年目の塚田容子氏。もともと創業一族の出ではないが、塚田氏の父・塚田幸男氏が30年ほど前から同社の経営に携わるようになり、その跡を引き継いで2010年に同社の舵取りを担うこととなった。
モットーは「木の温もりが伝わる安心・安全なおもちゃ」
今も昔も変わらない、同社のモノ作りの根幹にあるのは「木の温もりを伝える安心・安全なおもちゃを届けたい」という想いだ。だからこそ、その品質には人一倍こだわりを持っている。同社オリジナルのおもちゃについては、すべて一般社団法人日本玩具協会認定のSTマーク又はEU加盟国共通の安全基準であるEN基準をクリアしていることを示すCEマークを取得しており、舐めても安全な塗料を使用するなど、利用者である小さな子どもたちに十分配慮した安心設計。
数十年と販売し続けているロングセラー商品も、安全基準の変化に応じてデザインの見直しを行って、常に時代に応じた安心・安全の要請に応えている。
だがもちろん、実際の商品の品質は設計やデザインだけでは決まらない。実際に工場でデザイン通りに作られなければ意味がないわけだが、その品質管理は同社が一際力を入れている部分だ。同社は、自社工場を持たないファブレスメーカーであり、国内外の委託工場で生産を行っているが、現在生産の中心を担うベトナム・ホーチミンの工場は、確かな技術力に惹かれて選んだもの。それでも、求める品質基準を理解してもらうのは簡単なことではないというが、「製造工程で確かな品質を担保することが何より重要」というのが塚田氏のポリシー。製品管理の努力を重ね、「ニチガン」ブランドとして市場から高い信用を獲得している。
OEM・オリジナル商品の 生産も手がける
時代の変化に合わせた同社の取り組みは、何も海外の生産工場の利用・品質管理体制の充実ばかりではない。30年ほど前から始めた、アパレルブランドなどからのOEM・オリジナル商品の開発受注も、今や同社の特徴的な事業の一つだ。
「子供服メーカーや百貨店などからの木のおもちゃ・雑貨の受注は意外と多く、相手先からデザインを受け取ってうちで生産というものは増えています」と塚田氏。取引きの規模はまちまちだが、現在30〜40社と契約があり、ほぼ毎日問い合わせがきているという。
木へのこだわりを軸に 隣接異業種へ挑戦
もうひとつ。約2年前から始めた、木を素材としたキッチン用品や文房具の販売も、時代を見据えた同社の新しい挑戦だ。少子高齢化が進む現代は、玩具メーカーにとっては極めて厳しい状況。同社の木製玩具はもともとギフト需要が多く、急激に需要が伸びることもない反面少子化の中でも一定の需要はあるものだが、それでも社会情勢と無関係ではいられない。
「今は安定した評価をいただき、売り上げも伸びていますが、10年、20年と同じことをしていたのでは非常に危ない」というのが塚田氏の率直な感想であり、そんな危機感の下、同社のモットーである「木の温もりを届ける」を別の形で表せないかと模索したことが、新事業立ち上げの原動力となった。
うさぎの「ミッフィー」と絵本『くまのがっこう』の「ジャッキー」をデザインしたオリジナルの木製ペン立てやスマートフォンスタンド、キッチン用品などは、中高生から大人の女性まで幅広い世代に人気を博し、新事業の収益は全体の約5%ほどに上っている。
同社のこの成功は、第一勧業信用組合が企業に勧める「隣接異業種への事業展開のすすめ」の見本ともいえるものだ。隣接異業種のすすめとは、「時代は動いていくものだが、いくら需要が移り変わっても、企業がいきなり違う領域の仕事をすることは難しい。
だから、まずは自社事業の隣接領域を5%ぐらいの規模で行い、事業の幅を拡大していこう」というもの。同じ木を使った製品とはいえ、玩具とは売り場も販路もまったく異なる製品を売るのは簡単ではないとしながらも、展示会への出店やSNSでの発信の仕方を工夫するなど試行錯誤しながら結果につなげており、これから隣接異業種の新規事業へ乗り出そうという企業にとっても学べることは多そうだ。
デジタル時代だからこそ、光るアナログの価値
現代は、赤ちゃんの頃からスマートフォンや電子ゲームに触れるのが当たり前になり、子どもの玩具の種類も多様化している。だがそんなデジタルの時代だからこそ、実際に手で触れることで温かさや安らぎを感じられる「木」が必要とされているのではないか。それが同社を応援する新田理事長と塚田氏の共通の想いだ。ディスカッションの最後に一言を求められた塚田氏は、次のように場を締めくくった。
「赤ちゃんからスマホをいじる時代になってきている中で、我々は木の温もりという、自然素材の暖かみに幼少期に触れてほしいという思いで、商品作りに務めております。木で何かしようとなったらニチガンと言っていただけるように、これからも務めていきたいと思います」
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