本格的キャッシュレス時代の到来 株式会社クレディセゾンがQR決済事業に参入
クレディセゾンが気鋭のスタートアップOrigamiと手を組んでQR決済サービス「セゾンOrigami Pay」を開始した。
約2,700万人のセゾンカード・UCカード会員が現金もカードも不要、スマートフォン一つで買い物ができる時代が来る。
何故QR決済なのか、何故Origamiなのか。
株式会社クレディセゾン、戦略企画部 デジタル戦略グループ部長吉田慎一氏に伺った。
「いつまでクレジットカードはプラスチックのカードのままなのだろうか」
吉田慎一(よしだ・しんいち)戦略企画部 デジタル戦略グループ部長
世界のキャッシュレス化が急速だ。
特にニュースに上るのは中国の現状だ。Alipay・WeChatPayでの決済が普及し、深センなどでは「この一年ほどは財布を持ち歩いたことがない」という人も増えているという。
またスウェーデンでは市井の小規模小売店まで電子決済をしているので客が小銭を持たなくなり、ホームレスが暮らしにくくなっている、という笑えない話まで聞こえてくる。
日本だけが遅れている。様々な人からそういった声が聞こえる中、「日本の特殊性」を指摘するのが、クレディセゾンの戦略企画部 デジタル戦略グループ部長吉田慎一さんだ。
「日本は現金の他にもクレジットカードやプリペイドカードなど、様々な支払い方法が文化として深く根付いている便利な国です。中国をはじめとしたアジア各国はカード決済のインフラがそこまで普及していなかったから、一足飛びにスマホを活用したキャッシュレス決済が普及した、という側面は大きいです」
このクレカ文化の担い手である業界のジャイアント、クレディセゾンが、2018年1月よりQRコードを使った決済サービス「セゾンOrigami Pay」を始めた。
そもそも、クレディセゾンは新しいものを取り入れるのに意欲的な会社だ。
業界各社から驚きを受けながら決行したサインレス化や、永久不滅ポイントのスタート。この3月には、永久不滅ポイントの新たな運用プラットフォームを開始すると華々しく告げたばかり。
ポイントで長期投資を体験できる「ポイント運用サービス」によって、未経験者も気軽に投資を体験できるとあって、金融リテラシーの向上にも一役買うことが期待される。
そんな挑戦的な会社が、本腰をいれて挑むのがQR決済である。
「いつまでもカードはプラスチックのカード、というわけにはいかないと思います。時代のトレンドはカードレスに向かっている。しかしその認証はどういう方法になるのか。指紋認証や顔認証など様々な方法が考えられていますが、いずれの認証もこれだけ普及しているスマートフォンを通じて行われるのではないでしょうか」
中でも注目されるのがQRコードを使って買い物を済ませる方法だ。
既に各社もQR決済を取り入れようと動き出している。ドコモは「d払い」サービスを今年4月より開始する予定で、ローソンやマツモトキヨシなどで利用できるようになるという。またLINEは2014年からLINE Payを開始しており、ワタミなどで利用でき、今後対応店舗100万店を目指している。
今、プレイヤーが並び始めているが、こうしてQRコードを使った電子決済が普及していけば、日本でもキャッシュレスが日常に浸透していくだろう。
さて、クレディセゾンがQR決済を始めるにあたって白羽の矢を立てたのが、2012年創業の株式会社Origamiだ。いったいどんな会社なのか。
営業力と対応力でOrigamiを選んだ
株式会社Origamiは、2013年にモバイルECサービスをスタート、その後、2016年からは更にスマホ決済サービス「Origami Pay」を開始しており、2018年3月現在、Loftや日本交通・AOKI・ケンタッキーフライドチキンなど約20,000店(予定店舗含む)がOrigamiのスマホ決済サービスを利用できるまでに拡大している。
オンライン決済とオフライン決済の両面をOrigamiは持っている。
このOrigamiにクレディセゾンが何故注目したのか。
「当初、QR決済参入にあたって幾つかの選択肢がありました。自社でやるという方法も勿論あったし、どこかと組んで行うという方法も考えました。そのような中でOrigamiの取組みを理解していく中で是非共同でビジネスをしていきたいと思ったのです」
Origamiに注目した理由は、その営業力と対応力だ、という。
営業力については短期間に加盟店を大幅に拡大したという実績があるが、高く評価したという対応力とは何なのだろうか。
「当初Origamiはスマートフォンとタブレットをブルートゥースを使って繋げていたのですが、環境や機種に依存する不安定さが見られたため、ユーザーが慣れていてかつ安定しているORコードによる決済に、Origamiはすぐに切り替えた。このような対応の速さを、高く評価しました」
他にも、移動販売に使う時はQR決済に必要なタブレット端末を持ち歩くのが不便ということで、紙にプリントしたQRコードを読取って決済できるような「ステッカーQR」の仕組みも構築したという。
フットワークの良さがクレディセゾンのような大会社には魅力的に映った。
「ですからゼロから開発するより、Origamiと手を結ぶことができれば有益だと判断したのです」
そこでクレディセゾン側は、彼らの今後のビジネスプランにこの提携がどれだけメリットがあるかを問うた。
「Origamiは加盟店を増やし、そこに来たお客にアプリをダウンロードしてもらって利用してもらうというパターンで考えていた。弊社のカード会員は約2,700万人。この会員にOrigamiを利用できる環境を提供できる。利用できるお客様が多くいれば加盟店も増えるのではないか、という逆パターンを提案したんです」
それで両者は意気投合した。巨人と気鋭のスタートアップが手を結んだ瞬間だった。
買い物のカタチだけではなく、商売のカタチも変わる
クレディセゾンのQR決済は、利用者にはどのようなメリットがあるのか。
「利用するためにはまず、ご自身のスマートフォンにセゾンカード・UCカードのアプリ「セゾンPortal」「UC Portal」をダウンロードし、カード情報を入力していただきます。複数のカードを持っている人は複数入力していただいても構いません。
アプリではカード利用明細や永久不滅ポイントの交換、メッセージによる問い合わせなど、各種サービスを一元的に受けられるのですが、QR決済も同じアプリで利用が可能になります。実際のお買い物の時にはそのスマートフォンをかざし、支払いに使うカードを選んで終了です。
アプリはすでに360万の会員様にダウンロードいただいています。今回の提携により、同会員様は新たにカード番号などを登録することなく簡単にQR決済ができるようになっています」
※「セゾンPortal」のトップ画面。右下のマークをタップすると、QR決済「セゾンOrigami Pay」が起動する。
勿論、一切現金のやりとりはない。またもしスマートフォンを無くしてしまったとしても、アプリ起動の際、指紋認証を設定することもできるので、他人が利用することはできない。
このような安全性と利便性が利用者のメリットだろう。
対して、決済を受け入れる加盟店にとってはどうだろうか?
小売店が頭を悩ませる顧客とのコミュニケーションのツールとして使える。また送客の方法としての可能性も秘めている、と吉田さんは言う。
「今後、顧客とのコミュニケーションを密に取れるような機能の実装を予定しています。アプリ利用者に対して、お店からお客様に対してメッセージやクーポンを直接、送ることができるような機能です。お店のホームページに告知を出していても、日々チェックしている人しかそれを見ない。
だからといって加盟店が独自にアプリを開発するのにも費用がかかる。しかし、「セゾンPortal」「UCPortal」アプリを入れているカード会員にプッシュ通知などで知らせることができれば、加盟店にとって大きなメリットだと思います。
アプリ会員に告知を出して新規客を呼び込む、購入実態に応じたきめ細やかなメッセージやクーポン配信でリピートを促すなど、加盟店は新しい集客方法を持てます」
「また、今後、セゾンカードの永久不滅ポイントを利用できるようにすることを考えています。ポイントは累計で1000億円ほどの残高がある。これを加盟店で利用できるようになれば、利用者にとっても事業者にとっても大きな利点になるでしょう」
最後に、キャッシュレス化の今後の展望について伺った。
「現在は、大々的な販促プロモーションで、利用者・加盟店の増加に取り組む会社もあります。しかし、こういった価格競争は最終的には疲弊するだけで、何も生み出さないでしょう。そうではなく、違った価値を利用者に示すことで積極的に利用してもらいたい。そうしなければ、なかなか日常に浸透はしないと思います。
例えば少額決済など、今までクレジットカードを利用しづらかった分野には普及するのではないでしょうか。スマートフォンをかざすだけで買い物ができる。クレジットカードに期待されていた使い方が新たに広がる、と考えています」
……現在、一部の国では現金を極力使わないようにする政策が進められている。韓国ではキャッシュレス決済には税金の優遇を行っているし、中国では町の露店ですらQRコードで買い物ができるようになっている。
現金に偽造などの不安がある国では、発行のリスクの無いキャッシュレス化は国としても歓迎している。対して日本は、現金の利便性もあり電子決済の利用率は伸びていない。しかし今後は外国人観光客の利用も鑑み、現在のキャッシュレス決済比率20%を今後10年で40%ほどにまで増やし、積極的にキャッシュレス化を進めよう、という経済産業省の方針も発表されている(「Fintechビジョンについて(17年5月)」「キャッシュレスの現状と推進(17年12月)」経済産業省)。
より利用者が安心して買い物を楽しめるように。キャッシュレス社会の大きな足音が、すぐそばまで迫っている。
吉田慎一(よしだ・しんいち)戦略企画部 デジタル戦略グループ部長
1998年 ユーシーカード(横浜支店)入社
2003年 同社 カード利用促進部
2006年 クレディセゾン転籍
2010年 ネットビジネス部 課長
2016年 インキュベーション部 部長
(兼) セゾン・ベンチャーズ 取締役(現任)
2018年 デジタル戦略グループ 部長(現任)
現在は、「デジタル戦略(テクノロジー活用)によるキャッシュレス化の加速度的促進」のミッション実現に向け奔走中。
株式会社クレディセゾン
〒170-6073 東京都豊島区東池袋3-1-1 サンシャイン60・52F
TEL:03-3988-2111(大代表)
URL:http://corporate.saisoncard.co.jp/
営業収益 278,944百万円(2017年3月期)
従業員数 2,289名