ITコンサルタント大木真吾氏に聞く -「今、必要なIT」 一般にはまだ 知られていない技術で 仕事がもっとラクになる
大木真吾さん
求められているIT技術とは
ITコンサルタントとして、中小企業に経費削減や効率化を提案している大木真吾さん。2017年3月からスタートさせたという、その起業のきっかけから伺った。
「大学院を卒業後、ITインフラのエンジニアとして理化学研究所やミクシィ、エス・エム・エスそしてDeNAと様々な企業でネットインフラのシステムの構築の仕事をしていました」
過負荷を受けたシステムがフリーズしないようにするにはどうすれば良いのか、などの問題について、コンピューター関連に詳しい人々と専門用語を飛び交わしながら討論する日々。
そこでの日々は、自分の興味を満足させる充実したものだった、と大木さんは言う。
「しかしふと思ったんです。今自分が夢中でやっている仕事は世間一般の多くの人に、本当にありがたい、と思ってもらえている仕事なのだろうか?もっと役に立っている、と思ってもらえる仕事が他にあるんじゃないのか」
インフラシステムを整備する仕事も勿論重要な仕事だ。しかしその周囲に、人々の感謝の笑顔はない。
社会人になって20年近くをこの世界で過ごしてきた大木さんが一念発起したのはその時だった。
大手企業にはそれぞれに専門のITシステムチームがあり、多数のシステムエンジニアを抱えている。システムの専門会社に多額を支払って外注することもある。そこで働くシステムエンジニアも、一昔前は高額のサラリーを受け取っている花形職業だった。
しかし、ほとんどの中小企業にとっては、IT技術を利用した経営など別世界の話だ。
「未だに従業員の出退勤をタイムカードを使って管理し、給与は経理や社長自身が手計算で行っている企業は多い。そこで多大な人的コストが費やされている」
その方法ではミスもあるし、そのミスを防ぐためにまた手間暇がかけられている。それが中小企業をどれだけ苦しめているか。
「実は、そんなムダを解決する技術は既に遥か以前に開発されて、市販されているんです。しかし日々の業務で手一杯の所だと、そんな役に立つ情報も目に入ってくることはない。だから、こういう役立つ技術を提案をしていくのが自分の仕事なのじゃないか、と思ったんです」
SUICAで出退勤の管理も可能に
出退勤の管理を、従業員が持つSUICAを使って行う。出入りの時に機器にタッチすることでタイムカードの代わりになる。それをパソコンの経理ソフトと連動させ、自動で給与計算も行う。
それによって大幅に人的コストを削減し、ミスも無くせる。このような、現場で人の役に立てるIT技術を広めていきたい。
「ただ、未だにコンピューターやシステムに抵抗のある経営者も多い。『コンピューターは理解できないもの』『システム会社に騙されて金を取られる』と。確かに中小企業に営業をしてくるシステム会社には、その会社には不要なシステムを提案している所も多い。私が見たことのある企業にも、業務に不必要なシステムを導入させられて、システム会社の言い値のままに多額の支払いをしている所がありました」
ITシステムに詳しくない経営者を騙すようにして高い契約を結ばせているようなシステム会社が横行している。それを発見し、経営者に是正を案内するのも大木さんの大事な仕事だ。
「今は起業したてで、何でもお手伝いしますよ、という気持ちでお客様と接しています。パソコンの買い替えや修理から声をかけていただいて、いずれ新しいシステムの導入や今使っているシステムの改善をする時に、相談相手にしてもらいたい。そういう知識を持った人が近くにいる、困った時に聞いてくれる人がいるということを知っておいてもらえるだけで、助けになると思います」
子供に、正しいITを教える
大学時代は教員を目指していて、教員免許も持っているという大木さん。今でも教育の問題には大きな興味を持っている。
「先生として働いている仲間も多く、今もよく話を聞きます。これからの世代は生まれながらにコンピューターやインターネットが身近にある世代。だからこそネットとの触れ合い方、ネットリテラシーをちゃんと教えないといけない。しかし学校という所はそういう新しいモノに対しては、アレルギー的に排除しようと動きます」
結果、学校でのコンピューター教育は何十年と遅れてしまっている。
一度は教育界に入って内側から変えていこうかとも思ったという大木さんだったが、その強固な体質を変えることは不可能だと悟り、今は違う方法でアプローチすることを考えている。
「知人のやっている学習塾を使ってプログラミング教室を企画しています。子供たちにパソコンを使ってロボットを動かすプログラムなどを作ってもらう。そうやってコンピューターを使ってできる可能性に身近に触れてもらおうと。文科省は2020年から学校でのプログラミング教育を必修化します。それを見越して、今から子供たちにプログラムの面白さを知ってもらいたい」
ただその文科省の方針にも不満がある、と大木さんは語る。
「学校は常に子供たちにきっかけを与えるだけ。その先の、エンジニアへの道筋を教えることはありません。教材もないし、教える人もいない。子供が興味を持ちその道へ進みたいと思っても、誰も手助けをしてあげられない」
アメリカのIT長者たち、マイクロソフトのビル・ゲイツやフェイスブックのマーク・ザッカーバーグ、テスラ・モーターのイーロン・マスクなどは、幼い頃からコンピューターに触れ、プログラミングを学ぶことで、自分の夢を実現するための第一歩を踏み出した。
コンピューターにはそんな可能性が秘められている。それをこれからの世界を生きる子供たちに伝えることは重要な仕事だ、と大木さんは言う。
「子供が興味を持った時にそれに気づき、適切な指導ができるのがベストだと思います。しかし学校の先生にはそこまで求められない。SNSなどのネットリテラシーも含めて、子供たちは放っておいてもいつか知ってしまう。だから、ただ危険なモノだ!と言って触らせないようにしておくのは間違いです。
今、生まれつきコンピューターがある世界に育っている子供たちはもっと使いこなせる。
だから近くにいる大人たちも一緒に触れて、一緒に失敗して育っていくことが大事なのだと思います。それがIT社会での教育に必要なことなのではないでしょうか。そうやって、学校の外から教育業界にインパクトを与えていくのも私の大事な役割だと思っています」
大木さん自身、6人のお子さんを育てているパパだ。だからこそ、このIT教育に対する提言には重さがある。
「こういうコトができたらいいのに」を実現できる
「友人の学習塾での話です。
そこは早くから子供の教育のタブレットを導入し、それで動画を見せながら勉強をさせているような所。そこのコンセプトは子供達の勉強部屋になりたいというもので、生徒はいつでも来て勉強ができる。しかし大学受験を控えた子などは、自宅では集中できないからと本当に毎日来るようになる」
そうなると、常に塾の鍵を開けておかないといけないし、子供たちを見ておくために誰か大人を在室させておかないといけない。なんとかならないものか、と相談を受けた大木さんは塾の鍵とスマホを連動させて開錠できるシステムと、室内を常にチェックできるカメラを提案した。結果、子供たちがいつでも利用できるようになりながら、人件費を削減することができた。
「一つ一つのシステムは私が生み出したものではありません。しかしそれがあることは知っている。ですから『こういうコトができたらいいのに』という経営者の願いを叶える、そんなアドバイスができる。それができれば企業はもっと良くなると思います」
エンジニアとして限られた世界にいるより、もっと人々の身近で役に立つ存在でありたい。そして、子供たちが夢を実現するためにも活用できるコンピューターをもっと広めたい。
これからの、より生活の傍らに在って「役立つIT社会」。それを大木さんは目指している。
〈プロフィール〉
大木真吾
1977年、神奈川県出身。
青山学院大学大学院理工学研究科物理学専攻を卒業後、独立行政法人理化学研究所ゲノム科学総合研究センターの研究用ITインフラ開発・整備を経て、株式会社ミクシィ、株式会社エス・エム・エス、株式会社DeNAのシステムエンジニアを歴任、2017年に独立。
男4人女2人の6児の父。
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