〈レポート〉47都道府県・事業スタートカンファレンス@茨城/水戸
〈レポート〉
47都道府県・事業スタートカンファレンス@茨城/水戸
(左から)中川ケイジ氏/小野剛氏/川崎篤之氏
本誌でもお伝えした山口豪志氏による47都道府県・事業スタートカンファレンスが、1月17日に水戸を皮切りにスタートした。
今回は盛況に終わったその様子をレポートする。(取材:菰田将司)
◇
「新しい会社が社会を活性化するんです」。
冒頭でそう話した山口氏。会場には三人掛けの長机がズラリと並べられているが、どれもぎっしりと人が座り、満員の賑わい。
今回は地元水戸を中心に活動する三人のコメンテーターをお呼びし、パネルディスカッション形式で、実際に起業した時のことを伺った
【登壇者】中川ケイジ氏
大学卒業後、美容師に。その後、転職し会社勤めをするが、馴染めず苦悩する。
東日本大震災をきっかけに鬱病を発症。その時出会ったふんどしの快適さに衝撃を受ける。
「ふんどしで日本を元気にしたい!」という思いから起業、2011年、おしゃれなふんどしブランド『SHAREFUN®(しゃれふん)』をスタート。
同時にふんどし普及に特化した㈳日本ふんどし協会を設立した。
─どうしてふんどしに目をつけられたんですか?
皆さん不思議に思われますよね。会場もざわついてますけど(笑い)。
自分が会社で悩み、鬱病になっていた時に、人に勧められたんです。後から聞いたら、その人は色々な人にふんどしを勧めていたけど、本当に実践したのは私だけだったらしい(笑い)。
けれど、素直に試してみたら、本当に快適だった。そこで、ふんどしもビジネスになるんじゃないかなと思ったんです。
─ビジネスとしてはどう展開されているんですか。
まず、推していくためにふんどし協会やふんどしの日を考えました。2月14日です!
それにオシャレで健康的だというイメージをアピールしました。その結果、大型百貨店などでも置いてもらえるようになりました。
メディアに出なくてもブームは作れる!というのを実践しています。
─どういう方が利用されているんですか?
まず女性に受けなければと思ったので、女性へのアピールを大事にしました。女性から男性にプレゼントしてもらおうと思って。
しかしある時、女性用はないの?というリクエストがあって。試しに作ったら、品切れになるくらい好評。今では利用者の六割は女性です。
こういう業態でやっているので、お客様の声がリニアに届いてきます。ユーザーの声は大切ですね。
─起業しようとした時に、どういうことに気をつけましたか?
このビジネスをやろう、なんて言ったら絶対に反対されるので(笑い)、人の意見をあまり聞きませんでした。直感が大事、まずやってみよう、と。
嬉しかったのは、妻が応援してくれたことですね。
起業しようと思った時に、家族が反対したから諦めた、というのはよくある。けど、自分にはそれがなかった。
あと、前の会社の名刺は全て捨てたのも良かった。真っ新な関係を立ち上げた人のほうが応援してくれるんですね。
─アドバイスをしてくれるメンターを持つことは大事だと言いますが、中川さんはどうでしたか?
メンターは、起業する前に聞いたらダメなんです。それはノイズになってしまう。
実際に始めてから持つのはイイと思います。また、一人に頼り切るのではなく、複数のメンターを持ったり、ある問題点だけというのもあっていい。
それにメンターは自分の仕事のレベルによっても変化する。そういう点を踏まえて持ったほうがいいですね。
─起業して、自身に変化はありましたか?
これをやってる!と堂々と言えるようになりました。自分で考えてビジネスをしていて、人に言わされていない。それは大きな自信になりました。
会場のどのくらいの人が起業されてるのでしょう?
(既に起業している人、という質問に三分の一、これからしようと思っている人、に五分の一ほどが挙手する)。
ほとんどの人は、やろうと思っても起業しません。
だから、今すぐ周りに言いふらしたりブログに書いたりしてください。やらないと勿体ないですから!
─2015年から水戸に在住、ということですが、水戸を選んだ理由はなんですか?
自分はパソコンがあればどこでも仕事ができるので、子育てに良い環境を求めて来ました。東京には週に一回ほど行っています。
気持ちのイイ環境で仕事ができるのは重要です。これからは、こういうスタイルで仕事する人が増えてくるでしょうね。
ただ、水戸は一時間で東京に行ける立地なのに、オシャレなお店が少ないのがたまにキズです(笑い)。
【登壇者】小野剛氏
積水ハウス㈱、㈱バウハウス丸栄などで設計の実績を積んだ後、2007年、双子の子供が生まれたのを機に妻の実家のある水戸へ転居。
カナザワ建築設計事務所で住宅・レストラン・古民家再生など数々の物件の担当。2014年、独立しono設計室設立。
─独立して設計事務所を開設する時に、不安を感じませんでしたか?
やはりその時には不安に思いました。特に、私は水戸でスタートしたので、個人宅が多い。そうなると地元の工務店、大工などとの繋がりが密接なので大変でした。
─すぐに仕事がたくさん来る、ということにはならなかった、と?
ならなかったですね(笑い)。ただ、設計は半年ほどかかり、現場で作業が始まっても数カ月はかかる。ゆったりとした長い仕事です。
そんな中で一年目で三棟建てることができたのは恵まれていました。
そのうち、以前から付き合いのあった大工さんが仕事を紹介してくれたり、と徐々に仕事が充実してきた。
─起業した時に、注意していたことはなんですか?
仕事がなかった時にも、それなりに仕事の話は来るんです。しかしそれは工場の建て替えなど、自分がしたことがない仕事だった。
勿論、苦手な仕事だからと避けるのはダメなのですが、設計という仕事の場合、それぞれの個性や得手不得手もあるので、断っていた。
なんでも飛びついてやらない、という選択をすることも自身の仕事の評価に繋がると思います。
─起業した際に助けになったことはありますか?
独立起業する前に、それを話していた周りの人が支援してくれましたね。案件の紹介をしてくれたりとか。
土地柄か、工務店にお金を払うことは納得してくれるのですが、設計にお金を出すということになると渋る人もいる。
そんな時に付き合いのある大工さんが話をしてくれたりもします。
また、同世代の同じような悩みを持っている人たちと話をしたのもよかった。俺だけじゃないな、と気持ちが奮い立ちました。
やる前に言いふらしておくのは、やはり大事ですね。
─起業してから、気をつけていることはなんでしょう?
常に勉強は続けています。自分が見たい建築物があれば、足を伸ばす。そこには時間もお金も惜しみません。
こういう努力を続けることは必要ですね。
小野剛氏(左)と川崎篤之氏(右)
─水戸で起業してよかったことはなんでしょう?
起業したことによって、自分のペースで仕事ができるようになったこと、そして仕事を選べるようになったことはよかったです。
オリジナルのTシャツを作って、お客様への引き渡しの時に全員で着て行ったり。
こういうことも独立しないとできなかった。
それに、水戸は持ち家率が高く、土地も広くて安い。なので設計の自由度が高い。設計士として楽しく仕事をすることができる。
こういうのは東京では味わえないです。
【登壇者】川崎篤之氏
元水戸市議として地域活動に取り組む。
現在は株式会社グロービス代表室プログラムコーディネーターとして、日本最大のビジネススクール、グロービス経営大学院の水戸キャンパスの開設に尽力(2017年4月開校予定)。
一般社団法人G1事務局を務めるほか、水戸のひとづくりNPO「あしたの学校」、環境・観光NPO「WaterDoors」なども立ち上げている。
─なぜ、政治家からビジネスの世界に?
2003年から8年間市議をしていましたが、いくつか失敗後に、政治は目標ではなく手段でしかないと気づいて、ビジネスの世界に飛び込みました。
ビジネスは誰かと繋がらないと広がっていかないので、2012年から東京を中心にビジネススクールを経営するグロービスという会社にお世話になり、G1サミットの事務局を担当しながらたくさんの人に出会ってきました。
地域の経営力を強くし経済を強くしたい、というのが議員時代からずっと頭にあって今年4月にグロービス経営大学院が地方で初めての取り組みとして水戸で特設キャンパスとして開設することとなりましたので、一歩前に進められたのではと。
─なぜ、水戸にビジネススクールを立ち上げようとしたのですか?
起業家を増やしたいと思います。それと同時に二代目、三代目の経営革新も重要です。
経営に携わっていく人たちが、受け継いできた信頼をベースに『親父のやり方を引き継ぐ』ことに、新しい経営の力を論理的に学び変革をしていくことを加えれば大きな力になります。
今の事業を転換しながら自社や地域の持つ底力をより発揮させることができる。
水戸出身の堀義人学長は、「企業の器は経営者の器。企業の伸びしろは経営者が如何に学んでいるか」だといつも言っていて、まさにその通りだなと僕も東京にいながら思っています。
─起業するときに必要なものはなんだと思いますか?
自分が注目した業種業態の近くにいる人を見つけてヒアリングし、情報を集めることです。また、そうすると人材と出会える。
人材とは自分の持っていないものを持っている人。自分と同じような人を集めてもしょうがない。自分の持ってないものを持っている人を集めてくる。
自分の心に『できるのか、儲かるのか、やりたいことなのか』という点がしっかりしていることも大事です。
それが決まっていると、チームを作る時、投資を募る時に、熱が込もる。人を巻き込むときに、それは必要なことです。
─起業する時に反対意見を言う人は必ずいると思います。それにはどう対処したらいいですか?
勿論、全ての人が応援団になってくれるということはありません。それにいちいち対応していくのは心の負担です。
ですから、たくさんの人に声をかける。たとえ1%の支持でも1万人に声をかければ100人の仲間が見つかります。
その人たちが自分の支持者たちになる。
─地方で起業するということのメリットはなんでしょう?
ターゲットを明確にしやすいことが挙げられます。
例えば水戸のライフスタイルや県民性にあったもの、という明確なメッセージを打ち出せる。それが成功すれば、横展開をすればいい。
顧客の反応を見ながら近い距離で実験ができることがいいのではないでしょうか。
ただ地方では、自己の判断より他人の評価を優先する、というところがあってそういうところに併せていく気遣いも必要ですね(笑い)。
【登壇者】山口豪志氏
クックパッド、ランサーズなどを経て、現在株式会社54代表取締役社長。
現在は全国のコワーキングスペースを利用した地域活性化の支援と、スタートアップ育成に奮闘している。
今回のカンファレンスは、新規で自らの事業を始めている人や志している人に、先人から事業創りのステップ論を語ってもらい、地域ごとで学びを共有するという方針でスタートさせました。
少し前まで安泰と言われていた大企業は新たな雇用を創出できていない。
創業から五年・十年という若い会社が新たな雇用を生み出し、経済を活性化させているんです。
─では、今、47都道府県全てを回るカンファレンスを始めたのは何故でしょう?
経済の東京一極集中だけでは中長期的には先細る。
それに対して水戸の様な東京近県には東京の良いところと地方の良いところの両方を得られる大きなチャンスが眠っているし、日本の地方で育った商品やビジネスというのは、外国の同規模の地域でも同じように受け入れられる展開も考えられる。
また今、全国のコワーキングスペースを中心に、各地でコミュニティマネージャーを育てて新しいビジネスが生み出せる仕組み創りを考えています。
今、都内一極集中ではなく地域にこそ新しい事業創りのチャンスがあるんです。
─新規で立ち上げた会社が、成長していけるかどうかのポイントはどこにあるのでしょう?
元々ベンチャーはニッチなマーケットを対象にしてますが、それは見方を変えると強みでもある。
大企業では採算が合わないように見えるニッチな領域において、できないことをやれるということです。
グーグルだって、今や世界第二位の大企業ですが、誕生してから二十年そこそこ。
他にも宿泊施設を簡単に探すことができるAirbnbや、自動車配車アプリのUberなど、新しい会社が世の中の仕組みをガラッと変えることもある。
しかし、思いつきがあり、新しい事業を立ち上げても、一人では完結しません。人・モノ・金、そして情報を集めないといけない。
今は様々なツールが用意されています。例えばMACROMILLのミルトークで自分の考えについて意見を集め、Questantでテンプレートを作る。ZOHOを使えば簡単にデータの管理もできる。
こういう情報をしっかり掴んでうまく活用することが重要です。
─最後に、今後の展望をお聞かせください。
新しい挑戦をするには時機なんてありません。思い立った時がチャンスです。
しかし、成功への最短距離を走り抜けるために、頭に入れておかなければならないことがある。それは新しいヒトとの繋がり、まわりの人の長所を掛け合わせ、短所を補うこと。
それを得るためにこのカンファレンスを利用してほしいです。
何より、経済は『ヨソ者・バカ者・若者が変える』んですから!
─ありがとうございました。
◆2017年3月号の記事より◆
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