M&A(親族外事業承継)で日本の経済を救済する!〜全国「虎ノ門会」レポート〈前編〉〜
◆取材:加藤俊 /文:菰田将司 /撮影:鹿野内太一
7月8日。M&Aアドバイザリーのプロフェッショナル集団「虎ノ門会」の全国会が札幌で開催された。
2015年5月号の本誌でご紹介した虎ノ門会だが、国内有数の公認会計士事務所や税理士、コンサル系企業と参加企業は増え、会員数も100名を越える運びとなった。会員が一堂に会す初めての全国会の様子を紹介する!
★本誌掲載記事(虎ノ門会インタビュー『仲介業者が牛耳るM&A業界、利益相反の両手取引にNO! 売り手側に付いた片手取引で高値売却を』)
虎ノ門会とは?
そもそも虎ノ門会は、事業承継問題に着目し、M&Aなどの手法を用いて、売り手・買い手双方のニーズにあった条件で事業を継承させることを目的として、2014年に結成されたアドバイザリー集団だ。
メンバーのほとんどは公認会計士や税理士だが、各種コンサルタント(資産運用、経営コンサル等)などの会員もいる。東京、名古屋、大阪、福岡、札幌、そして今年から大阪でも活動を開始したとのことで、メンバーは100名を超え、東京では30名ほどが参加している。
これだけの規模に拡大したので、今回、機密保持・情報管理の整備と、何よりお客さんへ虎ノ門会の紹介をし易くするために一般社団法人を設立することにしたそうだ。
「今後は、より共感できる仲間と情報共有し、会員のM&Aスキルを高められる会を目指す」と代表の田中謙太郎氏は語る。
本誌読者の多くの中小企業経営者のなかにも、自身の高齢化と、引退後の会社経営に頭を悩ませている方がいるのではないだろうか。しかし、その解決策にM&Aという手段を考えている人は、そう多くはない。M&Aという言葉自体は広く認知されるようになったが、まだまだ乗っ取りや買収、会社の消滅というイメージがついてまわっている。
さらに「M&Aは大企業のもの」というイメージも根強い。昨年、円高の後押しもあって日本企業の海外企業買収額が初めて10兆円を超えた。こういったニュースが流れるたび、M&Aは雲の上の話というイメージが強まることは否めない。
しかし、虎ノ門会は「こういった誤解されたイメージを改め、M&Aを効果的に活用するため」の活動をしている団体だ。
虎ノ門会は 門澤慎氏(株式会社プルータス・コンサルティング・公認会計士)、 岸田康雄氏(事業承継コンサルティング株式会社・公認会計士)、田中謙太郎氏(株式会社事業承継アドバイザリー)の3人が中心となって発足した。
「後継者がいなくなってしまってもM&Aを使えば、自分の立ち上げたビジネスを継続させていける」と門澤さんは語る。
だがM&Aは、仲介業者が「両手取引」、つまり、売り手と買い手双方に妥協させながら、とにかく取引の成立だけをさせている場合が多い。それだと仲介業者は利益を得るが、売り手・買い手両者に不満が残る結果になる。いわゆる「利益相反」だ。
そんな現状に対し、虎ノ門会では基本的に売り手側に立ち、売り手の利益を最優先にして話を進める。
「元々私たち3人も、会社は違いますが、M&Aに関わる業務をしていました。そこで感じた不満を会って話しているうちに意気投合し、この会を設立することを考えついたのです」(門澤さん)
M&Aは大企業のもの、というイメージがあるので、中小企業だとM&Aという手段はなかなか考えない。また、もし考えたとしてもM&A契約の手数料から利益を得ている仲介業者は多くのフィーが望めないので、相談に乗ってくれないこともある。
結果、泣く泣く事業を畳む、ということも多い。それは業績が好調であっても同じだ。
「うちの会社なんて売れない、と思い込んでいる経営者の方は多い。貴重な技術や経験で日本を支えた中小企業が無くなってしまうのは日本経済にとって非常に大きな損失」と田中代表も語る。
そんな悩みを持った中小企業の経営者の相談相手になれるのは、身近に接している税理士や会計士ではないだろうか。
「誰に相談すればいいのか、という悩みは大きい。結果、儲けることしか考えていない仲介業者に行ってしまう。そんな時、税理士や会計士の先生が、話を聞いてあげられる、もしくは知識を持っている人を紹介できたら、経営者の方はとても安心すると思います」(岸田さん)
そんな理念を持ってスタートした虎ノ門会。今回はM&Aの活用法を知ってもらうため、専門家の方々の講演が行われた。
M&A付随業務の案内
M&Aマッチングサイト トランビ 高橋聡氏
トランビは、国内唯一、売り手と買い手の直接交渉ができるオンラインのマッチングサイトです。一部では「法人の出会い系」なんて呼ばれていますが(笑い)。
現在、登録1796件、累計340件の実績があります。案件の5割はトランビだけのオリジナル案件で、また1億円未満の案件が多いというのが特色です。
登録ユーザーの6割は買い手側、つまり買いたい人の登録で、彼らにメルマガで随時情報を配信しています。この6月にHPをリニューアルし、専門家を紹介できる機能やM&A相談掲示板という匿名で書けるものを追加しました。
今後、検索ヒット件数を1位にし、M&Aを考えたとき、まずチェックされるようなサイトにしたいと考えています。
私たちは出会いの場を提供するだけですので、今後は虎ノ門会さんとも協力していきたいですね。
ファイナンシャルスタンダード株式会社 福田猛氏
M&Aアドバイザリーではないが、IFA証券会社で近年成長著しい、ファイナンシャルスタンダード社の福田氏の講演は、M&A売却後のお金の運用についてのお話となった。
─ ─ ─
M&Aをして売却するとオーナーのもとには現金が残りますね。その現金の運用を考えるのが当社になります。
外国ではIFA(金融商品仲介業者)と呼ばれていますが、日本ではあまり浸透していません。今は楽天証券と業務提携していて、お客さまにアドバイスや提案を行うのが主な業務です。
日本で証券はセールスで売りに来られる商品。勧められて買ったら損をした、という方も多い。お客さまは色々勧められて、『付き合いで』なんて理由で契約してしまっている。だから、信頼できる金融アドバイザーが必要だと思います。
その意味で、税理士・会計士の皆さんと提携していきたいと考えています。
虎ノ門会メンバーによる基調講演
事業承継コンサルティング株式会社 岸田康雄氏
虎ノ門会の発起人ということもあり、M&A業界の問題点と虎ノ門会の持つ可能性について触れたいと思います。そもそも売り手の利益の最大化ができる集団があったら、と思ってこの会を始めました。
私はメリルリンチや日興コーディアルなどでM&Aに関する仕事をやって来ました。しかし当時は成約が第一なので、両手取引になるケースが多かったのです。
心の裡では、これは本当にお客さまのためになっているのだろうか、という思いを抱きながら仕事をするといったことも少なくありませんでした。
言葉は悪いですが、手数料のことだけを考えるブローカー的な側面があったことも否定できません。売り手と買い手の双方に妥協してもらい、お互いに得になっていない。
今、虎ノ門会ではそれを改め、売り手側の利益を追求し、企業価値の最大化を真剣に考えることができます。それは大手仲介業者ではできないことです。
当然オークションにもなるし、厳しい競争にもなる。しかも私たちのフィーは片側からしかもらわない。そこを徹底します。これが本来のスタイルなんです。
業界として見た時、売りたいと手を挙げても半分は買い手が見つからず、塩漬けにされてしまっている案件となっています。これを早い段階からバリューアップし、経営改善して売れる会社になるよう提案していかないといけない。
仲介では成約できないそういう内部の問題に取り組めるのは会計士だけ。そういう意味でも多くの会計士が集まる虎ノ門会は重要です。
さくら優和パートナーズ 岡野訓氏
南九州最大の税理士法人、さくら優和パートナーズの岡野代表の講演は、不動産を絡めたM&Aのお話。
─ ─ ─
これは相談頂いた例なのですが、ある70代の経営者の方から、後継者不在だから自主廃業したい、という相談を頂いたことがあります。
しかしこの方、土地資産がありました。当然のことながら利益余剰金が多いと課税されてしまい、半分以上を税金として支払わなければなりません。
そのため、廃業という選択肢を安易に取るのではなく、土地が欲しいという方が出てきた場合、売却という選択肢もあることをお伝えして、実際に買い手を探しはじめました。というのも、不動産M&A、という形にすれば、分離課税で20%に節税することができますので。
結果的に、無事にM&Aが成立し、この方には大変喜んで頂きました。私共はフィーをもらって、しかも会社も存続するのでそこからまた収入を得ることもできる。債務がある場合でもそれを圧縮することもできます。
こういった事例が本当にあるんですね。
不動産M&Aはやりやすいので、一部からはけしからんといわれるかも知れませんが、まずはクライアントのためにM&Aを考えるという在り方が大事です。
普通なら宅建業務ができなければ不動産取引はできませんが、M&Aならこれができる。お客さまの利益を第一に、あらゆる手段を考えることが必要です。
株式会社プルータス・コンサルティング 野口真人氏
大手企業の有価証券を評価したり設計することで名高いプルータス・コンサルティングの野口代表の講演は、企業の適正な評価の割り出し方について。
─ ─ ─
いきなりですが、一つ問題です。ある店で400円のビールがあり、他の店で同じビールが350円で売っているとしたら、あなたはどちらの店で買いますか?
実はこの質問の答えは『どちらともいえない』(笑い)。なぜならビールを飲まない人にとっては意味がないものだから。
この質問の真意は『価値』と『価格』は別モノだ、ということです。M&Aでいえば、会社の価値を決めるのは価格ではない、ということ。価値は主観的、価格は客観的なもの。
ファイナンスの世界で価値は『合理的な人が対価として人に支払う』金銭的価値、と定義します。オークションや株式のように、一部の『合理的でない人』の主観で上下するものではない、ということです。
会社をM&Aするときに、その会社の金銭的価値より支払う価格が低かったら、そのM&Aはお買い得、ということになります。 価値には様々な尺度がありますが、会社の価値は将来予想される収益で決まります。
しかし『今日の百円は明日の百円より価値がある』ので、金利やリスクをふまえて考えなくてはならない。例えば、ライフラインに関わる電力・ガス会社などはリスクが低く、銀行・証券・保険会社などは高い。
こういった現在の価格、将来の割引率、そして期間の三つで会社は評価することができる。これらの点を考えて、M&Aを考えていかなければいけません。
ニンバスアソシエイツ株式会社 西崎泉氏
グローバルなM&Aアドバイザリー業務で長い経験と豊富な実績を積んだプロフェッショナルで構成される会社ニンバスアソシエイツの西崎代表のお話は「会社売却の注意点について」。
---
まず必要なのはしっかりした事前準備。経営者の心は常に揺れています。何を優先して考えているのか。ただ比較だけ、なんて人もいる。また、経営者の奥さんや株主など、色々な影響者がいるので、注意が必要です。
次に、会社の現状、特に経営・事業・数字・法務面などをよく把握しておくことです。本当に売れる状態なのか。後継のことも考え、事業計画を作成することも大事。
計画作りの中で問題も浮き出てくるので、それを克服する方法、反省などを掴んでおくことも必要でしょう。
どのくらいの価格で売れるのかを想定して、オーナーと話しておくことも大事です。オーナーの期待値が高すぎて話が決まらないこともあります。
買い手は幅広く探し、一社一社訪問して話をし、興味のあるところを絞り込んでいきます。その時、どういう情報をその会社が求めているのか、ということを考えます。
競争入札はしたほうがいいです。M&Aは、最初は売り手が強いのですが、相手が絞り込まれてくると『ウチしか買い手がいないんだろう』となって、買い手が強くなってきます。
フェアにやっていくことはとても大事ですが、ギリギリで交渉がまとまらず、それから別の会社に、となるのはダメージが大きいので、並行して何社かと話をするのがいいでしょう。
オーナーへの報告はマメに。気が変わることは本当に多いので、オーナーから指摘される前にこちらから言いましょう。些細な問題が大きくなることもあるので、油断は禁物です。
最後に。売り手と買い手の信頼感はとても大事です。我々も、片側のアドバイザーだからと、相手と敵対することのないようにしましょう。
日本プライベートエクイティ株式会社 法田真一氏
後継者不在で事業承継に悩む中堅・中小のオーナー企業や大企業の事業再編に伴って分離独立する事業部門や子会社に、ファンドによる投資を通じて、事業存続と企業価値の向上を支援する、“バイアウト(Buy-Out)ファンド”の日本プライベート・エクイティの法田代表のお話は、「M&Aを用いた事業承継の選択肢にファンドも含める」について。
---
M&Aに拒絶反応がある人には、事業承継の選択肢の一つにファンドをおすすめすることが効果的です。
例えば、後継者不在、債務保証がいや、資金がないといった人に対し、中立性・流動性・柔軟性といった点で訴求力があります。
ファンドでは、3年から5年で企業価値を高めて、次にバトンタッチする。それからは事業会社や違うファンド、もしくは上場するケース、元の経営者が買い取る、などのケースもある。
最近多いニーズとしては、会社はもっと発展する可能性があるのに、経営者の年齢的に難しい、というものがあります。
他にも、会社を売ることに躊躇している例や、売りたいのにプライドが邪魔している例など。これらのニーズに対してファンドが有効なのは、ファンドは成長のために助けになる、会社を伸ばせる、成長戦略を実現できる、という点です。
お客さまは停滞期にある会社が多く、年商10億から30億くらいがほとんどで、企業価値も同じくらい。私たちは今まで25社お手伝いしてきましたが、30億円未満が過半数でした。19社はもう次にバトンタッチしています。
企業買収を考えるハゲタカファンドばかりではない。M&Aで、いうなれば『お見合い結婚』してもいいでしょうが、ファンドに任せることによって選択肢は広がるのです。
http://www.private-equity.co.jp/
ジェイ・ウィル・パートナーズ 藤井雅巳氏
再生ファンドとして名高いジェイ・ウィル・パートナーズの藤井氏のお話は「再生ファンド」について。
---
3000億ほど資金を集め、現在、150件ほどに投資しましたが、ファンドでこの件数は非常に多く、様々な分野で経験を持つことができました。
再生ファンドと呼ばれる所以は、会社の資本の部分に投資するのではなく、銀行の債権を購入し、価値をつけて投資しているから。
一般論でM&Aに適した企業とは株式に価値がつく会社で、その場合はオーナーの持っている株式に投資します。
しかし再生ファンドは違い、債務超過の会社でも買う。債務に投資するということは、債権者は銀行なので、銀行から購入する。だから額面の価値がつくわけではなく、資産に伴う事業の価値で買います。
また、会社によっては、業績の良い事業と悪い事業があり、統合すると赤字になっている、という企業がありますが、そこには事業分割の提案をしたりします。不採算店舗を閉めたり、赤字事業を分割したり。
債務があるところなら、一旦民事再生して法的な整理を行う、ということもあります。
このように、債務超過でもM&Aを成立させ、企業を存続させることができる。赤字部門と黒字部門を冷静に分析し、例え赤字があっても、全体を見渡し適正な評価を下すこと。それが私たちの基本的な考え方です。
一般社団法人 虎ノ門会
http://www.toranomon-kai.com/
◆2016年9月号の記事より◆
WEBでは公開されていない記事や情報満載の雑誌版は毎号500円!
▸雑誌版の購入はこちらから