オビ インタビュー

座談会・本当のM&Aとはなにか?

企業の事業承継を考える「虎ノ門会」の目指す先

◆聞き手:加藤俊 /文:菰田将司

虎ノ門会 IN NAGOYA

 

東海地域の企業を守るべく、M&Aのスペシャリスト集まる!

 

最近M&A業界の動きが活発だ。従来のアドバイザリー業者以外の参入が目立つのが特徴で、巷では企業に一番近い存在である公認会計士や税理士の勉強会が開かれるようになってきた。背景にあるのは、経営者の高齢化に伴う後継者不在問題。

今回は東海地域で後継者不在に悩む企業に、事業承継の観点からM&Aのアドバイスをしている「虎ノ門会IN名古屋」にインタビューを行った。

 

◆虎ノ門会が東海地域で活動する理由

―虎ノ門会は元々、中小企業の事業承継マーケットにおいて、売り手企業のために事業承継のアドバイスを行う(仲介ではなく、売り手企業にのみアドバイスを行う)組織がなかったため、本来あるべき姿である売り手企業の求める条件を獲得するために、公認会計士の岸田康雄先生と門澤慎先生、ドリームインキュベータの田中謙太郎氏の3名が中心となって、結成されたのが始まりと聞いている(2015年5月号掲載)。

東京の虎ノ門会では既に多くの会計士や税理士の方たちが定期的に勉強会・情報交換会を開いているが、今回事業承継の相談とそれにともなうM&Aの提案を、名古屋を中心とする東海地域でも積極的に展開していく理由とは何なのか?

 

小田一之氏

小田一之氏 (名南M&A株式会社・以下、小田)この地域の経営者には、会社の今後に不安を抱えている経営者が多数います。

やはりトヨタさんを代表とする大企業傘下の製造業が多いことが特徴となる地域なので、会社が事業を拡大したいと考えても、一社の判断でそう簡単に動ける世界ではなかったりします。だから、M&Aも東京に比べると活発とは言えません。

しかし経営者は高齢化し後継者も不在、会社の今後に不安を覚えるケースは他地域同様増えているので、これから東海地域でもM&Aの活発化が求められているのです。

 

 

小木曽正人氏

小木曽正人氏 (小木曽公認会計士事務所・以下、小木曽) そのとき問題になってくるのが、「経営者」と「会計士や税理士」との距離の遠さです。経営者の方は後継者問題を他人には相談できず、胸に秘めている人が多い。このような中、後継者問題についていち早く気がつけ、一緒になって問題解決に取り組むべき存在となるのが顧問の税理士や会計士です。

事実、後継者問題で相談しやすい相手として「税理士」というデータも出ています。

 

しかしながら、このような後継者問題の解決に関する知識を持っていない税理士、会計士の中には、解決に導く他の専門家に頼むこともせず、この問題に目を瞑り、問題を先送りにしている方もいるのが現実です。

特に老舗企業だと、古くからの馴染みの先生がついていることが多いのですが、その先生が最新の知識を持っていないことがある。後継者問題が、M&Aで活路が開けるかもしれないという有益な情報が、経営者の方の耳まで届いていない傾向が見られます。

 

 

磯村崇氏

磯村崇氏 (株式会社コスモスコンサルティング・以下、磯村) 事実、我々のところに相談に来る経営者も「今の顧問税理士には、後継者問題は相談できない」という理由が多くなっています。経営者の問題意識が強くても、相談を受ける顧問税理士の意識が低いと、悩みの解決にはつながりません。

事業の仕組みはどうなっているか、どこと取引をしているのか、どのように材料を調達しているのか、従業員の採用基準は何なのか、そしてどんな会社にしたいと思っているのか。後継者選びには、事業に対する深い理解が求められます。

しかし事業をおざなりにした、数字上の相続対策だけ行なっていては、本当の意味での事業承継のサポートはできません。

 

 

秋元厚輔氏

秋元厚輔氏(名南M&A株式会社) 一番の問題は、事業承継問題をそのまま放置してしまうこと。

税理士が提案を怠ったために、適切なタイミングで事業承継のアドバイスをしていれば、本来であれば救えただろう企業が潰れている現状を変えなければなりません。

60歳の時に手を打っておけばよかったのに70歳になってから考え始め、結果安売りせざるをえなくなった、こんな話は枚挙に暇がありません。M&Aが成功三割、失敗七割といわれる所以です。

 

 

田中謙太郎氏

田中謙太郎氏(株式会社ドリームインキュベータ・以下、田中) だから東海地域の先生方にも、M&Aの視点を持って頂きたいと思い、情報交換や勉強会を行う虎ノ門会IN名古屋を定期的に開催しております。

潜在的に事業承継に悩んでおられる企業のオーナー様に、日々直接面談され・相談相手となっている税理士・会計士の先生方がM&Aの知識を習得し、経験を積めれば、事業承継の機会喪失による雇用や技術が継承されないことを防げ、日本経済の活性化にも繋がります。

同時に、本来存在すべきであった売り手側のみの立場でのアドバイスを行う組織が東海地区にもなかったため、虎ノ門会IN名古屋を結成し、後継者問題に悩む東海地区の企業オーナーの方々が、気軽に相談できる場を提供することも行っております。

 

 

◆M&A仲介の問題

―しかしM&A仲介業者もたくさんいる。M&Aを全国展開する大手企業などは取り扱い件数も多いし、企業を売りたい経営者にとってもノウハウと情報量の差で、大手の方が良いように思えるが?

 

田中 M&A仲介業とは、売り手・買い手の両方から報酬を得る取引です。企業を売りたい人は1円でも高く企業を売りたいでしょうし、買いたい企業は逆に1円でも安く買いたいはず。仲介業者が行う事業承継案件はトレードオフの関係(利益相反取引)となるため、ウィン・ウィンの関係で案件が成約されることは難しい。

且つ、仲介業者にとって買い手企業は次回以降も顧客に成り得る、また立場が弱い売り手に条件を譲歩させる傾向にあるため、必然的に買い手側に都合の良い条件に収まる傾向が多く見られます。

売らざるを得ない・どこでもいいから買って欲しい、またM&Aを良く知らない・自分の会社の本当の価値を分かっていない売り手側オーナーの足元を見て安価で手放させることすらある。そこまでいかなくてもかなりの妥協を迫られてしまう。

 

それでは、経営者の思いを本当に継いでくれる人に託す、という本来の考えからはかけ離れてしまう。それはおかしい。M&A仲介業者は、両手取引をしたがるのは、自分たちのフィーの最大化のためであって、顧客のためではない。要はM&Aの仲介大手だからといって、安易に信頼してはいけないのです。

 

 

小木曽 他のM&A仲介との違いというのは、我々メンバーの多くが会計士や税理士、コンサルティングのプロフェッショナルであることです。そのため、アドバイザーの仲介手数料だけを目的としたM&Aではなく、本当に経営者の思いを汲んだM&Aという理想を実現できる組織と考えています。

 

 

―そうすると、従来のM&A業者との違いというのは?

 

小木曽 経営者のことを一番近い距離で見ているのは、税理士や会計士です。当該企業のことを一番深く知っている人間が、きちんと事業承継やM&Aのことを勉強して、適切なアドバイスを行えるようにならなければなりません。

東海地域の中小企業の後継者問題を解消するために、この地区の士業やM&A業者で集まり勉強会を開こうというのが、虎ノ門会の趣旨の一つです。

後継者がおらず、企業を他の会社に委ねたいと考える経営者がスムーズに、最適なパートナーとM&Aができるようにする。経営者が一人きりで悩んでいることなく、気軽に思いを吐露できる場、虎ノ門会はそういう場でありたいと考えています。

 

 

◆自社を守るために、M&Aの知識を

事業承継は誰しもいつか考えなくてはならないのに、緊急性に乏しいためか、先送りされていることが多い。経営者へのアドバイスは?

 

磯村 自分がリタイアした後の自社のイメージを、日頃から意識することが経営者には求められていると思います。自分がいなくなっても事業が回る組織を作ることが、事業承継の成功への一番の近道です。日常の業務に事業承継を落としこむことができれば、先送りにすることはまずなくなると思います。

具体的な不安や悩みが出てきたら、まずは顧問税理士に相談してみて下さい。顧問税理士の対応が良くないと感じるのであれば、経営者自身が情報を集めるべく、動いたほうが良いかもしれません。

自社を守れるのは、経営者だけです。事業承継を他人事として捉えるのではなく、自分事として捉えることが何よりも重要なことです。

 

 

小田 事業承継の準備は経営者が考えるべき、究極の仕組み作りと言えます。経営者が会社を離れても、その会社が歩みを止めないようにすることなのですから。

しかし、それを自覚している経営者は少なく、能力がある人ほど自分が手出し・口出しをしてしまう。自分がいないと回らない会社にしてしまっている。これは事業承継を考えた時に理想的な形とは言えません。自分の技能を如何にして後世に託していくかという認識の有無は大きい。

 

 

―業種による違いなどはあるのか?

 

秋元 私は主に医療・介護業界を専門にしているのですが、ここでも後継者問題は深刻です。現在は地方・都市関係なく、医師の子息が親の後を継がない。特に医院・診療所などの小規模の医療機関では90%近くが後継者不在というデータもあるのです。

医師の確保や人口減などの問題で、病院経営が魅力的でなくなっているのが大きな要因ですが、とはいえ全くの他人に後を継がせることに二の足を踏んでいる病院経営者は多い。

今後医療や、特に介護業界は拡大していくと考えられており、M&Aも活発になっていくことが予想されています。地域に医療機関を絶やさないためにも、我々がきちんと医院を経営している一人ひとりの方の声を拾っていけるよう、努めていきたい。

 

 

事業承継の相談をするタイミングはいつがよいのか?

 

磯村 本気度にもよりますが、やはり早ければ早いほどいいでしょう。会社を引き継ぐご子息がいないのであれば、経営者が40代の時から考えていてもおかしくはありませんし、60代になるまで引っ張る必要もありません。

自身の引き際を決めるのは経営者自身です。決断を先延ばしにすれば、不安要素が大きくなるだけです。最適な後継者を指名することが、社長としての最後の仕事です。しかしながら、忙しい社長業の合間にご自身だけで納得のいく後継者選びを行なうのは至難の業です。

疑問や不安を感じたら、まずは経験値の高いアドバイザーに相談することをおすすめします。優秀なアドバイザーであれば、事業承継を前向きに捉える手助けになること間違いありません。“勇退”という意識をもって後継者を選べば、きっと納得のいく事業承継になることでしょう。

社長の勇退のサポートし、価値ある事業を未来に残すことが我々の仕事です。その積み重ねが、東海地域、ひいては日本経済を活性化させる一助になるのではないかと我々は考えております。

 

―ありがとうございました。

 

東海地域の企業の特徴として、内部留保は高いが利益性に欠けるということが言える。これは地域柄、経営者が「無借金経営がよい経営」というイメージを強く持っているため。そういう考えなので、土地などの高額資産を保有している企業が比較的多い。しかしそれがM&Aの時にはネックになる。会社の業績に比して買収の金額が高くなってしまう傾向があるのだ。

ただ、裏を返せば資産を持っているので、自社の事業拡大のためにM&Aを考えることができるところが多いとも言える。

そういった点をM&Aを提案するアドバイザーが上手く説明し企業をリードしていくことが求められており、中部経済圏の活性化のために、地域の会計士や税理士、M&Aのアドバイザーが情報交換をすべく集まりだした虎ノ門会には期待がかかる。

 

<別掲・経営者へのアドバイス>

コカ・コーラを世界的企業に育てた元社長ロバート・ウッドラフは「自分よりできる人に任せられるときには、迷わず任せることだ」と語った。永遠に自分の会社を指導していくことはできない。人を信頼できる能力を養い、一日でも早く事業承継の仕組みを作り上げておくことこそ、自分の会社を活かし後世に伝えるための最良の方法なのだろう。

オビ インタビュー 虎ノ門会IN NAGOYA (1)

(写真左から)

小田一之氏 名南M&A株式会社

http://www.meinan-ma.com/

田中謙太郎氏 株式会社ドリームインキュベータ

http://www.dreamincubator.co.jp/

小木曽正人氏 小木曽公認会計士事務所

http://ogiso-cpa.com/

磯村崇氏 株式会社コスモスコンサルティング

http://www.cosmos.gr.jp/

秋元厚輔氏 名南M&A株式会社

 

2015年11月号の記事より
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