埼玉県越谷市に本社を置き、関東全域へ出張オイル交換サービスを展開する株式会社オイルサービス。同社は、トラックに特化したビジネスモデルと、整備士による提案型の営業スタイルにより、2003年の創業当初から着実な成長を続けている。

自身も元トラックドライバーである代表取締役の藤堂哲志社長に、創業までの経緯や同社の強み、自動車業界で整備士不足が懸念される中での、今後の事業の展望について伺った。

 

 

トラックドライバーの長時間労働を減らし、担い手を増やしたいと事業を開始

株式会社オイルサービスの「出張オイル交換」は、元大型トラックドライバーである藤堂氏の「トラックドライバーの長時間労働を解消し、少しでも楽にしたい」という想いから生まれたサービスだ。

走行距離や車体状況にもよるが、通常トラックドライバーがオイルを交換するのは、月に1〜2回。頻度としては決して多くないものの、長時間運転を強いられるドライバーにとっては大きな負担となる。

 

「修理工場までの道のりや待ち時間を含めると、一度のオイル交換で拘束される時間は約2時間。下手をすれば半日かかることもあります。仕事を終えてようやく帰宅できると思ったら、会社から『交換して来い』と言われる。でも本音は行きたくない、ですよね」

とはいえ、エンジントラブルや故障などから車を守る点で、オイル交換は欠かせないメンテナンスだ。そこで藤堂氏は「出張型のサービス」を提供することで、定期的なオイル交換を望む企業側と、交換業務を負担に感じるドライバー側、双方のニーズを叶えられると考えた。

 

藤堂氏が事業を起こした理由は、もう一つある。それは、自身と同じようにトラックドライバーになりたい若者を1人でも増やしたいという想いだ。

 

「私たちが子供の頃は、映画『トラック野郎』が流行するなど、トラック運転手=格好いい存在でした。しかし、残念ながら今は純粋にトラックに憧れて業界に入る若者は減っています」

トラックドライバーの求職者減少に歯止めをかけるには、長時間労働など働く環境の改善が必須だ。そのためにも、多くのドライバーが負担と感じる業務を軽減したいと、藤堂氏は考えた。

その頃は、乗用車と営業車を対象にした出張オイル交換はあったものの、トラックに特化した会社はなかった。そこで、同業者や仲間たちにビジネスの構想を伝えたところ「皆が助かる」という声が多かったことも後押しとなり、2003年に現在の会社を設立した。

流の2024年問題のリアル。オイルサービスの事業が運送会社の利益改善の一助に

企業がオイル交換サービスを導入するメリットは、トラックドライバーの作業負担の軽減や長時間労働の解消だけにとどまらない。燃料補充などとは異なり、比較的緊急性が低いと思われがちなオイル交換だが、適切なタイミングでのメンテナンスは、長期的に見れば企業の経費削減にもつながるのだ。

 

「定期的なメンテナンスを怠ると、燃費が20%以上落ちることもあります。トラックの保有台数が多い運送会社であれば、月間で数百万単位で燃料代が変わってくるわけです。加えて、燃費が良くなれば車体の故障率低減にもつながります。目先の出費に囚われず、数年単位でのメリットを考えてもらえたら」

長年取引のあるお客様からは、サービス導入後、固定経費が着実に減っているという声も届いている。必要コストが削減できれば企業に利益が生まれ、巡りめぐってドライバーの待遇や給与面に反映される。微力ながらも、自分たちの事業が運送会社の力になっていることに藤堂氏はやりがいを感じている。

「物流の2024年問題」も懸念されているように、ドライバーの労働時間がより制限されることから、運送業界ではいかに人材を活用し効率よく輸送するかが求められている。人件費や燃料高騰と、今後ますます企業経営が厳しい局面を迎える中、藤堂氏のオイル交換事業は運送会社の利益確保という点でも、大きな役割を担っているのだ。

特化型のビジネスモデルと提案型営業で、長時間労働せずとも「稼げる整備士」を目指す

ニッチな分野での事業展開と、お客様が「当たり前のことを当たり前にできるようにお支えする」をモットーにした丁寧な対応から、創業以来仕事が絶えることがない同社。関東圏以外のお客様から「追加でかかる費用を払ってでもいいから」と、声がかかることも少なくない。

しかし一方で、藤堂氏を悩ませるのが事業を拡大する上で欠かせない「整備士」の不足だ。カーディーラーの縮小に伴い、自動車整備士自体は余っているにも関わらず、人材が集まらないのだ。その原因は、整備士が「国家資格」であるにもかかわらず、給与面や待遇面において報われないことにある。

 

「冷房の効かない場所で、薄給・長時間労働するなど、整備士を取り巻く環境は昔からほとんど変わっていません。そのため、将来のキャリアを描けず、若い世代ほど異業種に転職する傾向にある。しかし、適切なスキルを積み効率的に仕事をすれば、整備士は本当は稼げる仕事なのです」

その言葉通り、オイルサービスの整備士は週休2日制を取り入れながら、ディーラーで働く整備士の2倍稼げる場合もあるという。それが可能なのは、ビジネスモデルを「オイル交換のみに絞っているから」だ。お客様から修理や整備の要望もあるものの、整備士の拘束時間を考慮し、現状同社ではオイル交換以外の業務を受けていない。

その代わり、同社ではオイル交換の際にタイヤ、バッテリー、ブレーキランプ、クラッチフルードほか、10項目をサービスで点検し、問題箇所が見つかれば顧客が提携する修理専門店での修理を勧めている。そうすることで、顧客の安心や信頼を損なうことなく同時に整備士の労働環境も守っているのだ。

一方で、雇用される整備士の働き方にも独自の工夫がされている。一般的に、「修理車を待つ」という点で受け身になりがちな整備士の仕事。しかし、オイルサービスの整備士は、自分が行うオイル交換のスケジュールを自ら計画している。

 

「当社では、整備士自身が営業マンとなり、お客様に直接アポイントをとったり、次のオイル交換時期を提案したりもします。お客様のご希望と自分の予定を調整しながら、自主的にかつ柔軟に動いているのです」。

オイルサービスでは、給料制度に基本給+歩合制を採用しているが、そのうち歩合制の比重が大きいため、整備士の計画性や動き方次第で給与が変動する。つまり、顧客のニーズを捉え、能動的に動ける社員ほど、稼げるという仕組みが備わっているのだ。

藤堂氏はこの仕組みを持って稼げる整備士を増やし、「整備士=薄給・長時間労働」というイメージを払拭することで、自動車業界の整備士不足を解消したいと考えている。

整備を必要とする人の助けになりたい

今後も、トラック特化型の出張オイル交換サービスを軸に、事業を展開することに変わりはないと語る藤堂氏。一方で、整備士の安定的な雇用が実現し、社内体制が整えば、新たに挑戦したいことがあるという。

その一つが、車の点検・修理を望む人と整備士をつなぐことだ。特に「メンテナンスリース期限を過ぎた車」のメンテナンスに高い関心を持っている。通常メンテナンスリース車には、数年の保証がついているものの、保証期間が終わる頃に車が故障するケースが多い。そのため、持ち主自らメンテナンスする必要が生じるが、修理する場所探しに難航するのだ。

 

「近くの修理屋は混んでいて予約がとれないし、ガソリンスタンドはセルフだから難しい。途方に暮れていたところ、偶然弊社を知って相談に来られる方もいらっしゃいます。目の前に困っている人がいるのに、すぐに助けられないもどかしさを感じます。もっと簡単に利用者と整備業者をつなぐ仕組みを整えられたら」

藤堂氏は、高い技術を持った整備士がフレキシブルに働く仕組みを整えることが、このような困りごとを解決する糸口になると踏んでおり、そのためにも整備士の雇用を増やしたいと考えている。

自身のトラックドライバーとしての経験から、ドライバーの負担を少しでも軽減したいとオイルサービスを創業して20年以上が経過した。安定的に利益を上げ、事業は順調に拡大している一方、自動車業界における整備士不足など、新たな課題にも直面している。

 

整備士の働く環境を改善し、本当に整備を必要とするお客様により良いサービスを届けるべく、藤堂氏は日々奮闘している。