筒井潔オビ1

維新の党 木内孝胤衆議院議員・特別インタビュー『安保法案から見る日本の外交問題』(2)

◆取材:加藤俊 /文:山田貴大

オビ インタビュー

木内孝胤氏 (4)

 

木内孝胤議員に前編では、安保法案について維新の党が掲げる独自案について伺った(前編はこちら)。後編では、日本がAIIBの参加を見送った裏側、はたまた通貨革命と叫ばれる仮想通貨の可能性まで現代の日本人が考えていくべき今後の外交問題に迫る。

 

世界における仮想通貨の可能性

筒井潔氏

筒井:話を変えさせて下さい。木内先生は先日、ビットコインなどの仮想通貨に関して、野口悠紀雄先生(経済学者)と対談をしていますよね。実際、近年仮想通貨が齎す通貨革命の可能性が世界的に指摘されるようになりました。

中国ではビットコインなどの取引所が物凄い勢いで伸びていき、政府が規制に乗り出しました。国境のない仮想通貨がドルや人民元を凌駕する事ができるのか。ぜひ意見を聞かせてください。

 

木内:日本で流行るのはマウントゴックスの事件の影響などもあり、少し時間が必要だと感じていますが、『auウォレット』や『LINEコイン』、または『T-ポイント』のようなポイントが裏付けとなっているものを仮想通貨と捉えると、日本に於いても広がる土台はできていると言えるでしょう。

世界を見渡してみると、通貨が安定している国は意外と少ない。一部の東南アジアやアフリカに至ってはタクシーなどで現地通貨が通貨としての価値を成していません。だからといって、おいそれとドルを持つわけにもいかないので、LINEのショートメールによる擬似仮想通貨で決済をしているところもあるようです。

私はルーブル危機が起きた時にモスクワにいました。もちろんルーブルでは決済ができないので500ドル分を1ドル紙幣で持っていました。似たような状況の国が世界にはあるので、そういった環境下で、仮想通貨が流行る可能性は多分にあると思います。

 

海野世界戦略研究所会長秘書(以下、秘書):通貨としてきちんとしている国よりは、そうではない国の方が爆発的に広まるということですね。日本がそれを追いかけるという展開は考えられるのでしょうか。

 

木内:そうですね。ありうると思います。しかし、仮想通貨に確たる裏付けがないとバブルのようになってしまう危険があります。では裏付けを何にするのか。例えば金本位制だと金が通貨の裏付けです。むしろ通貨はただの紙なので、いつ崩れるか分からない。

 

秘書:紙そのものに価値がないということですね。仮想通貨の規制について、普及し始めた時にどういった形になるのか。何かお考えでしょうか。

 

木内孝胤氏 (2)

木内:その裏付けは軍事力や経済力であり、政府の保証です。そもそも、国が持っている一番の権力は通貨発行権、あるいは消費税などを決められる徴税権です。通貨発行権については、日本銀行がどんどん円を刷って国債を買い入れていますよね。ところで仮想通貨はこの通貨発行権と似たような話です。

つまり、国の基本的なスタンスとしては、規制というよりも仮想通貨自体を一切認めたくない。国の力の源泉が揺らぎかねないのですから。そのため、あえて法律や規制をかけるのではなく、今のところ静観を決め込んでいるのだと思います。

 

秘書:国として通貨の権力を持っているとお話されましたが、広がる前に規制をかけて、伸ばさなくする可能性はあるのでしょうか。また国が積極的に介入する可能性はありますか。

 

木内:今まで存在していなかった新しいものなので、勝手にやられても規制はかけることができません。それに買うという行為自体を禁止することもできません。しかし、存在が大きくなると自己資本比率規制等を行う可能性はありますが、それによって国が裏付けになる恐れがあるので信用補完という形になるかもしれません。

 

もしも仮想通貨が伸びていくのであれば、先ほどの『T-ポイント』ではありませんが、普及しているサービスとうまくリンクしたときに一気に広がると思います。

 

 

中国が主導権を握るアジアインフラ投資銀行

筒井:AIIBについてはどうでしょうか。中国のアメリカに対する挑戦と見るのか、様々な解釈が成されています。日本は乗り遅れてしまったので、選択肢が減ったと感じていますがどう思われますか。

 

木内:AIIBについては、2013年10月に習近平氏が構想を発表したことに端を発します。世界の国際通貨体制に対するチャレンジと私は思っています。これまでの中国は不動産や株などの資産インフレバブルで成長してきました。しかし成長率に陰りが見え始め、実際に株価は3割ほど下がっています。こうなると、経済が急速に萎む可能性があります。

では落ちた経済をどこでカバーするのか。アジアのインフラ事業は合計で1000兆円規模と言われていますが、中国だけでお金を回すことはできません。そこでAIIBを作ることにより、例えば50兆を出すとレバレッジが効いて、300兆円分のインフラができる可能性を生みだしました。

 

ただ、当時の日本からしたらIMF(国際通貨基金)やADB(アジア開発銀行)があり、こうした既存の枠組みの中で主流派だったため、新たに入られても国益から考えてプラスになることはありませんでした。それにADBからお金が出ているインドや中国が、似たような国際通貨銀行の最大出資者になるのは利益相反の観点から明らかにおかしいことです。

 

こうした点を考えるに、日本は拒むのであれば潰さなくてはいけないはずでした。しかし、潰す作業をしてきませんでした。結局、孤立してしまったのは日米でイギリスは総選挙を抱えている事情もあり、突然参加表明をしましたが、カナダ以外の有力な同盟国もほとんど参加をしています。甘く見て約30カ国と予想されていた参加国は、ふと気づいた時には57カ国。これはやはり日本政府としての大失態です。

 

その後、参加の判断をする際に日本が一つの基準としたのは、希望しないプロジェクトにお金を出すことを止める力があるのかどうか。嫌なものを嫌だと言える拒否権があるのかどうかでした。

一応、ルール上は75%の議決で拒否ができるようでしたが、中国が握っているので残りの国を全部足しても拒否権がないのです。そのような組織に乗れるかといったら、これだけでも乗らない理由になりますよね。

 

しかし、中国は議決にこだわっていないようで、アメリカと日本が入るのであれば、拒否権がある形のガバナンスにして良いとも言っています。ただ、入り口で失敗だと思っている関係者が遅れて参加するのを嫌がったため、それすらも日本は交渉していません。またアメリカも感情的な部分や議会の承認を取ることができない背景があり、割りと早い段階から嫌がっています。アメリカが乗らない以上、日本は乗る選択肢がない。

 

そもそもアメリカを巻き込んで拒否権がある形にするとか、ガバナンスを自分達の目的に沿う形でやろうする交渉をしていないので、私は大変けしからん話だと思います。この点に関して、4回ほど外務委員会で質問をしていますが、情報不足のため入るべきなのか何とも言えません。しかし、ガバナンスや拒否権が問題であるのならば、カバーをできるように交渉するべきですし、アメリカとの足並みもきちんと揃えるべきです。

 

結局、最後は中国を取り込むのか、取り込まないのかという話。TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)に似ていますが、経済合理性だけでいったら24分野の中で10勝14敗の話でも、総合的に日米関係の強化で見ると乗った方が良い可能性があります。

私は銀行出身なのである意味反対ですが、理由を並べ立てると、中国と敵対するのではなくAIIBを通して、中に取り込む努力をした方が良いと今になっては思っています。今後は拒否権を持たせてもらえるような交渉をしたのかについて検証したいです。

 

 

世界の基軸通貨を目指す人民元

筒井:現在はドルが基軸通貨となっている中で、中国がAIIBを作った理由を考えた時に人民元を基軸通貨にする意思はないと思います。むしろ世界の貿易において決済を大量にできる仕組みを作りたいという意図が働いているのではないでしょうか。人民元は今年、IMFの特別引出権のバスケットに入ると言われています。対ドルの観点から人民元のポジションはどうなるとお考えですか。

 

木内:中国が基軸通貨を目指していないと話されましたが、貿易において決済通貨を増やすことはまさに基軸通貨化と同じなので目指していると思います。基軸通貨の定義は普段から取引をされている通貨のこと。世界中の貿易の半分で、人民元の決済が行われるようになれば基軸通貨と一緒なのです。

現在はドルでの決済が多く、ユーロは一定でその中に円もある。極めて人民元は少ないものの、これから自然体に増えていくと思います。そこでバスケット通貨に入り、取引をされていけば人民元を刷った瞬間に国際通貨としての信用となっていきます。

 

筒井:しかし、アメリカが無策で人民元の基軸通貨化を許すとは思えません。

 

木内:アメリカは基軸通貨の役得を守りたいと思うので許さない方に頑張りますが、実際に中国の貿易量の方が大きくなってきています。ジョセフ・E・スティグリッツ氏(経済学者)の試算によると、購買力平価ベースでいった経済規模、GDPは昨年12月の時点で中国がアメリカを上回った。一般的なGDPも10年を経たないうちに、アメリカを超えると言われていますから作戦を立てようが自然体に伸びていくのです。

また中国は基軸通貨になることを意識し、徐々に手を打っていきます。AIIBは基軸通貨のためというのも一つの要素ですが、インフラの活性化など需要の掘り起こしのためともいえます。今後、人民元の債権を発行することができるようになれば、アメリカと同じくデフォルトがない状態にできますよね。

 

筒井:やはりその辺が中国政府の狙いなのでしょうか。

 

木内:間違いなく。それは5年、10年の話ではなくて、20年、30年をかけてでもバスケット通貨への組み込みや人民元での債権の発行を目指していると思います。一方、国際金融市場でのアメリカ資本の上手度は凄いので、資本市場の自由化はプラス面だけではなくマイナス面もあります。

自由化によって中国にメリットがあるように見えても、サブプライムの債権を中国に押し付けてデフォルトをさせるとか、損を押し付けるぐらいならアメリカにできます。バブルだとか色々な意味合いで痛い目を食わされる可能性がありますよ。

 

 

与党に対抗するため野党がすべきこととは?

筒井:野党の再編について難しいこともあるかと思いますがお聞かせください。

 

木内:安保法案の影響もあり、与党の支持率が落ちているので野党は対案を出したり、国民が理解できるような取り組みを行わなければなりません。

野党が負けている一番の理由は正直に筋を通す、信念を貫き通すといった点です。いまだ各々がバラバラなことをやっていると見受けられています。確かに、自民党の中でもTPPの賛成や反対、安保だって半分は反対していると思いますが、それでも一つにまとまっています。

そこのガバナンスはとれている、そういった強みがありますよね。一つにまとまる仕組みをどう作るのかというと、政権交代の目標に全員で向かっていくことしかありません。頑張ります。

 

筒井&秘書:有難うございました。

オビ インタビュー

プロフィール/木内孝胤(きうち・たかたね)…1966年東京都生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、東京三菱銀行(ロンドン支店、営業本部等)、メリルリンチ日本証券(投資銀行部マネージング・ディレクター)勤務を経て、2009年、衆議院議員選挙に当選。2012年、衆議院議員選挙で落選するも2014年に維新の党公認で東京9区から出馬し、比例東京ブロックで復活当選。現在は党幹事長室副幹事長、党政務調査会同州経済部会長を務める。三菱財閥の創業者で初代総帥である岩崎弥太郎の玄孫にあたる。

 

インタビュアー/筒井潔(つつい・きよし)…慶應義塾大学理工学部電気工学科博士課程修了。合同会社創光技術事務所所長。株式会社海野世界戦略研究所代表取締役会長。株式会社ダイテック取締役副社長。

秘書…株式会社海野世界戦略研究所会長筆頭秘書。弁護士。

2015年9月号の記事より
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