筒井潔オビ1

維新の党 木内孝胤衆議院議員・特別インタビュー『安保法案から見る日本の外交問題』(1)

◆取材:加藤俊 /文:山田貴大

オビ インタビュー

木内孝胤氏 (1)

 

与党が強行採決した安保法案をめぐる反対デモが、全国各地で開催されるなど大きな反響を呼んでいる。「賛成派」や「反対派」の世論が互いの主張を繰り広げ、議論が過熱していく中で「合憲か、違憲かは一回横に置いた上で安全保障上、何をしなくてはいけないのかという議論を国会でしたい」、そう述べるのは2年ぶりに国政へ復帰し、維新の党で副幹事長を務める木内孝胤衆議院議員だ。

安保法案について維新の党が掲げる独自案や日本がAIIBの参加を見送った裏側、はたまた通貨革命と叫ばれる仮想通貨の可能性まで現代の日本人が考えていくべき今後の外交問題に迫る。

 

現段階の安全保障法制をどう整理するか

筒井潔氏

筒井:昨年、浪人中に対談をして頂き大変好評を得ました(2014年8月号掲載)。まずは議員への返り咲き、おめでとうございます。そこで永田町に戻ってきた感想をお聞かせください。

 

木内:ありがとうございます。今国会は安全保障法制一色です。この問題をどう整理していくのかが大きなテーマとしてあり、私は維新の党では副幹事長や政務調査会同州経済部会長、国対(国会対策委員会)の役員を務めているので、忙しい毎日が戻ってきたという感覚です。

安全保障に関して、党としては独自案を提出しました。私自身も6月5日に国会質疑を行いました。

 

 

憲法の範囲内に仕上がった独自案

筒井:維新の党の法案について、具体的な内容をお聞かせください。

 

木内:安倍内閣が作った安全保障法制に対しては、大多数の憲法学者等が憲法違反と指摘しています。ホルムズ海峡(ペルシア湾とオマーン湾の間にある海峡)に於ける機雷除去作業が例として挙がりますが、現法案では海外での武力行使となり、明らかに憲法の範囲を超えています。確かに、北朝鮮の脅威・中国との問題など緊張が高まるなか、日本の安全保障体制の見直しは急務です。

この点、維新の党は安全保障調査会に於いて21回におよぶ議論を重ねました。他国の戦争に加担しないとの党の理念のもと、自国防衛に徹するにはどうすればよいのか。その結果、実力行使は憲法の枠内に限定する案を維新独自案として、7月8日に国際平和協力支援法案、平和安全整備法案、領域警備法案を国会に提出したのです。

 

海野世界戦略研究所会長秘書(以下、秘書):維新独自案に対しては、多くの憲法学者や歴代の内閣法制局長官が憲法に適合していると認定し、現実の状況にも対応できる案と評価しているそうですね。しかし、国会を見ていると、どうも憲法改正や押し付け憲法などの議論が先走っている印象を持ちます。

 

木内孝胤氏 (5)

木内:そうですね。なぜこうまで強引に、安全保障を変えようとしているのか。背景には北朝鮮の核ミサイル問題が絡んでいます。実際、北朝鮮は日本が射程圏内に入る弾道ミサイルを保有するようになったと言われています。それどころか近年はミサイルの精度は別にしても、アメリカ本国まで射程圏内になりつつあるとまで指摘されています。

かつて2000年代にアメリカが北朝鮮を攻めるのではと危惧されたことがありましたが、今後も万が一というシナリオになる事態は捨てきれません。仮にそうなった場合、北朝鮮は多くの米軍基地がある日本に向けて核ミサイルを打ってこないとは限らないのです。

こうした際、専守防衛の日本は先手を打てないので対応が予め取れません。攻撃を受けてから攻め返して良い法律だと事足りないので、その部分の整備やアメリカとの協力体制を整備する必要があるのです。

 

 

安保を整備する引き金になった脅威

筒井:現時点で憲法改正や見直しには、日米同盟や中国との向き合い方など大きなファクターがあると思います。その点に関して意見を聞かせてください。

 

木内:おっしゃるとおり、日米関係は最も重要な日本の外交、安全保障上の二国間関係だと思います。また、今回論じられている安全保障上の問題で最も大きな脅威は何なのか。北朝鮮は何をしでかすのか分からない意味で怖さはあるけれども、本当の意味で一番の脅威になるのは中国の海洋進出と考える方が多いとも思います。

中国が東シナ海、南シナ海で人工島を作って海洋進出を積極化していることは明白であり、今の法制では不備が生じると考えられます。仮に戦闘的な態勢を整えた武装漁船が尖閣諸島の周辺で意図的に暴れた場合、今の海上自衛隊では対応ができない。そのため有事が起きた際を想定した法律を整備する必要性がありました。

国会で特定の国を名指しするなど具体的な話はしづらいですが、やはり中国の脅威が安全保障法制を整備する上での引き金になっている点はあると思います。

 

ただ、東シナ海や尖閣諸島の状況、防衛費の伸びを見ると何を考えているのか大きな懸念はあるものの、かといって彼の国と敵対する必要があるのかというと全くありません。

日本は8月15日に談話を出しますが(インタビューは7月27日実施)、歴史に向き合い謙虚さを持っているのかを問われれば、安倍首相にはそういう点に欠ける嫌いが見受けられます。歴史観についてことさら自虐的になる必要はありませんが、かといって謙虚さを失って良いことにはならないのです。

私はこの問題を放置することで、いわゆる『新冷戦』構造に向かっているという危機感を持っています。現実的に可能性は低いかもしれませんが、中国とロシア対アメリカという図式が、昔の『米・ソ冷戦構造』に似ている雰囲気を感じるのです。

 

忘れてならないのは、日本には平和憲法がある中で日米同盟があることです。しかし、ウクライナや南シナ海等の状況から、外交的に柔らかく収めるより、強引にぶつかり抑えこもうとする流れが国内で形成されつつあるようです。ODAや外交、文化などのソフトパワーによって平和へ貢献してきたにも関わらず、こうした部分が弱くなることで国防費が増える可能性もあります。

実際に今後のアメリカの防衛費計画を見ると、日米ガイドラインをベースに防衛費を大きく減らそうとしています。単に減らすだけだと防衛力が弱くなってしまうので、これは当然日本に期待する分として一部を肩代わりすることが求められています。この点に関しては、受け入れざるを得ません。

 

そういう意味で憲法の話ではありませんが日本が目指すべき方向として、このまま冷戦構造を加速させる動きをするのか、それとも中国をできるだけ内側に取り込む方向に持っていくのか。動き方次第で情勢が変わりますので、この点に対する危機感が大きいのです。

 

 

国政や世論で注目を集める憲法9条

筒井:今の日本では憲法9条の話が国政や世間でフォーカスされています。アメリカに押し付けられた憲法であるか否か。幣原喜重郎首相(第44代内閣総理大臣)などの歴史的な経緯はありますが、個人的にあの戦後の状況において致し方なかった面も多分にあると思います。簡単な歴史認識があれば押し付けかどうかの議論自体、ナンセンスな気もしますが。

 

木内:そうですね。押し付けられたから悪で押し付けられなかったから善という話ではありません。日本の平和憲法や専守防衛が果たしてきた役割は、人によって評価が異なります。アメリカに押し付けられた憲法は嫌いという層が一定数いらっしゃることはわかります。安倍首相も過去に、「押し付けられたもの」と発言しているので、こうした考え方を持っているのだと思います。

 

一方で、平和憲法を重要視している層も多い。自民党の中ですら今回の法案をおかしいと感じている人が多い。そもそも、軽武装、経済重視といった吉田茂首相(第48-51代 内閣総理大臣)路線でやってきた人達が自民党主流でした。それが今、憲法改正という流れに変わってしまっている。その自民党にしても、では自主防衛なのかと訊くと、そうとは言わないわけで、何を目指しているのか見えません。

 

占領下で制定された憲法なので、ある意味押し付けられた部分はないと言えないですし、影響力が非常にあったことは事実だと思います。しかし、日本人の意思を持って憲法9条ができあがり、戦後70年をかけて理解されてきた面を完全に否定することはできません。

事実、日本のパスポートを持って海外に滞在すると、日本は平和国家であるとのブランドイメージができていることに気付かされます。それを安々と放棄する必要が果たしてあるのかと言われれば、私はそうは思いません。

憲法が出来てから68年が経っていますので、中身を見直す事は問題ないと思いますが、憲法9条における平和国家の理念や戦争放棄、専守防衛などの部分をどう落とし込むかはもう少し、議論が必要だと思います

 

 

同盟国アメリカとの関係強化策

筒井:個別的自衛権の再定義について、アメリカ側から北朝鮮の核問題を日本も共有しようとレポートが上げられて、今回の流れになったとも言われていますが。

 

木内: 2012年8月に「第三次アーミテージ・レポート」が発表されて、そこにはアメリカが日本に希望する事などのリストが記述されていました。アメリカが希望する事項を可能な限り実施することが日米同盟を強化する上で大切だと、私自身も思います。しかし、明らかに憲法上出来ないことを無理やりやるのは、憲法を持つ意味や平和主義によって守られてきた部分がマイナスになってしまいます。

リストにはホルムズ海峡での機雷の除去作業が入っていますけど、憲法がある日本はその範囲内でしか動けません。その他に東シナ海でのグレーゾーン事態(武力攻撃に至らない侵害時)での協力の仕方、後方支援の仕方など色々ありますが、一つ一つ丁寧に進めていけば良いわけで、何もアメリカの言うことを全て聞かないといけないという話ではありません。

 

むしろ日米関係を強化していく上で慎重さに欠けた行動をとってしまうと、敵視していなかった国まで敵にまわる可能性があります。平和憲法の理念、戦争放棄、あるいは専守防衛の部分をアメリカに言い続けても、関係を壊さずに理念を守ることは十分可能と思います。

 

その先に、領土保全を自国で守ることを進めるのであれば、現在の5兆円という国防費では対応しきれなくなるでしょう。ただ、今の世論を鑑みるに、国民の多くが増額を許容できるとは思えません。そこまで望まないのならば、これからもアメリカとの関係強化をしていく必要があるでしょう。

とは言え、安全保障上で守られているものの、仮に尖閣諸島で小競り合いがあった場合、アメリカが若い人たちを送り込む世論になるかどうか。あるいはPKOで協力国が近くで襲われても、日本が守りに行くことができない部分を踏まえて『日本タダ乗り論』ではないですが、政策上で国防を考えている人達からしたら、タダ乗りをしていると言われない範囲で責任をもってやらなくてはいけないことは事実です。

今回の憲法についても合憲か、違憲かは一回横に置いた上で安全保障上、何をしなくてはいけないのかを国会で議論していく必要があると思います。(2 に続く)

 

オビ インタビュー

プロフィール/木内孝胤(きうち・たかたね)…1966年東京都生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、東京三菱銀行(ロンドン支店、営業本部等)、メリルリンチ日本証券(投資銀行部マネージング・ディレクター)勤務を経て、2009年、衆議院議員選挙に当選。2012年、衆議院議員選挙で落選するも2014年に維新の党公認で東京9区から出馬し、比例東京ブロックで復活当選。現在は党幹事長室副幹事長、党政務調査会同州経済部会長を務める。三菱財閥の創業者で初代総帥である岩崎弥太郎の玄孫にあたる。

 

インタビュアー/筒井潔(つつい・きよし)…慶應義塾大学理工学部電気工学科博士課程修了。合同会社創光技術事務所所長。株式会社海野世界戦略研究所代表取締役会長。株式会社ダイテック取締役副社長。

秘書…株式会社海野世界戦略研究所会長筆頭秘書。弁護士。

2015年9月号の記事より
WEBでは公開されていない記事や情報満載の雑誌版は毎号500円!

雑誌版の購入はこちらから