「国家をデザインする」 次世代の党 桜内文城衆議院議員
「国家をデザインする」 次世代の党 桜内文城衆議院議員
◆取材・文:加藤俊
桜内文城(さくらうち・ふみき)…1965年10月生まれ。愛媛県宇和島市出身。東京大学法学部卒業後、1988年大蔵省入省。財務省課長補佐、新潟大学准教授等を経て、2010年参議院議員に。2012年より衆議院議員として現在に至る。著書に「公会計 国家の意思決定とガバナンス」(NTT出版)、「公会計革命 『国ナビ』が変える日本の財政戦略」(講談社現代新書)等がある。米・ハーバード大学J.F.ケネディ政治大学院修士課程卒業/マレーシア・国立マラヤ大学政治経済学系大学院博士課程卒業/公認会計士・税理士
先日結党された「次世代の党」の政策調査会長桜内文城衆議院議員に、「日本をデザインする」という趣旨でお話をお聞きする。
国会議員のサラリーマン化
筒井:桜内先生は、「桜内ビジョン」として、日本を一つの会社と見立てて政府と国民との関係性を説かれています。国民=株主であり、国会=取締役会、内閣=執行役、内閣総理大臣=代表取締役兼CEOというふうに。さらに『国民が統治権を政府に信託するという法律構成を基盤とする以上、政府は国民に対して受託者責任を負うこととなる』と説明されています。
受託者責任を負った政府が、バブル崩壊以降の日本株式会社の業績悪化に、長年有効な手立てを講じることができないのは何故なのか。さらには、日本株式会社の業績を回復させるには何をすべきとお考えでしょうか。
桜内:いわば高度経済成長期の頃というのは、国や企業みんなが目的を共有できていた時代です。国ならば「アメリカをキャッチアップする」という明確な目標を共有できた。現在の状況は、新たな目標を見いだせないフロントランナーに近い。そうなると、アップルに於けるスティーブ・ジョブスのように、イノベーティブな仕事を生み出せるリーダーが必要になるのですが、明確な意思決定ができるリーダーとは非常に稀有な存在です。結果として、政治に於いて戦略的な意思決定は行われないできました。
ただこれには、できなかったなりの理由があるのです。1994年の公職選挙法の改正により、小選挙区比例代表並立制への選挙制度改革が行われました。これにより、政党の力が強くなり、ひとりの政治家に強烈なリーダーシップを発揮する裁量がなくなりました。それが国会議員の「サラリーマン化」とも呼ぶべき事態を招いたと考えています。
筒井:なるほどですね。高度成長期が終わって、ビジョンを示さなければならない、イニシアチブを取らなければならない肝心の時に、政治の制度改革が起こり、マイナスに働き、機能不全に陥ったという見立てなのですね。
「今」の国会が十分に機能しない原因
桜内:そうです。政治はイノベーションなり大きな制度変革を実施することに長けた人が少ない世界になりました。若干補足して言えば、同じことは役人にも言えます。そもそも前例のないことはやらないという“役所流”の事なかれ主義に染まった立場の人達に、内閣提出法案や予算案など国をデザインする仕事でイノベーティブなことを期待できるワケがない。これは人の問題ではなく、極めて構造的な問題です。僕は88年に大蔵省に入省したのですが、この弊害を痛切に感じました。「今」の日本の統治システムの構造上の瑕疵に由来するものです。
どういうことかと言うと、本来、憲法41条には、「国会は唯一の立法機関」とある。この前提から離れる解釈が、憲法73条に列挙された内閣の職務として「議案を国会に提出することは権限の一つ」と定められている点の読み方にあります。しかし、本来議案というものは法案まで含むものなのでしょうか。この議案の中に内閣提出法案も含むという考え方が、今の国会が十分に機能しない原因の一つと考えられます。
もともと役人というのは、内閣の下にいて、法律なり予算の執行権を持った人たちです。これはあたり前なのですが、執行権を持った人たちにルールまで書かせると、自分たちに都合の良いように書くに決まっているのです。
イギリスは、形式上はあくまでも与党の国会議員が提出するという建前をとっています。日本の場合も憲法41条を順守するのであれば、議員立法として与党が出すようにしないと。「でも結局役人が書くのでしょ。一緒じゃないか」と思われがちですが、そんなことはない。なぜなら答弁席に政治家しか座れなくなります。今みたいに役所に想定問答を書いてもらうことができなくなるのです。これにより、国のルールを創る点において最も重要な立法権を国会議員が軽視する風潮を変えることができるのです。
塩入:なぜそのような事態になるのでしょうか。
桜内:これは国会議員だけの問題ではないのです。有権者が国会議員にそういった仕事を望んでいないから、という理由もあるのです。いろんな陳情ごとが地元から上がります。最近でこそ聞かなくなりましたが、中には「〇〇のチケットが取れないか」など国会議員の仕事っていったい何なのかと考えさせられるようなものまであると聞きます。そういった意味で、「私の仕事は立法権を行使することです」と基本に忠実に答えることができる国会議員が非常に少ないのだと思います。
塩入:それは、国会議員の先生方に陳情を行う人達の質にもよる問題かもしれませんね。必ずしも全ての有権者が同じようなことを望んでいるとは思いませんが、実際に陳情を行う人達の意識が低い場合、彼らの私利私欲に傾き、利己的なものになってしまいそうです。
筒井:そのような状態はどうすれば打開できますかね。
桜内:立法に携わる役人を政党のスタッフないしは、政治任用にすべきです。アメリカのように政権交代が発生すると、官庁の構成員が入れ替わるようにする。立法に携わる者はリスクを負うようにする。責任の所在をはっきりさせるようにする。この文脈上で内閣提出法案をどうしていくのかを考える必要があります。
日本の統治システムは権限と責任の所在が曖昧
筒井:我々の事務所は技術事務所ですから、知財の問題に触れることが多い。世界各国の知財制度を見てみると、やはり国内産業の保護など、国益に適った観点が見えるのですが、日本はそうでない場合が儘あります。本来、法案にはそれなりの意図があるべきと思うのですが。日本は法案作成に於いて国益の絡め方が下手なのではないかと思うのです。
桜内:おっしゃるとおり。それは、日本の統治システムが権限と責任の所在が曖昧な点に由来しています。役人は終身雇用に近い立場でリスクを負わない。どんなにひどい立法を国会に持ってきても、クビにならないから、無責任な仕事が生じやすい。実際に、法案が何を目的とされているのか、目的の設定が明確に成されていない場合があるのです。本来、その目的を考えるのが、政治家の仕事なのですが、それを役人に丸投げしている為に起きる問題です。
筒井:なぜ日本は自国の国益に反するようなことを無自覚に行えるのでしょうか。
桜内:日本人は論理よりも「条理」を重視する傾向があります。条理とはモノを話し行う順番のことです。この条理という考え方は、日本人独特の考え方です。「ボタンの掛け違い」という言葉が日本語にはありますよね。この言葉の意味するところを英語に正確に変換するのは難しい。英語にはない考え方ですから。
消費税という喫緊の課題に対して「増税の前にやることがある。まず国会議員自らが身を切りましょう」という意見は、まさにこの条理が働いています。「議員歳費3割カット」「国会議員定数削減」といった話がありますが、実際に国会議員を3割、歳費を3割カットしても、約45億円が浮くだけ。一方、手を付けられていない医療制度の自己負担割合の問題を考えてください。子供が小学生になると3割の負担を強いられます。ところが、70歳以上の老人の負担はいまだに1割のまま。日本の将来を背負って立つ子供の健康を考えた時に、あまりにも不公平でしょう。子供たちに対しての制度的な児童虐待ですよ。でも選挙に不利になるし、お年寄りの反発もあるでしょうから誰も手を付けたがらない。仮に70歳以上の老人の自己負担を3割にすると、約3兆円というお金が浮く試算になるのに、です。
ですから、待ったなしの財政状況を考えれば、消費税を上げるときに政治家は「身を切る」という言葉で口を閉じてはいけない。そうではなく、「きちんと財政再建を努力します」「将来につけを残しません」と国民のみなさんに言うべきなのです。
「論理」よりも「条理」
桜内:日本社会が如何に「条理」、順番を大事とするかの端的な例があります。江戸時代中期に恩田民親(通称:恩田杢)という松代藩家老だった方がいました。この方、財政再建を果たした名宰相と言われています。でもですね、やったことはただの徳政令なのです。「借金は払わん」「武士の給料の遅配分は払わん」「でも前払いで徴収した税金は返さん」。とまぁ、なかなかに乱暴なやり方だった。では、何故改革できたのか。これが実に日本的なのですが、恩田杢はまず「純粋さ」を示しました。3年間袴を変えなかったそうです。見た目からして誠実とわかる。そして対話集会を開き、領民と「俺お前の関係」になったそうです。逆に言えば、その関係になれば、どんな無理なことも領民は聞いてくれるという良い例だと思います。
僕は、これは「今」の政治でも言えることと思う。まず対話集会を開かなければ、物事は動きません。ところが、「今」は対話集会を開くところにもいかない。なぜか。全体像を数字で把握することができていないからです。だから、重要な問題は先送りする、行き当たりばったりのことが多くなるのです。企業だって、「B/S」を見なければ、どこがリストラできるか判断がつきません。まず全体像を数字で把握しなければなりません。膨れ上がる社会保障費にしてもそう。数字がないと、全体を把握しようがない。ですから、対話集会に入る前の腹案を作るところから始めないといけないのです。
このまま国や自治体の運営が続けば、公益や国益を生むための社会資本としての税が、維持管理経費を増やし続ける不良資産になり兼ねない。公益に見あうはずの経費も削れず、毎年赤字を続けても平気でいられる「夢も希望もない日本」になることを危惧せざるを得ません。
塩入:日本は心の清らかさを重んじる価値観が強く、相対的に数字や論理を軽視しがちで、数字に対する感覚も弱いところがありますね。しかし、問題を解決していく上では、形式的な論理より、本質的な真理を大事にすることが更に望ましいと思います。
国をデザインするためには…
筒井:私は、今は何事もリストラクチャーしなければならない段階のように思うのです。社会保障費や税の再分配の問題など、歪みを是正しなければならない。もういちど、ここで、日本に生まれたことはどういったことを背負っているかのデフォルトの設定をしなければならない段階だと思うのですよ。
桜内:そうです。デザインするには、まず目的の設定からはじめなければならない。どういう国にするのか。ここにはいろんな考えがあっていいと思うのですが、経済的に豊かであって、平和な国を希求することを否定する向きはないと思います。であれば、金額で測定できるもののうち、重要な問題から優先順位をつけて意思決定していかないと。社会保障制度改革と集団的自衛権の問題から目を背けてはいけません。両問題とも待ったなしです。先送りに先送りを重ねてきましたが、子供や孫の世代を考えれば、「今」やらなくてはいけない。難しい問題ほど先送りされるような、意思決定の仕組みは変えないと。
権力が中心に向かうほど、責任と権限の所在が見えなくなり、まるで空気が物事を決めているかのような現在の構造を解消すること。権限と権力と責任を一致させる意思決定の仕組みを作って、ロジカルに国家をデザインしていくことが必要だと思います。
その意味で、今日の「国家をデザインする」というお話で言えば、政府や国会議員は、一般企業の経営者や役員、社員と同じように、株主である国民のみなさんの公益・国益ために「B/S」と「P/L」をしっかりと見据え、努力しなければならないはずです。
筒井・塩入:どうもありがとうございました。
桜内文城(さくらうち・ふみき)…1965年10月生まれ。愛媛県宇和島市出身。東京大学法学部卒業後、1988年大蔵省入省。財務省課長補佐、新潟大学准教授等を経て、2010年参議院議員に。2012年より衆議院議員として現在に至る。著書に「公会計 国家の意思決定とガバナンス」(NTT出版)、「公会計革命 『国ナビ』が変える日本の財政戦略」(講談社現代新書)等がある。
米・ハーバード大学J.F.ケネディ政治大学院 修士課程卒業
マレーシア・国立マラヤ大学政治経済学系大学院 博士課程卒業
公認会計士・税理士
桜内文城事務所
【国会事務所】〒100-8982 東京都千代田区永田町2-1-2 衆議院第二議員会館202号室
℡03-3508-7002
【宇和島事務所】〒798-0040 愛媛県宇和島市中央町2-1-7
℡0895-22-7075
http://www.sakurauchi.jp/index.html
創光技術事務所インタビュアー
筒井潔(つつい・きよし)…経営&公共政策コンサルタント。慶應義塾大学理工学部電気工学科博士課程修了後、外資系テスターメーカー、ベンチャー企業、知財関連会社、財団法人等勤務を経て、合同会社創光技術事務所所長。
塩入千春(しおいり・ちはる)…合同会社創光技術事務所シニア・アナリスト。理学博士。京都大学理学部卒。総合研究大学院大学博士課程修了。理化学研究所研究員等を歴任。2013年9月より現職。
◆2014年11月号の記事より◆
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