自民党・城内実衆議院議員|元外交官だから見えてくる「この先の日本の在り方」 前編:日本のルーツに立ち返れ
城内実衆議院議員に訊く
元外交官だから見えてくる「この先の日本の在り方」
◆取材:加藤俊・佐藤さとる
前編「日本のルーツに立ち返れ」
「グローバル化」という言葉が定着して久しい。いまや国家はグローバルな関係性を抜きにしては何も語れない。メディアには日々中国、韓国との国境問題に端を発する東アジアの緊張関係や関税撤廃を原則とするTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)、あるいは為替や国境を越えたM&Aなど、悩ましい課題が散見され、これらが目に留まらない日はない。
果たして、こうも洪水のように情報の渦に巻き込まれ、国家の在り方を考える端緒さえ思うように掴めなくなった日本に於いて、取るべき指針をきちんと想像できる国民がどれだけいるだろうか。そこで、今一度「内省的に」国家の在り方を考え、辿るべき方向感を、国民一人ひとりが見定める必要があるように思う。はたして未来の我が国はどのような国であるべきなのか。
これを聞くに適役が一人いる。郵政民営化では政治家としての信念を貫いた気骨の政治家、元外交官の城内実衆議院議員である。城内氏の話を通して、20年後の日本の姿を読み解こう。
聞き手:写真左 創光技術事務所/筒井潔・ 写真右 塩入千春
古事記には21世紀の日本人が学ぶべき姿が書いてある
筒井:城内先生は昨年「政治家の裏事情」上梓されましたが、そのなかで、「理想の政治家像は古事記のなかにある」と述べています。国の在り方を考えるにあたって、我が国のルーツを紐解くと、何が見えてくるのでしょうか。
城内:古事記では「大国主命(オオクニヌシノミコト)の国つくり」の話が語られています。神々の里、出雲で大国主命は異母兄弟達からいじめられ、さらには愛し合う須世理姫(スセリビメ)との結婚の意志を姫の父親から試され、生死に関わる苦難を受けながらも、国づくりを成就した。しかし天照大御神の使者が現れると、あっさり国を譲ってしまうのです。この大国主命の「潔さ」が政治家本来の姿ではないかと考えたのです。
それからもう一つ、日本では古代より日本的な民主主義の思想がありました。
たとえば大祓祝詞に「神集(かむつど)へに集(つど)へ給(たま)ひ神議(かむはか)りに議(はか)り給(たま)ひて」とあるように、天照大御神が天の岩戸にお隠れになった時に、「神様が集まって相談した」とある。つまり古来日本では、神話の時代から一人の絶対権力者が物事を決めることを良しとしてこなかった。重要なことはみんなで諮って決めようとなっていた。それはまさに「和を持って尊しとなす」という、日本的民主主義が古代から機能していた何よりの証左ですよね。
塩入:八百万の神様と言いますが、日本では神様からして、お互いの立場を尊重し、協議の上に決めていたと。日本人は古来から合議制を大切にする民族であったと読み解けるのですね。
城内:そう、悠久の彼方から、「共同体を大切にする民族」という国の在り方は脈々とDNAレベルで刷り込まれてきているはずなのです。ほかにも古事記に書いてあることで現代に通用することはたくさんあります。「選挙」なども当てはまる。伊邪那岐命(イザナギノミコト)が、黄泉の国という穢れた世界に行ってしまわれた伊邪那美命(イザナミノミコト)を追いかけて、自身も非常に穢れてしまう。そのとき伊邪那岐命は決断します。ここにいてはまずいと。それで戦わずして逃げて、地上に戻って禊をする。この「戦わずに引く」ということも選挙では大事なんです。
選挙では誹謗中傷合戦になりがちですが、相手が誹謗中傷を言っても、それを受け流して、大国主命のように黙ってコツコツとやっていくことが求められる。するとブーメラン効果のように相手にはね返っていきます。まさに古事記にあることを実践していくと、私がそうであったように無所属という普通では絶対勝てない候補が、ダブルスコア超の得票を得て勝つということが起こりうる。
このように古事記を虚心坦懐に読むと、21世紀のあり方のヒントが散りばめられている気がしたのです。
それは外交にも当てはまります。いま中国や韓国、北朝鮮がやっていることは日本にとって不愉快そのもの。だからと言って「バカヤロー」と言ったら、相手と同じ価値観に染まってしまう。向こうが仕掛けてきた時は、まさに合気道の精神で相手に「返す」のです。合気道は神道的ですから。相手が力をつければつけるほど、相手にはね返るダメージも大きくなる。空手やテコンドーのやり方ではない。合気道の「受け流す」という考えは外交の基本精神と言えるのではないでしょうか。
中・韓・北朝鮮を牽制し、日米同盟を機能させるためには、特定秘密保護法が必要
筒井:中国、韓国という具体的な話が出ましたが、日本の外交・安全保障は、現実的なところではどのように考えていますか?
城内:歴史的にも国際法的にも日本の固有の領土である尖閣諸島に対して、中国は公船で領海を侵犯したり、最近では不当に防空識別圏を設定してきています。非常に不透明な形で軍拡をしている。また米中関係においては、米国債を買って急速に接近しています。これに対して日本は自主憲法を制定し、精神的にも独立することが大事だと思っています。
ただすぐには一言一句変えられない憲法において「9条の制約」があるなかでは、「日米同盟をいかに機能させるか」という視座が大事になってくる。だからといって、なんでもかんでもアメリカ追従ではなく、日本として主体性をしっかり持ち、尚且つアメリカ国民の支持を得るようにしないといけないと思います。
それとやはり中国や韓国がどのような手段をとってきても力の支配ではなく、国際法に則り、淡々粛々と冷静かつ毅然と対応するべきだと思う。同時に中長期的には、特定秘密保護法をしっかり機能させていく。特定秘密保護法はマスコミの曲解が目につきますが、簡単に言えば特定国の工作員の動き、我が国の暗号、潜水艦の性能など、テロとかスパイ防止、外交防衛に関わる情報です。だからはっきりいって、特定秘密が一般の人に関わることはほとんどない。処罰の対象にもまずならないと思います。
たとえば、原発を某国の工作員が爆破するという情報をA国から得た。それを我が国の公務員がうっかり記者に喋った。それを記者が記事にした。それを見てテロリストが逃げて、3カ月後原発が爆破され、大勢の犠牲者が出るようなことになったとします。そういった場合、これまでであれば、多数の犠牲者を生じさせたにもかかわらず、情報を漏らした公務員は一年以下の懲役又は50万円以下の罰金にしかならなかった(国家公務員法第百条)。これでは、情報漏えいに対する威嚇効果など無いに等しい。
これに対して特定秘密保護法では、十年以下の懲役になり得る。こうしてようやく、安全保障上の情報漏えいに関して法的に担保されるのです。つまり、特定秘密保護法は「テロやスパイを未然に防ぐための法律」なんです。長期の安全保障にこの法律は必要不可欠なのです。
一方、国防力という点では、日本も独自に最新鋭の武器開発が求められる。いつまでも米国から武器を買うのは問題です。肝心の技術はこちらにはブラックボックスになったまま。この点、アメリカは渋ると思いますが、航空宇宙産業を含め協力体制を強化しつつ、独自の研究開発を進めることが求められています。
また、武器輸出三原則があるため、国産装備品に価格競争力が生まれないのも問題です。国産装備品が高額すぎて「輸入の方がいい」となっては国内技術が育たない。武器輸出三原則の見直しは急務といえるでしょう。
TPPは経済の安全保障なのか
筒井:中国がアタックを仕掛けてくる背景には、これまで日米安保が機能していたが、これが弱くなったことがあると思います。直接的な軍事力ということもあるが、ここには日本の経済力も関係していたと思います。経済安全保障は我々が無自覚なまま機能している面もあった。その点からするとTPPというものが一つの経済安全保障になるのではという声もあります。これに関して城内先生のお考えを聞かせてください。
城内:私はTPPについては従来から慎重派です。まず参加する国が少なすぎる。そのなかで日米が突出しているし(GDP比で9割)、共通ルールをつくるといっても、世界190何カ国の10数カ国では、貿易自由化ではなく「ブロック経済」となる可能性が排除されない。そのうえTPPは農業対輸出産業のような印象があり、いまいち生活に結びつきにくい印象がありますが、実は21もの分野に亘る協定であり、我が国の皆保険制度に影響したり、食の安全ルールが作られるなど、私たちの生活に大きく関わるものなのです。
そして、TPPのルールをどこがつくるかというと、アメリカがグリップを握る可能性が強い。そうすると柔道が国際大会で勝てないような状況の二の舞になりかねません。一戸あたりの耕地面積はアメリカは日本の約75倍、オーストラリアに至っては約1300倍です。農業で日本が勝つのはまず難しい。そもそも食料やエネルギー等を他国に委ねることは安全保障上いいはずがない。では農業を守れとなるでしょうが、農業者に所得保障の形になるでしょう。結果その負担は税金となって国民にシワ寄せがいく形になります。
これは極論ですが、なんでも自由がいいというなら政治家は要らない。いろいろ不正を働いたりする人がいるから、規制をする必要性がでてくる。規制緩和をしても、それまでの既得権が潰されて、新たな既得権が生じるだけという事態が、本当に残念ながら成立してしまうことも多い。それは必ずしも「和をもって尊しとなす」日本人にとって喜ばしいことではないと思います。 (次回に続く)
◆後編:「循環型社会、モノづくり立国のために」に続く◆
写真中:城内実氏(きうち・みのる)1965年生まれ(本籍静岡県浜松市)。71年より西ドイツの小学校へ。75年帰国。横浜市立戸塚中学校、私立開成高校、東京大学教養学部を経て、89年外務省入省。2002年退官後、03年衆議院に初当選。05年いわゆる郵政国会で民営化反対票を投じ、解散選挙で惜敗。09年衆議院総選挙において無所属で立ち、自民党候補に約7万5000票、民主党候補に約6万5000票の大差を付け返り咲く。12年衆議院選挙で、再び圧勝。第二次安倍内閣で外務大臣政務官に就任、現在は自民党外交部会長として活躍。
〈インタビュアー〉
写真右:筒井 潔氏(つつい・きよし)
1966年神奈川県生まれ。慶應義塾大学理工学部電気工学科博士課程修了後、外資系テスターメーカー、ベンチャー企業、財団法人等勤務を経て、経営コンサル業界と知財業界に入る。合同会社創光技術事務所所長。共訳書にA.Isihara「電子液体:強相関系の物理とその応用」(シュプリンガー東京)がある。
写真左:塩入 千春氏(しおいり・ちはる)
合同会社創光技術事務所シニア・アナリスト・理学博士。京都大学理学部卒。総合研究大学院大学博士課程修了。理化学研究所研究員等を歴任。2013年9月より現職。
◆BigLife21 2014年2・3月合併号の記事より◆