文責◆編集長/大高正以知

 

本記事は2012年2月号掲載記事となります。

誘拐犯と説教泥棒

「大切な子供(電気)を返して欲しければ金を用意しろ」。

 

多くの国民にはそうとしか聞こえなかったに違いない。

東電の西沢俊夫社長が、唐突に電気料金の値上げを通告したあの記者会見(1月17日)である。値上げの理由は、原発事故によって稼働せざるをえなくなった火力発電所の燃料費増だという。

まるで、「原発事故はお前ら国民が起こしたんだから」とでも言いたげな理屈にもならない理屈で、誘拐犯と説教泥棒がいっしょになったようなものだ。

埼玉県の上田清司知事が、「これまで節電を強いられてきた国民に対するむごい仕打ちだ」と強く牽制し、更に「(東電は)これだけ大迷惑をかけておきながら、誰1人として警察の厄介になっていない。誰か自首するやつはいないのか」と憤りを露わにしていたが、まったく同感である。

 

 

それにしても解せないのは、大口契約している大手製造業や流通業などが、意外におとなしいことだ。

東電管内の9都県と政令市、東京23区など多くの自治体が、強く反発し、もし今値上げを強行するなら東電以外の電力事業者に切り替えることも辞さない、というはっきりした拒絶態度を示しているのとはえらく対照的である。

様子見を決め込んでいるのか、はたまた双方の利害がどこかで一致しているのか。おそらく両方なのだろう。

 

そういえば経団連の米倉弘昌会長は、

「東電の国有化(株式3分の2保有)なんてとんでもない。本来政府が負うべき賠償責任を東電に負わせ、経営が悪化したから公的資金の注入になった。(中略)

国が保有する株式は3分の1でいい。できるだけ早く通常の企業に戻すことが一番重要だ」と、気持ち悪いほどの勢いで東電の経営陣を擁護してみせた。

国有化がいいか悪いかはもちろん議論のあるところだが、その組織の在り方や経営陣の顔触れが、今のままでいいわけは断じてない。

さすがに勝俣恒久会長は高齢(71歳)ということもあって次の株主総会で辞める意向のようだが、西沢社長はまだ若い(60歳)からか続投に意欲満々だという。

蛇足ながら、米倉氏ももし〝同じ穴の狢〟だとすれば、ぼちぼちお引き取りいただくほかあるまい。

 

 

国民を敵に回して企業は成り立たない

それはそれとしてよく言うよ、である。

西沢社長が会見でいけしゃあしゃあと宣ハレた〝権利〟発言だ。

「料金の(値上げ)申請というのは、我々事業者の義務というか権利ですので…」。

 

ご案内の通り、そもそも東電は普通の民間事業者ではない。

電気事業法という法律で手厚く守られた、〝絶対に儲かるシステム〟の事業者である。

その1つが言わずと知れた統括原価方式だ。

原価の上に一定の掛け率で利益を乗せる料金決定方式で、簡単にいうと、原価が掛かれば掛かるほど利益も大きくなるという仕組みである。しかもその原価には製造費、販売費、管理費のほかに研究開発費、社員の給与、ボーナス、各種保険や企業年金、財形貯蓄などの福利厚生費、保養所や飲食施設などの建設費や維持費、各種拠出金、寄付金、交付金、新聞・雑誌・テレビなどの広告宣伝費など、ありとあらゆる支出が含まれている。おまけに全国を10のブロックに分けて、それぞれをそれぞれの電力会社(東電は関東中心に9都県)が独占して販売する仕組みだ。

 

これ以上、何の権利を西沢氏は求めようというのか。

毎月毎年、血の滲む思いでコストを下げ、熾烈な販売競争に立ち向かっている普通の民間事業者には、到底理解できる話ではない。

 

というわけで一般の利用者料金も含めた今回の値上げ通告・値上げ申請は、ズバリ言って全国民を敵に回す行為というほかない。

言わずもがなだが、国民を敵に回して企業が成り立つはずもない。

東電はただちに値上げ通告を撤回し、併せて一般利用者への値上げ申請も、潔く断念せよ。