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植松恵美子元参議院議員 永田町・霞ヶ関の皆さん、中小零細の経営者を舐めてもらっては困ります!

◆取材・文:大高正以知

参議院議員/植松恵美子氏

元参議院議員/植松恵美子氏

民間のチャレンジと研究開発には予算を惜しむな!

5、6万社という推計もあれば、10万社超という説もある。

「中小企業金融円滑化法」(モラトリアム法)によって急場を凌いできた約40万社のうち、その打ち切りでたちまち行き詰まるのではと危惧される中小零細企業の数だ。

 

一方ではアベノミクスによる急速な円安の恩恵で、収益も株価もドンドン上がり、赤字見通しを一転、大幅黒字に上方修正したウハウハ大企業が少なくない。このギャップはいったい何なのか。またどうすればこのギャップは埋まるのか。

 

そこでこの人に話を聞いた。自ら起業し、自らが中小企業の経営者であるという〝特異性〟を武器に、上っ面の中小企業対策に鋭いメスを入れ続ける気鋭の参議院議員、植松恵美子氏(香川県選出・45歳)である。目からうどん、もといウロコの植松節。とくとご吟味いただこう。

 

今、本当に必要なのは〝延命装置〟ではない

 

──いきなりズバリ訊きますが、今回のモラトリアム法の打ち切りを、議員はどう捉えていらっしゃいますか?

 

植松 そうですね。誤解を恐れずに言いますが、2回延長してぼちぼち一巡したことですし、今回の打ち切りを私は是としたいと思っています。と言うより、それだけの予算措置をするのであれば、同じ中小企業対策でも、他にもっと大切な予算の向け先があるじゃないか、というのが私の考え方です。

 

※編集部注:モラトリアム法は、同法を適用した企業が倒産するなどして、金融機関が取りっぱぐれた場合、残債の40%を政府が補填するとしている。ちなみに2012年9月時点で、同法の適用を受け、リスケされた債務の総額は90兆円余りに上るといわれる。

 

──モラトリアム法が施行されて以降、倒産件数は着実に減っており、経済的理由による自殺者の数も大きく減っています。明らかに同法の効果と言っていいでしょう。それでも再々延長は必要がなかったということですか?

 

植松 仰る通りです。そもそもモラトリアム法は緊急避難的な時限立法であって、恒久法ではないじゃないですか。それを何回も何回も延長して、なし崩し的に恒久化するのはおかしいと思いますし、そんなことをしたら隠れた不良債権が増えるばかりです。確かに倒産件数は減りましたし、自殺者数も減りました。しかしそれが仮にモラトリアム法のお陰だとすれば、単に問題を先送りしただけに過ぎないのではないでしょうか。しかもその結果、ツケは最終的に国民が被ることになるのです。

 

もちろん、倒産件数や自殺者数が増えるのは仕方がないということではありませんよ。私が言うのは、そうならないようにもっと根本的なところに手を着けましょうよ、そのための法律づくりや制度設計を、政治の責任としてしっかりやりましょうよということです。

 

──具体的にはどういうことをお考えですか?

 

植松 いっぱいありますが、もっとも緊急を要することは、実践的で分かり易く、利用し易い経営支援策を、中小零細企業に向けて国が主導して打ち出し、どんどん発信することだと思います。

 

単に融資の幅を広げたり、銀行に会計指導をさせるみたいな形ばかりの支援じゃなくて、例えば実績も知恵もノウハウもある民間の優秀なコンサルタントを迎えられるようにするとか、この場合にはこういうパッケージにすればこういうことが期待できるとか、どこどこにこういう企業があるからこういうパターンのコラボを考えてみてはどうかとか、まさしく実践に即したアドバイスを受けられるようにすることと、そのために必要な予算措置をし、資金を優先的に貸し出すなどをセットにした支援策です。

 

中小零細の、それもとくに地方の経営者は、一人であれもこれもやるしかないので、とてもではありませんけどそんな勉強をする時間もなければ、時代のニーズを読むためのアンテナを張ることも、実際のところ容易ではないんです。

 

──なるほど。要するに困っている中小企業の遣り繰りを楽にしてやるだけでは、何の解決にもならない。傾きかけた事業を立て直すとか、新たに有望な事業を立ち上げるとか、きちんと自立できるよう、根本的なところに着目して、経営支援をすることが重要だということですね。

 

植松議員1

植松 その通りです。一時的に会社の遣り繰りを楽にしてあげたところで、それはタダの延命装置に過ぎないじゃないですか。

 

今、やる気も能力もあるのに困っている中小零細の経営者が求めているのは、そんな延命装置ではなくて、根本的な治療や強靭な体力をつくるためのスキルとノウハウなんです。それを手にしていただくために政治は何をやるか。そこには規制緩和や新たな融資制度が必要になるかも知れません。

 

ポスト・モラトリアム法を考えるという意味では、それらのことを総合的に勘案し、霞ヶ関ではなく、民間の叡智を集めてまずはグランドデザインをすることです。簡潔に言うと、今やるべきことはこの一点に尽きると思いますよ。

 

──言わんとするところはよく分かります。しかし多くの中小零細企業の中には、「もはやどうにもならない」「止めたくても止めるに止められない」という経営者も少なくありません。その人たちにはどう対応すべきとお考えですか?

 

植松 私もそういう経営者を何人か知っていますが、どんなに懸命に頑張っても万策尽き果てることがあるのが企業経営だと思います。残念ながら、少しでも傷が回りに広がらないよう配慮しつつ、上手に店仕舞いをしていくということも経営者に求められる決断だと思います。だってそれが経営者の責任というものじゃないですか。本当に辛いんです。厳しいんですよ。そしてどこにも甘えられないんです。

 

一定の任期だけ無事に努め上げればいい大企業のサラリーマン社長と違って、中小零細の社長というのはいつもそれだけのリスクを背負い、覚悟とガッツを持って必死に生きているんですよ。

 

 

中小零細の経営者とは 目線も認識もまるで掛け離れたお歴々

──話を戻しますね。先ほど議員が言われた実践的な支援策が、今の安倍政権にできると思いますか?

 

植松 できるかできないかで言うと、できないでしょう。だって調べたことはありませんが、自分で会社を起こし、自分で日々のやり繰りをしてきた中小企業経営者出身の人が、安倍政権の中枢に一人でもいます? そもそも目線からしてまったく違うんですよ。

 

──そう言えば先の予算委員会(2月18日)で、議員はモラトリアム後の中小企業対策について核心を突いた質問をされましたが、それに対して安倍晋三総理も甘利明経済再生担当大臣も、ピント外れな答弁に終始していました。

 

植松 でしょ? トヨタがどうしたとか、株価がどうしたとか、ローソンが賃上げを表明したとか、私はそんなこと訊いてないって言うの(笑い)。

 

──とすると、今後も安倍政権とは対決姿勢を鮮明にしていくお考えですね。

 

植松 いえ。必ずしもそうとは限りません。目線がまったく違うという一点を除けば、(民主党を)離党したから言うわけではありませんが、野田政権よりはずっとマシだと思っています。今回のアベノミクスの三本の矢も、マクロな経済政策としては概ね賛同できますし。

 

したがって一つひとつ是々非々で対処していくことになると思います。要は国民のためになるかならないか、このひと言に尽きますね。この前の24年度補正予算の採決を欠席したのもその一つです。

 

──結果的にはその欠席がモノを言い、僅か1票差で可決しました。

 

植松 復興対策上からも、景気対策上からも、補正予算が待ったなしというのはほとんどの人が異論のないところです。問題は巨額の公共事業費ですが、もしこれが、かつての自民党がやってきた旧来型の無駄遣いだったら、私も間違いなく反対に回っていました。でも今回はそうではなく、補修や修理が主体で、地方の景気を直接刺激することになります。そうなると反対する理由はありませんよね。

 

──離党の話が出ましたので訊かせていただきますが、昨年の「社会保障と税の一体改革」のときも議員は造反されました。その頃からですか?離党を考えるようになったのは。

 

植松 う~ん。実は今だから言いますけど、ん?これはちょっとおかしいぞと違和感を覚え始めたのは、菅(直人元総理)さんの頃からですね。ほら、何でもいいから雇用を増やせ、雇用を増やせってやたらと吠えてた時期があったじゃないですか。挙げ句は月に10万円の職業訓練の給付金まで出し始めましたが、企業の需要に合わない技能を修得しても意味がありません。あのときに思ったんです。ああ、この人は雇用関係を結ぶということが、中小企業にとってどれだけ重いことなのか、まるで分かっていないんだなって。

 

経営者なら誰でもそうですが、会社を起こし、採用し、人を育て、集客もし、お金の遣り繰りもやってきましたから、その辺りの重みや経営者の心の機微が私はよく分かるんです。ついでに言わせていただくと、その重みや心の機微が分かるからこそ、何とかそういう苦労をしている人たちの味方になりたい、役に立ちたいと思って政治家を志したんです。最後は違和感を通り越して、憤りすら覚えたものですよ。

 

私のボスは代表でも総理でもない! 国民です!

──「社会保障と税の一体改革」の採決については、ずいぶん悩まれたと聞きましたが。

 

植松 そうですね。いずれ消費増税は避けて通れない道だという認識は、私にもあります。それにしてもなんでこの時期なの? それでなくても消費が落ち込んでデフレの真っ只中だというのにどういうこと? もっと落ち込むだけだし、結果として自民党を喜ばせるだけじゃないかって、ずっと思っていましたから。しかも8%に上げてその翌年にまた10%に上げるという案ですね。

 

私のよく知っている手袋業界(※香川県の手袋生産量は国内1位)の経営者の方も悲鳴を上げていらっしゃいましたけど、事務手続きとかシステムの入れ替え、値札の貼り換えやそれらに要する人件費増などで、5000万円も掛かるそうですよ。確かに当時の私は民主党員です。現にそれまでは、党議拘束を破ったことなど一度もありません。それで本当に悩みましたけど、最終的には白色票(賛成票)を出すわけにはいかない、という結論に至ったんです。

 

だって植松恵美子は国会議員なんですよ。国会議員のボス(雇い主)は、党代表でもなければ総理でもない。国民なんです。その国民の7割近くが反対している法案に、とてもではないが賛成できないという判断です。

 

 

──なるほど、よく分かりました。最後にもう一度中小企業支援策の話に戻りますが、先ほどは喫緊の課題という意味で訊きました。今度はもう少し中長期のスパンでお答えいただきたいんですが、今後行政は、どのような方向に〝業〟をリードしていくべきだとお考えですか?

 

植松 これはかねてから言ってきたことですが、いつまでも自動車だ、家電だと言ってる時代じゃないということです。新たな時代の、新たなニーズを見出して、新たな産業を起こすしか、この国の成長はないんですよ。

 

そこで必要になるのが、民間のダイナミックなチャレンジと優れた研究開発です。このチャレンジと研究開発を引き出すために、ありったけとは言いませんが、国はいくら予算を注ぎ込んでも構わないと思うんです。そのための〝見極め〟と〝目利き〟さえしっかりしていれば。先ほどは経営者の責任という話をしましたが、これは政府の責任というものです。

 

──アベノミクスで言う、三本目の矢でしょうか。

 

植松 う~ん、似てるようですけど、ちょっと違うかも。第一、安倍さんには無理ですよ。だって知っています? 野田(佳彦前総理)さんと安倍さんの共通点。お二人とも〝三丁目の夕日〟がお気に入りなんですよ。今まさに高度経済成長期に入ろうとしていたあの頃の世相とか、人情話が大好きで、それを思い出しては夢よもう一度みたいなところが、随所に顔を出すんです。

 

冗談じゃないですよね。あの頃と今とでは、人口構造も社会環境もまるで違います。そういう頭だから、賃金をアップしたらその10%を法人税から引けるとか、交際費の損金算入限度額を800万円に引き上げるとか、そんな子供にアメ玉を上げるような支援策しかできないんですよ。

 

さっきも言いましたように、やる気も能力もいっぱいありながら、たまたまノウハウがなくて窮地に陥っている中小零細がうんとあります。その人たちは、自己責任の下に必死になって頑張っているんです。この際だから声を大にして言いますが、永田町、霞ヶ関の皆さん、そんな経営者たちを舐めてもらっては困りますよ!。

 

──ありがとうございます。その苦言、そっくりそのまま見出しに使わせていただきます(笑い)

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町工場・中小企業を応援する雑誌 BigLife21 2013年4月号の記事より

町工場・中小企業を応援する雑誌 BigLife21 2013年4月号の記事より