鶴雅グループ 株式会社阿寒グランドホテル 大西雅之|ホテル再生の次に目指すは、地域活性とブランド化だ!
鶴雅グル―プ 株式会社阿寒グランドホテル
ホテル再生の次に目指すは、地域活性とブランド化だ!
◆取材・文:加藤 俊
鶴雅グループ 株式会社 阿寒グランドホテル/代表取締役 大西雅之氏
観光リゾートホテルの業界で、この人ありと言われる経営者が北海道にいる。実家のホテルを存亡の危機から立て直し、道東地区から北海道全域へと進出し、次々に地域のホテルを再生していくその手腕は業界からも高く評価されている。さらに「無私厚情による人材再生」として、内閣府より〝観光カリスマ(※)〟の認定も受けている。地域のリソースを活用し、阿寒のブランド化を推し進める大西雅之氏の目指すものとは……。
※内閣府と国土交通省が中心となり、観光カリスマ百選選定委員会が選定している
大量団体旅行の時代から成熟化への潮目を読み誤り、危機を迎えた実家ホテル
「送客停止」──。
大手旅行代理店が、もうお宅のホテルにはお客様を斡旋できませんという、いわば最後通牒のようなものだ。
阿寒グランドホテルが、JTBよりその通告を受けたのが1987年。ただただ団体客をマスとして受け入れる箱のような存在では、もはや生き残れないと大西氏は悟った。そこから、あらゆることを見直し、驚くほどの短期間で抜本的な経営改善を断行していく。その結果、2002年には、かつて最後通牒に至ったJTBから、生まれ変わった「あかん遊久の里 鶴雅」として、「サービス最優秀旅館ホテル」全国一位の評価を得るまで登り詰めた。
実績が買われ、大西氏のもとには近隣をはじめ、道内の旅館・ホテルの再生が持ち込まれた。現在、本年7月開業のニセコ「杢の抄」を加えて、鶴雅グループは10軒の宿を有するまでに成長を遂げている。2000年に多店化をスタートし、このわずか十数年という短期間での旅館再生物語は、あまりにも劇的な故に観光業界では語り草になっていて、そこに纏わる種々のエピソードは、小誌としても次号で詳しく紹介していく。
地域の発展なくして、自社の発展もない
旅館・ホテルに個性や魅力がなければ、顧客の支持は得られない。これは当たり前だ。しかし、その地の宿に泊まろうという動機付けは、宿を超えたその地域の魅力によるところも大きい。その点で〝北海道〟ブランドの力は強いのだが、逆にこれまでそこに甘えてきたことで旅館そのものが没個性化してしまい、旅行の形がお仕着せの団体旅行から個人や少人数のグループ旅行へと多様化している近年の流れには対応しきれていないところが多いのも事実だ。
「最近の旅館経営は、お客様に如何にリピートしていただけるかが、鍵となっています。もはや〝満足〟を超えた〝感動〟を与えなければ、遠路遥々また来てもらうことは望めません。もちろん旅行は、宿泊するところだけで完結するものではありません。より広い範囲で捉えて、その地域の魅力に触れてもらうことは重要です」
しかし地域という枠組みで見たとき、阿寒をはじめとした道東が潜在的に抱えている問題がある。アクセスの悪さだ。2000年の航空法の改正後、羽田~札幌は安い時期なら8000円程度まで下がった。一方、道東に来るには依然として数万円もかかる。羽田からの飛行時間は5分しか違わないのにこれほどの格差があるのだ。これでは何かと便利な道央・札幌に人は集まってしまう。
だからこそ阿寒という地域の北海道内での差別化が重要になってくる。道東、とりわけ阿寒の地をいかに魅力的なものとするか。地域として唯一無二の個性を打ち出すこと。そして、目指すべきは単純な客数の多寡ではなく、阿寒でより多くの時間を過ごしてもらうことだ。地域のトップリーダーとなった大西氏はそのための方向をこう定めた。
阿寒の3大観光資源と新たな特産品を柱に
幸い、阿寒はものすごく将来性のある場所だった。
「〝アイヌ文化の里〟としての発信拠点になること。それから阿寒湖でしか丸く育たない〝世界遺産候補のマリモ〟と、日本一酸素濃度が濃いと称される〝雄大な大自然〟、これらに象徴されるエコリゾートという位置づけ。こうした個性を複合的に結び付けていく延長線上に阿寒湖温泉のさらなる活性化を見ています」
これらの観光資源を鶴雅だけではなく、地域全体に落とし込み、他にはない観光地に変えていくというわけだ。これが成功すれば、阿寒はとんでもない観光地になるだろう。そのブランド化を推進する地元観光協会長として、大西氏は積極的な活動を続けている。
その戦略の一環として、地域と北海道とが出資する「阿寒観光ブランド協議会」を釧路公立大学と協同で設立した。これはアイヌ文化に根差した地域の特産物を2年間で作ることを目的としている。フード、クラフト、ハイカルチャー(映像、文学、言語)、それぞれ日本トップクラスのクリエーターがリーダーとしてかかわっており、2年目に入った現在、その成果に注目が集まっている。
日本の最北で、大西氏の挑戦は続く。誰もが訪れたくなる地域作り、宿作りに終わりはない。
編集後記
阿寒のブランド化戦略。この試みは、既に「あかん遊久の里 鶴雅」では、実を結び始めている。事実旅館に泊まるとわかるのだが、旅館内の施設や調度品はじめ、着るもの隅々までアイヌ文化というコンセプトが徹底されていて、そこは旅館という次元を超えたある種の異空間になっている。
特筆すべきは、そこに身を預けることがとても心地良いことだ。これは何故なのだろう。アイヌ文化とはすなわち〝縄文文化〟の系譜に連なるものだから、悠久の昔から続く我々のDNAの記憶のどこかに、直接響く力があるのかも知れない……そんな想像を伸ばしたくなる郷愁にかられた。
それもこれも非日常な世界を、一部の綻びもなく、ここまで徹底して演出しているから、気持ちよくその異世界に入っていけるのだろう。こんな感動は初めてだった。
◇◆鶴雅グループの他の記事◆◇
●2013年7月号 どん底から日本一へ。〜旅館再生に見る経営のヒント〜
大西雅之(おおにし・まさゆき)氏…1955年北海道釧路市生まれ。東京大学経済学部卒業。1979年三井信託銀行入行。1981年阿寒グランドホテル入社。1989年社長就任。
鶴雅グループ
●株式会社 阿寒グランドホテル
●株式会社鶴雅リゾート
●鶴雅観光開発株式会社
〒085-0467北海道釧路市阿寒町阿寒湖温泉4-6-10
TEL 0154-67-2531
http://www.tsurugagroup.com
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新党大地代表の鈴木宗男氏へのインタビュー記事。
「小泉さんは自民党をぶっ壊すと言って総理大臣になりましたが、ぶっ壊れたのは自民党じゃなく北海道ですよ。地方都市ですよ。構造改革なんて美名の下にいろいろやりましたが、実のところ何のことはない。政治の役割を放り投げて、全部競争原理に委ねただけじゃないですか。公共事業費の一律1割カットなんてその典型ですよ。それですべてが上手くいくなら、政治は要りませんよね」
「東北全体に売上規模100億円以上の会社をもっと増やしていきたい。私のような起業家が増えれば、地域の雇用も増えていくのです。我が社(平田牧場グループ)は地元を中心に1000人を雇用しています。私の友人に、中村恒也セイコーエプソン名誉相談役(山形出身)という方がいますが、この会社(東北エプソン)が3000人雇用している。つまり我々二人がこの地域の雇用を下支えしているわけです。事業に対して夢がある人間、そしてそれをやり遂げられる人材を、これから公益大で育て上げていきます」
東北公益文科大学 理事長・平田牧場グループ 新田嘉一会長 地域振興にはまず人材育成。 今、注目!東北が誇る〝知の巨人〟 『東北公益文科大学』
阿寒湖には中国人の観光客が多いということで。
華僑の経営者が、日本人を信頼したり、尊敬したりすることは殆どない。なぜか。日本人の仁義が、中国人には見えないからだ。
仁義の「義」ってあるだろ。あの漢字の語源を知っているか?
スウィングバイ株式会社 海野恵一 (アクセンチュア 元代表取締役) 親分育成 虎の巻 「オレが華僑の智慧を伝授してやる!! 」 これを読めば今日からあなたも親分に!