『スモールビジネスデパート』へようこそ! 貴方のビジネスの「種」を育てる良き苗床でありたい
『スモールビジネスデパート』へようこそ!貴方のビジネスの「種」を育てる良き苗床でありたい
◆取材:加藤俊 /文:渡辺友樹
主婦から中学生まで、あらゆる人がビジネスオーナーになれる社会へ。今年オープンしたコミュニティ&マッチングサイト▶『スモールビジネスデパート』は、そんな想いから生まれた。
「優れた能力がなければ、優れたビジネスを興せないのではなく、優れたビジネスに必要なのは『本音で語り合える仲間』。腹を割って意見を交換し合える仲間とつながるプラットフォームが、スモールビジネスデパートです」
運営会社である株式会社スモールビジネス研究会の代表取締役、齋藤真織氏はこう語る。
自称「スモールビジネスフェチ」
株式会社スモールビジネス研究会は、自らを「スモールビジネスフェチ」と語る齋藤氏の豊富なビジネス経験を活かし、中小企業や起業を考えている人へのアドバイスや実践を目的として設立された。
齋藤氏のキャリアの出発点は銀行員として始まっている。上智大学卒業後、世の中がバブルに湧く時代に日本長期信用銀行(現・新生銀行)に入行する。銀行員時代に接した中小企業には、魅力ある人物が多かったそうだ。
「それこそ融資のためというよりは、彼らの経営哲学や考え方に触れたい、興味深い話を聞きたいがために、企業に足繁く通っていた節があります(笑い)というのも、私は、インドから紅茶やサリー、インド洋で採れた貝殻などの輸入販売を学生時代にしており、もともと経営に興味がありました。こうした中小企業フェチなところが、スモールビジネス研究会設立のベースになっています」(齋藤氏、以下同)
「私にはスモールビジネスを語る資格がある」
ベースになっているのは、銀行から先の経験も大きい。まさに波乱万丈の人生だ。外資系証券のメリルリンチを経て、2000年にITベンチャーの株式会社テレウェイヴに入社。そして、2005年には同社のCEOに就任。念願かなって経営者となった齋藤氏は、それまでの知見を活かして辣腕を発揮する。その結果、なんと社員百数十名から、最盛期には二千五百人を擁する大所帯にまで育て上げ、ジャスダックに上場と、まぁ凄い経営者なのである。しかし、成長を急ぎ過ぎたテレウェイヴはやがて不祥事を起こしてしまう。
「当時は3ヶ月での成長ラインを明確に設けていて、人が育つスピード以上に早く、組織が大きくなってしまった。組織の成長のために営業至上主義になり、平均年齢26歳の未成熟な集団は、ビジネスの経験や、人間的な成熟、管理とは何かを学ぶ間もなく、無理な受注や施策を行い続けた。気づけば私で管理しきれなくなり……、
とにかく、成長を急ぎ過ぎたことが失敗の根本原因であって、ビジネスモデルは間違っていなかったと今でも思っています。当時の50%ほどの目標を設定すれば、あのような事態は防げたハズだと。実績への過度のプレッシャーがない環境で、社員全員の人としての成長を可能にする『緩やかな速度』で会社の成長を追うことができれば、……まぁ、私は会社を去りましたので、後の祭りではありますが」
テレウェイヴはあわや上場廃止という危機に陥り、齋藤氏は2009年にその責任を取って退任する。そこから、冒頭のスモールビジネス研究会設立へとストーリーは繋がるのだが、確かに上にも下にも振り幅の大きい人生だ。「失敗を経験しているからこそ言えることもあるのです」との言葉は深く刺さる。
「日本は『業種特化』という考え方を基本にして銀行の融資の在り方や法規制などが成り立っています。私は、長銀では業種特化という経営スタイルを、メリルリンチではMBA取得や、資本主義の仕組みを学びました。そして、テレウェイヴでそれらを活かし業種特化という枠組みの中での事業立ち上げや運営を40例以上、経験しました。
『語る資格』とは、実際に経験していること。私にスモールビジネスを語る資格があるのは、この経験からです。
何より、経営者の皆さんがどれだけ孤独かを、自分も経験してきた身として、理解できる。経営者が孤独なのは、どんな人にアドバイスを求めても、相手はそれを経験していないから。コンサルだろうが、税理士だろうが、金融機関だろうが、偉い代議士だろうが、経験したことのない人からは本当の意味での共感は得られず、心を打つ話として受けとめることはできない。でも、私はいちばんキツい時期も含めてすべてを経験してきている。
だから、語り合う仲間になれる、孤独に寄り添える。成長を急ぐあまり苦境に立つ孤独な経営者を助けることだってできる。それが良くも悪くも様々な経験をした私が、世の中に対してできる社会貢献だと考えています」
確かに、銀行では中小企業に融資を行う立場を経験し、ベンチャーではその中小企業経営者の立場を経験、やがて企業の成長とともに上場企業の経営者に、はては不祥事や引責退任、事業撤退までを、〝実際に〟経験しているワケで、こんな人は国内を見渡しても二人といない稀有な存在である。
『社長と副社長との間の距離は、副社長と守衛の間の距離よりも遠い(大屋晋三 帝人元社長)』という名言があるが、経営者は孤独だ。腹を割って語り合いたいときにその相手がいない苦しみを味わい、誰よりも『仲間』を渇望してきたのは、他ならぬ齋藤氏なのだろう。
物質的・金銭的なビジネスから、場・つながりのビジネスへ
そんな齋藤氏は、現在は資本主義や社会の在り方の大きな変革期であり、だからこそスモールビジネスの時代であるとみている。
「自然資源は無尽蔵で、企業はどこまでも大きくなれ、また大きくなるべきであるという、産業革命以降アメリカを中心に主流だったプラグマティズムの考え方が否定され始めて10年以上になります。この間、〝成長しすぎる〟ことは企業にとって良くないという考え方が、成功者や資本家層から生まれました。
そして、大企業に就職して忙しく働いてたくさん稼いでということだけが幸せな人生ではないという、ワークライフバランスを重視する価値観の人も増えてきた。最近は、ワークとライフのバランスを取るという構図ですらなく、やりたいことをやって、そこから収入を得て、マルチキャリアの中から生活の糧を得ていくスタイルが認知されるようになってさえいます。官僚やコンサルタントといった人たちからこうした生き方を選ぶ人たちが大勢出てきています。
そしてまた別方向からの動きとして、若者たちがソーシャル系ビジネスを盛んに起こしています。彼らはダウンシフターといって生活の固定費が低く、たくさん稼がなくても幸せに暮らしていける。このように、上からも下からも、年代やキャリアを問わず、同じような生き方を選択する人たちがどんどん出てきている。時代がそうした流れにあるということです」
物質的なビジネスではなく、誰といかに繋がっているのか、どんな「場」を持っているかが重視され、価値を持つ時代に変わりつつあるという。齋藤氏は、この価値観を世の中に紹介し、実践する場を提供することが、スモールビジネスデパートの役目であり課題であると捉えている。
「いま、経営者たちがなんとなく、あと10年でこうなるだろうと感じていることは、実はけっこう似通っていると思っています。そして、それは本当にそうなります。そうなる前に、今のビジネスの進め方や考え方を変えることを真剣に考えて行動した方がいいと思います」
仲間と出会い、助け合いながらビジネスのアイデアを実現するサイト『スモールビジネスデパート』
「ビジネスは、多くのお金が必要とか、素晴らしい企画書が必要とか、そうした敷居の高いものではない。主婦でも中学生でも、ああだったらいいな、こんなことしたいな、というアイデアが即ビジネスの種になるような、そんな社会を目指していますし、そうなると思っています。誰もがビジネスの種を持っており、スモールビジネスデパートは、どんな種でも実を結ぶような、極上の苗床でありたい」
スタートアップやアーリーステージを支援するサービス自体は、目新しくない。同種のサービスも多数存在している。そこを問うと齋藤氏は、競合は怖くない、むしろウェルカムだと語った。 「世の中が変わるときは、大きなうねりが起こり、同じ方向に流れていきます。その意味で、競合が多いことは大歓迎。自分が同じようにやらなければいいだけのことですし、成功例や失敗例をみることもできます。」
『つながるミーティング』は、参加者がビジネスのアイデアを発表し、意見交換し合い、賛同者や協力者とつながるためのテーマ別ミーティングだ。発表や意見交換は一人1~3分という短時間の中でスピーティに進行し、仲間たちによるその場での直感的な反応や、多くの意見を得ることが重要だという。
二つ目の機能として、参加者は自分のアイデアやビジネスをサイト上に登録し、互いに自由に閲覧しながら、それに対する評価や、売買まで行える。誰もが気軽に、思いつくまま自分のビジネスオーナーになれるべきという同氏の考えを反映した機能と言える。
更に三つ目として、ビジネスを行う上で『困っていることを、たのむ』サービスがある。相談された困りごとに対して、実際に人材を紹介したり、営業同行したり、エンジェルファンドを探したりといった具体的な支援を行う。
会員は、月額500円という安価でこれらの機能を利用できる仕組みだ。
「人間ひとりの能力には限界があります。だからこそ、腹を割って語れる関係として、個人として繋がりたい。そういった場を提供したいのです。ビジネスの世界で、しがらみや、ねたみ、そねみ、対立なども散々見てきました。一方、互いのビジネスがより良くなっていくような繋がり方もありました。それを実践しながら、世の中に紹介したいのです」
そのために重要なのは、所属する会社や組織という枠組みを取り払うことだという。
「組織に所属する者としての立場があるから、腹を割れず、対立や揉めごとが起こる。組織を離れ、個人として参加することで、アイデアが実現するスピードが上がったり、また組織にあっては実現しえないようなビジネスが具体化したりといったメリットが生まれます。
また、会社組織としては膨大な額の利益を上げなければ儲けにならないようなビジネスでも、個人の立場であればずっと少ない規模で利益を得ることができますし、そこに対して自分の時間や手間をどれだけ割くかといった調整も行いやすい。これが、マルチキャリアやスモールビジネスの時代に則した考え方です」
組織や会社という枠を取り払って参加することで、様々な人が集まり、様々な意見が飛び交う。高い会費を払って、組織の肩書きを背負ったまま異業種交流会や同業組合に顔を出すよりも、月額500円、ワンコインで参加できるスモールビジネスデパートにこそ「場」としての価値があると齋藤氏は胸を張る。
スタートして3ヶ月、現在の会員数は82名。その3分の2はベンチャーを中心とした経営者、3割が会社員、6%ほどは主婦で、その他、シニアや研究者など多岐に渡るという。彼らの中からこれまでに34のアイデアやビジネスが登録され、17のテーマ別「つながる」会員ミーティングが始まった。そのひとつ『TEAM137(チームいちさんなな)』が手がける『SAVE THE BABY』は、世界銀行が主催するビジネスコンテストの東京大会でグランプリを獲得した。日本で生まれた母子手帳を世界の公共財としてWEB化するビジネスだという。
ほかにも既に起業準備の段階に入っているビジネスもあり、スモールビジネスデパートという苗床の品質は悪くなさそうだ。
株式会社スモールビジネス研究会代表取締役 齋藤真織氏(さいとう・まおり)…1966年生まれ。上智大学法学部国際関係法学科卒業後、日本長期信用銀行(現新生銀行)入行。ニューヨーク大学経営大学院へ留学、1997年経営学修士(MBA)取得。メリルリンチ証券東京支店(現メリルリンチ日本証券)勤務を経て、2000年、ITベンチャー(株)テレウェイヴ(のち(株)SBR、現(株)アイフラッグ)取締役経営企画室長就任。2003年同社上場をはさんで9年間で8業界40以上の新規事業を立ち上げ。代表取締役として2009年7月同社退任、同年9月に(株)スモールビジネス研究会設立。受託事業としてのコンサルテーションと自社事業立ち上げを行いながら現在に至る。
●スモールビジネスデパート
http://business-department.com/
●株式会社スモールビジネス研究会
150-0002東京都渋谷区渋谷2-19-20
http://www.3sb.jp/