オビ 企業物語1 (2)

株式会社アート・プラ ‐ 活路はどこに?業種を変えて生き残る知恵!DVD制作から物流の世界へ

◆取材:加藤俊

 

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技術革新は多くの人に恩恵をもたらす一方で、失業者を少なからず生む。悲しいかなそれが現実だ。しかし、だからと言って技術革新をやめるわけにはいかない。そこに経営者の葛藤と苦悩がある。そこでこの人を紹介したい。株式会社アート・プラ(東京・葛飾区)の常務取締役、横田浩崇氏である。

 

その葛藤と苦悩を乗り越えるために、氏が見せたいざという時の身の処し方、心構え──。おそらく聞けば心を動かす経営者は多いに違いない。とくとご覧いただこう。

 

己を知ることが大事、そこに新しい事業へのヒントがある

おじいさんのランプ〟という児童文学作家の新美南吉が作ったお話をご存じだろうか。時は明治の終わり頃、村に電気が引かれることになると需要のなくなるランプ屋が、電気の導入に全力で抵抗するのだが、やがて時代の流れや文明の進歩に抗うことの愚かさに気付いて、廃業を決意するというストーリーだ。主人公のおじいさんは最後にこう結ぶ。

 

「……世の中が進歩して自分の商売が役に立たなくなったらすっぱりそいつを捨てて、昔にすがりついたり時代を恨んだりしてはいけないんだ」

横田氏のこれまでを振り返ると、このおじいさんの姿に重なるところが多い。違うところは、おじいさんが時代を読む力に乏しかったのに対して、横田氏は会社をたたむ前に新事業を見つけるだけの力があったということだ。

 

アート・プラは、氏の父君がプラスチック製品とアクリルの加工を請け負ったのが始まりである。メインの顧客は弁護士や行政書士、セミナー講師にコンサルタントといった人たちで、彼らの営業ツールであるDVDを制作している。ところがこれも、ITやソーシャルネットワーキングの普及により、誰もが手軽に映像制作ができる時代になってきたことや、CD・DVDという形が廃れて、クラウドという新たなツールが認知されてきたことで、近年は仕事量がめっきり減ってきたという。

 

「このままDVD制作の事業をやっていても、年を跨ぐごとに売り上げが落ちていくことは目に見えていました。これはもう、それが時代の流れなのだからしょうがない。諦めるしかありません。でも、まだどうにかやっていけるこの数年のうちに、自分が突破口を見つけなければならない。そう決意して日々の生活にアンテナを張るようになったんです」

 

氏がまず取り組んだのは、自分たちに何ができるか、自分たちの強みは何なのかをもう一度自問し、再認識することだった。この強みや条件を考えるということが非常に重要で、同社の場合、埼玉県三郷に構えている二百坪からなる倉庫の存在が最終的に活きることになった。強みを認識したうえで、アンテナを張ってビジネスをしていると、きちんと道は開けてくれるのだ。

解決の糸口は、BNIという交流会がもたらしてくれたという。

 

ありがとうと言われる喜び

BNIは他の交流会と違って、よりビジネスに直結した交流会です。通常、数十名のメンバーがチャプターと呼ばれる一つのチームを形成して、お互いのネットワークを活用し、案件を紹介し合うことで、新たなビジネスモデルをつくることが目的です。一週間に一回集まっていますから、結束力は他の交流会より遥かに強いですよ」

氏はこの交流会で、ある物流会社の社長と知り合っている。話を聴いているうちに、自分達には倉庫があるので、自分もその仕事がやれると思ったそうだ。となればそこからは話は早かった。氏は社長にその旨を話し、暫くの間その会社で勉強させてもらうことにしたという。

 

毎日、早朝2時や3時に起きる生活が続いた。軽バンや軽ワゴンで、高級弁当をテレビ局に届けたり、アマゾンや楽天などの荷物を配送したりと仕事はいくらでもあった。入ってみて分かったが、この業界は完全な人手不足だった。おまけに人の質もあまり良いとは言えない。

 

「仕事先で当たり前のことをしているだけで、できる人だとありがたがられるんです。仕事をさぼらない、遅刻しない、挨拶する……つまり、そんな当たり前のことさえできない人たちが集まってくる業界なんです。ということは、逆に言えば、そこをきちんと教育できるシステムを作ることができれば、後発でもこの業界で生き残ることができると思っています」

氏は今、人材教育に力を入れながら、順調に事業を拡大させている。ドライバーも随時募集中だ。他の企業のように、車を買わされる初期投資がかからないことが大きな魅力になっているという。物流に興味のある企業からの連絡も待っているとのことだ。

 

最後に氏は、この仕事をやる上での喜びを語ってくれた。

 

「この仕事の良いところは、感謝を直接言ってもらえることなんです。『ありがとう』という言葉が、口にしてもらえるとこんなにも嬉しいもので、仕事のやる気に直結するとは思ってもいませんでした」

おむすびや弁当を届けると、自分に温かい言葉を投げかけてくれる人がいる。それがまたモチベーションに繋がるという。心から仕事を楽しんでいるのだろう。

 

オビ ヒューマンドキュメント

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横田浩崇(よこた・ひろたか)氏…1974年12月12日生まれ。東京都出身。千葉商科大学商経学部卒業後、株式会社アート・プラに入社。様々な交流会に出て多岐にわたる人脈を形成し、所属しているビジネスチームBNIの発展に大きく寄与した。常務取締役。

株式会社アート・プラ

〒125-0052 東京都葛飾区柴又5-10-14

TEL 048-958-8068

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2013年5月号の記事より

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