株式会社茜谷 |七人の侍見参!防災機運に乗じた火事場ドロボーは許さない!!
株式会社茜谷 七人の侍見参! 防災機運に乗じた火事場ドロボーは許さない!!
全国ネットのジオダブルサンド工法研究会発足
◆取材:綿抜幹夫
日大工学部が行った遠心載荷試験によって、大地震に伴う道路のクラック(ヒビ割れ)や液状化を防ぐのに、めっぽう効果的と立証された山形県生まれの〝ジオダブルサンド工法〟が、いよいよ全国展開に向けて大きな一歩を踏み出した。
去る9月30日、土木建設などの防災関連分野で、東北・東海地方を中心に事業展開している有力企業7社の代表が結集し、販売と施工サービスを兼ねた全国ネットの研究会の発足を宣言したのだ。そこで同工法を発案し、研究会の発足にも東奔西走した茜谷(酒田市)の茜谷聡社長を直撃、今後の展望や、胸の内を訊いた。
■立証された段違いの防災効果
──まずは大学の実験で、ジオダブルサンド工法が、地震対策にどのような効果があると立証されたのか。その辺りからお聞かせください。
茜谷 ええ。正式には遠心載荷試験といいましてね、日本大学工学部土木工学科にある、地盤防災研究室の仙頭紀明准教授のグループにやっていただきました。簡単に言うと、従来工法による実際の道路や駐車場と、ジオダブルサンド工法による実際の道路や駐車場の縮尺版を、それぞれ振動台上に造成して、一定の条件下で人工的に揺れを起こし、その結果どういう現象が起きたかを解析する模擬実験です。
揺れの強さは、東日本大震災時に至るところでクラックを発生させ、液状化現象を起こした千葉県浦安市のケースを想定し、震度7、マグニチュード9の地震規模となるように設定しました。それぞれ都合6回行いましてね、未対策のものは1回目の20秒以内にひとつはクラックが入り、ひとつは路盤が破断して憤砂、つまり液状化が始まりました。
対してジオダブルサンド工法を施したものは、150㎜道路においてのみ5回目の200秒時にほんの僅かなヘアークラック(髪の毛ほどのヒビ)こそ見られましたが、50㎜道路は路盤とも最後まで破断することなく、憤砂もほとんど見られないなど、段違いの耐震防災効果が立証できたというわけです。
──なるほど。それは凄いことですね。一体どういう仕組みになっているんでしょうか。
茜谷 これもまた簡単に言うと、その名の通り、geo(大地の)エネルギーを、防水シートと補強シートのダブルサンドにし、透水管を通すことによって、受け流したり、外に逃がしたりするこれまでにない柔構造という仕組みです。従来工法の道路は、上から押し固める言わば剛構造ですから、地震による地底からの衝撃や、地下水の噴き上がりを、まともに受けることになるんです。要するに、自然エネルギーと喧嘩するか受け流すか。その違いですね。
──考え方としては、高層ビルなどに用いられている免震構造とほぼ同じですね。
茜谷 そういうことです。建物については早くからそのように手当されているのに、道路や駐車場、橋やコンビナートといった社会インフラについては、不思議と未だに手付かずのままなんです。先の大震災で、関東から東北にかけてのサプライチェーンがことごとく分断されましたが、このままだと、誰の目にも同じことがまた起こる可能性が大でしょう。そうなる前に1日も早く、この工法を全国に普及させたい。強くそう考えているところです。
──そのための大きな一歩が、先ごろ発足したジオダブルサンド工法研究会というわけですね。
茜谷 おっしゃる通りです。NTTのインフラ整備を手掛ける仙台市のラインサービス(小野寺昭夫社長)さんを中心に、私どもも含めて全国7社の代表、有志が集まってくれました。どなたも強い正義感と使命感、侠気を以って立ち上がった、文字通り〝七人の侍〟ですよ(笑い)。
■研究会拠点に更なる技術革新も
──その七人の侍、つまり研究会の発足の目的や今後の活動方針について、お話しいただけますか?
茜谷 ええ。まず第一には、ジオダブルサンド工法に残された幾つかの宿題を、この研究会でクリアにしようということです。ひとつ目の宿題は、製品の安定供給をどう担保するかという問題です。耐震や液状化に加えて、施設の長寿化や凍上災防止など、一石二鳥どころか四鳥も五鳥も見込めるイイとこづくしの工法ですが、ひとつだけ欠点があるんですよ。
資材の補強シートが国内では調達できないことです。何しろトラック2台で左右から引っ張っても破れないのに、ハサミだと簡単に切れる(用途に応じて小分けできる)ハイパー合成樹脂ですからね。今のところはイタリアのメーカーから買い付けるほかないんですよ。それも大きさが大きさですから、船で運んでくるしかありません。そうなると資材の発注から施工開始までの日数が、70日も、80日も掛かる計算なんですよ。すでに10万㎡ほどの引き合いがきていますので、これではとても間に合わなくなる恐れがあります。
そこで喫緊の課題としては、石油の備蓄と同じように、研究会の7社がそれぞれ分担し、継続的に買い付けるなどして、国内のストックを増やす必要があります。いつでも需要に応えられる体制でなければ、ビジネスとしては成立しませんからね。もちろん国内で調達できればそれが一番ですから、そのための研究開発には、何ら惜しむことなく、一層の力を入れていくつもりですよ。
──なるほど。ぜひそう願いたいものです。他にはどんな宿題が?
茜谷 ひと言でいうと、更なるイノベーション(技術革新)ですね。今のところこのジオダブルサンド工法は、道路や橋、駐車場など、舗装された施設にしか敷設できません。でも実際の地震の被害は、学校のグラウンドや舗装されていない宅地にも及びますし、もっと言えば、日本は山が多いから至るところに法面がありますしね。雨が降るたびに土砂崩れする心配があるじゃないですか。今後はそれらにもしっかりと対応ができるよう、研究会が中心となって技術革新を進め、必要とあれば、新たな製品開発にも繋げる考えでいますよ。
──よく分かりました。となるとあとは販売戦略ですね。これについては今後、どのように展開していくお考えでしょうか。
茜谷 実はそれについても、ラインサービスさんを中心とした、研究会の皆さんに販売代理店としてお願いすることとしました。すでに各社さんとも、自社商品に組み込むなどして、本格的なセールス活動を展開されておられますよ。
──セールスと聞いて思い出しましたが、この分野の製品としては、ベラボーに低い価格設定だそうですね。
茜谷 いやいや(笑い)。この分野とおっしゃいますけど、私はこの分野だからこそむしろ、できる限りの企業努力をして、価格を少しでも抑えなければいけないと思いますよ。もしかすると為替の変動や燃料費、販売経費などの高騰で、この先已むなくいくらか値上げすることはあるかも知れませんが、少なくともその思いだけは変わりません。
首都圏直下型だとか、南海トラフだとか、毎日のように報道されて、今は自治体や企業も含めて、みんなの防災機運が盛り上がってきたときじゃないですか。それに乗じて荒稼ぎしようなんて輩は、火事場ドロボーみたいなものですよ。やがてジオダブルサンド工法が普及しだすと、類似品か何かを持ち出して、ひと儲けを企む連中も出てくるとは思いますよ。でもそのときは、我々研究会がガッチリとスクラムを組んで、けっして好きなようにはさせないつもりです。
──ぜひそうお願いしたいと思います。それはそれとして最後になりましたが、新連携事業(東北経済産業局)の認定もいよいよ視野に入ってきたようですね。
茜谷 ええ。これもラインサービスさんと共同での申請ですが、順調にいけば年明けのそう遅くないうちにも下りるものと期待しているところです。多くの自治体も応援してくれていることですし、理想的な形で船出ができたのではないかと、皆さんに感謝しています。本当にありがとうございます。
──益々のご活躍と、ご発展をお祈りしております。
●プロフィール
茜谷聡(あかねや・さとる)氏
1956年、山形県生まれ。東洋大学経営法学科卒業。都内で2年間のサラリーマン生活を経て帰郷。1981年に、実父の経営する茜谷に入社。現在、同社の4代目社長。小誌BigLife21庄内局長。
●株式会社 茜谷
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