秋山鉄工株式会社|慶応の先端研にちなんで末端研!? 子供たちのモノづくり拠点、日本国末端技術研究所とは?
秋山鉄工株式会社 慶応の先端研にちなんで末端研!? 子供たちのモノづくり拠点日本国末端技術研究所とは?
◆取材:綿抜幹夫 /撮影:寺尾公郊
これぞ変人社長の面目躍如!? 地域の子供たちと会社の未来のための新工場!
秋山鉄工の周ちゃんがまた何かやろうとしているらしい。そんな一報が小誌庄内局長(株式会社茜谷 茜谷聡社長)より寄せられたのは春の終わりだった。秋山鉄工とは、山形県鶴岡市の秋山鉄工株式会社のこと。3代目社長・秋山周三氏は県内外にその名を轟かす名物社長だ。その秋山社長が世間を驚かした『快挙』をやってのけた。新設の自社工場内に、地元の子供たちのための施設『鶴岡少年少女発明クラブ』を造り上げたのである。社長の熱い思いを直撃した。
子供たちの『アジト』完成す!
その高度な技術と高い信頼性で日本屈指の真空容器製造メーカーに登り詰めた秋山鉄工株式会社。『なり』こそ決して大きくないが、その高邁な経営理念や高い実績で県下はもとより、日本中から注目されている。
そしてその注目は、経営者たる秋山周三氏に集まる。ユニークな経営手法やその人柄が、多くの人を惹き付けるからだ。
人は秋山社長を『変人』と呼ぶ。だが、そこには侮蔑的なニュアンスはまったく含まれない。あるのは人と違った奇想天外な発想や、思いも寄らない行動力に対する尊敬の念と言っていいだろう。
秋山鉄工のユニークさを表すエピソードの一部は、前回の記事で紹介済みなのでここでは割愛するが、会社のホームページ上にある動画などもぜひご覧いただきたい。それが秋山鉄工のすべてではないにせよ、注目される理由の一端が垣間見えるだろう。
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前置きが長くなってしまったが、今回は秋山鉄工の新工場、『日本国末端技術研究所』のこけら落としに図々しくもお邪魔した。それはなぜか。一民間人である秋山社長が人材教育のために私財を投じ、本来は国や地方自治体などの行政が造らなければならない子供たちのための『塾』を工場内に併設したからだ。
秋山社長は言う。
「私が支援している『鶴岡少年少女発明クラブ』は、これまでも少なからず行政の助けを受けてきました。鶴岡中央公民館の工作実習室を無償でお借りしていますし、事務局も教育委員会の中に設置していただき面倒を見てもらっているのです。
しかし、施設を使う側の立場で言えば、公共施設ですから必要な工具類などを置きっぱなしにはできない。複数回にまたがる作業でも1回1回片付けて持ち帰らないといけないわけです。指導員にしてみても、年間24回の開催日が決まっているのに、その都度使用申請を出さなければならない煩わしさもある。年に何回かは他の利用者と重なって借りられないということもある。そうなれば別の会場を都合しなければならない。子供たちはその活動時間内のことだが、指導員などは準備や片付け、打ち合わせや検討の時間や場所の必要もある。
だから、自分たちが気兼ねなく自由に使える場所はないかなとなりました。つぶれたコンビニなんかの空き店舗に声をかけてみたりもしましたが、これが一丁前に使用料をふっかけてくる(笑い)。それでここを作ったのです」
口で言うのは容易いが、この子供たちの『アジト』を本当に作ってしまう人はまずいない。これこそ変人社長の面目躍如である。
「人は私のことを大層におっしゃいますが、私からすると、まずは自分の身近な部分でできることをやっているにすぎないのです。一民間人が天下国家を論じたところで、何かが変わるわけでもない。だからこそ、自分ができることをまずやろうと。今回の施設だって、本来は行政のやることだと皆さんお考えになるでしょう。しかし、行政が何かやろうとしても、彼らはいわばタンカー級の大型船舶みたいなものなので、簡単に方向転換ができない。だから、声高に叫んだところで、彼らは簡単にこっちを向いてくれない。できない。彼らをあてにしても物事は進まないのです。
だからこそ自分たちでやるしかない。我々はボートレースのボートみたいなもので、安定性には欠けるが、何かあればすぐ舵が切れますから(笑い)」
すべては子供たちとこの国の未来のために
新工場には秋山鉄工の社名の入った看板はない。秋山社長曰く、「看板があると、ウチが潰れた時に次の会社が消すのに手間がかかるから、面倒をかけないようにするため」とのこと。
『箱』はできた。そうなると次は『中身』のことである。
「子供たちには立派な社会人になって欲しいと願っています。立派な社会人の定義は人それぞれいろいろあるでしょうが、だからこそ優先順位をつけて絞り込んでいかなければなりません。私はそれを4つに絞っています。『挨拶・返事・掃除・感謝』の4つです。子供のうちにこれをしっかり身に付けておけば、まず心配はいりません。今の知識だけの学校教育じゃダメなんですよ。小さいうちから自らものを考え、手を動かす。そういう下地を作ってやらないと。ここはそのための場所ですから」
秋山社長の経営方針でもある『人間性の向上』。それこそ子供のうちから徹底的に鍛えておけば、どこに出しても恥ずかしくない立派な社会の一員が出来上がっていく。一方その活動は何も児童だけを対象としない。地元の大学生にも、厳しくも温かい目が注がれている。
「地元の人材育成ということで、東北公益文科大学にもコミットしています。『社長インターンシップ』という形で協力しているのです」
学生が地元企業のトップに密着し、経営トップの考えを学ぶことによって社会人力を磨く『社長インターンシップ』。もちろん企業側にもメリットはある。学生に対する企業イメージの向上や、優秀な学生との接点などだ。
「我が社を、私を知りたいなら住み込みで来てもらわないと難しい。就業時間だけが経営者の仕事じゃないからです。朝起きてから夜寝るまで、経営者は常に経営者たるべきなんですよ。こういう条件ですから、来るとしても男しか来ないだろうと思っていたら、3年連続女性が来ています。今時っぽいですね」
会社経営の他にも多方面の活躍を見せる秋山社長。そんな超人ぶりを間近に見られる学生は、その僥倖に感謝しなければバチが当たると言うものだ。
そして本業では、百年企業を見据えて……
この看板は、たまたま訪れた人の「ここの住所は日本国(山形県鶴岡市大宝寺日本国)なのだから、事務所は入国管理事務所ですね」という一言にヒントを得て作ったという。
社会貢献はもちろん立派なことだが、秋山社長の経営者としての本質はそれ以上に素晴らしい。
まず目を惹くのは独特のユーモアだろう。例えば、秋山鉄工日本国工場(このネーミングもすごいが)に掲げられている『日本国入国管理事務所』の看板などは好例だ。そのセンスが遺憾なく発揮されているのが新工場のネーミング、『日本国末端技術研究所』である。
「実は鶴岡には有名な『慶應義塾大学先端生命科学研究所』というのがありまして。近所に『先端研』があるなら『末端研』があっても面白いじゃないか。それが命名のきっかけです。同一地域に先端と末端があるんだから、地元のメディアくらいは取材に来てもいいと思うんですけどね(笑い)。一応『研究所』と称していますが、いささかおこがましいと思っています。我々の技術は既存のものばかり。だが、その組み合わせから『先端』の技術は生まれてくる。最先端などと言っても、それは在来の技術の積み重ねがあって初めて成立するものなんですよね」
顧客からも業界関係者からも一目置かれる技術力の源泉は、その既存の技術にこそある。地味な基礎的技術の土台があればこその『先端』。『末端』の上にしか『先端』はありえないということだ。
「多くの同業者が捨てていく在来技術を、捨てずに辛抱強く残すことこそ大きなアドバンテージとなるんです。例えば工作機械は、作業者がハンドルを回すことなどによって操作する『汎用工作機械』と、コンピュータ等による数値制御で自動運転を行う『NC工作機械』に分けることができます。
今はどこでもほとんどNC機ばかりだが、技術・技能の根っこは汎用機にこそあるのです。ですが、現実問題としては、これにしがみついていてはおまんまの食い上げになってしまう。だからこそ、みんなNC機を導入するわけです。
うちでは技術の継承のために併用しています。もちろん、数としてはNC機が多いんですが、汎用機も残さないといけない。汎用機を自在に扱える技術を継承しない限り、NC機頼りのところに負けてしまう。値段で勝負するしかないような新興国とやりあうためには、技術の幅や奥行きこそ武器になるのです」
秋山鉄工は値段で勝負しない。他人様がまねできない技術こそ命なのだ。
そんな秋山鉄工の『肝』は溶接技術である。真空容器をひずまないように溶接するまさに職人芸とも言える技術は決して自動制御の機械では再現できない。また、秋山鉄工は部材加工も自社で行う。部材を自ら切断し、加工するという『内製』にこだわる。それこそが自社技術の発展継承だと信じているからだ。
だが、これほどの技術力を誇っていても、そこは人のやること。ミスは避けて通れない。水際で防げれば傷も浅くて済むが、致命傷にもなりかねない問題が発生することもまれにはある。
「去年の暮れに、とんでもないミスをやらかして、大げさに言えば会社存亡の危機に直面してしまいましてね。上得意様から即時取引停止、損害賠償請求となってもおかしくなかった。暮れということもあって、こちらから出向いて対処するのも難しく、結局お客様ご自身が対応してくださいました。そうなると社長である私が先方にお伺いして、説明やらお詫びやらをきちんとしなければならないのだが、それも暮れの事情でできなかった。やっと先方を訪ねたのは1カ月後のことでした。
トラブルは迅速な対応をしないと、感情的にももつれてしまう。必然的に事が大きくなってしまう。実際、出入り禁止の一歩手前までいったようですが、お客様にとっては、我が社の技術や製品がないと、お客様自身のプロダクツが成立しないほど、我が社が先方に食い込んでいたらしくて、とても取引停止なんかできるものじゃないと。だからこそ、もっとお互いが頻繁に出入りして、いろいろ提案をしてくれと言われました。
まあ、長いお付き合いの中、我が社を信頼してくださるあまり、立会等にも一切いらっしゃらなくなっていた。そういう、いわば馴れ合いみたいな部分で今回のミスが生まれてしまった。原因を突き詰めていけば、我が社に問題があったのは当然ですが、先方の担当者にも責任をとらなければならない人が大勢出てしまう。我が社がそこで突っ張ってしまうとまさに泥沼。そこで私が、全責任はうちがとりますと頭を下げました。そういう態度を評価していただきまして、この危機は乗り切ることができたのだと感じています」
だが、秋山社長は転んでもただでは起きない。今回のミスの原因をキッチリ究明して、今後の製品作りの糧としている。
「確かにミスは痛い。だが、このミスで学んだことは大きいものでした。これからの真空容器作りに取り入れていければ、我が社はこの分野での正真正銘のトップランナーになれるでしょう」
高い技術と人間力。秋山鉄工を支えるこの柱は、秋山社長の目の黒いうちは決して揺らぐことはないだろう。
新工場『日本国末端技術研究所』から産み出される新技術や、ここで生き生きと学ぶ子供たちが、会社を、そして地域をますます活性化するに違いない。
プロフィール
秋山周三氏(あきやま・しゅうぞう)
1950年、山形県鶴岡市生まれ。72年、芝浦工大卒業。都内の工作機械メーカーに入社。74年、同社を退職し、秋山鉄工に入社。91年、創業70周年を機に同社3代目社長に就任。庄内工業技術振興会会長、福祉法人「道形保育園」理事長、鶴岡中央工業団地管理組合副理事長。
秋山鉄工 株式会社
〒997-0011 山形県鶴岡市宝田1-10-1
TEL 0235-22-1850
http://handrey.com/akiyamatekkou/
鶴岡に1台しかないという秋山社長の「自家用車」。環境に配慮した電気自動車に乗ることからも、秋山社長のお人柄の一端が垣間見える。
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今回訪ねたのは山形県鶴岡市の秋山鉄工株式会社『日本国末端技術研究所』こけら落とし。だが、一介の町工場のオープニングセレモニーとはその趣はぜんぜん違っていた……。
「子供っていうのはですね、使い古された言葉ですが、本当に国の宝なんですよ。この国の将来をどうするかっていうことは、その宝をどう磨くかっていう、そのひと言に尽きると思うんです」
忘年会旅行の一コマ。例年のことだが、旅行会社を通すことなく、交通手段から宿泊するホテルの手配まで、すべて社員が手づくりで準備をし、段取りを組む。そして、「宴会の料理は通常より40%ほど減らして用意してください」と電話で注文。更に、「酒類はその都度飲む量だけ注文しますから、飲み放題セットはけっこうです」。これだけを聞くと何だかケチな会社のようだが、しかしその次の言葉を聞いて、ホテルの受付係は自分の耳を疑うことになる。「料金の割引きは必要ありません。通常の料金をお支払いします」