株式会社オンデック久保良介氏、M&A仲介を再定義する
株式会社オンデックは、京阪神と東京を中心に、中小・中堅企業に対するM&A仲介やアドバイザリー業務を展開している。日本の中小企業向M&A業界の歴史は古いとは言えないが、2005年に創業した同社はその中でも老舗のグループに入る。今回、代表の久保良介氏に業界の動向と、課題、M&A仲介業務のあるべき姿について話を伺った。
2000年頃からのM&A市場の動向
久保氏が、M&Aを強く意識し始めたのは、2000年頃のことだと言う。当時は、六本木ヒル族と言われインターネット革命の流れに乗ったベンチャーの一群が、株式交換を中心にM&Aを拡大していた。中でも、ライブドア社は上場企業の親子関係の虚をついて、ニッポン放送を買収し、フジテレビの実質支配を狙うなど、目立った動きをしていた。この背後で、金融スキームを提供していたのが、ゴールドマン・サックスやリーマン・ブラーズなどの投資銀行だった。買収側と防衛側の行き詰るやりとりが、連日マスコミ報道されることによって、M&Aは一気に認知度を高めっていった。
一方、異業種からもM&Aへの参入が相次いだ。例えば、銀行業界ではバブル崩壊後の金融危機から脱却するため早期是正措置が取られていた。その中でも地方銀行、信用金庫においては急激な不良債権処理は、中小企業に影響が強いため、資産改善スピードを緩くするとともに、収益力を高めるためのフィービジネスの推奨がなされていた。このため、M&Aなどのビジネスマッチングが脚光を浴びることになる。
そして、その頃から日本経済のより根本的な問題である事業承継にも警鐘が鳴らされ始めていた。こんな環境もあって、M&Aが元より身近にあった、コンサルティング会社、税理士法人は自社の事業領域拡大のために参入を始めた。
「このような流れのなかで、M&Aは右肩上がりに増えていきました。そして、さらに2006年に上場した日本M&Aセンターの業績を見て、儲かりそうに見えたのか、小規模ブティックの参入が一気に増えました」
しかし、その後晴天の霹靂のごとく、リーマンショックが日本を襲う。そこで新参組はほとんどが撤退。結局、景気が著しく後退して、企業のキャッシュフローが大幅に悪化すると、M&Aどころではなくなってしまったのだ。当然に、M&Aは買収側企業が見つけられないと成立しないため、多くは撤退し、代表的な数社が残る状況になってしまったと久保氏は語る。
「ただ、今はリーマンショック前の勢いを超えM&Aの件数自体はまた増えてきています。またここで業界への参入が増えてきました。今は、その時よりもっと激しいと思いますね」。
業界の課題
「欧米と比較するのは好きではありませんが、ビジネスのやり方として見ると、欧米企業に対して日本の企業はイグジット(出口)を設計していないところが多いです。よって、事業承継の対応が遅れたり、スムーズな引継ぎがなかなかできにくい構造になっています。本来、事業承継の準備をするには10年以上必要で、経営者がはたと気づいたときから、対策を打ち始めたのでは、承継の課程でいろいろトラブルが発生するのは止むを得ない状況もありますね」
そして、さらにM&Aで重要なことは、成約することではなく、その後会社が成長発展することだ。しかし、今は新規参入も増えたことにより、必然的に顧客サイドのM&Aのコストをどれだけ抑えるかという、入り口の部分での価格競争が激化している。そうすると、どうしても一案件あたりの手間がかけられなくなり、後工程への配慮が少なくなってしまう。顧客側も入り口は安くなっていいと思うかもしれないが、後工程こそが重要という部分はM&A経験が初めての顧客には分かりにくい点だ。本来こういった、PMI業務にもフィーを払ってもらい、しっかりやれるような業界になるべきだろう。
「M&Aはその後に会社が発展しなければ意味が無いのです。そのためには、もちろんPMIは重要ですが、そのもっと前に、後々上手くいくかどうかの事前分析も重要です。我々は、本当にこのM&Aが双方に価値をもたらすかを見ています。もし価値が創出できないのであれば安易にM&Aを奨めないほうがよいのです」と久保氏は指摘する。
オンデックの特長について
「創業の背景から説明しますと、もともと起業したいという思いが強くありましたね。日本の教育とか、いろいろ問題意識があったのですが、具体的にそういった問題を解決しようと思ったら、自分の意志で人、モノ、金を動かしていく必要があります。そのためには、起業するしかないと思っていました。よって、最初からそのつもりで、様々なビジネスを知るために大手カード会社や、上場商社で様々なビジネスを経験しました。そのうえで、最終的にフォーカスしたのが、日本の事業承継問題を解決するためのM&Aだったのです」
商社では経営企画室で様々なプロジェクトをマネジメントするという経験を積み、立場や思惑が異なる人々が関わるビジネスをまとめていく経験を積んだ。それが今に生きる形になっている。M&Aの内実は譲渡側企業と買収側企業の統合をまとめるプロジェクトなのだと、久保氏は言う。
「業界の課題のところでも触れましたが、当社では、M&A成立後に会社が成長するという成果が出るように事前調査を徹底的に行っています。当該企業の業界構造や、ビジネスモデル、強み弱み、業務フロー、組織構造や、人的リソースの配分などをしっかり調査して、言わばプロジェクトの設計に力を入れているのです。このM&Aは、経営交代によって果たして、企業が今後発展していくのかどうか、また従業員にとっても幸せなことなのかどうなのか?事前設計にしっかり取り組むことにより、その後のM&Aのポスト工程にも上手くいく確率が高いのです」
この結果、同社の営業はセミナーや広告によるものはほとんどなく、支援したお客様からの口コミが大多数だという。売却に成功した企業の社長から、別の事業承継で悩んでいる企業を紹介してもらったり、また、プロジェクトにかかわった金融機関や税理士からも、評価を受け、紹介をもらうなど、紹介の比率が高いのだ。
その意味でも、今年の帝国データバンクグループからの資本参加の価値は高い。帝国データバンク社は調査取材部門として1,700名を擁し、全国津々浦々の企業調査データを保有している。譲渡側企業の分析をする際に、業界構造や、取引構造、同業種比較調査などの精度が格段に向上する可能性があるという。
オンデックのM&A仲介哲学
「私はM&A仲介の本質は、プロデュースであり、プロジェクトマネジメントだと言っています。中立的な立場に立つと、買収側から見ても譲渡側から見ても、必ずしも当事者に同調するわけではありません。そうすると、あなたはどっちの味方なんだ?とよく言われますね」
確かに、買収側に立ちすぎて買収価格を下げるということは、相手を低く見ていますよというメッセージにもなり、譲渡側としては良い気持ちにならない。また、譲渡側に立ちすぎると、高く企業価値を設定してしまい、そのあと会社が第三者から遡って訴訟されるなどのコスト負担要因がもし出てきた場合、高く買っているのだから譲渡側がコストは負担すべきといった話がでて、あとで揉めたりすることもある。
「つまり、M&Aは単に仲介すればよいというのではありません。我々は、譲渡側、買収側が共に参画するプロジェクトと考えており、譲渡側から買収側に上手く引き継がれ、その企業が発展していくことがもっとも重要なのです。そうしたときにお互いに信頼関係をもってプロジェクトを実施していけるようプロデュースしていくことがM&A仲介の骨幹なのです」
最終的に、この売買をとりまとめるかどうかは、企業の成長が描けるかどうかだという。つまり、経営陣が変わることによって、例えば売り上げを3億から、5億に増やせるか、また利益も増やせるかだ。そういった意味では買収側の経営能力や企業文化などの調査も重要だ。新経営陣をスムーズに受け入れ、その企業が発展することが従業員にとっても好ましいことであるからだ。
「当社は事業承継案件に対応させていただくことが多いのですが、その中でも特に困っているのは製造業です。日本の国力は製造業に係っていると認識しており、日本の技術がきちんと後代に継承されていくのが我々の存在価値なのです。当社の社員にもこの価値観は共有されており、皆日本の製造業を何とかしたいという想いをもって取り組んでいます。コツコツとではありますが、しっかりやりたいと思います」と語る久保氏には、控えめな語り口ながら使命感がみなぎっている。
<プロフィール>
久保良介(くぼ・りょうすけ)
平成11年 関西大学商学部卒業後、大手カード会社入社
平成13年 東証一部上場商社に入社、営業企画推進部勤務
平成14年 経営企画室に異動、国内外の様々なプロジェクトリーダー、中期経営計画、予算統制
平成17年 オンデック起業
<会社情報>
株式会社オンデック (ONDECK Co.,Ltd.)
創業 2005年7月
設立 2007年12月
資本金 1億円
大阪本社:〒541-0056 大阪市中央区久太郎町1-9-28 松浦堺筋本町ビル2F
TEL:06-4963-2034
東京オフィス:〒100-0014 東京都千代田区永田町1-11-28 合人社東京永田町ビル7F
TEL:03-6434-0132
URL:www.ondeck.jp
業務内容:M&Aに関する仲介、斡旋、アドバイザリー業務
企業及び事業の再生、再構築に関するアドバイザリー業務
企業、事業のデューデリジェンス業務