社長勇退アドバイザーに聞く 勇退の極意 – 社長勇退ドットコム管理人 磯村崇
◆文:社長勇退ドットコム管理人 磯村 崇
価値ある事業を築き上げたオーナー社長の勇退を全力で支援する
社長勇退ドットコム管理人の磯村氏は、東海地区を中心に、中堅・中小企業の事業承継支援(親族内承継・親族外承継)に力を入れている事業承継の専門家で、社長の“勇退”を支援するというコンセプトで活躍している特徴あるアドバイザーだ。
事業の存続を願う経営者の意思を、丁寧にくみ取る提案力に定評がある。現在では、評判が口コミで広がり、名古屋市近郊だけではなく、東京、大阪、福岡など、全国の案件を手掛けている。事業承継のアドバイザーとしては珍しく、自ら情報発信も行うブロガーとしても有名だ。
■ M&Aは単なる手段、大切なのは目的を見失わないこと
―社長勇退ドットコムというサイトは、事業承継やM&Aに役に立つ情報をわかりやすく提供しているサイトです。本日は、同サイトの管理人の磯村さんに、いろいろとお話を伺っていきます。まずは、M&Aのことについて、詳しく教えてください。
磯村:詳しくと言われると、どこから話したら良いか迷いますが……。M&Aは、「総合芸術」という言葉で表現されることがあります。これは、大胆さと緻密さが同時に要求される”複雑さ”だからだと、勝手に考えております。
経営理念に始まり、事業の将来予測、会社のポートフォリオ、そして経営管理や内部統制、さらには会社の値段に至るまで。M&Aを検討しようとすると、いろいろな課題が目白押しになります。
基本的に、会社を第三者に引き継ぐ検討は、時間も掛かるものです。また、方法や順番を間違えると、まったく違った結果になってしまう可能性すらあります。
極めて慎重に決断しなくてはならない重いテーマなので、どうしてもその決断を先送りにしがちです。ようやく「会社を売却する」という大きな決断をしたとしても、言い知れぬ不安に襲われる方も少なくありません。20年30年経営してきた経営者の立場で考えると、当然のことだと思います。私は、M&Aを勧めていく上で、経営者の立場に立って、一緒に考えていくというスタンスを取っています。
―M&Aを検討するためには、考えなくてはならない課題がたくさんありそうですね。磯村さんのように、全てを受け入れてくれそうな雰囲気は、孤独な経営者にとっては、安心できるポイントだと思います。では、M&Aを検討する上で、特に気をつけなければならない点は何があるでしょうか?
磯村:M&Aを進めるうえで、一番気を付けなければならないのが、”手段の目的化”です。M&Aはその性質上、大きなおカネが動くことがあります。だから、どうしても会社の値段が気になってしまうところです。
実際に、書店のM&Aコーナーでも、「あなたの会社 高く売れます(仮)」的な本の方が目立ちますし、M&Aの専門家もこのようなアプローチをした方がお客さまの受けが良いため、必然的に会社の値段に興味が向かいがちです。
M&Aとおカネは、切っても切り離せない関係です。なので、値段が気になってしまうことは仕方のないことだと思います。ですが、おカネだけに関心が集中しすぎてしまうと、大切なことを見落としてしまうかもしれません。
M&Aは単なる手法です。目的を実現するための手段の一つに過ぎません。手段が目的化、つまり、おカネを得ることが目的になってしまうと、自分が今まで大切にしてきた人間関係や価値観をぶち壊してしまう可能性があります。
気づかないうちにおカネの奴隷になってしまわないように、十分に注意して進める必要があります。M&Aを検討するに当たってまず考えるべきは、「何のためにM&Aという手法を取り入れるのか?」ということです。
■ M&Aも親族内承継も基本的には同じだ!!
―M&Aを検討する目的として挙げられるのは、一般的にどのようなケースが多いのでしょうか?磯村さんや社長勇退ドットコムに相談があるケースなどで、教えてもらうと助かります。
磯村:私のところに相談があるケースで言うと、「後継者問題の解決」という理由が多いですね。これは、おそらく「社長勇退ドットコム」という看板を掲げているからだと思います。もしかしたら、一般的なケースと少し違うかもしれません。
後継者難を理由に、順調な企業が廃業していくのは、普通にもったいないなって思います。経済や社会全体から見ても損失ですしね。会社を誰かに譲渡することができれば、事業を存続させることが可能となり、結果的に後継者問題も解消されることになります。
ここで、重要なのが買収希望企業に対しての伝え方なのですが、「後継者がいないので…。」と伝えるのはあまりにも味気ないと思っています。
―「味気ない」というと、どういうことでしょうか。
磯村:後継者不在という理由は、状況を説明しているだけであって、買収希望企業に提案をする理由ではないからです。
買収希望企業の経営者も、後継者不在だという理由だけで持ち込まれたとしても、ちっともうれしくないですよね。案件を持ち込まれたことに多少のうれしさはあるかもしれませんが、対象会社の経営者としての資質に疑問符がつくと思います。
第三者、特に今まで取引もないような会社にお持込する場合、相手は基本的に警戒しています。「なぜ、うちの会社に話があったのかな?」と考えるのは、自然な流れです。その時に、「後継者がいないので…。」だけでは、あまりにも寂しすぎます。「どこでも良かったんかいっ!!」とツッコみたくなると思います。
―確かにおっしゃる通りですね。磯村さんが独自にやっている方法などがあるのでしょうか?
磯村:独自というほどでもないのですが、「あなただから、この事業を託したい」という伝え方をおすすめしています。後継者不在とだけ伝えるよりは、よっぽど効果があります。
「〇〇社長に、ぜひうちの会社を引き継いで欲しい。」という伝え方の方が、相手に響きますし、「うちのことよく理解してくれているな」と前向きに捉えてくれます。
この“前向きに捉えてくれる”というところが大切です。M&Aなんだから、悪いところがあって当たり前です。揚げ足取りになったらキリがありません。それよりは、「今現在、この会社にはこのような課題があります。」と現状をさらけ出してしまった方が、話が早く進みますし、信頼関係の構築にもつながります。「この課題をクリアするためには、御社の経営資源を活用できれば、もっと伸びるはずです。」と経営上の相乗効果を伝えていくのです。
最終的に、「オーナーの△△社長も、『〇〇社長に引き継ぎたい」と言っています。」と畳みかけていきます。このようにお伝えすれば、少なくとも「怪しまれておしまい」ということだけにはなりません。きっと、真剣に検討してくれるはずです。そこで、ダメだったら仕方ありません。他を当たれば良いのです。
重要なのは、「オーナー社長自身が会社の発展の方向性をどのように考えているか」ということです。これは、我々がアドバイスすべきではないと考えています。オーナー社長自身がどのように考え、後継者に会社をどのように導いてもらいたいのか、会社のビジョンをしっかりと示す必要があります。
事業承継は、究極の仕組みづくり。後継者指名は、社長最後のお仕事です。その決断を間違えないように、会社の理念や自分の哲学と照らし合わせて、納得のいく決断をしてもらいたいものです。これは、M&Aに限らず、親族内承継でも同じことが言えます。後継者は、自分の夢の続きを叶えてくれる“信頼できるパートナー”という考え方が重要だと思っています。
―M&Aだけに限らず、事業承継に対する深い洞察をお伺いできて、読者の方にも参考になったと思います。最後に、事業承継にお悩みのオーナー社長の方に向けて一言、お願いいたします。
磯村:せっかく素晴らしい会社を築き上げていたとしても、清算してしまえば、おしまいです。社会に残すべき会社を、ただ「後継者がいない」という理由だけで事業をたたんでしまうのは、社会にとっても大きな損失です。おそらく、社長もそうしたくないからこそ、今まで頑張ってきたのだと思います。
事業承継で何から手を出したら良いかわからないという方が多くいますが、手始めに、”勇退イメージを紙に書き出す”という行為から始めると良いと思います。ある程度イメージが固まってきた段階で、行動に移すのが良いでしょう。事業承継では、「自分自身の頭でまず考えてみる」この姿勢が大切だと思います。
もし、前向きなイメージがどうしても思い浮かばないという方がいましたら、事業承継の専門家にお声がけしてみてください。価値ある事業を未来に…。
―ありがとうございました。磯村さんの今後の活躍を期待しています。次回は、お子さまへの引継、“親族内承継”のことについても、お伺いさせて頂きたいと思います。
【プロフィール】
磯村 崇(いそむら たかし)氏
1976年10月生まれ。会計事務所・M&A専門会社(現在、東証1部上場)を経て、コンサルティングに入社。現在は、「社長勇退ドットコム」という事業承継専門のWEBサイトの管理人を務めている。
豆腐屋の二代目である父親が廃業し苦労した経験から、事業を継続することの難しさを肌で感じ、苦しさを打ち明けられない経営者の心の内に強い関心を抱くようになる。
「答えは、社長の心の中にある」がモットーで、社長の話に真摯に耳を傾け、企業の発展と存続のため、社長と後継者の真の気持ちに重きを置いた事業承継対策・勇退のサポートに、魂を込めて取り組んでいる。
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