山川賢記(山川会計事務所)- M&Aで最も大切な「感情と勘定」
◆文:山川賢記(公認会計士 税理士 山川会計事務所)
(写真=写真AC)
昨今、中小企業の後継者難が大きな社会問題となっており、利益がしっかりと出せている会社、伝統や技術がある会社が、後継者難の問題を解決するために、中小企業でも親族外事業承継(いわゆるM&A)が活発に行われています。この「親族外事業承継」とは、第三者の企業または個人に、自分の会社を売却することを意味します。すなわち、外部の第三者(買い手)が承継対象の会社(対象会社)をオーナー(売り手)から買うことになります。
ここで売り手、買い手双方にとって最も関心があるのは譲渡価格となります。
最終的にいくらで経営権を譲渡するのかという合意に向けて交渉を行います。
これはビジネスですから当然踏むべき過程となります。
しかし、もう1点、特に売り手オーナーにとって大切なものがあります。
それはオーナーとしての自分の会社に対する「感情」です。
M&Aは結婚に例えられることが多く、昔のお見合い結婚に近いものです。
特に創業者オーナーにとって、譲り渡す会社は我が子同然の存在であり、沢山の想いがつまっています。その会社を譲り渡す際には、長い間大切に大切に育ててきた娘を嫁(息子を婿養子)に出すような心境になられます。
先述したように、譲渡価格の最終合意のため、財務諸表等の情報や将来のキャッシュフローの獲得能力など様々な情報の分析が行われ、売り手と買い手の間で質問がやり取りされます。
この過程で中小企業のオーナーは会計処理の不備を数多く指摘されることとなります。これは税務会計を基準として今まで会計処理を行ってきたものの、M&Aの際には上場企業に求められる企業会計に近い基準でチェックされるためです。また、同様に労務面でも未払い残業代の問題を抱える中小企業は数多く存在します。
しかし、このように会社に関する情報を洗いざらい調べられ、不備の指摘を受けることは、我が子の釣書の身長や体重、学歴、年収、スリーサイズ、さらに健康診断数値等に至るまであれやこれやとケチを付けられているようで、売り手オーナーとしては割り切れない思いを抱えつつ対応されることとなります。
また、交渉の結果出される最終的な企業評価はオーナー自身の企業家人生としての評価と捉えられます。
従って、交渉の中で買い手やアドバイザーに求められるのは、「売り手オーナーに対する敬意」と「適切なタイミングで適切な表現による伝え方」になります。
理論的にいくら正しいことを言ったとしても、例えば会うや否やいきなり財務諸表のおかしい点を話し始めたのでは、「価格がいくらであってもあの買主にだけは売却はしない」と交渉が決裂してしまうこともあります。
M&Aは極めてビジネス的な行為でありながら、「感情」が成否を左右する人情的な側面を持つ特殊な取引行為であると言えます。
もちろんビジネスである事が大前提ですので、言うべきことをきちんと伝える必要はあります。しかし、人間のクセなのでしょうか。数値の検証を行い、理論的に伝える時は無機質に淡々と伝えがちで、責め立てているような印象を与える事があります。
上記のように「感情」に最大限の配慮を行い、売るに値する企業を作り上げられた売り主オーナーに対して「最大限の敬意」を忘れず、「失礼のない表現」や「伝えるタイミング」に注意することが大切になります。
私共虎ノ門会のアドバイザーは「感情と勘定」を常に意識しながらアドバイザリー業務を行うよう心がけております。買い主の皆様にも是非この点気をつけて頂き、円滑に交渉を進めて頂けると幸いです。
プロフィール
山川賢記(やまかわ まさき)
公認会計士 税理士
1972年5月生まれ。1999年公認会計士2次試験に合格し、大手監査法人にて法定監査やIPOに従事。その後、税理士法人にて税務、M&A、IPOアドバイザー業務を行う。
現在はM&Aと中心業務とする会計事務所の代表を務める。
山川会計事務所 グローアルM&Aコンサルティング
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