爆速M&A、クラウドワークスとグラヴィーの代表が語るデジタルM&Aの魅力
◆取材:加藤俊 / 文:松村蘭
写真左から graviee 大野康介氏 / TRANBI 萩原知祥氏 / クラウドワークス 吉田浩一郎氏
2017年にクラウドワークスの子会社となったgraviee(グラヴィー)。両社は出会ってから1ヶ月という異例の早さで、クラウドワークスがグラヴィーを買収する運びとなった。
その裏には、日本最大の事業承継・M&Aマーケット「TRANBI(トランビ)」の存在があった。
インターネット経由の新しいM&Aは、仲介会社を通して行う従来のM&Aとどのような違いがあったのだろうか。
今回は、新時代のM&Aのあり方について、クラウドワークス代表の吉田浩一郎氏とグラヴィー代表の大野康介氏にお話を伺ってみた。
M&Aは、新規事業に踏み出ための1つの手段
−まず、会社の概要をご説明いただけますか?
大野康介(以下、大野):株式会社graviee(グラヴィー)は2012年に設立した会社で、今年で7期目になります。主な事業は、週3日の仕事スタイルがコンセプトの「3スタ(サンスタ)」というサービスです。
Webのクリエイティブ領域に特化したフリーランスの方に対し、週3日からの常駐や在宅の仕事を紹介するサービスを提供しています。
吉田浩一郎(以下、吉田):株式会社クラウドワークスは、日本最大級のクラウドソーシングであるクラウドワークスを運営しております。
日本中の大企業から、中小企業や小規模事業者などを含め22万社に登録いただいており、仕事の受け手である個人の方々には全国で165万人に登録されています(2018年1月現在)。
インターネット上でお仕事をマッチングするサービスになります。
仕事は200種類くらいあって、クラウドワークスで得られる個人の最高年収が2400万円。企業にとっては日本中の多様な個人のスキルが活用できる。個人にとっては時間と場所に囚われないワークスタイルを選べるということが、それぞれのメリットになっています。
―クラウドワークスとして、買収を考えた背景に何があったのかご説明いただけますか?
吉田:我々は20世紀の大企業の正社員という働き方に対する1つのイノベーションとして、クラウドソーシングを世の中に提供することが主業務です。ベースがフリーランスという個人の方々に対し、単発のプロジェクトをインターネット上でマッチングするという形で、2012年からサービスを提供しています。
当社は、インターネット上で様々な仕事をマッチングすることに強みはあったのですが、昨今の副業解禁などの働き方の変化や複雑化に、より細かく対応していく必要がありました。
こうした背景をもとに、新しい事業・サービスを拡充するための選択肢としてM&Aを検討する過程でトランビを知りました。
想定外の売却
―グラヴィーが売却を検討した理由、背景には何があったのですか?
大野:実は、当初は資本提携先というよりも、3スタがより成長していける業務提携先を模索していたのです。それというのも当社が抱えているフリーランスのワーカーさんに価値を提供し続けていくことを考えると、規模の大きい会社と組んで、今まで以上により大きな価値を提供していくことが必要だと考えていました。
会社を売却するつもりはなかったのですが、仲介会社を通さず直接提携候補先と出会えるサービスを探す中で見つけたのが、トランビでした。
結果、トランビ経由でクラウドワークスと繋がる機会をいただきました。そこから色々お話していく中で、「資本提携という形にまで踏み込んだ方がより良いサービスや価値を提供していけるのではないか」という話になり、売却を決断しました。
−売却は意図していなかったけれども、とりあえず登録しておいてアライアンスなどを検討されていたと。クラウドワークス以外からも、声はかかったのですか?
大野:何社かアプローチはありました。連絡だけなら10社以上いただいていて、実際にお会いしたのは3、4社ですかね。
−その中で、なぜクラウドワークスを選んだのですか?
大野:理由は大きく3つあります。1つ目は、当社とクラウドワークスさんとの事業領域が近く、事業シナジーが大きく見込めたことです。
2つ目は、バックオフィス業務をサポートいただける点です。当社は社員数が少なく、当時5名くらいの会社でした。代表である私自身が営業から採用面談、契約書のチェックや経理業務など全てをやっていたので、事業の成長に100%注力しきれていなかったところがありました。
そこで、クラウドワークスの資源、具体的にはバックオフィスでの連携により、当社の課題が解消され、より強い経営基盤を形成できる可能性を感じたところが大きかったです。
3つ目の理由としては、当社の価値観や経営方針、文化を非常に尊重していただけたという点です。
−例えば、グラヴィーの文化のどのようなところを?
当社の進むべき方向性、ワークスタイルを主体的にデザインする世の中へ、という自由な働き方を広めていく方向性がクラウドワークスとも近しいところがあり、非常に尊重していただきました。具体的なサービスプランや営業方針など、自由にやらせていただいたところがありますね。
インターネットならでの爆速M&A
−クラウドワークスにお聞きしたいのですが、買収が決まるまでのフローと、最終的にグラヴィーを選んだ理由は?
吉田:トランビのサイトは非常にわかりやすく業種や業務内容、会社の状況などの案件情報が丁寧に書かれていたので、まずアプローチがしやすかったです。交渉を申し込んですぐに大野さんからお返事もいただけて、とにかくやり取りが非常にスムーズで、スピーディーでした。
通常、M&A仲介会社は人がやってきて、訪問させていただいて、ヒアリングをして、というように訪問やメールを複数回経なければいけません。また、他の買い手と横並びで進むため、他社の都合で待たされるケースもあります。
しかしトランビでは、一連の手続きがインターネット上で完結しますし、売り手と直接交渉できるので、当社のスピード感で話を進めることができます。既存のM&A仲介会社を利用するフローと比較すると、時間的にも、時間に紐づくコストと人件費という意味でも、非常にリーズナブルなアプローチをさせていただけたと考えています。
その中で、グラヴィーの大野社長とお会いしました。第一印象は本当に穏やかで、ビジネス立ち上げの才能のある方だなと。そして、幅広い事業への興味をお持ちの方、非常に人として好感がもてました。
出会いから1ヶ月のスピードM&A
−どういった形でお二人は交渉を行ったのですか?
吉田:大野社長は基本的には業務提携、もしくは少額出資という前提でお話しされていました。しかし、我々がやっていない市場領域で3スタというビジネスを立ち上げられていたので、私の方からは「出資というよりは一緒にグループでできないですか」と。
大野社長はその段階では売却の意思があるわけではないので、原則的に社長を尊重する形で考え、株式100%というのがもし問題になるようでしたら、51%でどうでしょう、と。ある意味色々な選択肢を持った形でできませんか、とお話をさせていただいた次第です。大野社長としては、そういう提案を想定していなかったと思うので、すごく驚かれていましたね。
ただ、私が想うに、大野社長は今後の人生で取り組んでいきたいことは数多くある人だなと感じました。事実、この領域ではないことにも色々挑戦していきたいと仰っていて。
だから我々はこの領域に集中している会社ですので、段階的な買収というようなことをご提案させていただきました。残り49%を買収させていただいたら、大野社長はそこで抜けられて新しいことをやられるのはどうでしょう、というような話を進めていったということですね。
−それは具体的にはいつ頃でしたか?
大野:吉田さんとお会いしたのは、トランビでのやり取りが始まってから1週間後くらいですね。
吉田:初めてご来社いただいた際に買収のご提案をさせていただき、そういう方向で進めていきましょう、と2週間後にはお返事をいただきました。
結果的には、出会いからほぼ1ヶ月でまとまりましたね。これだけ早く話がまとまるというのも、トランビというインターネットで完結するサービスのおかげかなと思います。
インターネット経由でのM&Aへの抵抗
−トランビを利用した際、インターネット経由での業務提携に不安や抵抗はありましたか?
大野:不思議と抵抗はなくて。メッセージを使ったやりとりが非常にスムーズでしたね。先方の考え方や事業内容を聞いてしまえば、インターネットかどうかは問題ではなく、抵抗感みたいなところは全くなかったです。
−上場会社がインターネットで会社を買収する事例は、まだまだ珍しい先進的な事例と思いますがいかがですか?
吉田:我々自体がインターネット上で、仕事を探しているフリーランスの方と発注者をマッチングするというイノベーションをやっていますので、会社の文化としてインターネットで会社を買収するということには全く抵抗はなかったのかなと思います。
今回のM&Aによって得られたもの
−クラウドワークスとして、今回の買収で当初想定したシナジーは得られましたか?
吉田:取れていない領域に関しての事業戦略が共に組めたということは明確です。直近は我々の想定以上の業績で、売上も営業利益も伸びている状況です。
−大野さんはどうでしたか?子会社になって何が変わったかなど教えてください。
大野:数字が上振れした大きな理由は、クラウドワークスという名前による会社の信用度が上がったからだと思っています。
まず優秀な営業が採用できたことと、優秀なパートナーと組むことができましたから。そのおかげで売上、利益ともに上振れしたという。会社の信用度というのが一番ですね。
業務面で言うと、当社が抱えている会員の方に対して、クラウドワークスが持っている多くの企業情報や仕事情報を共有できたところは、当社の会員のフリーランスの方にとって非常にプラスに働きました。
あとはバックオフィスの部分で言うと、法務・会計周りを含め今ちょうど連携を活発に行っており、徐々に私がやっていたところが引き継がれ、支援していただきつつあります。
既存の考えにとらわれない、新しい働き方の実現へ向けて
−大野さんは様々な分野に挑戦していきたいというお話が出ていましたが、今後の青写真をどう描いているのか教えていただけますか?
大野:当社のキーワードが自由な働き方でして、今後は週3日の方もいればリモートで働きたい方もいると思うので、個々の希望のワークスタイルに応じた自由な働き方ができるようなあらゆるサービスを作っていきたいと考えています。
今後は3スタ以外の新しいサービスを考えています。3スタはクリエイティブ領域ですけども、職種を増やすという手もありますし、3スタ以外のまた違った働き方を提唱したいと思っています。
−クラウドワークスとしては、今後の働き方はどうしていきたいとお考えですか?
吉田:弊社は、「働き方革命〜世界で最もたくさんの人に報酬を届ける会社になる〜」というビジョンを掲げています。我々のイノベーションの指標というのは、個人にインターネットを介して届けた報酬額であると考えていまして、この報酬額において日本一の会社になるということです。
日本で個人への報酬額を考えたとき、従来の概念(企業で正社員として働くこと)でのナンバー1企業はトヨタさんだと思います。トヨタさんで従業員36万人、仮に日本人の平均年収420万円で換算しますと、大体1.5兆円くらいになります。我々は今40万人×420万円というように置いていまして、そうすると約1.7兆円になります。
1.7兆円の報酬を、インターネットを経由して我々のイノベーションによってお届けできると。
20世紀は大企業の従業員に対してトヨタさん、我々はインターネットであらゆる個人に対して報酬を届けるクラウドワークスとして、日本一を目指しています。そういった中では、日本最大のM&Aのプラットホームであるトランビのお力を引き続き借りて、我々が日本一のプラットホームになるというところを継続的にご支援いただきたいなと思っております。
―ありがとうございました。
◇取材記者のコメント◇
今回のクラウドワークスとグラヴィーを取材し、スタートアップのEXITの場としてTRANBIが有効に機能するのではないかと感じた。
実際、TRANBIの担当者に話を聞くと、上場会社のユーザー登録は増えており、その利用目的の多くが、新規事業の種となる事業のソーシングとのこと。
日本のスタートアップはIPO志向が強いと言われているが、スタートアップの本場アメリカでは、90%近くがM&AでのEXITとなっている。
TRANBIのような仕組みの活用が進むことで、スタートアップ企業のEXITの選択肢が増えれば、新しい事業にチャレンジする機運がより盛り上がり、日本経済の活性化につながるのではないだろうか。
<プロフィール>
吉田浩一郎(よしだ・こういちろう)
株式会社クラウドワークス・代表取締役社長兼CEO。
1974年、兵庫県神戸市生まれ。東京学芸大学卒業。
パイオニア、リードエグジビジョンジャパンを経てドリコム執行役員に就任し、東証マザーズ上場を経験。2007年に独立するも、1度目の起業は失敗。その後、2011年11月に株式会社クラウドワークスを創業。2014年12月、東証マザーズ上場を果たす。著書に『クラウドワーキングで稼ぐ! ―時間と場所にとらわれない新しい働き方(日経新聞出版社)』、『クラウドソーシングでビジネスはこう変わる(ダイヤモンド社)』などがある。
大野康介(おおの・こうすけ)
株式会社graviee・代表取締役。
フリーランスのWebクリエイター向けに、週3日からの仕事を紹介するサービス「3スタ」を運営。「働き方をもっと自由に」をミッションに掲げ、「社会に対して、価値あるサービスを提供し続ける」企業を目指す。
<会社情報>
株式会社クラウドワークス
設立:2011年11月11日
資本金:17億6,495万円
本社:〒150-6006 東京都渋谷区恵比寿4-20-3 恵比寿ガーデンプレイスタワー6階
不動前営業所:〒141-0031 東京都品川区西五反田3-11-6 サンウエスト山手ビル8階”
大阪営業所:〒530-0011 大阪府大阪市北区大深町3-1 グランフロント大阪ナレッジキャピタル8階 K826
福岡営業所:〒810-0004 福岡県福岡市中央区渡辺通5-14-12 南天神ビル3F
株式会社graviee
設立:2012年2月2日
資本金:700万円
住所:〒150-0022 東京都渋谷区恵比寿南2-5-9 内藤ビル3F