岸田康雄 (事業承継コンサルティング株式会社)- 事業承継の重要性
◆文:岸田康雄 (公認会計士・事業承継コンサルティング株式会社 代表取締役)
【1】 中小企業の事業承継の重要性
中小企業経営者の高齢化が進み、今後5年から10年程度で、多くの中小企業が事業承継のタイミングを迎えようとしています。中小企業に蓄積されたノウハウや技術といった価値を次世代に受け継ぎ、世代交代によるさらなる活性化を実現していくために、円滑な事業承継は極めて重要な課題です。
そこで中小企業庁は、中小企業経営者の高齢化の進展等を踏まえ、円滑な事業承継の促進を通じた中小企業の事業活性化を図るため、事業承継に向けた早期・計画的な準備の重要性や課題への対応策、事業承継支援体制の強化の方向性等について取りまとめた「事業承継ガイドライン」を策定しました。
【2】 中小企業の現状と経営者の高齢化
中小企業が我が国経済・社会の基盤を支える存在であることは、改めて指摘するまでもないでしょう。中小企業は我が国企業数の約99%(小規模事業者は約85%)、 従業員数の約70%(小規模事業者は約24%)を占めており、地域経済・社会を支える存在として、また雇用の受け皿として極めて重要な役割を担っています。
また、中小企業の中には時代の先駆けとして積極果敢に挑戦し、その過程で生み出したアイディア、技術やサービス等を武器として、大企業と渡り合い、あるいは新たな市場の開拓に成功する企業も存在し、我が国経済の活性化の一翼を担っているといえましょう。
このことは、小規模事業者についても同様です。小規模事業者は所在する市区町村や近隣自治体への商品販売の割合が多いなど、特に地域における商品・サービスの提供主体として欠くことのできない役割を担っています。一方、他者の提供する商品やサービスを購入する消費者の立場も併せ持っており、小規模事業者を介した循環型地域経済を形成しているのです。
中小企業の数が減少するということは、そこで雇用される従業員の数が減少するということです。従業員にとって働く場所が無くなれば、所得が減少することになり、消費の減少を通じて、経済の規模が縮小することになります。
「中小企業白書(2016 年版)」によれば、我が国経済は、経常利益が過去最 高水準を記録するなど景況感は改善傾向にあり、賃金も上昇傾向が続くなど総じてみれば緩やかな回復を実現しているとされています。
一方で、中小企業の数については、1999年から2015年までの15年間に約100万社減少しており、ピークであったリーマンショック後も緩やかではあるが 中小企業数は減少傾向にあります。
これと同時に、経営者の高齢化も進んでいます。経営者交代率は長期にわたっ て下落傾向にあり、昭和50年代に平均5%であった経営者交代率は、足下約10年間の平均では3.5%に低下、2011年には2.46%まで落ち込んでいます。これに伴い全国の経営者の平均年齢は59歳9ヵ月と、過去最高水準に到達しています。
経営者交代率が長期にわたり下落傾向にあることは、多くの企業において経 営者の交代が起こっていないことを示しています。その結果として、1995 年頃には47歳前後であった経営者年齢のボリュームゾーンも 2015 年には66歳前後になっています。
中小企業経営者の引退年齢は規模や企業の状況にもよりますが、平均では67~70歳程度であるため、今後5年程度で多くの中小企業が事業承継のタイミングを迎えることが想定されます。
<執筆者紹介>
岸田 康雄 (きしだ やすお)
事業承継コンサルティング株式会社 代表取締役
島津会計税理士法人東京事務所長
公認会計士、税理士、中小企業診断士、国際公認投資アナリスト(日本証券アナリスト協会検定会員)
一橋大学大学院商学研究科修了(経営学および会計学専攻)。 中央青山監査法人(PwC)にて事業会社、都市銀行、投資信託等の会計監査および財務デュー・ディリジェンス業務に従事。その後、メリルリンチ日本証券、SMBC日興証券、みずほ証券に在籍し、中小企業経営者の相続対策から大企業のM&Aまで幅広い組織再編と事業承継をアドバイスした。 現在、相続税申告を中心とする税理士業務、富裕層に対する相続コンサルティング業務、中小企業経営者に対する事業承継コンサルティング業務を行っている。 日本公認会計士協会経営研究調査会「事業承継専門部会」委員。中小企業庁「事業承継ガイドライン」改訂小委員会委員。
著書には、「プライベート・バンキングの基本技術」(清文社)、「信託&一般社団法人を活用した相続対策ガイド」(中央経済社)、「資産タイプ別相続生前対策完全ガイド」(中央経済社)、「事業承継・相続における生命保険活用ガイド」(清文社)、「税理士・会計事務所のためのM&Aアドバイザリーガイド」(中央経済社)、「証券投資信託の開示実務」(中央経済社)などがある。