◆文:堀口佳孝 (監査法人ハイビスカス/公認会計士)

 

前回は、親族外事業承継における財務諸表の重要性を説きました。今回は、事業承継を考え始める上で事前に点検しておくべき項目を見ていきましょう。

 

前回記事親族外事業承継における「適正な」財務諸表の重要性

 

個人の経費と会社の経費の混同処理

一般的なオーナー企業においては、個人に帰属すべき経費を会社に帰属すべき経費として処理してしまうことが少なくありません。

通常は、接待交際費や旅費交通費といった科目の中に個人の経費が含まれることが多いと考えられるため、事業承継を考えるに当たっては内容を整理する必要があるでしょう。

特に役員個人に帰属する経費であったような場合は、役員に対する貸付金であると考えられる可能性があることに留意しなければなりません。

また、過去に税務調査を受けたことがある場合は、その指摘内容は必ず確認するポイントとなることから、事前にその対応状況を確認しておくことも有用でしょう。

<点検ポイント>

・個人に帰属すべきものを会社経費として処理していないかどうか

・役員個人に帰属すべき経費と考えられるようなものはないか

・過去の税務調査の指摘内容とその対応を理解しているか

 

費用と資産の混同処理

事業承継にかかわらず、「利益が出ている会社かどうか」は財務諸表を見る上で必ず確認する点になることから、経営者は利益や目標達成のためのプレッシャーを抱えていることが多いでしょう。

「利益を出すにはどうすればよいか」と考えた場合、「決算書上の費用を資産として処理する」ことで利益を出すということがよく見られる方法です。本来費用処理すべきものを資産計上することは、税務上は課税所得の増加につながることから、指摘を受けることがありません。

しかし、事業承継やM&Aにおいて買手候補先が売手候補先の決算書を見るという点では、利益マイナス要因となりうる項目は買収価格を下げる誘因が働くことから、売手候補先としては事前整理が必要となるでしょう。

 

特に、修繕費や消耗品費と費用処理すべきものを固定資産や消耗品として資産計上しているケースや固定資産の減価償却費の計上をしていないケースが考えられますので、過去においてそのような処理を行ったことがないかどうかを振り返ってみることも重要です。

<点検ポイント>

・固定資産や消耗品の中に費用処理すべきものがないかどうか

・減価償却費を計上していない固定資産はないか

 

労務管理

最近では、ニュースや新聞等で企業の労務管理に関して触れられることが多くなっています。買収後の追加の債務計上(例えば、過去の従業員等から未払残業代や退職金等を請求される等)を未然に防ぐため、事業承継やM&Aにおいて会社を評価する上で労務管理状況は特に厳しく見られる点となっています。

特に会社にとってマイナスの影響を与える可能性のある要因である従業員に過剰な労働を強いているのではないかということやその対価が支払われていないのではないかということ、過去の退職者から過剰労働等に関する訴訟を提起される可能性がないかどうかなどは、会社決算に重要な影響を与えることに留意しなければなりません。

労務管理状況については、決算書からのみでは自社の問題点を把握することが困難であると考えられることから、事業承継を考え始めるころから、自社の労務管理状況について一度専門家に見てもらうことも将来検討しなければならない事項を軽減することにつながるでしょう。

<点検ポイント>

・残業代の管理を含む勤怠情報の管理ができているか

 

終わりに

今回紹介している点検ポイントは一部に過ぎませんが、事業承継を考えるに当たり、まずは自己点検を実施して一定の情報を整理しておくことが、その後の作業負担及び交渉を有利に進めることにつながるでしょう。

 

堀口 佳孝(ほりぐち・よしたか)氏…公認会計士、公認不正検査士。1983年11月北海道生まれ。小樽商科大学商学部卒業後、新日本監査法人にて法定監査業務に従事した後、現在は、監査法人ハイビスカスにて社員として上場会社等の監査業務、財務デューデリジェンス、不正調査業務等を担当。

 

監査法人ハイビスカス(一般社団法人虎ノ門会会員)

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