鶴岡高等専門学校|地域連携進化するCO-OP(コーオプ)教育!
鶴岡高等専門学校 地域連携進化するCO-OP(コーオプ)教育!
◆取材・文:加藤 俊
「地域活性化」を語るうえで重要なのが、地域にいかに「若者を定着させるか」ということ。これに異を唱える向きはあるまい。こうした点を解決する糸口として、近年、産業界と学会との間で頻繁に行われている「産学連携」に向けられる視線は熱い。
だが、「産学連携」というこの言葉、何度もシンボリックに掲げられるものの、いまいち定義は曖昧なまま、言葉だけが独り歩きしている点は否めない。特に、本来この言葉に期待されている「ジョブマッチング」という観点で内容を精査していくと、確たる成果を出せている事例がどれだけあるか甚だ疑問である。
ここに、活路を見出そうと産学連携に取り組んでいる地域がある。山形県庄内地方。日本海に接したこの地域は他地域に比べ、「若者の県外就職率が高い」という課題が顕在化している。地域の過疎化という待ったなしの課題をいかにして解決するのか、一人ひとりがこの難題に向き合い、答えを模索している。
今回、記者がこの地域を取材する過程で、実を結び出している面白い事例を2、3見つけることができた。
そこで産官学金における「学」と、「金」(企業と学校を後方から支援する金融機関)に主な焦点を当てて、産学連携、ひいては地域活性化の在り方を見ていきたい。
鶴岡工業高等専門学校 CO-OP教育推進室長 神田 和也氏
最初に紹介するのは、小誌12月号でも取り上げた鶴岡高等専門学校。同校では、高専としての生き残りをかけて「産学連携」に取り組んでいる。インターンシップとは違う、CO-OP教育(コーオプ)というプログラムを取り入れ、産業界と学会とのジョブマッチングを図っているのだ。このCO-OP教育を通して、地域に貢献する高専のもつ役回りを考えてみたい。
CO-OP教育とは
まずCO-OP教育(コーオプ)とは何たるかを説明しなければなるまい。そもそもCO-OP教育とは、欧米では既に100年以上の歴史がある産学連携教育であり、学生が授業の一環として、在学中に企業で数カ月間働く就労体験型のキャリア教育のことを指す。
各国によって形式は異なり、例えばアメリカやカナダでは1年に3カ月間、学生が企業で働く形をとっている。これを在学中の4年間毎年行うので、参加学生は大学を5年かけて卒業する形になる。なお、CO-OP教育に参加して企業で働いている期間は学生に給料も支払われるため、学費や生活費を稼ぐ手立てとしても有効活用される、非常に理にかなったプログラムなのである。
CO-OP教育の目的は、学生が就労体験を通して自身の人生と向き合い、社会に出る「目的意識」をもつためのステップとしての意味合いが強い。簡単に言えば、長期間のインターンシップにあたるが、インターンシップが産業界から学生にベクトルが向いたものなのに対し、CO-OP教育は学校側が主体性を持ち、学生を産業界に送りだしている。
そして、このベクトルが変わる意味合いの違いが大きい。
なぜなら、学校がカリキュラムの一環として捉えることで、数カ月間という長期間の就労経験を学生は在学中に積むことが可能になり、これにより、しばしば〝社会勉強(おべんきょう)〟や〝見学会〟と揶揄されるインターンシップの範疇を脱するからである。何より、※インターンシップが有名無実化しているとの指摘は産業界ではよく聞く話で、「数日間来てもらったところで、学生の人となりがわかるワケがない」、「1分1秒の時間さえ無駄にできない中小企業には負担が大きい」などといった木で鼻を括った見解を生んでいる始末だ。
※インターンシップ形骸化の原因は、経団連の新卒採用ルールである「採用選考に関する企業の倫理憲章」によって、インターンシップは選考と結びつけることが長年禁止されてきた事情があるからである。インターンシップを採用選考につなげることを認めると、実質的な採用選考の早期化、いわゆる「青田買い」が横行する懸念があるためとのことなのだが、長年こうした縛りがあったために国内では、インターンシップが採用選考の過程としてうまく機能しなかった。
高専の危機意識
そもそも日本の産学連携の取り組みは総じて遅れていると言える。大学では立命館、神戸大学、京都産業大学、東京工科大学などの一部の限られた学校でしか先進的な取り組みはなされていない。それとて国内で完結し、且つ大企業間との取り組みが目立つ。 こうした国内の状況をよそに世界を見渡せば、既に多くの大学でCO-OP教育は取り入れられていて、例えば、カナダのヴィクトリア大学やアメリカのシンシナティ大学では、毎年3万人を超える学生のうち、実に半数以上がプログラムに参加している。
しかも驚くことに欧米のCO-OP教育は国内の枠にとらわれず、多国間で産学の交流が行われているという。この点に対して、鶴岡高専のCO-OP教育推進室長の神田和也氏は、日本の現状を鑑みながら、焦燥に駆られて話す。
「海外のCO-OP教育の事例を見ていくと、地域内の企業とのジョブマッチングという局所的な枠組みに限定されず、世界規模で展開しているところが多いのです。
例えば、アメリカの大学の学生がヨーロッパにある企業で就業経験を積むなど。もちろん、英語圏という前提の上で成立しているのでしょうが、それでも日本ばかりが世界から孤立し、遅れている事実に違いはありません」
「グローバル」という言葉が日本の上空を空しく素通りしている現状に、神田氏だけではなく、政府としても余程苦い思いがあるのだろう。産学連携の裾野を広げるべく、近年学会の至るところの尻を叩き回っているのは、こうした次第と読み解ける。
この文脈の時間軸上に高専を当てはめたとき、平成17年にして既にCO-OP教育の導入を急いだ経緯が見えてくる。背景にあるのは、「高専としての危機意識」。実は、近年文科省の高専に対する視線は非常にシビアになっている。研究費の成果や外部獲得資金など全てを評価対象とされ、その存在価値を厳しく注視され始めたのだ。現に毎年の運営交付金は年間1%ずつ削減されている。もちろん高専の需要が無くなっているワケではない。では、なぜなのか。
キーワードは「大学との差別化」。実は、大学の工学部の教育手法が、最近「高専に近づいてきて」、高専の独自性が失われていると危惧されているのだ。高専の危機意識はここに根差している。
「学校はとにかくスピーディー、且つ柔軟に対応できないと生き残れません。国立高専だから大丈夫なんて胡坐をかける時代ではないのです。意識ある教員は皆そう思っています。だからこそ、平成17年に当時の高専機構理事の四ツ柳校長(宮城高専)が、高専として生き残っていくために、大学や高校との教育の差別化を図る一環として、CO-OP教育の導入を提唱しました。本校は甚だ後発組ですが、平成24年4月からCO-OP教育をスタートさせています」
鶴岡高専のCO-OP教育導入の経緯
ただ、最初から思うような結果にはならなかった。平成24年の3月の春休みに募集をかけたのだが、企業への認知度がないばかりに参加企業が集まらなかったのだ。結果として企業1社、学生1人でのスタートとなった。ただ、そんなことで教員たちの想いはぶれるはずもない。歩みが鈍ることはなかった。
「本校としては、学生には低学年のうちから自分の将来を見据えて、キャリアパスを考えてもらいたい。その判断材料の一環として、在学中から地元企業を知ってもらう機会を設け、場合によってはジョブマッチングができるようにしたいのです。
これは少々乱暴な言い方になりますが、学生には色々な就職先があっていいと思います。誰でも名前を知っている大企業に入ることが、正しい唯一の道ではありません。確かに福利厚生や給料の額面は安定しているかもしれませんが、かえってそういった企業では、一個人としての裁量は失われるかもしれない。決められた枠組みのラインに組み込まれることで、本来自分のやりたいことができないキャリアを送るかもしれない。
こうしたことを考えると、地元で期待されてやりたいことをやらせてくれる企業で働ける方に魅力を感じる学生がいてもいいと思います。 でも、これらは学生のうちに想像できない場合が多い。それでも、こうした想像力を伸ばせるように手助けするのが、学校の務めですから。だから早い段階で広い視野を持たせて、人生の歩み方の色々な選択肢が見えるようにしてあげなければいけません。その役目が期待されるのがCO-OP教育なのです」
この熱意が産業界にも通じたのか、企業に参加を説く同校のコーディネータの地道な企業訪問の尽力もあり、この年の夏には12社の企業が賛同してくれて、12名の学生が参加することに。ルネサス山形セミコンダクタやスタンレー電気などの地元に拠点を置く企業も参加してくれたという。今年は参加企業数がさらに大きく膨れ上がる見込みだ。
ここからは神田氏に一問一答形式で伺う。CO-OP教育の実際の様子から高専に期待される未来の在り方まで、大きな夢のある話を語ってもらった。
Q・鶴岡高専のCO-OP教育では具体的に何を行っているのでしょうか?
「対象は3〜5年生と専攻科の1〜2年生なので、530名ほどになります。彼等の中から希望者を選考するのですが、その前段階として企業訪問研修会を設けています。これは学校の放課後に対象企業を訪問するプログラムです。2012年は53名の学生が参加しました。
本校のOB・OGを訪問して、実際に地元で就職した先輩たちがどういった働き方をしているのかを学生に目にさせるのです。
懇談の場も設けて、我々教員や企業の上長は席をはずして、OBと学生にフリーディスカッションをしてもらっています。そうすると、『どうしてこの企業に勤めたのか』とか『なぜ地元に残ったのか』など本音の質問を学生がぶつけられる機会になります。
その先CO-OP教育に進むと、実際に夏休みなどを通して企業で働き始めてもらいます。学生には山形県の平均時給に比べて割の良い750~800円程度の時給が支払われているようです。スーパーなどのレジのバイトより、自分が習っている学問を活かしうる環境で就労体験を積めることの持つ意味は大きいですよね。
働き方としては企業の中で一般社員に交じって仕事をするのですが、異なる点として、学生に一日何をしたのか毎日WEB上で日記を書いてもらうようにしています。日々の仕事の中で得た所感を自由に書いてもらうのですが、例えば、今日は辛かったとか満足がいったとか、そうした思いの丈をぶつけた感想に、企業の方からコメントをもらう形でコミュニケーションを深めていきます」
Q・現状、顕在化している課題はどういったことでしょうか。
「企業の方には既に本当に協力いただいています。それでもまだまだ地域と高専には壁が介在していると言われています。この壁をなくして、高専に求めるものを忌憚なく言っていただける関係を構築していかなければ、本当の意味での地域密着型高専にはなれません。そのためには企業の方と何度も会って、こちらからも何度も足を運んで、お互い本音を語り合える関係にならないと。
『あんたんとこの学生、この前の子は良かったけど、今度の子はダメだな』とか、場合によっては『こうしたほうがいい』と高専のカリキュラムに首を突っ込んでもらうぐらいの関係を構築していきたい。本校が庄内鶴岡の地域から存続を求められる高専になるには、こうした課題をクリアしていかなければなりません」
Q・「地域に求められる高専」になるためにCO-OP教育ないし産業界との連携をより深い深度で進める必要がありますね。具体的な青写真はどう描いているのでしょうか?
「すべて私の中でやっていきたいことであって、なんだったら夢物語ぐらいに聞いていただきたいのですが、産学連携は傍から見ればうまく機能しているように見えても、現状は携わっている教員はごく一部でしかありません。この状況をどうすれば好転させられるのか。
一つは、企業のニーズ集を作ることだと思っています。大学や高専の研究シーズ集はよくありますが、地域や企業が抱えているニーズを知ることが大事です。例えば、教員は自分の研究は持った上で、併せて企業のニーズに応える研究も必ず一つ持ちましょうと規則化する。
高専が企業の御用聞きになって御用は何ですかと訊いてまわり、ニーズ集を作る、その先に地域の企業が抱える技術課題を教員だけでなく、学生の5年生の卒業研究で取り組ませるようになると面白い。そうすれば、企業と学生と教員が一体になって地域の技術課題を解決しながら、尚且つ人材育成までできるようになります。現在この取り組みは模索中なんです。既に企業側は何社か賛同してくれています。
それから海外CO-OP教育の展開です。ハードルは高いですけど、教員のCO-OP教育と兼ね合わせれば、現実味を帯びてきます。教員でもCO-OP教育を行う意味が深いところで分からない人はいますし。徳島県の阿南高専さんは2013年より始めたそうですが、参加した教員が、実際にCO-OP教育はすごくいいという感想をもつようになるそうです。
こうした点から、学生だけで海外で働けというのは難しいところですが、海外CO-OP教育は教員が生徒に同行すれば、安全面のハードルはクリアしやすくなりますし、教員の英語教育にも繋がります。こうした仕組みはまだ日本でどこもできていないので、本校が先鞭をつけるぐらいの気概をもって進めていきたいですね」
なるほど。ぜひとも形になることを期待します。ありがとうございました。
鶴岡工業高等専門学校 山形県鶴岡市井岡字沢田104
TEL 0235-25-9003
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◆2014年2・3月合併号の記事より◆
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