学生トレーダーからボランティア活動家に。羅愛貴さんの考える新しい金融社会
(写真=写真AC)
早稲田の現役学生で凄腕の投資家がいる。これが羅愛貴(ら・あいき)さんの最初に聞いた噂だった。運用資産二桁億。はたしてどんな人なのか。
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「幼い頃は日々の食事にも事欠くほど貧乏だったんですよ」と、羅さんは自分の過去について語る。
早稲田大学に在学中ながらIT企業のCEOであり、既にFX・株式投資で二桁億円の利益を上げ、運用しているトレーダーの羅愛貴さん。現在は金融リテラシーの普及のためのファイナンス教室などを主催している。
彼がなぜ、20歳そこそこで億の資金を運用するようになったのか。その経緯と今後目指す先について伺った。
学校の勉強に意味があるの?
羅さんが生まれ育ったのは大阪市。大阪の中心地よりやや北、淀川に面した地区だ。戦前は工場地帯として栄え、松下電器産業発祥の地としても知られる、近年は工場の移転に伴い急速に住宅地化が進んでいる、そんな町だ。
中国人の父を持つ羅さんの家は、お世辞にも裕福とは言えない環境にあった。
「住民税非課税世帯、というヤツです。だから友達が遊んでいるゲームとかも買ってもらえず、いつも一人でいました」
そんな羅少年の話し相手になってくれたのが、淀川河原で生活しているホームレスたちだったという。
「家のそばを流れる淀川でしじみを採ったりしているうちに仲良くなって、そろばんを教えてもらったりしてましたね。『オレを反面教師にしろよ』なんて言われたり。そういった人達が身近にいる環境で育ちました。それでも、両親は必死でお金を工面してくれて習い事に行かせてくれましてね。本当にありがたい、教育熱心な家庭でした」
しかし、羅少年は勉強が大嫌いだった。
「この勉強をして将来何の役に立つんだ、と小さい頃から思っていました。学校での集団行動も苦手でしたし。よく習い事をサボって親に怒られていました」
羅少年に転機が訪れたのは、中学生の時だった。
「友達の家にあったパソコンでやっていたゲームが面白くて、それで中学のパソコン部に入った。パソコンを通して今まで知らなかった世界に触れ、ドンドン興味が湧いてパソコン関係の勉強をするようになっていきました。その中でアフィリエイトのことを知ったんです。ゲームだと思って遊んでいたら、お金を稼ぐ手段にもなる。まだアルバイトができない年齢でしたが、これなら生活をしていくことができるのじゃないか、と思った」
当時、ページの閲覧数で広告料を得ることができるアフィリエイトが知られ始めていた時期だった。それを知った羅少年はお年玉を貯めて中古のパソコンを手に入れ、早速ブログを開設する。
「2007年か8年くらいの時です。作ったのは調べてきたゲームの情報を貼り付けただけのページ。他には動画へのリンクを貼ったりして。そうやって最初の月に稼いだお金は、数百円ほど。けれど『どうしたら閲覧数を増やせるか』と色々調べて、一年後には十数万円を稼げるまでになりました」
この頃から、羅少年が元来持っていた研究熱心さが顔を出してきた。相変わらず学校の勉強には全く興味が湧かなかったが、インターネットを使って利益を得る方法については熱心に本を読むようになっていた。
「同級生に話すこともなく、ずっと一人でやっていました。親には伝えましたが『自分で稼いだお金なら自由に使え』と言ってくれた。一応、高校には進学しましたが、あまり学校へ行かなくて。学校の勉強を拒否していた。だから成績は文系理系とも最悪でしたが、情報系だけはよかった」
進学した高校は、かなり高圧的に勉強をやらせる学校で、教師も成績だけで生徒を判断するような所だった。そんな雰囲気の中で、羅少年は益々学校を拒否するようになる。
「体育祭に出たのは一年生の時だけ。『やる意味がない』。そう思ったらもう二度と参加したくなくなった。そんな生徒だったから、先生は見放しますよね。けれども怒られるのも面倒くさいので、校則を破るようなことはしませんでした」
目に見えた反抗はしないが、ただつまらない。学校に行かず、本屋でビジネス書や哲学書を読みふける日々。カーネギー『人を動かす』などもこの頃にはもう読んでいた。
夢中になっていたのは、ネットでの資産運用。高校二年生でFXを、そして三年生で株式投資を始める。
「アフィリエイトはブログを更新し続けねばならないから手間がかかる。だからもっと手間をかけないで利益を上げる方法はないか、また別の事業もしてレバレッジを効かせられたほうがいい、と思ってFXや株式投資に手を広げていきました。その段階でアフィリエイトで年間200万円ほどの利益を得ていましたから、それを元手にしました」
最初に買った銘柄は、キユーピー株式会社だったという。
「当時キューピーの売上は国内市場では停滞していましたが、盛んに東南アジアに進出している。マレーシアに工場を建てたり、イスラム教徒が使えるようにハラル認証を取って、イスラム教徒の多いインドネシアで販売したり。マヨネーズ自体は日常で使うもの。ですからこういう国で認知されたら、今後大きく伸びる可能性がある。だから買いました」
ここまで先を読んで銘柄を買う目を持っている。そんな高校生だった。
不条理な社会を壊したい
FXや株式投資で大きな利益を上げ、既に数千万円の資金を動かすようになっていたが、学校では赤点ばかりとっていた羅さんが、なぜ大学へ行こうと思ったのだろうか。
「経歴に箔を付けたいという下心があったのは間違いないのですが、もっと広く人を知りたいという気持ちもあった。それで早稲田大学へ進学したんです。そこで見たキャンパスライフは、抑圧された高校生活とはうって変わって、自由で開放感を目一杯味わえる世界だった」
しかし新歓コンパもひと段落した一年生の夏頃には、もう物足りなく感じ始めていた。自分にはもっとできることがあるんじゃないか。そう思い立った羅さんは二つのサークルを立ち上げる。
「一つ目は『福藤会』。政財界で活躍する方に、学生たちが直に話を聞くサークルです。今までにライフネット生命の出口治明元会長など、様々な方を呼んでお話を伺いました。このサークルは一切無料。学生が自分の進路を積極的に考え、人生を築いていけるようにと思ってやっていました。私はもう引退していますが、今でも活発に活動しています」
「もう一つは東南アジア教育基金。私自身、自分の出生もあって中国には何度か行っていますが、例えば中国の農村部にはまだハンセン病で隔離された生活をしている人たちがいる。彼らに対する偏見が残っているんです。
それを知ってハンセン病に対する迫害が長い間あったということをもっと学生に知ってもらいたいと思い、ハンセン病関連の映画の上映や写真展、朗読会などの活動をしています。他にも、カンボジアやインドネシアのスラウェシ島で子供達のために勉強を教えるボランティア活動も行っています。外国では国内の経済格差や教育格差が激しい。こういうことをもっと知っていかないといけない」
中学・高校と投資活動に夢中だった羅さんが、なぜボランティア活動に夢中になったのだろうか。
「自分の生い立ちや今までの人生経験の中で『人の世は不条理だ』という実感がありました。それが大学に入って、経済の差や健康状態の差といった生まれながらの不平等をどうにかしたい、という思いが高まってきた。それは自分自身が経済的に安心でき、広く周囲を見れるようになったからかも知れません」
現在、羅さんが積極的に行っているのは、金融リテラシー向上のための勉強会だ。
「日本ではまだ投資というとダーティなイメージがある。確かに証券マンに言われるがままに契約し、損をした人もいる。ですが、だからこそ自分で金融を学び知識を得て、夢を実現するために動き出して欲しい。本当にやりたいことをできるようになって欲しい。そのために自分の知識・経験を少しでも役立てることができたら、それもボランティアだと思っています」
「個人投資家が普通になる社会を目指しています。兼業でもいいし、規模が大きくなくてもいい。金融リテラシーを高め、皆が資産運用をして、各々に幸せになってもらいたい。そうすることで日本の経済も動き出すし、格差を無くすことにも繋がる」。
そう話す羅さんの言葉には熱が溢れている。
利他的な交流が新しいシナジーを生む
最近では仮想通貨でも大きな利益を上げているという羅さん。
「マウントゴックスの事件(一時、世界の70%ものビットコインを扱っていた取引市場のマウントゴックスに2014年、ビットコイン消失事件と支払い遅延が発生、CEOカルプレス氏が逮捕された事件)によって評価を下げた仮想通貨ですが、その後世界中で注目され、市場が急速に拡大しているのは最近のニュースでも話題になっている通りです。正しく学び、理解して扱えば充分利益を上げることができる」
今も積極的に新しいモノを学び利益を上げている羅さんに、今後の活動について伺った。
「今は自分の周りで人が有機的に繋がっていくのを支援したい。ボランティア活動の中で、様々な分野の人が触れ合い、相乗効果が生み出されていくのを見ました。セレンディピティ、偶然の触れ合いが新しい可能性を生み出していく。それによって多くの人が幸せになっていく。そこではお金は副産物です。利他的に、人を繋げることで現れるシナジーをこれからも生み出していきたい」
……これだけの利益を上げている羅さんに贅沢をしたことは?と尋ねると、「USJの年間パスを買ったくらいです」と笑った。贅沢することが目的ではない、寧ろ社会に還元して多くの人に同じ気持ちを感じてもらいたい、そう話す羅さんに新時代の投資家の姿を見た気がした。
羅愛貴(ら あいき)……1994年生まれ 大阪府出身 河合塾大阪校→復旦大学留学→早稲田大学