株式会社オリエンタル工芸社 – 学生たちを惹きつけるのは“スモール・メーカー”としての気概
学校と企業を行き来しながら、座学と実務訓練を長期に行う、ドイツ生まれの「デュアルシステム」が日本の専門高校に導入されてから12年。
もともと高卒者の就職率向上と、中小企業の人材不足を解消する目的で始まったが、いまやその効果も活用法も多様化し、地域全体を巻き込んだまちおこしにも活用されている。
そこで各地で定着しはじめた、デュアルシステムの活用の実際とポイントについて実例を挙げながら紹介していく。
日本のエレベーターを変革する職人たちの想いに触れる
学生たちを惹きつけるのは“スモール・メーカー”としての気概
◎都立六郷工科高等学校編/株式会社オリエンタル工芸社
◆取材・文:富樫のぞみ
※都立六郷工科高校の過去掲載記事はコチラ
【記者の目】
株式会社オリエンタル工芸社は、大田区でも唯一無二のエレベーター操作盤の製造・メンテナンス専門企業である。
従業員数は十人余り。作業風景を覗き見れば、一方では大きな金属板を切り出し、他方では設計図と部品を木机に広げ、もくもくと手作業で製品をくみ上げていく。
まさに古きよき町工場の風情といったところだ。
しかしながら驚くことなかれ、こうしてハンドメイドでつくられた操作盤は、いずれも最先端をゆくものばかり。
特許権や実用新案権なども数多く取得しており、日本のエレベーター界に数々の革命をもたらしてきた。
ありそうでなかったという完全防水型の押ボタンは、屋外、飲食店、冷凍・冷蔵品を多く扱う物流業界などのエレベーターで大活躍。
病院や駅などでおなじみの大きな押ボタンを最初に製品化したのも同社である。
そのほか近年見かけるようになってきた抗菌ボタンなど、エレベーターを使うお客様の声をもとに他ではつくれないものづくりを行ってきた。
「エレベーターほど美しく、優れた乗り物はありません。そこにはあらゆる技術の粋が凝縮されているのです。
我々が手がける押ボタンもそう。押ボタンの文字は決してかすれて消えることなく、押し心地もよい。
押ボタン式の信号機、バスの停止ボタン、それこそロケットのスイッチだって、かなうものはなにひとつありませんよ。
ぜひ一度、身の回りにある押ボタンやスイッチと比べてみてください……」とは杉本社長の言葉。
デュアルシステムをきっかけに就職した実習生、はるばる北海道の大学院から就職を希望してやってきた社員の方の話を聞くに、その魅力たるや恐々たるものだ。
日本初の電動式エレベーターが登場したのが明治23年、1960年代の高度経済成長期以降に一般に普及したといわれている。同社が創業したのもこの頃だ。
日本エレベーターの発展とともに歩んできた、下町のスモール・メーカーのものづくりをとくとご覧あれ。
工場の出入り口ではマスコット・レディーの『ボタンちゃん』がお出迎え。展示会ブースに華を沿えたいと杉本社長が考案。“彼女”がいるだけで注目度は段違いなのだとか。
PR用に特別につくったという操作盤は、電源を入れるとルーレットのようにボタンが光り始める演出つき。こうした遊び心あるものづくりの姿勢が、学生たちを呼び込むのだ。
見て、押して、楽しい。深遠なるエレベーター操作盤の世界へようこそ!
オリエンタル工芸社のデュアルシステムでは、危険がともなう作業以外は学生たちにも一通り教えているのだという。
さっそくその工程をみてみよう。
(右上から時計回りに)①操作盤の切り出し→②操作盤の切り口を整える→③押しボタンの組立→電気回路をハンダ付けして小さなライトを入れていく
①操作盤の切り出し(写真右上)
エレベーターの操作盤づくりは、基盤の切り出しから始まる。
巨大なアルミやステンレス板を必要な大きさに切り出し、さらにボタンをはめこむ穴をひとつずつあけていく。
この切り出し作業については危険がともなうため、実習生は見学のみ。自分たちよりも大きな板を機械で切り出していく様はなかなかの迫力だ。
②操作盤の切り口を整える(写真右下)
基盤の切り口をヤスリがけして、平面に整える。ベテランの職人たちはこともなげにこなしていく工程だが、これが実に難しいもの。
実習生たちが挑戦した基盤の切り口はわずかに傾いており、苦戦の跡が見て取れた(写真は実習生が作業したもの)。
③押しボタンの組立(写真左上)
基盤が完成すればいよいよ押ボタンの組立作業だ。
実習生は比較的簡単な構造の組立に挑戦。電気回路をハンダ付けし、小さなライトをいれると、見慣れたボタンができあがる(写真左下)。
この電気回路に各工場の特徴が出るようで、オリエンタル工芸社でも複数の特許権を得ているのだとか。
④検品・完成!
最後に検品をし、問題がなければ完成だ。
手がけた製品が世の中に出るということは、実習生にとっても本当に嬉しいもの。
デュアルシステムをきっかけに入社した社員の方は、実習中に製造に関わった押ボタンの品番を全て覚えているという。
「3年生の実習の時には、より複雑な製品をつくることができるようになれた。そのことが本当に嬉しかった」と当時を思い返すように話してくれた。
スモール・メーカーとしての気概:杉本亨社長インタビュー
私自身は現在2代目社長を務めていますが、生まれも育ちもまったく別なのですよ。
友人に誘われて勤めはじめたころは、ここは従業員3、4人ほどの小さな工場で、私ははじめての技術職にてんやわんやしていました。
創業者が病に倒れてしまったのは、ちょうど昭和から平成に変わるより少し前のこと。
それからピンチヒッターとして社長役を引き受けて、今日まで続けてきました。
当初は資金ぐりなど随分苦労することもありましたが、会社を畳もうと思ったことはただの一度もありません。
私たちは小さくともメーカーです。
つぶれてしまえば、オリエント工芸社製の操作盤をつかうエレベーターは、莫大な金額をかけて入れ替えなくてはならなくなります。
製品を導入してくださった方々の信頼に背くことは決してしてはならないのです。
会社が永くありつづけるために、若い人も喜んで受け入れますし、〝ボタンちゃん〟だって企画します。
それが作り手として果たすべき責任ですから。
◇
オリエンタル工芸社製の押ボタンは、四隅四辺を触れても明かりがつく。これは他製品にはない特徴だ。
「エレベーターは様々な人が乗るものですから、お子さんからおじいちゃん、おばあちゃんまで皆が楽につかえる押ボタンが必要なんですよ」と社員の方は説明する。
こうした小さな気配りが使いやすさ、ひいては新しい製品を生み出す原動力になっているのだろう。
四隅四辺に触れても明かりがつく同社のボタン
オリエンタル工芸社の製品サンプル。エレベーターの押ボタンは寸法や素材などに一定の制約があるため、「見た目の美しさ」「押し心地」「機能性」にとくにこだわっている。
【株式会社オリエンタル工芸社】
〒143-0015 東京都大田区大森西7-2-5
TEL 03-3763-3601
◆2017年3月号の記事より◆
WEBでは公開されていない記事や情報満載の雑誌版は毎号500円!
▸雑誌版の購入はこちらから