大石電機工業株式会社 – デュアルシステム黎明期より続けて10年超。安定しての新卒採用が可能に!
学校と企業を行き来しながら、座学と実務訓練を長期に行う、ドイツ生まれの「デュアルシステム」が日本の専門高校に導入されてから12年。
もともと高卒者の就職率向上と、中小企業の人材不足を解消する目的で始まったが、いまやその効果も活用法も多様化し、地域全体を巻き込んだまちおこしにも活用されている。
そこで各地で定着しはじめた、デュアルシステムの活用の実際とポイントについて実例を挙げながら紹介していく。
デュアルシステム黎明期より続けて10年超。安定しての新卒採用が可能に!
◎都立六郷工科高等学校編/大石電機工業株式会社
◆取材・文:富樫のぞみ
※都立六郷工科高校の過去掲載記事はコチラ
前列…大石社長(左)、五十嵐工場長(右)/後列…原田総務担当(左)、渡辺主任(右)
中韓の格安機器に押され、厳しさの続く船舶業界。だが、日本の町工場だって負けていない。
ここ大石電機工業は、戦前より艦船用電気器具の製造を担う老舗の町工場。創業時より変わらぬ高い開発力・技術力はかっての海軍もお墨付き。
現在は海上自衛隊や海上保安庁の艦船に向けての製品づくりを主力としており、数々の賞状も授与されている。
しかし歴史と腕のある企業といえども、若い職人の確保が難しくなっていたのは時代の流れ。これを一変させたのが、デュアルシステムだったと大石社長は語る。
上の写真は、今回お話をお伺いした皆さん。手前左から大石社長、五十嵐工場長、原田総務担当、渡辺主任。
渡辺主任は六郷工科高等学校デュアルシステム科1期生で、卒業後から現在まで同社にて勤務している。
10年超の間、継続して入社希望生が!その人気の秘密とは?
―採用活動は毎年行っているのか?
大石社長:ええ、六郷工科高校でデュアルシステム科が開設される前の準備段階から協力させていただき、ここ10年ほどは毎年1名、デュアルシステムの実習生がそのまま入社するという流れができています。
もちろん高校生の採用にあたってはハローワークにも求人を出しますし、実習生本人の希望が第一ですので全てではないですが、デュアルシステム外からの採用はごくまれです。
渡辺主任は六郷工科高等学校の卒業生。デュアルシステム科の1期生だった
原田総務担当:デュアルシステムを経由して入社した社員の数は7名、うち4名は現在も継続して勤務を続けています。
本日同席している渡辺主任も、その一人ですよ。六郷工科高校のデュアルシステム科第1期卒業生です。
さらに今年の実習生1名も、卒業後の入社を希望してくださっています。ありがたいことです。
大石社長:現在の弊社の社員数は44名。デュアルシステム以降、社員の平均年齢は47歳まで下がりました。数値としてはまだまだ高いですが、熟練職人も若い職人も多いですよ。
上は70代、下は10代まで、親子兄弟で職人という者もおります。
―デュアルシステム経由の採用と通常採用で違いを感じることは?
原田総務担当:やはりデュアルシステムを経由して入社した方は、マッチングミスも少なく、定着度も良いと感じます。
六郷高校のデュアルシステムは、1年生から3年生まで、同じ生徒さんが継続して参加してくれますからお互いに馴染みもありますし、入社後には即戦力として頑張ってくださるので心強いですね。
大石社長:「学校を卒業したから就職しましょう」と、お互いのことも良く分からないままに働き始めるから、学生さんとしても「こんなはずでは」と思うことも増えてしまうのでしょう。
そこで転職することを覚えてしまい、2度、3度と同じことを繰り返してしまう方も少なくないと聞きます。これは本人にとっても、日本の社会制度全体からしてみても不幸なことです。
―近年採用の現場では“売り手市場化”が進んでいるが、デュアルシステムにおいても、受け入れ企業に対して学生数が圧倒的に少なく、実習希望生を迎え入れることが困難になりつつあると聞いている。
こうした状況にも関わらず、貴社が学生に選ばれ続けている理由は何か?
大石社長:どうでしょうか、特別なことはしていないと思うのですが……。少しでも学生さんの将来に役立てれば良いという気持ちだけです。
原田総務担当:選ばれるために何か特別なことをと考えると、話がおかしくなってしまいますからね。正攻法が一番ですよ。
大石社長:最近は艦船をテーマにしたゲームが流行したり、自衛隊への注目度も高いようですが、実習を希望する学生さんが皆そういったものを好きという感じでもないですしね。
たまに驚くほど詳しい子もいますが(笑い)。こうちゃん(※渡辺主任の愛称)の時はどうだった?
渡辺主任:皆さん本当に親切に迎え入れてくれましたし、ずいぶん可愛がってもらっていたこともありますし……。なにより製品に使うネジの一本まで、すべて職人さんたちが手作りしている姿に惹かれました。
もともと高校卒業後は就職すると決めていたので、手に職をつけたい気持ちが強くあったんです。
六郷のデュアルシステム科に進学したのも、高校1年生から実践的な経験を得られるだろうと思ったということが大きかったですし、実際1、2年生の段階から、漠然とではありますが、自分も将来はこの場所で働きたいと感じていたように思います。
大石社長:私たちが製造している照明機器は、一つひとつが特注品。船種はもちろん造船所によっても仕様は変わりますから、製造スパンも年単位になるものがほとんどです。
一度作ったら次は10年後、なんていう製品も出てきます。
一方でその何十年後につくるかどうかというものであっても、修理交換が必要となれば即座に応える必要があります。となれば、開発研究から製品づくりまで、社内で完結させることが必須となるのですね。
とても他の企業さんに出していたのでは間に合わないのです。
船舶にとって光は生命線。1分1秒たりとも、その明かりが絶えることのないように、最後の1つまで製品に手をつくす。これがモノをつくる企業の責任だと思っています。
渡辺主任:弊社の製品は、どんな小さなものにも「大石電機工業」の名前が入っているんです。自衛艦内を見学した際に見つけた時には、感動しました。
本当にごく一部だけかもしれませんけども、自分たちが手がけたものがこうして役立っているところを見ることができて、誇らしい思いでいっぱいになったことをよく覚えています。
どんなに小さな製品にも同社の名前が入っている
学生に「居場所」を感じてもらえることが、入社に結びつく
―実習生が担当する作業内容は?
五十嵐工場長:それまで新入社員に教えていた内容とほぼ同じカリキュラムです。
他の社員と一緒に朝礼からはじまり、素材加工から仕上げまで、各部署を一通り見てもらいながら、実際に製品づくりにも携わってもらいます。
渡辺主任:自分が作ったものがそのまま製品になって、お客様の船で30年、40年と動き続けるのだと思うとドキドキしましたね。でも、それ以上にやりがいを感じました。
原田総務担当:実習中、大変なことはなかったかい?
渡辺主任:授業で汎用旋盤を触っていますので、比較的すんなり作業に入れましたが、やっぱり最初の頃は緊張しました。
学校と企業さんでは場の雰囲気も違いますし、覚えることはたくさんあるし、友達もいません。実習開始日は、一日がとても長く感じました。
それでも毎日来社していくうちに、少しずつ緊張も解れてきますし、ベテランの職人さんたちとも打ち解けて話すことができるようになって、それからは本当に毎日あっという間でした。
五十嵐工場長:3年間継続して通い続けてもらうのが基本になっているので、お互いに自然と打ち解けることができる点は、六郷さんのデュアルシステムの素晴らしいところだと思います。
うちでは昼食は皆で一緒に食べるのですが、とくに同じ六郷工科高校出身の社員とは、年齢も近いこともあってよく楽しそうに話をしていますよ。
また学校・ご家族の許諾をうけた上で、実習生を社内行事にお招きしています。
つい先日も、社内恒例のバーベキューに実習生が参加していましたし、タイミングがあえば観艦式の見学も一緒に行くこともあります。
大石社長:期間を重ねることで、「お客さん」から「仲間」になることができます。
「自分の居場所がある」「ここなら長く通えそう」と学生さんも確証を得ることができますし、結果として高い入社率に繋がっているのだと思いますね。
―10年以上もの期間、デュアルシステムを継続する中での変化は?
大石社長:デュアルシステム以前は、ほぼ中途採用というかたちでしたので、大きく変わりました。
私たち中小企業では、新卒採用を受け入れる体制づくりそのものが難しいものです。若い子が欲しくても、1から教える時間も人手もないというのが実情でした。そこでデュアルシステムです。
基礎があらかじめ出来上がった学生さんに来ていただけますし、ちょうど社内もISO9000の取得などに向け整備化を進めていた時期ということも重なり、我々としても導入がしやすい環境にありました。
原田総務担当:なにより会社が明るくなりますよね。若い人は力持ちですし、私も活力を貰っていますよ。
大石社長:創業者が話していましたが、「小学校卒業から感覚をつけないと、できない仕事はたくさんある」とよく話をしていました。「高校卒業した頃に始めても遅いんだ」と。
だからこそ昔は大きな造船所や工場には必ず養成学校がありました。それが今、どんどん少なくなっている。日本から第二次産業が潰えてしまうのではと危機感を覚えますよ。
デュアルシステムはこうした養成学校に変わる、唯一無二のものではないでしょうか。
とくに私たちの仕事は、言語化できない、微細な「感覚」で処理する内容が多々あります。それは本当に目に見えないほどにわずかなものですが、確かに、大きなものとして現れてきます。
経験豊富な職人が思いがけず壁にぶつかることがあるのは、この「感覚」のわずかな違いによるところなのでしょう。
ウチにはウチのコツがあり、他社さんには他社さんのコツがありますから、すり合わせが必要になる。ですがこれがとても難しい。
その点、真っ白な状態から受け入れてくれる学生さんたちは、先生方のご指導もあって、本当に感覚を身につけるまでが早いです。
ぜひともデュアルシステムが広く普及することを願っています。
工場内風景
●プロフィール
大石哲也(おおいし・てつや)氏…1965年生まれ。東京都出身。明治大学工学部機械工学科卒業後に別業種を経験。1992年に大石電機工業に入社。2005年に父の跡を継ぎ、3代目代表取締役に就任する。その翌年に開発したLED式応急灯が㈶防衛調達基盤整備協会から協会賞、防衛省海上幕僚長から感謝状を授与されるなど、その技術力と手腕が高く評価されている。
●大石電機工業株式会社
〒140-0011 東京都品川区東大井2-17-9
TEL 03-3761-2166
http://www.ohishi-denki.co.jp/
◆2016年11-12月合併号の記事より◆
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