池田建設株式会社 – 自社だけでなく業界全体の活性化のために、若手の人材確保・育成を図る
学校と企業を行き来しながら、座学と実務訓練を長期に行う、ドイツ生まれの「デュアルシステム」が日本の専門高校に導入されてから12年。
もともと高卒者の就職率向上と、中小企業の人材不足を解消する目的で始まったが、いまやその効果も活用法も多様化し、地域全体を巻き込んだまちおこしにも活用されている。
そこで各地で定着しはじめた、デュアルシステムの活用の実際とポイントについて実例を挙げながら紹介していく。
自社だけでなく業界全体の活性化のために、若手の人材確保・育成を図る
◎都立田無工業高等学校編/池田建設株式会社
◆取材・文:佐藤さとる
※都立田無工業高校の過去掲載記事はコチラ
コンクリート打ちの実習。短期間だが密度の濃い実習を行う。
(左)50年の長期にわたって復興修復を手がけてきた世界遺産の奈良県の薬師寺(写真は西塔)。伝統建築の修復や寺社仏閣の建設は池田建設が誇るノウハウだ/(右)東京の「渋谷クォーツタワー」。大都市の商業ビルなどの施工も多い
池田建設株式会社は、寺社仏閣の建築・修復などで培った高い技術を武器にマンションや商業ビル、公共施設などを手がける総合建設業。
若手の能力を引き出す独自の若手育成システムを持つ同社は2014年からデュアルシステムの生徒を受け入れている。
社長の古賀智道氏は「若い世代の人材の確保は当社だけでなく建設業界全体の問題。少しでも興味をもってもらい業界に入ってくれるきっかけとなれば」と期待を込める。
デュアルシステムの効果と期待について古賀氏とイノベーションサービス室室長兼採用担当の永井貴之氏に伺った。
若手を集中して育てる「イノベーションサービス室」
─若手の人材確保はどの業界も厳しくなっていますが、とりわけ建設業界は喫緊の問題となっています。危機感もありますか?
「頑張って10年は勤めてほしい。建設業はそこからが面白い」という代表取締役社長の古賀智道氏。「10年で現場のトップになれる。ちょっとしたビルだと数十億円くらいですから、規模は中小企業の社長と同じです。自分で予算を決めて、購買から仕上げまで人を動かしてつくり上げる。その技量によって仕上がりも全く違ってくる。そういうダイナミックなやりがいを知ってもらいたいですね」
古賀:あります。若い人がどんどん減って、高齢化が進んでいる。採用してもなかなか長続きしないのが悩み。3年続けば仕事の面白みが分かってきますが、その前に辞めていく子が多い。
また若い人を指導する側の人数も減ってきており、十分な教育をすることができないのが現状と言えます。
若い現場監督の技術が落ちないよう、さらに向上するように我々も日々現場をパトロールしてチェックしていますが、人数が少なくなると安全管理とともに技術レベルの維持が難しくなっていくことを危惧しています。
そういった現状を少しでも解決していきたい。
当社はインターンシップで大学生も受け入れていますが、積極的に取りたいのは高校生。とくに工業高校で建築を学ぶという生徒さんは何か持っていると思っています。そういう人たちを若いうちから鍛えていきたい。
当社だけではなく、業界自体として来てもらうきっかけになればと思っています。
永井:とにかく建設業界にある硬いイメージを打破しないといけないと考えています。
当社では4年前に「イノベーションサービス室(イノベ室)」を立ち上げました。入社した若手は全員、各部署に配属される前にイノベ室に席を置くことになっています。
ここで3年ほど、集中して社会人としての基本などから教育しますが、その後も現場に出てからも席を置いて、職場環境の改善を若い世代に担ってもらっています。
いま、現場には若い同世代が少なく、また中間層が少なくなっているので、上の人とのコミュニケーションが取りにくい。下から言えないし、上もなかなか応えることができなかった。
そういった現場で感じたことや悩みなどを聞いて、従来とは違う発想やアプローチで、自社だけでなく業界の現状を変えていこうと取り組んでいます。
そこにたまたま田無工業高校さんからデュアルシステムの紹介があり、うまくハマったという感じです。
現場は日々変わる。いかに作業体験を盛り込むかが鍵
─実習生はどのようなことを行うのですか?
教師を目指したこともあるというイノベーション・サービス室室長の永井貴之氏。「高校生は若いだけに不安もありますが、成長の手応えも感じる」という。「たった3日でそこまで成長するのか、というほど成長する子もいます。我々も刺激を受けますね」
永井:実習期間は長期でも2週間なので、基本は現場の所長に付いて仕事を見てもらうことが中心です。現場作業は日々変わるので、工場のように毎日同じ体験ができるわけではありませんので。
朝礼や昼の昼礼などに参加しながら、いくつかの現場を回ります。作業もしてもらいますが、安全管理が中心です。
職人さんが安全に通れるように「安全通路」のプレートをつくって通路を確保したり、外れている鉄筋の結束を修正することなどを体験させています。
日程が合えばコンクリート打ちの作業をすることもありますが、雨が降ったりするとできませんから、なかなか難しい。
また当社は薬師寺の復興修復事業を50年前から行って来ました。足場が組まれて彫り物とか柱とか梁などが間近で見ることができる時は、登って見学させたりします。
また近代建築の現場では最先端技術も使われているので、興味を引かせることができるでしょう。
しかしいくらそういったところを見せてアピールしても、事故が起きたら元も子もありません。安全管理の体験は基本中の基本。そこに重点を置いています。
古賀:当社の現場では70〜80人くらいの人が働いています。建設業の仕事はこういう人をまとめるということ。そこをしっかり見てもらう。
批判するわけではないですが、学校で技術を学んだからと言ってそのまま現場で使えるわけではありません。大学生でも同じです。
技術はあとから身につけられます。まず自分に何が必要かを感じさせるのが重要だと思っています。
教育現場はもう少し“今の”業界を学んでほしい
─受け入れに際しての工夫は?
永井:高校生が話しやすい環境をいかにつくるかということに注意しています。付く所長は工業高校出身で固定しています。付く人が毎年違うと、話し方や教え方も違ってしまうので、生徒に伝わらないこともありますから。
また所長にはできるだけ分かりやすい言葉を使うようにしてもらっています。なにせ実習生は、中学を卒業したばかりの16歳くらいの子が来るわけですから、そこは気をつけています。
─実際に接してみてどうですか?
古賀:自ら望んで来ているからでしょうか、どの実習生もハキハキしていて挨拶などもしっかりしていると思います。何より受け入れる我々への刺激が大きい。
受け入れ前は「なんだか面倒だな」とか言っていましたが、受け入れ始めると、現場のなかに協力する姿勢が生まれていきました。デュアルシステムは現場の社員教育にも絶対なります。
─送り出す高校側に対しては何かありますか?
古賀:業界についてもう少し知ってほしい気がしています。工業高校の建設業のカリキュラムだと、椅子をつくったりといった職人だったり、パソコンで図面を引く技術を教えています。
しかし我々が期待しているのは建設現場のトップ、監督になってもらうこと。現場の管理業なのです。そこにミスマッチがある気がする。そういう業界ということを知っていただきたいと思います。
その点でも現場が体験できるデュアルシステムは意義があると思います。毎年当社に来ている生徒もいます。
そのなかから1人でも、たとえ当社でなくても建設業界に入ってもらえればと思います。
現場を見学する実習生
●池田建設株式会社
〒102-0074 東京都千代田区九段南2-4-16 九段ZENビル
TEL 03-3263-2900
http://www.ikeda-kk.co.jp/index.html
◆2016年11-12月合併号の記事より◆
WEBでは公開されていない記事や情報満載の雑誌版は毎号500円!
▸雑誌版の購入はこちらから