三共鍍金株式会社 – 研修ではまず社会人として通用する人材を育てる
学校と企業を行き来しながら、座学と実務訓練を長期に行う、ドイツ生まれの「デュアルシステム」が日本の専門高校に導入されてから12年。
もともと高卒者の就職率向上と、中小企業の人材不足を解消する目的で始まったが、いまやその効果も活用法も多様化し、地域全体を巻き込んだまちおこしにも活用されている。
そこで各地で定着しはじめた、デュアルシステムの活用の実際とポイントについて実例を挙げながら紹介していく。
研修ではまず社会人として通用する人材を育てる
◎都立北豊島工業高等学校編/三共鍍金株式会社
◆取材:小原レイ/文:五十川正紘
※都立北豊島工業高校の過去掲載記事はコチラ
週1日でも十分、有意義な実習ができる!
各種金属のめっき加工を手掛ける三共鍍金株式会社は、北豊島工業高校のデュアルシステム実施初年度にあたる2014年度から3年連続で実習生を受け入れている。
同社は、耐摩耗性や耐腐食性に優れた独自のめっき加工技術を強みとし、特に飲食店で利用されるグラスやジョッキなど、ガラス製品製造用の金型に施すめっき加工における国内シェアは9割近くを誇る。
同社の代表取締役である苅宿充久氏は、3年生の実習ペースについて、「現状の週1日でも十分、企業にとっても、実習生にとっても、有意義な実習ができると思っています」と語る。
同社が実習生に期待することなどについて、苅宿氏に伺った。
本社工場の新築で社員の若返りに成功
─なぜ実習生を受け入れることにしたのか?
デュアルシステムは、学校側から紹介を受けて知りました。実習生を受け入れたのは、少しでもめっき業界に興味を持ってくれる若い人が増えれば、それが当社を含めた業界全体の活性化につながると考えたからです。
めっき業界では、毎年10社ぐらいのペースで企業数が減っています。その理由は、企業によっては後継者不足や公害対策などに苦労しているからです。
私たちの業界における公害対策とは、めっき加工の過程で排出される有害な化学物資をいかに適切に処理するかということです。行政は工場から排出される有害な化学物質に対して、その排出基準値を設けています。
排出基準値をクリアするには、それだけの能力を備えた化学物資の排出設備を整える必要がありますが、そのためには多額のコストがかかります。例えば、当社の場合は1億5千万円近くかかりました。
しかし、そのような排出設備を整えるだけの資金的な余裕がないめっき加工会社は、縮小や撤退を余儀なくされています。
─御社では後継者不足の問題はないのか。
かつては高齢の社員が多く、組織の若返りが課題だった時期もありましたが、20年近く前に本社工場を新築したことで若返りを図ることができました。
それ以前は、面接に来た人が古い工場を目の当たりにし、面接を受けずに帰ってしまうこともありました。しかし、新しくきれいで、かつ、各種設備が整った働きやすい魅力的な工場を新築できたおかげで若い人も採用できるようになりました。
当社の現在の社員の平均年齢は30代後半で、業界の中ではかなり若いと言えます。
実習生に1000分の1ミリメートルの世界を体験させる
─実習生には、どのようなことを期待しているのか?
実習を通して自分から仕事を学ぶ姿勢を身につけてほしい。今の若い人は、「上から言われたことだけやればいい」という姿勢の人が多いように思います。
しかし、そのような姿勢では、どんな仕事に就いても、うまく成長できないと思います。
そうではなく、「自分はこうしようと思いますが、どうですか?」など、上司や先輩に自分から相談する積極的な姿勢があってこそ、成長できると思います。
ただ上からの指示を待つのではなく、自分で考えて行動することを心掛けてもらいたいと望んでいます。
─実習生は、どのような仕事に携わっているのか?
現場の社員の指導のもと、その手伝いをしてもらっています。仕事を教える際は、「この作業で使う道具はこれで、こうやって使って……」という具合に、仕事の手順を説明しています。
ただし、実習生には、社員たちの指示を待つのではなく、分からないことがあれば、自分から積極的に社員たちに聞くように指導をしています。
なお、9月以降は、実習生に専用の機器でめっきの膜厚をマイクロメートル単位で測る作業をしてもらう予定です。1マイクロメートルは、1ミリメートルの1000分の1にあたります。
その作業を通して、グラスやジョッキの金型にめっき加工を施す場合に、その厚みがどのくらい変化するのかを勉強してもらいたいと思います。
─女子生徒が実習をしている企業もある。今後、もし御社の工場での実習を希望する女子生徒がいた場合、受け入れるつもりはあるのか?
性別に関係なく、当社での実習を希望される生徒さんがいれば、受け入れさせていただきます。
また、女子生徒さんを受け入れる場合は、シャワー室が男女別になっていないので、シャワーの使用時間帯を男女別に分けたり、金型1つでも約30㎏の重さがあるので、金型を運ぶ力仕事はやらせないなど、設備面や作業面で配慮させていただきます。
まず社会人として、どの業界や企業でも通用するような人材を育てる
─3年生の実習ペースについて、週1日では少ないという意見の企業も多いが、御社はなぜ週1日でも十分だと考えているのか?
それは実習生に即戦力となってもらうことを目的としていないからです。
週1日では少ないという意見の企業の多くは、恐らく、実習生が入社した場合は、すぐに即戦力として活躍してもらうことを考えているのだと思います。そのような企業にとっては、確かに週1日の実習では不十分でしょう。
私は、デュアルシステムが学校の授業の一環であることを踏まえると、その目標は、「一社会人として、どこの業界や企業でも通用するような人材を育てる」ことだと理解しています。
そのため、当社では、めっき加工の技術は、実習中ではなく、当社に入社してから徐々に身につけてもらえればと思っています。
また、実習中は、全体の作業の流れや道具・機器の使い方など、仕事の手順を覚えることと、自分から仕事を学ぶ姿勢を養うことに専念してほしいと思っています。
このような方針のため、週1日の実習ペースでも実習生本人が意欲的に取り組めば、十分、こちらの期待通りの成長を遂げてくれるはずだと考えています。
─未経験の新卒入社者がめっき加工の技術を身につけるには、どのくらいの期間が必要か。
3年はかかります。当社では社員に対し、国家資格の「めっき技能士」を始め、各種資格の取得をバックアップしています。例えば、社員にめっき技能士の資格を取得してもらうために、働きながら専門学校に1年間通わせることもあります。
また、資格取得者には、毎月、取得資格に応じた手当を支給しています。
◉実習受け入れ責任者である本社工場長で取締役の岡田誠氏
当社の実習では、仕事に取り組む姿勢を重視しています。めっき加工の技術に関しては、しっかり教えるには実習期間が短すぎるということもあり、入社後に身につけていただきます。
仕事に取り組む姿勢は、どんな業界や企業でも技術的なこと以前に働く上でとても大切なことです。実習生が当社に就職されるかどうかは別として、当社の実習で仕事に取り組む姿勢の大切さを学び、どんな業界や企業でも通用する人物になってほしいと思います。
◉プロフィール
苅宿充久(かりやど・みつひさ)氏
1949年生まれ。埼玉県出身。1966年、父親の病気のため、高校を中退して三共鍍金株式会社に入社。その後、会社と夜間学校を両立し、日本大学経済学部卒業。1996年、同社代表取締役に就任。
岡田誠(おかだ・まこと)氏
三共鍍金株式会社に入社後、取締役として現在に至る。
◉三共鍍金株式会社
〒174-0065 東京都板橋区若木1-26-8
TEL 03-3937-3888
◆2016年10月号の記事より◆
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