ƒvƒŠƒ“ƒg学校と企業を行き来しながら、座学と実務訓練を長期に行う、ドイツ生まれの「デュアルシステム」が日本の専門高校に導入されてから12年。

もともと高卒者の就職率向上と、中小企業の人材不足を解消する目的で始まったが、いまやその効果も活用法も多様化し、地域全体を巻き込んだまちおこしにも活用されている。

そこで各地で定着しはじめた、デュアルシステムの活用の実際とポイントについて実例を挙げながら紹介していく。

 

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デュアルシステムが業務効率化のきっかけに!

◎都立北豊島工業高等学校編/共栄バルブ工業株式会社

 

◆取材:富樫のぞみ/文:五十川正紘

※都立北豊島工業高校の過去掲載記事はコチラ

 

 

ds_kyoei01同社の蓮沼工場にて

 

 

実習カリキュラムを実習生目線で毎年更新し、新卒入社を実現

各種給水設備用のバルブ・継手類の製造販売や、配管設計・工事を手掛ける共栄バルブ工業株式会社は、北豊島工業高校のデュアルシステム実施初年度にあたる2014年度から3年連続で計3名の実習生を受け入れ、うち2名が同社に入社している。

同社代表取締役の清水貢氏は、実習内容について「充実したものにするために、カリキュラムを策定し、実習生の目線で毎年更新しています」と語る。

実習生目線に立った実習カリキュラムの策定のコツや、実習生受け入れ後の社内の変化などについて、清水氏と、実習生指導担当の堀切悠貴氏(同社製造部)に話を伺った。 

 

 

 

実習生の目線に立って、指導内容を考える

─実習カリキュラムは、どのように策定しているのか?

 

清水氏:当社の実習では毎年、その年の実習生の個性に合わせたカリキュラムを策定しています。

例えば「細かい手作業が得意」、「体を動かす仕事が好き」など個性を見極めながら、それに合った仕事が体験できるようにしています。

ただ必ずしもカリキュラム通りに実習を進めるわけではなく、実習生の作業の習熟度、やる気などを鑑み、時にはカリキュラムに盛り込んでいなかったことを教えたり、作業内容を変えるなど、臨機応変に対応しています。

常に実習生の目線になって、指導内容を考えているのが特徴です。

当社としては、まず生徒さんが充実感を得られるような実習にしたいと考えています。それには、実習生に対して、行き当たりばったりの指導をするのではなく、実習カリキュラムを策定し、計画的な指導をすべきだと思います。

また、ものづくりの工程を最初から最後まで経験できるようなカリキュラムを考え、その完成品がどのように社会で役立っているのか、実習生が実感できるようにすべきだと思います。

 

堀切氏:週一日ペースの実習では、当社が手掛けている製品・部品の製造工程を最初から最後まで経験してもらうのは難しく、実習生が最後の検品・出荷作業まで経験できなかった年もあります。

 

 

カリキュラム策定が、自分たちの業務の棚卸しに!

─実習生を受け入れるようになって、社内で何か変化したことはあるか?

 

ds_kyoei02清水社長

清水氏:意外なことに、実習生の受け入れが、当社の業務効率化のきっかけになっています。例えば、当社に入社したパート従業員たちに、実習生と同じように指導をしたところ、非常にスムーズに仕事を覚えてくれるようになりました。

逆に、ある作業について、実習生にパート従業員たちと同じ説明をしても、その手順をうまく覚えてもらえなかったこともあります。そのような場合は、以後、その説明の際にイラストや図表、写真を活用するなど、改善に取り組んでいます。

また毎年、前年度の実習を振り返って改善点を洗い出し、その年の実習カリキュラムの策定に役立てています。つまり、実習カリキュラムについていわゆるPDCAサイクルを繰り返し、その改善に取り組み続けているのです。

その過程では、既存の作業工程を見直すため、作業工程の無駄が新たに分かったり、作業工程を改めるきっかけにもなっています。実習カリキュラムの策定・更新が、実習生を指導する側である私たちの業務の棚卸しにもなっているのです。

 

─実習終了後の2月に学校で開催される「デュアルシステム報告会」に出席したことがあれば、その感想を伺いたい。

 

清水氏:初めて参加した時、高校生たちが、パソコン上でパワーポイントソフトを操作して発表を行っていることに驚きました。それは私にとって、普段目にすることがない実習生の姿だったからです。

当社の実習では、パソコンを操作する作業は盛り込んでいなかったので、そこで初めて実習生がパソコンを使っている姿を見ました。

発表会の出席者は、生徒、先生、私たちのような企業関係者、デュアルシステムの関連行政機関の関係者など、毎年50名以上に上ると思います。

それなりの規模の発表会だと思いますが、実習生の皆さんは、あまり緊張した様子もなく、堂々と発表をされています。その様子や発表内容から、実習でいろんな経験を積み、成長を遂げたことがよく伝わってきます。

 

堀切氏:私も出席しました。デュアルシステムご担当の先生から、実習生たち自身で発表内容を考え、資料づくりもしていると聞いています。自分が指導を担当した実習生の発表を見て、改めてその成長ぶりを感じることができました。

 

 

しゃべらなかった実習生が、大きく成長!

─実習を通した成長という部分で、特に印象に残っている実習生はいるか?

 

堀切氏:ある実習生は声が小さく、ほとんどしゃべらなかったのですが、実習を通して大きな成長を遂げました。

当社の工場内では、常時機械の作動音がするため、それなりに大きな声を出さないと会話ができません。その実習生の声は小さ過ぎて、工場内ではまったく聞き取れませんでした。

しかし、徐々にしっかり声が出せるようになり、工場内でも聞き取れるようになりました。

 

清水氏:その実習生は、自分から積極的にしゃべるようにもなりました。

私は毎年、1学期と2学期にそれぞれ実習生との食事会の場を設け、そこで実習の様子や感想を聞くなど、お互いの親睦を深めています。彼は1学期の食事会ではほとんどしゃべりませんでした。

しかし2学期の食事会では、自分から食べたいメニューをあれこれ挙げたり、実習についても、それまでの反省点や、3学期に取り組みたいことなどを、具体的にいろいろとしゃべってくれました。

 

─その実習生の成長の一番の要因は、何だと思うか?

 

清水氏:実習当初、挨拶の際も声が小さく、相手の顔も見ないので、しっかり挨拶するように注意したことがあります。

当社の工場では、機械の操作を誤ると怪我をする危険があり、しっかり周囲とコミュニケーションが取れないと事故につながる恐れがあるからです。

しかし、コミュニケーションに関わる部分で指導したのは、それぐらいです。また、実習カリキュラムの中でも、コミュニケーション力の養成を意識した内容は盛り込んでいません。

何か特定の指導が成長の直接的な要因になったのではなく、実習カリキュラムや指導内容全体が、様々な面でその実習生とうまく噛み合ったのだと思います。

その結果、実習生は、実習に対する充実感が日々大きくなり、同時に、それが自信に変わって、自分から積極的にしゃべれるようになったのだと思います。

しかし、それだけ大きな成長を遂げたのは、その実習生が元々、積極的にコミュニケーションできる資質を備えていたからだと思います。当社での実習は、たまたまその資質を引き出すきっかけとなったに過ぎません。

なお、その実習生は、その後、当社に入社し、現在では若手の中心となって活躍しています。

 

 

オビ 特集

ds_kyoei03◉プロフィール

清水貢(しみず・みつぐ)氏/写真左

1964年生まれ。東京都板橋区出身。高校卒業後、1985年、共栄バルブ工業株式会社に入社。2007年、同社専務取締役を経て、同社代表取締役に就任。

堀切悠貴(ほりきり・ゆうき)氏 /写真右

2007年、共栄バルブ工業株式会社に入社。現在、同社製造部所属。

 

◉共栄バルブ工業株式会社

〒175-0082 東京都板橋区高島平5-6-11

TEL 03-3976-3641

http://www.kyoei-valve.co.jp/ 

 

 

 

◆2016年9月号の記事より◆

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