ミヤミ工業株式会社 – フレキシブルな対応ができるものづくり職人の育成をめざす
学校と企業を行き来しながら、座学と実務訓練を長期に行う、ドイツ生まれの「デュアルシステム」が日本の専門高校に導入されてから12年。
もともと高卒者の就職率向上と、中小企業の人材不足を解消する目的で始まったが、いまやその効果も活用法も多様化し、地域全体を巻き込んだまちおこしにも活用されている。
そこで各地で定着しはじめた、デュアルシステムの活用の実際とポイントについて実例を挙げながら紹介していく。
フレキシブルな対応ができるものづくり職人の育成をめざす
◎都立北豊島工業高等学校編/ミヤミ工業株式会社
◆取材:小原レイ/文:五十川正紘
※都立北豊島工業高校の過去掲載記事はコチラ
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実習期間にものづくりの全てを体験させ、楽しさを伝える
工場などにおける業務用の排煙設備や、家庭用ストーブ・暖炉及び関連部材の製造・施工・販売を手掛けるミヤミ工業株式会社は、今年初めて3年生の実習生1名を受け入れた。同社・代表取締役の本橋隆司氏は、受け入れについて「当社で働くことを進路の1つとして考えていただく」と期待を込める。そのために短い期間でもできる限りの体験をさせることが同社の指導方針だ。その背景と狙いを本橋氏に伺った。
わずか3日で加工の一通りを体験。幅広い体験が仕事の面白さに繋がる
─なぜ、実習生を受け入れることにしたのか?
既存の人材募集では、思うように若い人を採用できなかったからです。
当社の採用活動は、若い人の応募をただ待っているだけの消極的なものでしたが、2年程前、もっとこちらから働きかける積極的な採用活動に変えるべきだと考えていた時に、たまたまデュアルシステムのことを知りました。
そこで、デュアルシステムを活用し、当社の仕事に興味がある若い人を募って一から育てようと考えたのです。
─実習生の受け入れにあたり、その準備として何か取り組んだことはあるか?
デュアルシステムの一環である、2年生を対象とした3日間の企業インターンシップの内容を工夫しました。
当社では、昨年度、そのインターンシップを初めて行い、参加生徒さんたちには、当社の工場にて、ご自身の手でステンレス製の小物や作品を製作してもらいました。
というのも、2年生の生徒さんたちには、当社の工場での作業内容を見せたり説明したりすることよりも、ものづくりの楽しさを実感してもらうことが大切だと考えたからです。
つくった作品は手で持ち運べる程度のサイズですが、生徒さんたちには、その設計から完成までの全工程を体験してもらっています。
レーザ加工機を操作して、ステンレス板を加工
具体的には、初日はCADを使った設計、2日目は材料となるステンレス板の切断・曲げ加工、最終日は各部品の溶接・組立を体験してもらいました。つまり、3日間で1つのモノを作り上げてもらったわけです。
自分の手で一から作り始めたモノが完成した時に、それがちょっとした小物であっても、本当に何物にも代え難い達成感や満足感が得られると思います。それが、ものづくりならではの楽しさだと私は思うのです。
楽しさを知れば、ものづくり離れが深刻だと言われる現代の若者も、ものづくりの仕事に興味を抱くようになるはず。
また当社は工場が分かれており、インターンシップの初日と3日目は当社の板橋工場で、2日目は川口工場と所沢工場で行いました。
3日間の短い期間ではありましたが、生徒さんたちには、当社のいろんな現場を見せることができたので、当社の雰囲気をある程度は理解してもらったと思います。
ローテーション制で世代交代をスムーズに進め、人材不足のリスクを抑える
─実習生に様々な仕事を教える方針ということだが、その狙いは?
現場の従業員一人ひとりが、様々な仕事にフレキシブルに対応できる体制をつくりたいからです。
その体制づくりのために、現場の各作業工程の担当者を特定の一人に固定するのではなく、ローテーション制にして、若い従業員や実習生にできるだけ多くの作業工程に携わらせるようにしています。
本橋社長(左)と実習生の梅田渚紗さん
各作業工程の担当者を一人に固定してしまうと、その担当者が定年・中途退職した場合、新たに人材を育成・採用する必要があります。つまり、その退職した人の穴を埋めるための時間やコストがかかってしまうわけです。
一方、各作業工程の担当を複数人の持ち回りにしていれば、誰かが退職しても、既存の人材だけでその穴をカバーすることができます。
つまり、各作業工程の担当者を、若手も含めた従業員たちのローテーション制にすれば、スムーズに世代交代を進めることができ、人材不足が生じるリスクを抑えられると考えています。
また、若手や実習生にとっては、様々な作業工程を経験できるので、仕事を通してものづくりの楽しさを感じられると思います。逆に、1つの作業工程だけを担当していると、ものづくりの楽しさは、あまり感じられないと思います。
実習生の指導にあたっては、専任の担当者は設けず、各作業工程の担当者がそれぞれ仕事を教えています。実習生は、様々な従業員たちとコミュニケーションが取れるので、現場にもよく馴染めると考えています。
採用ミスマッチを防げるデュアルシステムは、今の時代に適している!
─現場からは、デュアルシステムに対してどのような反響があったか?
昨年度行ったインターンシップで生徒さんたちの指導に当たっていた工場の従業員たちから、「非常に興味深かった」という声が多数挙がりました。デュアルシステムへの参加は、今いる従業員たちにとっても、よい刺激になると思います。
─現在のデュアルシステムの仕組みについて、改善要望はあるか?
実習の開始時期を、関係者間である程度、自由に調整させていただければと思います。
現在の3年生の実習期間は、4月から翌年1月までとなっていますが、当社の繁忙期と重なる時期があります。当社としては、その繁忙期外で実習生を受け入れた方が、よりスケジュールに余裕を持って指導にあたれると思います。
─今後も、実習生を受け入れようと考えているのか?
来年度以降も、ぜひ受け入れたいと思っています。企業経営を続けるには、若い人を採用し続け、常にスムーズな世代交代ができるように工夫する必要があると考えているからです。
今の当社があるのも、その時々の時代に適した人材採用・育成の工夫を続けてきたからだと思います。
今の若い人が、「叱られたから」など、ちょっとしたことですぐに仕事を辞めてしまうことを考えると、採用ミスマッチを防ぐ効果が期待できるデュアルシステムは、今の時代に適した制度だと思います。
『実習生・コメント』
板橋工場で実習中の梅田渚紗(なぎさ)さん
こちらでの実習を希望したのは、仕事内容に魅かれたからです。だから、男性ばかりの職場でも気になりませんでした。
私は、学校の授業を通して溶接作業が好きになりました。そのため、2年次のインターンシップでも、ステンレス板を溶接加工しているミヤミ工業さんを希望し、お世話になりました。
インターンシップでは、ステンレス板を自分で加工して作品を製作し、それがきっかけで、将来はものづくりの仕事がしたいという気持ちが強くなりました。
3年生になった今年は、「ここで働きたい!」という気持ちで、ミヤミ工業さんを実習先として希望しました。
◉プロフィール
本橋隆司(もとはし・りゅうじ)氏…1971年生まれ。東京都出身。専門学校卒業後、丸大紙業株式会社(現・北越紀州販売株式会社)に入社し、約7年間勤務。その後、実家が営む、練馬製函株式会社の事業に約7年間携わる。2005年、当時の三八工業株式会社(現・ミヤミ工業株式会社)代表取締役社長、宮河貴三氏(現・同社会長)の元、同社に入社。その後、同社製造部・常務取締役を経て、2011年、同社代表取締役に就任。
◉ミヤミ工業株式会社
〒174-0061 東京都板橋区大原町46-5
TEL 03-3960-8758
◆2016年9月号の記事より◆
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