東京都立杉並工業高等学校|目的を持つこと、達成感を持つことが大事!
東京都立杉並工業高等学校 学校改革で地域と企業からの評判高まる
目的を持つこと、達成感を持つことが大事!
◆取材:加藤俊
東京都立 杉並工業高等学校/校長 板倉 哲氏
「先生と生徒、そして地域の人たちともきちんと挨拶ができる学校です」と笑顔で語る東京都立杉並工業高等学校の校長・板倉哲氏。板倉氏が着任前のことだが、かつて抜本的な学校改革の必要に迫られたこともあったという本校。その改革、その必要性とは何だったのか……。そしてその改革がどんな結果をもたらしたのか?
環境教育、そして、社会や地域とのつながりを重視するという本校ならではの提言を、板倉校長にうかがった。
あえて環境教育に取り組む、そのワケは?
杉並工業高校のWebサイトを見ると、「環境教育重視」という文字が目に飛び込んでくる。工業高校と環境教育、どういった関連性があるのだろうか?
「当校が環境教育を意識し出したのは平成14年頃で、それにはこんな背景があったんです。実は、その頃までの数年間、当校は荒れていて、正直に言ってしまうと、地域への不安ももたらしていました。それをどうにか改革しようと、生徒と共に一丸となって取り組んだのが当時の校長です。それで、都立高校重点支援校としての申請もして、都から指定され、環境教育と部活動を中心に学校改革に着手しました」
その後、国際標準化機構(ISO)が策定した環境保全のための国際規格(環境マネジメントシステム)ISO14001の認証を取得するなど、環境に関する様々な取り組み、部活動の推進にプラスして、挨拶をしっかり行うことや、資格取得支援などにも邁進した結果、複数の資格を取得する生徒の数も格段に増えていった。
「目的を持って勉強すること、達成感が持てることが、いかに大切かということですね。今では、地域での評判も、そして求人を出してくれる企業からの評判も高まり、まじめさをウリにできるような、そんな学校へと様変わりしました」
社会との接点、地域とのつながりも重要視
2年生全員が5日間のインターンシップを体験するという当校。約150人が80社余りの企業で職場体験。体験後は後輩の1年生を前にその成果を発表し、年度末にはインターンシップを受け入れてくれた企業を呼んでの発表会も。
「数は少ないですが、中にはインターンシップでお世話になった企業に就職する生徒もいます。また、年に1回、栃木県の茂木町との交流事業として奉仕合宿を計画し、現地での植林や下草刈りを行っています。将来技術者になる者は、そのような社会奉仕の心を養うことも大事ですからね」
さらには、生徒が先生になって、小学生向けのものづくり教室を開催するなど、社会との接点、地域とのつながりを築きながら、在校中に様々な社会体験が実現できるのも本校の特徴だ。
技術者として働くための資格取得。その種類と取得者数は、全国の工業高校の中でも有数だという杉並工業高校。では、生徒たちは、学校は、どんな企業に就職することを望んでいるのだろうか? 板倉校長の「直言」「直答」をどうぞ!
Q・中小企業経営者の中には大卒より高卒の子がいいという方も多いですが、特に工業高校出身の生徒の良い点は、どんなところでしょうか?
理屈をこねたりせず、指示した通りにすんなりやってくれることでしょうかね。それとサボらないこと。工業高校は、毎回の実習ごとにレポート提出がありますし、作品提出も多いので、サボっていると間に合わなくなってしまいます。それが、サボらない、計画通りにしっかり取り組むという習慣へとつながっているんですね。
Q・工業高校は地域の企業とも密着していることが多いですが、在校時における地域企業との連携としては、たとえばどんなことがあるでしょうか?
杉並区は、工業団地があったり、工場が密集しているという地域ではないこともあって、生徒たちの就職先企業は地元には多くないですが、地域の人々とのつながりは大切にしています。たとえば杉並区の施設である杉並環境情報館で小学生を対象にしたものづくり教室を開催したり、毎年の文化祭でも親子ものづくり教室を実施しており、それはこの地域の小学生の保護者たちにも好評です。
Q・生徒に就職を薦める 企業とは?
基本的には本校を指定して求人のある企業です。指定してくれるということは、当校の生徒を求めてくれているということですからね。そのような企業は、昔から連続して当校からの卒業生を受け入れてくれているところが多いです。
また、業務内容や勤務体系に関して、求人票にきめ細かく書かれている企業も薦めやすいです。どうか面倒だと思わず、生徒の気持ちになって求人票を作成していただきたいですね。
Q・後継者不足に悩む町工場や、入社後の長年の経験を通して工芸職人を育成しているような小さな企業からの求人はありますか? そのような企業が生徒を求人したい時は、どのような方法がありますか?
やはり、小さな工場や企業へは縁故就職が多いことから、工業高校へ年度ごとに求人があるということはないですね。しかし、そのような就職を望む生徒も少ないながらありますので、生徒を受け入れてくださるならば、ぜひ求人票を出してくださると嬉しいです。ただ、職人を目指すような職場は、どんな生徒でも良いわけではなく、向き不向きがあるんですよね。小さな企業や、職人さんの元で働くためには、器用に何でもこなせる能力が必要ですからね。
また、教師心というんでしょうか、高卒で就職する生徒に対して教員は親の気持ちになって進路指導しますので、福利厚生面や給与の面で、しっかりとした保証があり、信頼のおける企業であることも大事なことです。業務の内容は当然、そういった面も求人票にしっかり書き込んでいただくことで進路指導をする教師の目にもとまります。ぜひ、魅力ある求人票をご提示いただきたいですね。
Q・就職先の企業の方たちに、生徒の、「こんな面をぜひ理解してほしい」ということは?
それぞれの子の性格を、一人ひとり、しっかりと見極めていただきたい、ということでしょうか。皆人間ですからタイプもいろいろ。特に最近の子は優しく丁寧に育てられていることがほとんどなので、本人も優しい子が多く、たとえば仕事上で何か注意する場合も、ガツンと言わなければいけない子もいれば、逆に、優しく諭してやらないとめげてしまう子も。それをダメだなと一蹴するのではなく時代の変化だと受け止めて、一緒に成長していこうという気概のある企業、そんな企業には期待します。
また、仕事を覚えるまでに、それなりに時間が必要だということも理解していただきたいです。学校教育でできるのは基本的なことと汎用的なことで、しかし、実際の現場では、それだけでは通用しないこともよくわかります。また、忙しくて教えている暇はないという声もよく聞きます。とはいえ、昔ながらの「1を聞いて10を知る」という時代でもなくなりました。即戦力を求めるといっても、まだ18歳です。たとえば、「任せるからどんどん進めて」と言われても、かえってプレッシャーになってしまいます。それが離職につながらないように、どうか長い目で見て、良い働き手として育ててほしいですね。
細やかで具体的な提言を、どうもありがとうございました。
東京都立杉並工業高等学校
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