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晃陽学園高等学校 東京校 ‐ 様々な問題を抱える「今」の子供たちを見つめて

◆取材:加藤俊 /文:菰田将司

オビ スペシャルエディション

晃陽学園 東京校 (4)

副校長綱島麻里氏 

かに道楽元副社長今津久雄氏が校長を務める芸能界御用達の通信制高校

学校法人晃陽学園高等学校東京校は荻窪駅から青梅街道を新宿方向へ進んで数分のところにある通信制の高校だ。元かに道楽副社長今津久雄氏が、2008年にかに道楽を辞して校長を務めている。
その今津氏が右腕とも頼む人物が、同学園の副校長の綱島麻里氏。様々な事情を抱えた「今」の子供たちに、「学校」というよりは「家庭」のように寄り添おうとする同校の在り方に迫る。

「生徒に居場所を与えることができる学校」

晃陽学園は通信制の高校として、様々な生徒が通っている。芸能活動などをしながらもシッカリ勉強に取り組むことができることで、芸能界の有名グループのメンバーが在学している。果たして晃陽学園にはどのような特徴があるのか。

 

「本校の特徴を挙げるとすれば、同様の学校と較べて、学費が安いことです。年間20~30万円の学費で済みます。更に、90%以上の生徒を三年で卒業させます。生徒には一対一でみっちり教育します。友達から『まだ高校に行っているの』と言わせたくないからです。できるだけ同世代の子供達と同じ形で卒業させたい。そして進路指導に力を注いでいる点も特徴です。教員は現在9名。卒業生とは、進学・就職した後も連絡を取り合います。朝なかなか起きられなかった子が社会人になると『毎日6時に起きているよ』なんて話を聞くと嬉しいですね。」

 

「通信制高校ですから、中学から追い出されたような生徒もいます。それはひどい調査書ですよ。暫くしてその中学校の先生が来校されると『雰囲気がいいね』と言ってくださって。『子供たちがみんな存在を認めてもらっている』と驚かれていました。確かに、その点は非常に目を配っています。どんな生徒にも居場所を用意すること、それができるのが晃陽学園東京校ですから。」

 

 

晃陽学園設立経緯 「預かった子をほったらかすわけにはいかない」

かに道楽 新宿店

かに道楽 新宿店

「私は以前専門学校で学生募集の仕事をしていました。その調理師専門学校は、生徒に昼は学校、夜は企業でバイトをさせて頂く制度。その一社がかに道楽でした。そこで、今津校長と出会うことになります。」
綱島氏は、かに道楽で仕事をすることになったきっかけをこう語る。
「今津校長に依頼を受けました。『かに道楽で若い社員達に調理技術・マナーや社会常識を教える社員の研修所を作ったのでチョット手伝って欲しい』と言われ、それがもう二十五年も前のことになります。」

 

株式会社コミュニケーションオフィス57 今津久雄 (5)

今津久雄校長

こうして綱島氏は今津校長と歩みを共にすることになった。その頃、今津校長は外食業一本では今後、企業として先細りしていくのではないかという不安を抱いていた。そこで、会社経営の新しい柱の一つとして教育事業を考えていたのだという。

そんな時、一つの話が持ち上がった。茨城県古河市に本校を置く学校法人晃陽学園が東京校を立ち上げるためのパートナーを探しているという話だった。

今津校長はこの経営の参画に興味を示した。「今後の事業展開の一本の柱として教育を考えているが、これを綱島さんに是非やってもらいたい。」

「お手伝いします。」と綱島氏は承諾した。

 

「そういった経緯で晃陽学園は、かに道楽から出資を受けて東京校を立ち上げました。私は、かに道楽の社員相談室に在籍しながら、同時に晃陽学園の仕事もする毎日になりました。まったくのゼロからの立ち上げでした。当初はなかなか生徒が集まらなくて。そのうちかに道楽の中でも問題視されるようになりました。お荷物になってしまったのです。結局今津校長がかに道楽を辞める際に、晃陽学園もかに道楽から離れることになりました。」

 

今津校長を追って綱島氏もかに道楽を後にしたのだが、その時、少ないとはいえ晃陽学園には在校生があった。

「旧知の先生方とのご縁で、在校生も一人、二人と少しずつ増えていきました。例えば、病気があって全日制では無理な子とか。通信制なら出席は緩やかだから通学・勉強をすることができるのです。」
「そんな子供たちを、かに道楽を辞めたからといって、ほったらかすわけにはいかないでしょう。」
こうして、今津氏を校長、綱島氏を副校長として晃陽学園は独立・出発することになった。

 

 

「アイドルグループ御用達校」

かに道楽から独立して再出発したのはいいが、依然、生徒は少ない。生徒数が即収入に繋がる私立学校では、それは死活問題だ。更に少子化、公立学校無償化という逆風を受けている私立学校では教師までも中学校への「広報活動」に励むことも珍しくない。綱島氏も例外ではなかった。

 

「広報活動は基本、多数の中学校へ出向き、こういう学校があることを進路の先生に知って頂くことです。そして、もし進路に困っているような生徒がいれば紹介して頂けるようにお願いしておきます。毎日たくさんの中学校へ伺っていたのですが、なかなか結果には繋がりません。それでもある日、偶然立ち寄った学校で進路の先生が会ってくださり、そこで生徒さんを二人お預かりすることになったのです。そしてその年の三月末に、もう一人いいですか?という電話を頂きました。」

 

「モチロン、と承諾したところ、来校者は生徒のお母さん。『うちの子はあるアイドルグループに所属しているのですが、ご存知でしょうか?』、と。その当時は全く知りませんでした。娘さんが中学三年生だったので、入学させたい、とのお話でした。入学後は、グループメンバーが晃陽学園を気に入ってくれて次々と入学してきました。」

晃陽学園に入学した生徒が所属しているアイドルグループは、やがて誰しもが知る超有名グループになった。

 

 obi (3)

Q.最近の子は分からない、といいますが、子供の扱い方は?

 

綱島「開校間もない頃の生徒の中には、先生は給料いくらもらっているの、なんて不躾なことを真顔で聞いてくる子もいます。職員の冷蔵庫を使おうとする子もいたり。それはダメなのよと言っても、『僕たちの学費から買っているんでしょ』と。子供がこうした言葉を吐ける時代です。背景にあるのは、彼らの親がこうした言葉を日常的に使っているからでは?突き詰めたら家庭教育の問題です。でもそうした生徒も、学校に通ううちに常識を覚え、変わっていきます。本当はみんな素直ないい子だと思います。」

 

Q.町工場の経営者は変に知恵のついた大学生より、高卒の素直な子が欲しいという話も聞きます。本当に若い人材が欲しい現場にはなかなか入ってきてくれない。そういう現状についてどうお考えですか。

 

綱島「有名な企業に目を奪われているという生徒たちの状況は分かります。中小企業は目に入らない。けれど、名前が知られていなくても面白い企業があることを知ったら、将来やりたいことが変わるかもしれない、という観点から、校長の発案で、晃陽学園は経営者を招いてお話を聞く機会を設けています。経営者の熱意を直に感じることができます。生徒に感想を聞いても、好評です。このような企業と学校の交流はもっとあっていいと思います。」

 

Q.今の子供たちは夢を持っているのでしょうか?

 

綱島「どちらかというと、ない生徒が多い。あるいは公言しないのかもしれません。高校に進学する理由も、とりあえず高校は卒業しなきゃ、が最初の動機かもしれません。確かに高卒でないとバイトもできませんから。ただ、生徒には通信制だからこそできることをやりなさいと言っています。空いた時間に夢を見つけることだってできると思います。通い始めてから大学へ行きたいと言い出す子は非常に多いです。建築科へ進みたい!の夢を果たし国立(京都工芸繊維大学)へ合格をした女子生徒もいます。」

 

Q.先生の喜びは?先生に返ってくるものは。

 

綱島「どんな子供も、時間をかけて、きちんと向きあえば変わります。それには根気が必要かもしれません。その点、晃陽学園では時間をかけて一人ひとりに向きあえます。通信制ですが、原則毎日登校して欲しいです。」

 

Q.学校の雰囲気は?

 

綱島「とても家庭的な学校です。“あえて”そうしています。共働きなどで親があまり子供と向き合う余裕のない生徒も見受けられます。そのため家庭的なコミュニケーションを知らないで育っている生徒もいるのです。そうした点で私の大事な仕事の一つは、親と話し合うこと、とも言えそうです。」

 

Q.指導の体制についてはどうお考えですか?

 

晃陽学園 東京校 (5)
山下孝範(進路指導室室長)「マンツーマンとしては理想的な環境です。全日制の場合、先生と生徒との間には距離があります。進学校の生徒は先生をアテにしません。成績のよくない生徒は近道があるのに自己流でやっていて気づかない。この学校では一人一人と距離が近いので、それぞれの力を見定めて、成績アップへ近道できる指導をすることができます。とはいえ、先生が何もかもやってしまったら、かえって生徒にプラスに働かないこともあります。場合によっては、生徒の独立心を養っていくような教育を心がけています」

 

Q.生徒にどう育ってほしいですか?

 

綱島「晃陽学園に入って良かったと思ってもらえるように生徒を育てたいです。ここに来てよかった、と思ってくれれば。自分の存在が認められた時期があったということは、大人になって大きな意味合いを持つと思います。晃陽学園をでた生徒は将来シッカリ生きて行って欲しいです。」

 

山岸陸人 晃陽学園

山岸陸人さん(在校生) 

「行きたかった学校に入れなかったのが入学のきっかけです。今では、全日制でなくてよかった、と思っています。自分で履修科目を選べるし、時間が自由ですから。今は、大学で建築をやりたいと思って勉強中です。建築には中学校のときから興味を持っていました。

周りのほとんどの同年代は、大学に行くことをただ進学としか考えていないようですが、僕は自分の見つけたこの目標に向かって進んで行っています。」

 

水越氏 晃陽学園

水越秀宏さん(卒業生)

「大好きな熱帯魚の店をやりたくて、高校を自主退学。必死でお金を貯めてやっと店を持ったのですが、東日本大震災で大打撃を受け、閉店しなければならなくなりました。その時、もう40歳を過ぎていましたが、一念発起して晃陽学園に入学を決意。在学中にヘルパーの資格をとって、今は介護タクシー会社をやっています。人生、何事も諦めないで、どんどん新しい道を探してほしいです。」

 

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2014年11月号の記事より
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