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今、注目!東北が誇る知の巨人

東北公益文科大学

◆取材:綿抜 幹夫 / 撮影:寺尾 公郊

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学校法人 東北公益文科大学/理事長  平田牧場グループ/会長  新田嘉一氏

地域振興にはまず人材育成

大学全入時代と言われて久しい。つまり学生の側から見れば、選択の幅が大いに広がっていると言い換えることもできるだろう。この買い手市場の受験戦線に、地方私大のハンデをものともせず、日本で唯一『公益』を武器として学生を魅了するのが東北公益文科大学だ。辣腕理事長・新田嘉一氏の指揮の下、熱い志に燃えるこの大学の意義を伺った。

 

伝説の経営者・新田嘉一氏が挑む大学再生!

1_大学外観_★_MG_2927

東北公益文科大学(以下、公益大)は、21世紀に入ってから開校したばかりのまだ新しい大学である。

地方分権が叫ばれる中、東北では新しい地域づくりの先頭に立つ若い人材が求められているが、その人材育成のために山形県と庄内14市町村が設置費用を拠出し、学校法人東北公益文科大学が運営する公設民営の大学が、この公益大だ。

現在、理事長を務めるのは新田嘉一氏。

新田氏と言えば、たった2頭の豚から養豚業を起こし、平田牧場を日本有数のブランドに成長させた起業家であり、庄内発展のため多くの功績を残してきた地元の名士でもある。もちろん、公益大開校にも、積極的にかかわってきた。

 

庄内地方30万人が幸せに生きていくためには高等教育が不可欠である、というのが私の持論です。お隣の秋田県も産業は乏しいところだが、秋田大学とその出身者が地域の産業界を支えていると言っても過言ではない。だからこそ庄内にも学校が必要だったのです。大学は次代を支える人材を作る場所。そういう場所をどうしても作り上げたかった。もちろん庄内のみならず広く東北六県の若者に学んで欲しい。だからこそ『東北』を冠しているのです」

 

4_カフェテリア全体【人多い】

そして校名にある『公益』にかける思いは深い。

「校名に入れた『公益』は、一般的には『公共の利益』という意味で使われますが、私は本当の公益とは、一人の人間が社会で自立して利益を上げ、きちんと納税して社会に貢献することだと思っています。今こそ、この公益の原点に立ち戻るべき時なのです。公益大とは本来、そうした人材を輩出する使命を担っているはずなのですが、大学の取り組みはまだまだ足りない部分があると感じていました。そこで今年から新カリキュラムによる社会のニーズに沿った教育を実施しています」

 

これは何も公益大に限ったことではないが、特に地方の小規模大学を取り巻く環境は厳しい。少子化が続く現在、18歳人口はピーク時のたった6割という状況だ。そんな中、規制緩和で新設大学の開校が相次ぎ、大学全体の定員は増加しているというのだ。その結果、少ないパイの取り合いは地方大学に不利に働いている。

 

「現在の偏差値教育と大学選択のブランド信仰をどうにかしたいものです。ただ単に偏差値の高い大学に行きたい、卒業後は名の通った企業に就職したい、というのが子供たちの現状ですからね。大学側もただ自分の学校の偏差値を高めることばかりが目的になっている。これでは都市部の大規模大学に学生が集中し、地方が空洞化してしまいますよ。学ぶということは、必ずしもテストの点数を取ればいいわけじゃない。そんなものじゃ量れない価値が特色ある地方大学にはあるんです。それを東北の高校生にはぜひ理解してもらいたい」

 

3_共同研究室【人あり】DSC_0136共同研究室…教員研究室前に配置されたフリーなオープンスペース

そこで、公益大が取り組んだのが『地(知)の拠点整備事業』への応募だ。これは、文科省が実施しており、自治体と連携し、全学的に地域を志向した教育・研究・地域貢献を進める大学を支援するものだ。

課題解決に資する様々な人材や情報・技術が集まる、地域コミュニティの中核的存在としての大学の機能強化を図ることを目的としている。公益大は、『地域力結集による人材育成と複合型課題の解決―庄内モデルの発信』をテーマに申請、見事に採用された。これは東北・北海道地域の私大として、当該年度唯一という結果だった。

 

この事業の大きな柱として立ち上げたのが『庄内経営者塾』だ。

「公益大の学生と地域の若者を受講生として迎え、地元企業の経営者が定期的に登壇。指導教員と起業家ネットワークの支援を受けて、受講生がビジネスアイデアをプラン化し、スタートアップまでつながるよう支援していきます。5月に行われたのが、地元経営者によるセミナーの第一弾。理事長でありこの塾の塾長でもある私が講演しました」

ここを巣立っていく起業家が地元で旗揚げし、新田氏が経営する平田牧場以外にも、東北発の優良企業をもっと作ろうというのが大目標である。

 

山形 港

「東北全体に売上規模100億円以上の会社をもっと増やしていきたい。それくらいの企業になれば、銀行だっておいそれとつぶしたりはできませんから。私のような起業家が増えれば、地域の雇用も増えていくのです。我が社(平田牧場グループ)は地元を中心に1000人を雇用しています。私の友人に、中村恒也セイコーエプソン名誉相談役(山形出身)という方がいますが、この会社(東北エプソン)が3000人雇用している。つまり我々二人がこの地域の雇用を下支えしているわけです。事業に対して夢がある人間、そしてそれをやり遂げられる人材を、これから公益大で育て上げていきます」

 

もちろん学生の本分である授業は魅力にあふれている。例えば教員。新田氏の、事業家としての、あるいは地元の名士としての華麗なる人脈によって、一般の地方私立大学では考えられないような豪華な客員教授陣を実現しているのだ。地元酒田出身の評論家やシンクタンク理事長、元東京大学総長、NHK解説委員、Jリーグクラブの元ゼネラルマネージャーなど、まさに多士済済だ。

その他、研修や講演で招かれる弁士も実にバラエティに富んでいる。元日弁連会長、有名私大塾長、最大手自動車会社前社長、世界的建築家、NHKでも紹介された工業デザイナーといった錚々たる顔ぶれは、学生たちにとっても貴重な出会いとなったに違いない。

 

 

公益大改革のために大鉈を振るう!

2_大教室

最先端の遠隔講義にも対応する大教室での授業風景

前述の通り、地方大学の悩み、それは学生集めだ。公益大とて例外ではない。もちろん、新設大学という歴史の浅さや規模感、酒田という地域柄も大いに関係していることだろう。

 

だが、新田氏はそういった条件もポジティブにとらえている。

「学校には余計なしがらみがない方がいいんです。運営の資源があるとか、累積した文化があるとか、あるいはお金があるとか、そんなものは重要じゃないんです。大事なことは、大学で何を考え、何をするか、です。今、その根源的な部分が子供たちに欠けている。もちろん、それは我々大人にも欠けているんですが。ここは何もない場所だからこそ、人間が羽ばたいていくのにふさわしい。ここでの教育で多くのものを得て、巣立っていって欲しいのです」

 

平成21年に新田氏が理事長に就任して以降、思い切った改革に着手している。

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「正直申し上げて学校を取り巻く環境は厳しい。だからこそ私が理事長を仰せつかったわけです。そこから大学改革を始めました。まず私の『経営方針』に賛同いただけない教職員には身を引いていただきました。このご時世、先生のなり手はいくらでもいます。象牙の塔に閉じこもるような経営感覚のない教員は、学校経営健全化の妨げになりますし、大学が標榜する『リーダーシップを持って地域課題に果敢に取り組む人材』の育成にはふさわしくありませんからね」

 

教職員も並々ならぬ努力をしながら、公益大は黒字化に向けて動いている。 新田氏も、ただリストラクチャリング(再構築)だけを断行しているのではない。

「毎週月曜日には大学に行き、そこで教職員に訓示しています。学生にも直に語りかける機会が増えていますが、彼らに小難しい時事問題なんかを語ることはありません。若者には生きる力を身に付けて欲しい。社会で自立して生きていくためには何が必要かを語っています」

当面の目標は、1学年200人を確実に入学させること。それが大学を活性化し、発展させていくスタートラインだ。

 

 

東北の衰退を黙って見過ごすことはできない!

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カフェテリア…一般の方も利用可能!

そもそも、公益大開校の目的は、地域の活性化にある。

「私は子どものころから、『家庭があって、地域があってこそ、国がある』という考えを持っています。庄内は今、人口の減少が著しく、これを何とかしなくてはいけない、この地域を何とか守らなくてはいけないと思っている。庄内に生まれ育った若者が、東京に出たきり戻ってこないのは、庄内に働く場がないからでしょうが……」

こういった現実は何も庄内に限らず、東北全体が抱える問題だ。だからこそこの思いは、地元庄内だけでなく、東北六県にもあまねく広めなければならないと考えている。

「東北に生まれた子どもたちが、ずっとこの地に住み続けることができるのが理想です。そのためには、社会的なインフラの整備、そして大学等での人材育成が大事になるんです。また、既存の企業に入らなくても自立して生きて行ける社会を作ることが大事です」

 

公益大が進むべき道はハッキリと見えてきている。庄内を、山形を、そして東北をリードし、万人の幸福を実現する人材を育成すること。

きっと数年のうちに、より多くの学生が希望に胸膨らませてこの大学の門をくぐっていくことだろう。その日まで新田氏の奮闘は続く。

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ドミトリー…キャンパスから徒歩3分のコテージ風の学生研究寮

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メディアセンター…東北公益文科大学の図書館。約14万冊の収容能力。

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太陽光発電システム…教員研究棟の上にあり、大学の全電力の6%を供給。

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●プロフィール

にった・かいち氏…昭和8年山形県平田町生まれ。山形県立庄内農業高校卒業後、養豚を始める。昭和42年平田牧場設立。平牧三元豚を開発し、豚肉のトップブランドに育て上げる。現在平田牧場グループ会長。学校法人東北公益文科大学理事長。

 

●学校法人 東北公益文科大学

〒998-8580

山形県酒田市飯森山3-5-1

TEL 0234-41-1111

http://www.koeki-u.ac.jp/

 

 

●株式会社平田牧場

〒998-0853

山形県酒田市みずほ2-17-8

TEL 0234-22-8612

http://www.hiraboku.info/

 

2014年6月号の記事より

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